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1月28日

 今日は、予定通りなら会議か。


《ハナ、迎えじゃぞ》


「んー…ん?誰が?」

《ショナじゃ、アヴァロンにおる、泉での転移許可申請が来ておるのじゃ》


「おう?うん、宜しくお願い」


「ハナ」

「おうタケちゃん、おはよう」


「おはようメイメイ」


 エミールを起こし準備をさせ、泉でアヴァロンへ。


 久し振りのショナ君だと言うのに反応が、いや、本来通りだな。


「おは、桜木さん髪が」

「切った」

「すまんな、所用でな。ほらカツラを付けておけ、もう伸ばすんだろう?」


「おう、まぁ、神様達と約束したし」

「でだ、ショナ君、復帰が早いんじゃないか?」

「それは後でお話ししますが、朝会の予定が決まりました、約2時間後です」


「朝会?エミールは?」

「欠席でも大丈夫だそうですよ」

『あ、僕、出たいです、何の顔合わせも出ないのはちょっと』


「でも魔王の転移はダメだし」


『あのぅ…スクナ様に仮のご許可を戴いてるので、近くの弁財天様か蛇神様、龍神様の神社があれば…行けると、思いますぅ…』


「そうなの?じゃあちょっと行きたい所が」


 ハナの加護が有るからこそ、エミールが出席出来面もある。

 それが良い方向なのか、悪い方向なのか。


 そして俺とミーシャ、賢人と魔王は直接省庁へ、


 ハナとショナ君とエミールはカールラとクーロンと共に泉から泉へ、そして省庁へ。


「今頃、どうなってるんすかねぇ」

《別々に乗っておるわい》

「だろうな」


「ちぇっ、つまんないっすねぇ」

「そう上手くイカンのが、恋路だろう」

《じゃの!》


「お、来たか」


「おまたー」

「おう」

「全然待って無いっすよー」


 さて、コレで髪を切る事象が消える可能性が高いが。


 他にも何が変わるか。


 賢人がショナ君と情報交換し、ショナ君は柏木さんの元へ。

 自分達は先に席につき、朝食を頂く。


「うん、懐かしい味だ、旨い」

「うん、ザーサイうまい」

『日本ではお豆腐でしたっけ、不思議な感じですね』


 本来と変わらない会話が続く中、早速変化が有った。

 転生者リズから、顎で呼ばれた。


「少し席を立つが、ゆっくり食っててくれ」

「おうよ」


「何だ?」


「どうして、桜木に執着するのか俺からも聞いておいてくれとな」

「そうか」


「俺は、人相学や数々の占いから、お前が面倒見が良いからだと思っている。クッソ面倒な、教師なんぞになろうって奴は面倒見が良いか、支配したい側。もし支配したいなら、自国を先ずはコントロールするだろう」

「まさか、何か迷惑を掛けたか?」


「女従者の事だ、お前の国からはシェリーが、英国からはブリジットから抗議が来た。何故、排除するのかと」

「はぁ、あの理屈だけではダメだったか」


「俺は良いと思ったがな。正直ゾッとした位だ」

「俺らが脱するのは1つだけだからな」


「おいやめろ」

「子種も残す話はしたんだが、足りなかったか」


「らしい、来てる」

「はぁ、何故だと思う」


「桜木に付きっきりで自国に顔も出さなかった、早々に子種の権利すら桜木に任せた。俺は夢の報告も受けてるから理解出来るが、下の方には降りて無い情報なんだ。まして穿った見方をすれば」

「惚れてる、か。同じ時期の召喚者や転生者には惚れない筈だが」


「何にでも例外は発生する。そう想像する力も逞しい上に、従者の仕事は一種のエリート層だからな、従者の執着は凄まじい。あの津井儺君もだ、過去の事例と船乗りの話を引っ張り出してきてな、長期勤務の有用性を懇々と柏木さんと人事と俺にな。一昨日だ、1日中だぞ?」


