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2月26日

 朝チュンって、ある程度限られた生活圏でしか実感出来無い表現よね。

 ココ馬しか居ないんですよ。


「スーちゃん、おはよ」

「ちょ、ほっといて良いの?」


「寝てるから大丈夫」

「そうやって、ヤキモチ妬いたらどうするのよ」


「いや、昨日どうなったか気にしてるかなーって」

「そりゃ気にしてるけど、ちゃんと優先させなきゃ、妬かれて大変な事になるよ?」


「へい。ありがとうね」

「いえいえ、ほらサッサと戻って、ちゃんと優しくするんだよ」


「へい」


 お姉ちゃんって言うか、お母ちゃん?




 目を覚ますと、今日は隣には居なくて。

 何処に居るのかと体を起こすと、テラスでコチラを見ていて。


 嬉しい様な、恥ずかしい様な。

 けど、どうして今日は。


「おはようございます」

「おはようです」


「今日は何で観察して無いんですか?」

「恥ずかしがってたし、少し控え様かと」


「告白したのにそうなりますか」

「いや、ほら、本来のを考えると、1周回って、嫌かなって」


「何がですか?」

「紫苑ぞ?」


「あ、え?それは、つまり?」


「紫苑のまま、美味そうなモノをずっと眺めてたら、食って良いなら食いたいでしょうよ」


 こう、こう言う時に慣れてる人なら何て言うんだろうか。

 全く、頭が動かなくて。


「ぅう、すみません、破壊力が凄くて」

「あぁ、もう少し手加減出来る様にしてみます」


 こんな状態で、夜の営みなんてしたら、どうなってしまうんだろうか。




 何よ、何なのよ。

 昨今の若い子ってこんなにウブなの?

 大丈夫なのかしら。


『おはようございます』


 アンリさん達は味方かもって言ってたけど、同時に気を許すなとも言ってたし。

 うぅん、うん、どうせ何も出来ないし、流れに身を任せよう。




 今日のお茶会でも、僕らの事を、神様から夫婦仲は大丈夫かと心配されてしまった。


「あー、根本的な齟齬が有って、やっと仲直り出来た感じなんですけど、まだまだかも」

《そう、どうして諍いが長引いてしまうのだろう》


「後先を考えるからかな、ココみたいにシンプルな社会構造をしてない。それだけ考える要素が増えて、複雑に絡み合う、とか?」

「そうですね、良い悪い、善悪にも複数回答が存在してしまうので。コレが答えだと直ぐに出せないんです」


《それでも最終的には許容するかどうか、じゃないかな》

「ココと向こうだと許容する量が変わるからだけど、まぁ、そうよね」

「失礼ですが寿命の差かと」


《あぁ、そうか、そうだね。ココはソチラの半分にも満たない、糸は長い方が良く絡むからね》

「そうね、でもご心配無く、しないから不仲では無いので」

「すみません、切り替えが下手なだけなので、どうかご心配無く」


《そう、じゃあ仕事の話をしよう。居住地と医療だったかな》

「はい」




 今日もワシはエリクサー作りをしようとしたのだけれど、カイン君が呼び出され、ショナ子ちゃんは内部の見回りに。

 久し振りに完全な1人かも。


 あぁ、凄い静かだココ。


 そう静けさを堪能してからエリクサーを作ろうとしていた時、ノック音が。

 誰だろうか、カイン君か?


