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2月24日

 早朝、夜明け前にアンリちゃん達が何処かに向かうと、さっぱりした雰囲気で帰って来た。

 まだ眠っているショナ子ちゃんを置いてテラスで話を聞くと、共同浴場へ行っていたらしい。


『ご案内しましょうか?』

「いや、うん、今度で」


 凄い声が聞こえてた事に関しては何も無し。

 コレ、日常って事か。


「あの、おはようございます」

「おはよう」

『おはようございます』


 そんで朝飯を食ってから、お風呂へ。

 ココ、普通に一緒に入るのね。


「我慢しておくれ」

「いえ、僕こそ、すみません」


 それからやっと、エルヒムと会う事に。


《どれから答えようか》

「任せた」




 先ずは、魔素について聞きたいけれど、問題が有ると知らせる事にもなるので、子を成せない事について尋ねる事に。


「子を成せない家族についてなのですが」

《それを説明する前に、ココの魔素について教えるべきだろうね》


 それは、全く想定されていない事だった。

 人々の営みから魔素を得ると言う、全く想定されていない答えで。


 正直、どう返せば良いのか。


「だからアンリちゃん達も頑張ってたのね」

《頑張る、そうだね、ふふふ》

「あの、それで魔素が本当に得られるんですか?」


《ココではね、だから君達にも協力して欲しいのだけど、何か道具が足らないみたいだね》

「そうなのよ、お子はもう少し先って事になってるのよ」


《そう、けど今暫くはお子を成せる状態では無さそうだよ》

「あぁ、けどほら、アンリちゃん達が居るとね、恥ずかしがり屋なのよ」


《なら目の前の部屋に移させるよ》

「今は仕事の気持ちで来てるから、難しいかも」


《他にも何か道具が必要かな》

「いえ」

「後はワシの腕次第、かも?」


《そう、少し公務の時間を減らさせようか?》

「いえ、大丈夫です、仕事をさせて下さい」

「あ、1人じゃ発生しないの?」


《1人?あぁ、詳しく説明すると、互いの感情、気持ち、心の交流から魔素が生まれるんだよ。その中でも特に良く生まれるのが、性行為なんだ》

「あー」


「あの、それで、紫苑さんの魔素が吸い上げられているんですが」

《営みで発生する魔素を集めるのに、その体質が引っ張られてしまうんだろうね、》

「ならまぁ、このままで良いか」


《君だけなら帰す事も可能だけれど》

「いや、無駄遣いは良くないし」

「そうですね。それでその魔素は、どうなるのでしょうか」


《水になったり、お湯になったり、時には氷にもなったりするね》

「え、あのお湯が夜の営みの結晶」

「その、2人辺り、どの位の水の量になるんでしょうか」


《今日用意させた湯量の半分位かな》

「以降はコチラで用意しますので、準備は不要だとお伝え下さい」


《そう、ならそうさせるよ》

「それからなんですが、両方の性を持つ方々についてお伺いしたいんですが」


《あぁ、アンリがそうだよ、そしてカインは体質から子を成せない、そしてリリスも》

「あぁ、アンリちゃんだけなのね」


《それと僕も》

「成程、神様だものね」


《他の者に関しては、市井の見学の際にでも見てみたら良いよ。今日は流石に難しいだろうから、明日になるだろうけど、良いかな?》

「はい。それと先日の件なのですが、石材等に見せる加工は可能だそうです。ただ、全員を無作為に乗せられないので、乗せる順番や基準を提案して頂きたいんですが」


《そうだね、もう気付いているだろうけど、ココの者は酷く短命なんだ、だから年長者を乗せたいけれど、ソチラで直ぐに亡くなってしまったら、今度はココの者から不信感が湧いてしまうかも知れない。だから少し、時間をくれないだろうか、命に順位を付ける事だから》