「俺は有り難いがな、ハッキリ言ってそうホイホイコロコロと周りの人間に変わられても困る。ハナへのマニュアルも確立されて無い段階でだ、連絡事項の伝達ミスや」

「もう既に一昨日聞かされた、で、上も人事も納得しての今日の出勤だ。例の心得も有るしな」


「楔か」

「そうなる為に、女従者も色々と頑張ってきたんだとよ」


「そう言う楔の意味だけじゃ無いだろうに」

「な、国としてはそれだけ必死なんだろう」


「すまなかった、出来るだけ対処する」

「おう、じゃあ挨拶に行くかな」


「おう、初対面で頼む」

「考えとく」


 そして加治田父が登場し、例のピアスが来る。

 からの性転換の話になるか、どうなるか。


「アレ、借りられないか?」

「なんで」


「中身は男ぞ」

「コッチに性転換手術無いの?」


「痛いのはイヤ、子孫残すのに少し問題も出るし、副作用もイヤ」

「リスクはつきものぞ」


「だけどー、親に貰った体を傷つけたくないしー」

「ぶりっ子は卑怯だ」


「一時的な魔道具より、魔法の方が良いんじゃ無いのか?」

「だね、外れたら元に戻るんだし」

「だけども」


「あの神は穏やかそうだったぞ、話しても分かって貰えないなら、また探せば良い」

「うん、だね。後で一緒に行ってみよう?」

「考えとく」


 行く事が決定され、そして会議へ。


【では、会議を始めます】


 柏木氏の進行で、先ずは俺の挨拶からか。


「李 武光だ。誤解が有る様だから先に伝えておく、女の従者を排除する気は毛頭無い、が。そう誤解したのなら謝罪するが、謝罪させた意味も良く考えて欲しい。以上だ」


【では、次は桜木様。宜しくお願い致します】


 進行は問題無く進み、そしてハナがトイレに。


「俺が預かろう」

「おう、頼んだ」




 リズちゃんをタケちゃんに預け、トイレへ。

 最初もの凄いピリッとしたが、スムーズだ。


「お疲れ様です桜木さん」

「お疲れ、何でそんな従者で揉めてるのかね」


「国柄や、プライドでしょうかね」


「意外だな、従者で揉めるなんて」

《口を挟みたいんじゃが?》

『お前』


「なに、クエビコさんまで」

『いや、これは大事な事でな』

《心得じゃ、従者の心得》


「心得?」

《お主らが言うか、我が言うかじゃよ》




『武光、緊急事態だ』

「どうした」

《なに、心得の事じゃよ》


「待て、俺が行くまで言うなよ」


 想定外だった、まさかドリアードから漏れるとは。


 いや、優しいからこそ揉める場合も有るんだった、忘れていた。


「タケちゃん」

「心得の事は、俺から説明させて欲しい」




 従者心得十ヶ条、知らなかった。

 歴史が有るんだし、こんなのも有る筈よな。


「この世界に居て貰う為にか」


「それだけでは無い筈だ、誤解してくれるなよハナ。友人となれる様にとの配慮でも有るのだろう、だから」

「だから親しげに、してくれた」


「それだけでは無い筈だ、国や政府からの命令だけでは」

「それって、どう証明するん?タケちゃんは仲間だから、優しいから、面倒見が良いから、婚約者が、子供が居るから。だからメイメイだって言ってくれるのは分かる、納得出来るけれど。ショナや賢人君に打算が無いって、どう証明するの?それに、だからタケちゃんは女従者と関わらないって言った部分も有るんじゃ無い?」


「些末な事だ、俺が靡くともハナが容易く靡くとも思って無い。寧ろ協調性の問題だ、現に俺の国と英国の女従者が直談判に来ている。そうして我を通すから、俺は嫌だったんだ」

「ワシも、その女ぞ」


「メイメイは凄く気を使ってくれているだろう、女を意識させない様に気を配ってくれている」

「なら、女従者だって」


「エミールにもハナは気を配ってくれているが、女従者が全員そうだとは限らないだろう?」

「でも、性別で判断するのは」


「性別だけじゃ無い、俺は俺の国の人間の気質を知ってる、諸外国の人間の気質を知ってるから言うんだ。歴史がある程度似ていると言う事は、思想や思考に大きな変化が有ると思えない」

「ショナは、どう思う」


「下心と言われる部分が全く無い人間も、少しは有る人間も居るかも知れませんが。国や世界や召喚者様の役に立ちたいと本気で思っている人間も居ます、僕は」

「毎日一緒に居て好意を抱いてしまう場合は別にしてもだ、こう言った大事な会議に直談判に来る奴をハナやエミールに近付けたく無い。分かってくれないか?」


「考えさせて欲しい」

「分かった、戻ろう」




 俺らが部屋に戻ると、夢や神託が紹介されていた。

 コレでシェリー達も考え直してくれれば良いのだが、問題はハナとショナ君だ。


『全く、余計な事を』

(どうしてだ、どうしてくれる)