「はいはい」

《失礼します》


「はい?」

《刺繡部屋の管理の、イナンヌと申します。コチラはリェヴィカ、スァリャィ。神様のご家族です》


「ほう、それで」

《私達からも、謝意、感謝を述べようと思いまして》


「それは追々、向こうで受け取りますので大丈夫ですよ」


《そうですか、でしたらコチラをどうぞ奥様へ、ココの香料にもなってる花なんです。良い香りなんですよ》

「おぉ、ありがとうございます」


 白くて俯いた百合の様な花。

 甘くて、クラクラするような。




 訓練場を通り過ぎる途中、カイン君が居る事にアンリさんも僕も驚いた。

 本当なら紫苑さんと共に部屋に居る筈で。


『カイン!何をしているのですか!』


 どうやら神様の命令だからと、ルトと呼ばれる隊長に無理矢理訓練に参加させられていたらしい。


「なら僕、もう戻りたいんですが」


 1人でも戻ろうと踵を返すと、隊長に腕を掴まれ何かを言われた。


『失礼ですよ!』


 多分、性的な何かだと思う。

 あぁ、神様は心配していたのではなく、忠告してくれていたのかも知れない。

 夫婦でしないのなら、問題が起こる、と。




 急いでカインとショウコさんと共に部屋へ戻ると、衣服を整えながら、部屋から出て来るイナンヌと目が合った。

 シオン様は一対の筈。

 何が有ったのか部屋をのぞくと、リェヴィカとスァリャィも衣服を整えている所だった。


 シオン様は、ベッドで。


『“コレはどう言う事ですか!”』

《謝意を受け取って頂いただけですよ、家族として》

《“そう怒らないで、だって神様が、もう家族だと言って下さったんだもの”》

《“そうよ、アポロの家族は私達の家族”》


《それに、随分と我慢してらっしゃるとも》

『アポロには何もしてらっしゃらない筈です、コレは問題になりますよ』


《でももう家族なんですから、些末な問題でしょう》

『すみませんショウコ様』

「この花は、毒花では」


《毒だなんて、良い気分になれるだけですよ》

『コレは、ただの香料の筈じゃ』


《私達には、ね》

『出て行って下さい!』


《はいはい》

《“先を越されたからって怒らないの”》

《“そうよ、アナタも直ぐに家族になれるんだから、大丈夫”》


 神様がこんな事を指示するワケが無い。

 最大限の敬意を持って、最大限のもてなしをと。




 吐き気を催す様な、濃く甘い香り。


 昨日、自分から何もしないままに眠った事を凄く後悔した。

 戻れる事を期待して、先送りにした。


 もし昨日、思いを遂げていたら。

 もし昨日、そのまま。


『ショウコ様、何か、解毒の何かを』

「隣の部屋で待機してて下さい」


『はい』


 僕らに毒は殆ど効きかない、効いていても魔道具で状態を制御出来る。


「ごめんね、もう大丈夫」

「いえ、すみません、何処かに油断がありました」


「ごめんね、ショウコちゃん」

「いえ、僕の方こそ、僕が、もう少し」


「大丈夫、風呂入ってくるから、後は宜しく」

「はい」


 平気な様に見える。

 平気なフリにも見える。


 コレは既に想定されていた筋書き。

 もし毒を使用されたなら、敢えて乗る様に、と。

 例えどんな毒でも、効いている前提でその状況に流されろ。


『あの、あ、先ずは謝罪を、申し訳御座いません。この様な予定は全く聞いておらず、アポロの事も何も無いと知ってらっしゃる筈で。最大限の敬意を持って、最大限のもてなしを、と』


「そのもてなしと言う事でしょうか」

『いえ、決して、例えそれが含まれていたとしても、シオン様達は一対だと確かに伝えさせて頂いて、了承も得ました』


「なら、どうしてこの様な事になっているのでしょうか」


『それは、神官が何かを勘違いしたのか』

「神様の指示か」


『神様はその様な、傷付ける様な方では』

「アナタが知らないだけ、見聞きした事が無いだけでは」


 それからはもう何も言えないまま、ただ時間が無為に過ぎていく。


 昨日、どうにかなっていたら。

 もう少し勇気を出して、僕からお願いしていたら。




 凄く酷い決断をした。

 世界の為、2つの地球の為に、体を明け渡した。

 好きな人が居るのに、自分を好いてくれてる人が居るのに、酷い決断をした。


 世界の為に、2つの地球の人間の為に。

 凄く、残酷な行為。


 救う価値が有るかどうか確認しろと、エルヒムは言った。

 コレは、救う価値が無いから、見捨てろと言う事なんだろうか。


「紫苑さん」


 手を広げて呼んでくれてるのに、素直に喜べない。

 素直に抱き着く事も、嬉しいと思う事すらも躊躇ってしまう。

 凄く酷い決断をしてしまった。




 暴れ出したくなる体を、ネイハムが抑えてくれている手だけに意識を集中し、何とか押し込める。


 ココまで素直に指示に従うだなんて、もっと筋書きに注意事項を盛り込むべきだった。

 そもそも筋書きをハナに見せないでいれば。


 いや、だがハナなら何も無くても、何を言っても乗ったかも知れない。

 それだけ、命の重さを知っている。


『想定通りだね』


 何だコイツは、殺されたいんだろうか。


《エナさん、もう少し考えて話して下さい》

『武光は嫌かも知れないけれど、戦争を回避したり大勢を救うには、誰かの何かが必ず犠牲になる。最小の被害としての想定内、このままいけば確実に戦争は回避できる』


「どうしてそう言い切れる」

『向こうはコレだけひっ迫していると曝け出した、コチラに弱味を握らせた。こうして取り込んで懐柔してからやっと、真の情報を出す、そう出さなくてはいけない理由が確実に有るって事を示した』


 俺もそれは分かっている。

 分かっていたのに、回避が出来なかった。


 真に勢力が分割されている、もっと言えば3勢力。

 イナンヌ達精霊や妖精、エルヒム、そしてシュブニグラス。

 今回は、このシュブニグラスや黒い仔山羊の情報が全く得られなかった、得られていれば勢力が少なくとも2分されているのだと分からせる事が出来たのだが。


《この指示がエルヒムによって下されたのか、彼女らの独断か》

『または未だに見えていない第3勢力か、それを探るにはどうしたって取り込まれる必要が有る。相手は地球、姿を現していない神が居るかも知れない、それに接触するにはその地に馴染むしか無い』


「ならそう」

『どれが真に協力すべきか分からないのに、どう作戦を立てられるって言うの。君の想定も確かに取り入れたけど、その論拠や論証が薄かった、その状態で作戦を立てて莫大な被害が出たとして、帰還する君に何が出来るって言うの』


《エナさん》

『私が辛くないと思わないで欲しい、理性的だからと言って感情が無いワケじゃない。私もクエビコも、ドリアードもエイルもスクナもロキもルシフェルも、皆、辛い。けど、コレは星を跨ぐ問題、どうしても神々には解決出来ないから、我慢してるんだよ!』


「すまない」

『仕事をした、ただそれだけ、そう思っている体で迎え入れるつもりだから。君にもそうしてくれると助かる』


「分かった」

『迎えに行く用意をして、きっと移民を生き残らせる何かを最初から持ってるから、その為の力を得ておいて』


「分かった」


 そうして神々に会いに行くと、今回は何も言わずに寄り添ってくれた。

 どうしようも無い涙に、ずっと付き添い、寄り添ってくれた。

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