「はい」


《後は、刺繍の見学だったかな。今日から自由に何処でも見に行ってくれて構わないよ》

「はい、ありがとうございます」


《もう大丈夫かな?》

「はい、今は」


《では、このまま下がってくれて構わないよ、じゃあまたね》




 ショナ子ちゃんがアンリちゃんとリリスちゃんと刺繍に行ったので、ワシはワシでカイン君とエリクサー作り。

 と言っても、カイン君は向こうで覚えた筋トレ中。


 平和。


「カイン君、アンリとリリスは好き?」


 好きと言う単語が分からなかったのか、首を捻られてしまった。

 なので美味しいかと聞くと、少し間が有った後、2回頷いた。


 うん、平和。




 翻訳機の為にも様々な会話が拾えて、良い環境では有る。

 そして刺繡を眺めながら、偶にアンリさんから翻訳をして貰う。


『意外と伝えられてない単語が残ってましたね、すみませんでした』

「いえ、向こうでは交渉や会話用の単語が主でしたし、コレは生活用ですから」


 そうしてアンリさんに翻訳をして貰いながら、件の少年の元へ。


『“休憩はこの方々のお部屋でしますので、後で一緒に向かいましょう”』

「“はい”」


 桜木さんが好きそうな綺麗な顔の少年には、怯えと不安と期待が入り混じった様な表情を浮かべた。

 性的な事に怯えるにしても、確かに少し不安が強過ぎると言うか。


 いや、自分も明日にでも桜木さんとするとなれば、こうなるかも知れないし。

 いや、でも、怯えると言うよりは寧ろ不安が強いと言うか。


「大丈夫ですよ、少しお話をしたいだけですから」


 この言葉に直ぐにも不安が消えた。

 他の者にはそう言った反応は、いや、少し離れた位置に居るイナンヌさんも反応したし。

 これは、言葉が分かっている人間の反応。




 お昼ご飯の時間になると、ショナ子ちゃんが美少年を連れて帰って来た。

 興味本位でクッキーを出して、紅茶も出してみる。


「本場イギリスのクッキーと紅茶やで、それとも梅干しと番茶にしとく?」


 目を見開いてコッチをガン見して、反応したって事はビンゴよね。


「鈴木 千佳子」

「紫の苑でシオン、宜しく」


 抱き着かれて泣かれた。

 この反応が嘘なら殺しちゃうかも。




 アンリさん達には一旦隣の部屋で待って貰う事にして、暫し少年の観察をしていると。

 本来は禁止されている、現地民への飲食物の提供を紫苑さんがした直後、少年が紫苑さんに抱き着き、大泣きを始めた。

 それから紫苑さんが落ち着かせると、改めて自己紹介をしてくれた。


「鈴木 千佳子です、さっきはすみません、嬉しくて」

「あの、情報の摺り合わせをさせて頂いても宜しいですか?」


「はい」


 生まれた年代、亡くなった年代、当時流行った何か。


「えーっと、言うのが少し恥ずかしいんですけど……」


 それは桜木さんも知っている情報だったらしく、直ぐに報告書として載せる事に。


「いやぁ、生き字引じゃん」

「1回死んでるけどね」


「それ何て言うんだろ」

「甦り引き?」


「アンコール引き」

「塚っぽい」


「確かに」


「あの、ココに連れて来られた理由は、どの様な感じだったんでしょうか」

「あー、字が読めちゃうのがバレたみたい、優秀な子を神様にってのが通例だから」

「あらら」


「バレない様にしてた筈なんだけどね、もうあれよあれよと」

「それで、何でビビってたの?名誉な事なんでしょ?」


「だって神様って男の子でしょ?お尻とか怖いじゃない」

「あぁ、成程」

「他の方には」


「あぁ、バレて無いと思う、それこそ異端とか悪魔だってなっても嫌だし」


「コレ、エルヒム知ってんのかね」

「なら引き合わせてくれても良さそうですけど」


「それこそアレよ、敵とかって居る?」

「居ないけど、強いて言うなら寿命かな、短命だから」

「派閥が分かれてると言う事も無いんですよね?」


「うん」


「んー」

「そろそろお昼にしましょうか、独占していて何かバレても困りますし」


「そうね、隣のアンリちゃん達とご飯をどうぞ」

「えー、おにぎりとか食べたかったのにぃ」


「今度ね、少し作戦練らさせて」

「はーい」


「助かりました紫苑さん、かなり短時間に情報が引き出せました」

「いえいえ、何を食べようか」


「じゃあ、おにぎりで」

「ですよねー」


 そして昼食後、アポロ君を送り届けたアンリさんに、刺繡場では翻訳しなかった単語を聞き出す事に。

 後々にした理由は直ぐに分かった。


「要するに、性的な事が殆どだったんですか」

『はい』

「あー、長屋っぽい」


 そして翻訳を終え、お昼寝をする事に。


「あの、お願いしても良いでしょうか」

「おう、足りないで倒れても困るし」


 少しだけ魔素を吸い上げて貰い、溢れた魔素にまみれて。




 ショナ子ちゃんは良く寝る。

 多分、ホルモンがガバガバ働いてるからなんだろうな。


「な、そ、起きてたなら起こしてくれて良いんですよ」


 ツンデレか。

 デレが無いけど。


「いや、悪いかなと思って」

「だからって何も、ジロジロ見なくても」


「そんなに嫌か?」


 え、なに、やだ。

 何この間、そんなに嫌なの?