《お主はあの坊主が良いんじゃろうが、ハナは選べる立場になるんじゃよ?》


(それでもだ、相性と言うものがだな)

《なら相性が良いのを選ばさせれば良かろう、あんな平凡な男を》

『社会的には安定している、まぁ機微に少し疎いかも知れんとは心配されてはいるがだな』


(それでもだドリアード、過度の介入になるんじゃ無いのか)

《既に存在する知識じゃしい》


 そして議会の話が早々に終わってしまった、ストレージ能力を秘匿した弊害。

 本来なら戦闘力重視の従者を随行させる方向に行く筈が、もう、俺は失敗したんだろうか。




【では午前の会議を一旦終了、1時間後に会議を再開致します】




 信じたいが、信じたく無い。

 と言うか、信じる信じないすら枠の外に放置して考えるべきだけれど。


 考えるべきなのに、考えたく無い。


「桜木様?」

「柏木さん。心得、ドリアードから聞きました」


「成程そうでしたか、従者はまだ居りますし、交代させましょうか」


「どうするべきか、教えて欲しい」

「何事にも無理をなさらず、焦らない事でしょうか。ここの人間は前の世界と全く違うワケでは有りません、ですが少しはマシかとは思います。そして、相性と言うモノも有りますし。もし苦手を克服したいのだとしても、今は時期尚早かと」


「ありがとうございます」

「いえいえ、では」


「すまん、黙っていて」

「ワシが誤解するから、現に誤解したままだから、言わないでおいてくれたんでしょう」


「おう」

「ハッキリ言う」


「俺には無い夢見の能力、そして魔法、ましてメイメイはココに残るんだ。メイメイに良くする事は、この世界に恩を売る事になる。そして俺が居なくなった後は、ハナと世界が恩を返し合う、最高だろう?」

「先の先を見てるのね、ごめんね」


「まぁ、グーグでパーパだからな」

「タケちゃんがお父さんだったら良かったのにね」


「俺も、こんなメイメイが居たら、また違った見方が出来てたんだろうと思う。俺にも失敗は沢山有る、今回も失敗だった。俺やショナ君にもう1度チャンスをくれないか?」

「一緒くたにしてズルいな、もう少し観察を」


「そう警戒するな、もしアイツがメイメイを傷付けたら俺とドリアードでボコボコにする。今回だけ忘れてくれ、頼む」


「分かった」




 何とか、なったんだろうか。


《ふん、我を巻き込みおって》

『自業自得だ』

「そうだぞ」


「タケちゃん、ちょっと神様に会いに行ってくる」

「おう、気を付けてな」


 この後、順調に行けば、リズは号泣して帰って来る筈だが。


「すみません、ありがとうございました」

「いや、今回は完全に俺の不手際だ。悪かった」


「いえ」

「本当にすまなかった、お前まで落ち込んでくれるな」


「別に僕は、選ばれるとも思ってませんから」


 拗らせた、完全に拗らせた。

 うん、次に巻き込むのはクエビコ様だな。


《少し、宜しいでしょうか》


 ブリジットか。

 後ろのはフィラストとは違うが、アレは近衛か。


「なんだ」

《もう1度、再考頂きたく》


「俺がか、それともエミールへの口利きか?アレは今回の件を一切知らないぞ、それは何故か。ストレスになるからだ、見て分からないか?」


《ですから、国籍の違う》

「俺やハナではフォロー不足と言いたいのか?」


《いえ、お手間を》

「仲間の手助けをするのは当然なんだが、ココは違うのか?」


《いえ、ですが》

「ならエルフから選んだのが不満か」


《いえ》

「まぁ良い、チャンスはやる。ショナ君!」


「はい」

(ハナの選考方法が有っただろう、覚えているか?)


