2月17日
使節団員達は2月23日に帰還予定。
しかも何も知らないだけで3人は本来ならコチラ側、気質としてしっかりとした善人、味方に引き入れる努力をしてみても良いかも知れない。
「少し浮島を見せてみても良いと思うんだが、どうだろう」
神々や人間からも反対者は出る事も無く、3人を招く事に。
「どうも、ココの管理人です」
ハナは嘘も無く正体を隠しつつサラリと自己紹介をし、浮島を紹介して回った。
そして改めて思った事が、話せない者に対しての対応の慣れ。
常に提示は3種類、人差し指はトイレ、中指は飲食、薬指はそれ以外の何かの要求を指し、小指は要求無し。
文字通りどの指を差すかで意を汲み取ろうと試み始めた、文字無しで。
そして接続詞は極力使わず、単語を強調して言い、見本を見せる。
「上手だな、妹は」
「緘黙症の子が居たからコレで遊ぶ内容を決めてた」
「あぁ、その応用か。経験に勝るモノは無いな、凄いな妹は」
「何で涙目よ」
「そう言った学級の担当にならないだろうとは言え、子がそうなるとも限らないんだ。俺が思い付けば良かったんだが、情けなくてな」
本当に、情けない。
最近タケちゃんは涙脆い。
人前だろうが構わずポロポロ泣く。
「あぁ、どうどう、偶々そう過ごす環境だったかどうか。日向と日陰よ、ワシは日陰が多かったから」
「そう卑下するな、繊細さは悪い事じゃ無い」
「すまんね、パッと良い表現が思い浮かばなかっただけよ。海と陸、ワシは海の子、タケちゃんは陸の子」
「ぅう、すまん」
「うん、休憩にしましょうや」
大人だろうが男だろうが子持ちだろうが、普通はこうして心は揺れ動くモノ。
けど、出方が違うと人を傷付ける。
父親とタケちゃんの差は、何だろうか。
一目見て、私達の宮殿に呼ぶべき方だと分かった。
溢れる魔素、その匂い、濃度。
私達の名を聞いても嫌悪を示さず、意味を知りながらも同情を見せてくれた、その優しさ。
話せない者への対応力、心遣い、気配り。
きっと出逢える方々の中での最高基準だろう、神様が所望する方は彼だ。
『“お探ししておりました”』
使節団員が男性体の桜木さんの前で膝を折り、何かを話した。
けれど今までに使われ無かった単語なのか、誰も反応が出来無いまま。
「待って、待て、ステイ、ストップ」
桜木さんが使節団員を椅子へと座らせ、小屋へと逃げて来た。
「ジェスチャーが同じなら」
「何か敬意を払っての何かよね、下手な挙動せずに来たが、承諾に受け取れる様な事はして無い筈」
「ですね、僕も見てましたし、意思疎通が叶わない段階ですから、承諾とみなされても拒絶は可能でしょう」
「何か動きが有ればって言ってたけど、劇的過ぎる。あの言葉は?」
『使われた事は無い』
《請い願う感じじゃよね、逃げて正解じゃろう》
「うん、帰って貰おう、引き籠ります」
そうして武光さんが教会へ送り出し、隠れて観察していた先生方と裏会議が行われる事になった。
神々と武光君が危惧していた通り、男性体であっても桜木花子と接触させた事で、使節団員に大きな変化が起きた。
今まで言葉数が少なく、コミュニケーションを取るのにも苦労していたと言うのに、様々な単語を開示し始めた。
《露骨ですね》
「そうだねぇ、確実に2つの言語は理解しているだろうね。そうして何かしらの適格者を探し出して、招待する。友好的な状態を誇示している以上、コチラは招待を断れない、断る理由が無い」
《いずれ視察に行かなければなりませんからね。ですが、コチラがその要求を引き延ばし続ける事が不利な場合に限りますよ》
「そこだよ、召喚者が居ると想定されている可能性が高い。そうコチラの情報が、どれだけ向こうに有るか」
《あの怪物の襲来以前からか、以降か》
「目的から逆算してみよう」
《神々の予想通りなら、避難か短期の延命》
「2つの派閥が有り、片方が延命、片方が避難。どちらにしても、招く事は必須になるね」
《3派閥目、篩い落とし、避難させる。にしても協力者が必要で、取り込みたい》
「もしくは取り込まれたい、篩い落として貰いたいか、破滅を願う神が全滅を請い願っているか。はぁ、その妥協点を上手く引き出せそうなのが桜木君」
《桜木花子を適格者とみなした理由》
「君はどう思う」
《取り込みたい、取り込まれたい、篩い落としをして貰いたい。なら妥当かと》