「嫌と言うか、恥ずかしいので」


 デレきたー。


「ほう」

「その、ほう、って、誂う時の助走ですよね」


「あぁ、うん、かも」

「誂われ慣れて無いので、手加減して貰えませんか?」


「つか誂う前提なのはどうなの?そんなに誂ったっけ?」

「蜜仍君に赤いトンボ玉で誂ってるじゃないですか」


「いやアレ真実だから、まだ出て無いのかショナ子ちゃんは」

「ほらそうやって誂うじゃないですか」


「いやマジなんだって」

「僕を標的にしたら蜜仍君にバラしますよ」


「ええよ、あの人はまだ出た事が無いから知らないだけなんだって言うし」

「だから普通は」

『失礼しても宜しいでしょうか』


「はいはい、頑張れ、お嫁様」

「行ってきますけど、くれぐれもカイン君まで冗談に巻き込まないで下さいよ」


「天才か、そうするわ」

「もー、じゃあ忘れて下さい」

『仲が宜しいんですね』


「ぃ、はぃ」


 デレきたー。


「でしょー、じゃ、行ってらっしゃい」

「はい、行ってきます」


 そうしてまたエリクサーを作りつつ、カイン君を巻き込む事に。


「向こうではこの赤い玉がね……」




 ショナ君の言語収集のお陰で、かなり情報が揃ったが。

 猥談が本当に凄いな、コレはエミールには聞かせられない。


『何でダメなんですか?』

「性的な事が多いんでな、もう少し待っててくれ」


『あ、あぁ』

「すまんが、また送り届けてきてくれ、そのまま休憩しててくれて良いぞ」


『今日もココに泊まるんですか?』

「だな、非常事態用に備えていたいんだ」


『なら余計に適度に体を動かさないとですよ、今日は僕がココに泊まります。泊まりたいから泊まらせて下さい』


「良いが」

『何か有っても絶対に乗り込む前にタケミツさんに知らせます、だからお願いします、ちゃんと休んで下さい』


「分かった、頼むぞエミール」

『はい』


 ついでにマサコの状態も確認しておくか。




 小野坂さんの状態は非常に安定している。

 そう特別でも無い、偶に流れ着く召喚者だと言う事にし、この世界の粗を見つけ出せれば帰れるかも知れない、と言う事にした。

 そのお陰で目的と目標へ向かってスムーズに行動し、誰かと自己を比較する事も無く、嫉妬をするでも無く。


《カールラ、どうですか》

《はい、全く別人の様に、最初以上に穏やかです》

《じゃの、たかが比較、されど比較じゃな》


 こうしていれば有効なジョーカーとなる。

 もし単独でいらっしゃっていたら、他に女性の召喚者が居ない時代なら、万が一にも良き召喚者としての役割を無事に終えられたのかも知れませんね。


「おう、どうだ」

《はい、滞り無く》

《ご主人様はどうですか?お元気でらっしゃいますか?》


「おう、今日の昼はおにぎりだったらしいぞ。ネイハム、データだ」


 私達は今、召喚者に連絡係をさせてしまっている。

 けれどもコレこそ召喚者で無くてはいけない、彼らにしか出来ない事。


 けれどもきっと、小野坂さんは進んではしないだろう、連絡係だなんて、と。


《はい、確かに、コピーが完了しましたので、帰って再検討させて頂きます》

「おう、頼む。俺は浮島でゆっくりして来るよ、エミールに気遣われたんでな」


《そうでしたか、では》


 そうして今度は元魔王のアレクシスに北海道の病院まで届けられ、五十六先生、先日からガーランド女史も加わり、鏡通信では柏木氏も加わっての会議が開かれた。


【営みから魔素が発生、ですか】

「本当なら、だねぇ」

『魔石と魔石を接触させても魔素は生まれませんが』

《そこは桜木花子の魔素が吸い上げられている事を鑑みて、生物由来の魔素に近い何かを吸い上げていると仮定した方が良いのでは》


「それだよ、もしかしたら彼らだけなのかも知れないけど、確認させるワケにもいかないしねぇ」

『ですがそんな事を言ってる余裕が有るのか、ですよ』

《させる事に賛成なんですか?》


『お覚悟を決めてらっしゃる筈です、でなければ既に魔素を使ってでも帰還しているか、させているかと』

「それ期待し過ぎじゃないかなぁ」

【少なくとも、津井儺君は覚悟はしているとは思いますよ】


「だからと言ってこの状況なんだよ、単なる実験になっちゃうじゃないか」

『それも覚悟の上かと』


「かと言って尋ねてしまったら、成程ね、とか言って試してしまいそうだしねぇ」

【珍しく反対派ですか、五十六君は】


「ガーランド女史は桜木君を信頼して賛成している、柏木君は祥那君を信頼して賛成している。もう既に過半数を超えそうなんだ、冷静な分析の前に可決させたく無いだけだよ」

《では私も賛成派に加わりましょうかね、頑張って反対して下さいね》


「これだから君は、どうしてなんだい」

《死ぬ前に体だけでも思いを遂げられるか、そうなる前にしっかりと気持ちを伝え合えるか。ウブで遠慮がちな者同士、ある意味で絶好の機会ですから》


「なら余計に僕は反対だね、それじゃあまるで悲劇の筋書きの途中じゃないか」

《桜木花子だけならそうだったかも知れませんが、武光君にエミール君、予備として小野坂さんも居るんですし。神々の共闘も進んでいるんです、相当の事が無ければ、悲劇にはならないかと》


「嫌だ嫌だ、僕は反対だよ。その台詞こそだよ、ありがち過ぎる。油断から悲劇へ、僕は反対だよ」

《ならどう止めるんですか、何も言わないでも試してしまう可能性は有るんですよ》


「そこだよ、そこから話し合いたいね僕は」

《では、ご提案を頂きましょう》


 そう、桜木花子が試す事へ思い至ってしまったら、祥那君へ気持ちの確認をしてしまったら。

 もう誰も止められない、そもそも止める術が無い。

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