「はい」

「それを紙媒体とデータで欧州と中つ国に配布したい。で、その選考で出た人間を再考する。それで良いか?」


《はい、ありがとうございます》

「それから、同じ事を中つ国にも伝えろ。捻じ曲げず、同じにだ、分かったか」


《はい、承りました》




 説得されつつも、泣きじゃくるリズちゃんをパパさんに渡し、賢人君達と合流して午後の予定を聞いた。


 特に問題も無いので、会議は続行との事。


 早く色々と無くしたい。


「中つ国のシェリーと申します、どうかお手合わせを」

「なっ」


 何故、いや、何となくは分かるが。


「おい!話を聞いていなかったのか!」


 鼓膜に響くタケちゃんの声。

 もう、マジギレやんな。


「聞きました、ですが私はあくまでも中つ国の」

「ほう、なら俺が手合わせしてやる。来い」

「タケちゃん」


「大丈夫だ、少しばかり実力を見せないと納得してくれないらしい。殺しはしないし、お前が治してくれると信じている、じゃあ行ってくるよメイメイ」


「分かった、脳はやめてね」

「おう」




 すれ違い様に桜木さんを止めてくれと言われた、一瞬なんの事か分らなかったのだが。


 誰もが、僕ですら召還者様を侮っていたと思わされる試合だった。


 圧倒的な力量の差、体重差、技量の差、覚悟の差。

 それを僕らにも分からせる様に、蹴り飛ばし、殴り倒し、心も骨も折っていく。


「タケちゃん!」

「桜木さん」


「なんで止める、従者仲間でしょうよ」

「だからです、僕らは、無力だと知るべきなんです」


「なにを」

「武光さんの力を、ココの全員が」


「ソラちゃん、盾で守ってあげて」

「桜木さん、結界が」


「破らせる」


 桜木さんが結界上部から何度も何度も無数の盾を降下させ、結界を破り、武光さんと従者の間に盾の壁を作らせた。


 本当に、僕らはもう、完全に無力だ。




「メイメイは優しいな」

「タケちゃんを嫌いになりたく無い、黙ってて」


「おう」


 ココの人間に止められるまでと思っていたが、誰も止めなかった。

 そして真っ先に止めたのはハナ。


 少しはハナに感謝して欲しいのだが、どう転ぶか。


「武光様、大丈夫っすか?」

「おう、ハナに怒られた」


「そりゃそうっすよ、殺しちゃうのかと思いましたもん」

「手加減はしたぞ、現に死んで無いんだしな」


「そうっすけど、あんまり悪役過ぎるのってダサいっすよ?」

「そうか、気を付ける。あの宰相に連絡したいんだが」


「うっす」


 事の顛末とシェリーの祖母の資料を提出させ、医務室へ。


 結局はこうしないといけないのか。


「そんな、しかも」

「あぁ、止めたのも治したのもハナだ、そして病気の事を最初に気にしたのもハナで、チャンスをやるべきだと思わせたのも。全てハナだ」


「申し訳ございませんでした、何と謝罪すれば」

「追々はハナを支えて欲しかったんだがな、もう俺は口添えする気も無くなった。これから先、ハナに接触したければすれば良いが、俺を止められたハナだ、機嫌を損ねればどうなるか。そして数々の神々が後ろに居る事を忘れてくれるなよ」