「そうなんだよね、全滅を請い願うなら武光君かエミール君だろうし。取り込みたい、単なる延命なら小野坂君だ」
《その2人にだけ反応を示した》
「共通する特徴を挙げるなら、治癒魔法だねぇ」
《魔素が認識出来ている》
「だから使節団員に選ばれたのかも知れない」
《なら怪物襲来以前から計画されていた》
「それはどうだろうねぇ、時間経過が同じだったとは限らない。怪物からの情報を得てから選抜したのかも知れないよ」
《録画を確認しましたが、あの短時間に得られる情報は少ない筈》
「3体目が居る可能性が高いよねぇ」
《それでも神々が感知していない、していても違和感を感じないか、敢えて無視しているか》
「中継基地がしっかり機能していると仮定すると、ココで宇宙をどうにか出来る神様は限られる」
《クトゥルフですか》
「まぁ、他のかも知れないけど、桜木君を選ぶ理由にはなるよねぇ」
《ですが、クトゥルフの能力を得られてはいないんですよ》
「素養だけで十分なのかも知れない。そうすれば多少の振れ幅が有っても桜木君だけを選べる、状況次第で少し指示を変えれば良い」
《仮説が正しいなら、桜木花子を招待する》
「そして桜木君だけを招いて、何をするか」
《武光君を同行させた場合は》
「分断させられるだろうね、幾ら演算が優れていると言っても、召喚者様はその演算を乱せる力が有る」
《なら小野坂さんでしょうかね》
「相性が悪いと言われているけれど、それはどの誰にとっての悪いか、だ。向こうにとっては最良かも知れないねぇ」
《断らせる事も可能でしょうけれど》
「重要な人間だと知らせる事になるし、断る事で恩を売る事にもなりそうだし、それはそれで向こうの思惑に嵌るだけかも知れないし。そもそも同行者が居ないのは不自然だし」
《コチラから、誰を選んで連れて行って貰いましょうかね》
「ミーシャ君かなぁ、馬しか居ないとなると神獣の力が何処まで衰退させられるか不安だし、桜木君信者だし」
《性別が違うとなれば分け隔てられる可能性が》
「嫁は別なんじゃない?」
《よめとは》
「お嫁さんだよぉ」
ミーシャと結婚する事になった。
国籍上とは言え、結婚、しかも男として。
「凄い着地点」
「いやね、同行者が居ないのは不自然だし、分断させられない最良の方法だと思うんだ」
「あぁ、けどならどうして男じゃないの」
「代表のアンリちゃんは女の子だし、全体を見ても女性が半々、女系の可能性が高いなと思ってね」
「なら花子で行けば良いのでは」
「切り札は隠しておくもんだし、妊娠を阻害するにしても限界は有るだろう、そこだよ」
「ならミーシャが危ないじゃない」
「だからこそミーシャ君も男で同行して貰おうか悩んだけど、女性と男性のを体感で比べさせられたらどうにもならない。それに今回の問題は誰を守るかなんだ、そこでミーシャ君に手を出すなら国際問題程度で済む」
《アナタに手を出されたら威信にも関わる大問題へ発展するので》
「待った、半陰陽なる状態だとどうなる」
それが出来るワケでは無いけど、妊娠しないで女性器を持ってれば良いなら。
《妊娠出来るかどうかで》
「変わるだろうね、けど魔道具なら何とかなりそうだねぇ」
《すまんが口を挟ませて貰うぞぃ。ハナの言う様な状態にする魔道具は直ぐにも可能性じゃが、変身魔法と一緒じゃから状態はその使用者次第なんじゃと》
「あぁ、具現化だものな」
《なら従者から適格者を選びましょう》
「身体検査は神々に頼みたいんだけど、良いかな?」
《勿論じゃよ》
いや、仮に適格者が居たとしてよ。
僕は桜木さんには適格だったけれど、本来の性別を考慮し、断った。
《なら本来女性同士に》
「だからこそです、万が一にも情報が漏れたら、漏れなかったとしても、桜木さんが気を使う様な事になって欲しくないんです」
《失礼しました、そんなに嫌でし》
「嫌では無いです。けど、桜木さんが自由に選べる余地を残しておきたいんです」
《ハーレムともなれば問題無いのでは》
「それでもです」
《分かりました、ですがもう少し議論させて下さい。命に関わる場合も想定されています、場合によっては君の意思を尊重出来無いかも知れません。もしどうしても嫌なら、従者をお辞めになって下さい》
「はい、分かりました」
断った理由は、もう1つ。
慰められている武光さんにすら嫉妬してしまったから、僕にはハーレムは向いていない、不適格だ。