「はい、大変申し訳ございませんでした」




 真顔で殴る人を、初めて目の当たりにした。

 怖かった。


 ワシ、こんなんで本当に戦えるんだろうか。


「おう、どうした?」

「真顔で殴る人を初めて見た、怖かった」


「すまんすまん、だがな、戦いには冷静さが何より大事なんだ。メイメイも先ずは冷静に、だ」

「でもあれはあんまりにもだよ」


「もうすっかり元気なんだ、問題無いだろう。と言うか侮った方が悪い、途中で食い下がらない選択肢も有った、選んだのは向こうだ」

「そうっすよ、侮ってたからこそ負けたんす。桜木様も武光様も悪く無いんすよ?」


「にしてもだよ」

《夜驚症が出られても困るでな、今は気にせず。次に植えるモノでも選んでおくが良い、ティターニア達が待っているぞい》

『たらの芽だろう、腹一杯、天ぷらにして食べたいと言っていたしな』

『僕食べたいです、天ぷら』

「おう、メイメイは天ぷらは嫌いか?」


「…すきだけども」

「大丈夫っすよ、ちゃんとフォローしてるのは見届けたんで」


「本当か?」

「追々は支えて欲しかったのに残念だとか、ね?」

「おう」


「アレなら真意も伝わる筈っす。それより山菜の天ぷらの話をしましょうよ」

『ですね、たらの芽は、どんな味なんですか?』

「山菜…野菜、アスパラみたいに、苦くない、良い匂い」

「ナニで食うんだ?塩か?」


「塩とか、天つゆとか…」


「他だと、やっぱ海老天すか?穴子天?イカ天あるのに何でタコ天は無いんすかねー」


「タコ天は、さつま揚げで既に、有名だからじゃ?」

「桜木様、タコ天、さつま揚げは何ですか」




 皆がハナの気を紛らわせてくれてる間に、ようやっとショナ君が来た。

 全く、何をしていたんだか。


「何をしてたんだショナ君」

「え、あ、実は、長期勤務の再確認をされてまして」


「ほう、嫌になったか?」

「いえ、長期勤務の申請は取り下げ無かったんですが」


「自信が無いのか」

「僕らただの人間が如何に無力なのか再確認させられて、だから楔の心得が有るんだと思うと、どんな顔をして桜木さんに接したら良いのか」


「はぁ、普通に決まってるだろう、普通が良いから様付けを止めさせられたんだろうに。それにアレはな、自分の力を自覚して無さそうだぞ」


「それはど」

「余裕が無いんだろう。俺を怖いとすら言っててな、結界すら破壊して俺を止めたのにだ。今は山菜や天ぷらの話をしている、さ、行くぞ」


「桜木さん、震えてますけど」

「あぁ、魔素切れかも知れんな」


「な、バイタルチェックしましょう。皆さんは先に席に戻っていて下さい、すぐに終わりますから」




 桜木さんが震えている。

 低値だけではない、恐怖や興奮からの震え。


「すまん、武者震いだと思って、自覚出来無くてすまん」

「緊張も有りましたし、試作機すら作動しなかったんですから仕方無いですよ」


「ポンコツでごめんね」


 本当に、全く無自覚。

 考えられないからなのか、認める気が無いのか、自己評価が基本的に低いからか。


「いえ、土壇場で止められたんですし。僕らじゃ本当に止められたか怪しいですよ」

「止まってくれただけかも、優しいから」


「確かに。あ、何か持って来ますからエリクサー飲んでて下さい」

「おう」


 甘味の好みはまだ把握しきれて無いので、一通り持って行く。


 武光さんは怖いのに優しい。

 桜木さんの心の中は、どんな事になっているんだろう。


「どれが1番ですか?」


「…スイートポテト」

「会議が終わったら、何が食べたいですか?」


「天ぷら、エミールとタケちゃんが食べたいって」

「良いですね、お店で食べますか?アヴァロンで食べますか?材料なら用意しますよ」


「穴子捌くの?」

「流石に穴子は魚屋で捌いて貰いますよ」


「さっき、たらの芽の話した」

「お好きですもんね。そう言えばキノコを沢山戴いたとか」


「旨かった、舞茸の天ぷらもやろうか、お蕎麦と合う。十割蕎麦は好きでないけど」


「細めのうどんとかどうでしょう」

「良いね、エミール啜れるかな」


「練習が必要かもですね。オヤツもっと持って来ます?」

「もう大丈夫。戻ろう、今戻らないと一生戻れない」


 こうやって何とか食べ物の話で繋がっていられる。

 もっと、色々と勉強しないと。




 ハナが席に戻った頃、旧米国からの報告が急遽上がっていた。

 本来とは頃合いは一緒だが、雰囲気が違う。


 神託を疑い疎かにする一派が介入し、情報が混乱する様に細工されていたと。

 何処かに嘘が有る、ハナも察したのかコチラを見た。


「ハナ、確認出来たか」

「うん」


 その者達は国際裁判になり氏名と顔写真が全世界に発信され、一族郎党即時出国、以後は永久に加盟国への入国禁止、無色国家への所属変更措置となったそう。


 コレは本当らしい。


 ハナは少しボーッとし、目を見開いた。

 精霊と話をしているらしい。


「何か面白い事でもあったか?」

「ソラちゃんが病歴を調べて、生まれが無色国家だったら何回死ぬか数えるって」


「ふっ、馬鹿め」

「でしょ」


 そして合間に小休憩が入り、会議の最後には再び従者の話に。

 本来と同じく、進行役は中つ国。


 欧州とも話し合った結果、各国の従者の交流や交換が了解されたと。


 より良い人材の育成、完全実力主義の復活、従来の従者の原点に立ち返るとも。


 コレが歴史の強制力か、俺達が力を見せたからか。

 多分、力を見せ無ければまだゴネていたんだろう。


 そしてハナがトイレに行って暫くすると、会議は終了した。




 トイレから直ぐに帰って来たのだが、既に会議が終わっていて、人々が忙しなく動いている。


 近くに柏木さんが来た、気まずい。


「桜木様、お疲れ様でした…落ち着かれましたか?」


「柏木さん、ごめんなさい」

「いえ、お強くなられて…これで私も一安心です」


「いや、自分の能力じゃ無くて、精霊のお陰なんです」


「それも実力の内です…それでその……中つ国のシェリーがお会いしたいそうで、お断りしても全く問題が無いのですが」

「いく、タケちゃんと」




 ハナの要請で医務室へ。

 本来ならベッドに横になって、手足にはギプスなんだよな。


「桜木様、ありがとうございました。お心遣いを無碍にしたにも関わらずお助け頂き、感謝してもしきれません。本当に、申し訳ございませんでした」


 嘘は無い。


「いえ、大丈夫なら良かったです」

「ハナ。上役が面倒臭がって、女だから排除したとしか聞いて居なかったそうだ、再度みっちり絞めて来る。すまなかった」


「いやいや、そうか、納得出来てるなら良いんだけれども」

「はい、我々の将来の事まで考えて下さっていたのに……お婆様にも顔向けできません…」


「シェリーの祖母が例の病気をしてたと分かってな、従者反対の育ての祖母が従者だったと、反対の理由も、例の病気も理解してくれた」


「はい、体の事は先ほど知って…だから早く孫を欲しがって、従者も反対して、亡くなって」

「お墓参りの習慣は?」

「あるぞ、後で送ってやる。ついでだ」


「はい…はい、ありがとうございます」


 嘘は無さそうだが、もうこうなると国を徹底的に叩き直さんとな。


「ハナ少し外に」

「おうおう」


「俺は国に向かうが、もう用事は無いか?」

「あ、ちょっと行ってくる、けど。良い?」


「なんだ?」


(無月経と、胸を平たくして貰おうかと)

「そうか、うん、行ってこい」


「うん、行ってきまーす」




 空間移動でエンキさんの神殿へ。


『戦いに割って入ったそうだな、文字通り』

「情報早いですな」


『勿論だ、中々に良い戦闘センスだぞ』

「そうなの?今思うと剣とかで割ればもっと早かったかなって」


『時には経験も必要なんだ、じっくり再考したら良い』

「うっす」


『うむ、では本題に入る。体を変えたいんだな?』

「はい」




 先ずはエミールをアヴァロンへ。

 そしてシェリーを祖母の墓に送り届けた後、先ずは山東省の武氏祠へ、女媧神が描かれた壁画の前で叩頭礼。


「お力をお貸し頂きたい」


 

《何で私なのよ》

「ココの地母神であり創世神であらせられるからです」


《まぁ、話だけは聞くから、おデコを拭きなさい》

「ありがとうございます」


《で、何よ》


 神々や精霊にもっと介入して欲しい。

 今でも良いのだが、厄災の責任を神々には負わせられない。


 なら、先ずはココから。


「せめてこの国内部だけでも、もう少し、ギリギリまで介入して頂きたい」


《無理なのよ、神々の条約が有るから》

「ココだけでもですか」


《結果的に国が強くなるからよ》

「人間への監視だけでもですか」


《優秀な人材は国を強くし、果ては争う》

「民意が願ってでもですか」


《他国の人間も願えば、また話は変わるわね》

「どうして、そんな条約が」


《バランスが良く無いから、人々が争う可能性が有ると考えた。そしてそれは試行され、広まった。隣へ、またその隣へ、そして実際に広まったら落ち着いたのよ》

「試行錯誤の結果ですか」


《そうよ。だけれど召喚者に肩入れは出来るわ、ただし》

「過度な介入とは、誰が判断を」


《隣国の神々や精霊だけれど、結構ガバいのよね》

「一気に粛清したかったんだが、無理か」


《そうね、願いや願いの方向性によるわ。願い事は細かく具体的に、よ》

「先ずは、俺と一緒に居てくれませんか」


《良いわ、少しだけよ》

「感謝する、そしてクエビコ神への許可も欲しいんだが」


《許可するわ》

『あぁ、宜しく頼む』

《我は?》

「今度な」


《我、除け者なんじゃが?》

『自業自得だ』

「さ、宮殿に戻るか」


 今回の齟齬の原因になった者を洗い出させ、その合間にハナや女媧神の好物を買い漁る。


 そして再び戻り、直接追及し、罷免。


 そして無色国家と繋がりの有る者を引き続き洗い出させ、買い出し中のショナ君達に合流。


「お疲れ様です」

「おう、南瓜プリンは作れるか?」


 ハナの好きな南瓜プリン。

 少しは、コレでショナ君に惚れ直してくれないだろうか。




 アヴァロンに帰るとタケちゃんがおデコを怪我していた、向こうでの礼で怪我しただけらしいが。

 額が割れる礼って。


「どうしたらそうなるのよ」

「叩頭礼と言ってだな良い音がする程、良いとされてるんだ」


「成程、分からん」

「おう、メシは食えるか?」


 天ぷらパーティー。

 バイタルチェックはクリア出来たし、天ぷら美味いし、カボチャプリン有るし。


「美味ぃい」

「皮が好きな人って初めてですよ」


「皮も、同列1位」

「メイメイ、追いカラメルも有るぞ」


「カラメルも同列1位」


 最下位はセロリ達、新しく導入された野菜ジュースには入って無いが。


「食わず嫌いは良くないぞ、セロリに挑戦するか?」

「絶対に嫌、食った上で嫌なの」

「激しい拒絶っすねぇ」

「ですね。ココの果物も使いますから、沢山飲んでも大丈夫ですよ」


「ある意味地産地消やんね」

「ならキノコでも入れるか」


「本当にやめて」


 デザートが終わると再び調理に。

 野菜ジュースの主軸はジューシー系のリンゴに青菜、柑橘類やブドウ達。


 ねっとり系のイチジクはコンポートに、ナッツ類には黒糖がまぶされた。


「黒糖や紅茶は好きか?」

「すき」


「ラムは?」

「すきだが」


「スクナヒコ神、中医学の知識と言ったらどの神だろうか」


『黄帝伏義だろうか』

「女媧神と知り合ったんだが、先ずはココに呼んでも良いだろうか」


『うん、許可する』

『あぁ、許可しよう』


《ふぅ、どうも。伏義ね、呼ぶけど良いかしら》

「先ずは様子を見させて欲しいんだが」


《そうね、来て、伏義》


《ビックリさせただろうに、すまないね》

「蛇さんとは」

「すまんが、俺は正視出来無い」


「あら、まさかの弱点」

「昔、動物園で首に巻き付けたら絞め殺されかけたんだ」


「あー、そっちのダメな方なのね」

《ふふっ、お主の強さに恐れ慄いたのだろう。許してやってくれね》

「俺は良いんだ、ハナを見立てて欲しい」


《許可を頂けるだろうか》

『勿論』

『あぁ、許可する』




 中医学的にも、ハナに必要なモノに変化は無かった。

 ラムや黒糖、刺身は体が冷えるので程々にと。


「ほう」

「医食同源、何事も相性が大事だ」

『うん』

《そうだねぇ》


 そして今後の食事内容の方向性が決まり、次はエイルへとハナが話に行った。


『武光、良いか』

「スクナ神、どうしましたか」


『アレはどうなっているんだろうか』

「あぁ、無月経と無乳を得たんだ。今後の利便性の為にな」


『成程』


 医神は納得が早くて助かる。


 そして、ハナが帰って来るまで調理の補助。


 離乳食や嫁の食事もこうして。

 いや、手伝うのでは無く。

 こう、俺もするべきなんだよな。


「ショナ君、もう少し俺にも覚えさせてくれないだろうか」

「良いですけど、それなりには出来てると思いますよ」

『嫁子へ、か』


「おう」

「分かりました、では先ず基礎から」




 エイル先生に事情を説明して帰ると、タケちゃんがエプロン姿で料理をしていた。


「一体、何を」

「おう、お帰り。基礎から教えて貰ってるんだ」

「元々が出来てたので、特に問題無いですよ」


「いや、最後まで見てから頼む」


 作っていたのは青菜炒め、他にも中華粥を作ったらしい。


 そして後片付けまで。


 しかも、ちゃんと旨い。


「嫁子用に?でも」

「体が覚えてるかも知れん。俺はな、ココでの事は決して無にはならんと考えているんだ、例え記憶が無くなるとしてもな」


「なにそれ、素敵過ぎひん?」

「おう」


 前向きで明るくて頭良くて、何でこの世界はワシを呼んだんだろうか。






 うん、分かるよ。

 強い光りが有ると、近い程に影は濃くなるからねぇ。


「おう」

『あんまり目立つのはどうなんだろうねぇ』


「仕方無い、ハナの為だ」

『だろうけどねぇ、ライトの当たり方で変わるもんだよ?』

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