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2月16日

 ハナがどうしているかを確認し、ストレッチをし、朝食へ。

 今日は分散し、使節団員と共に朝食を摂る事になったのだが。


「その、舌を治してはいかんのだろうか」


 意味が分からないフリをすれば良いモノを、舌を失ったままの2人が反応してしまった。

 コレに気付かないフリをすべきか、すべきで無いのか。


 いや、気付かなかったと言う事にしておこう、無視、スルーだ。




 気付いていないのか、気付かないフリなのか。

 2人が反応してしまった事についての言及は無いまま、食事を終えると彼女は部屋を出てしまった。


『“再確認をさせて頂きます、治りたいですか?”』


 2人が示したジェスチャーは、分からない。

 私が出会った時には既に、2人の舌は切り取られていた。


 神様の為に捧げられた舌。

 何も疑問には思わなかったけれど、彼らには味わうと言う感覚は無い。


 そして私は、味わうと言う感覚を得てしまった。


 甘いチョコレート、苦い野菜、酸っぱい果物。

 向こうには無かった沢山の食べ物、飲み物、色、香り。


 それらも共有すべきなのが本来の教義なのに、彼らには共有出来無い。


 知らなければ知らないまま、知れなければ知る事が出来無い。

 それらを解消するには治して貰う以外は無いのだが、今なら分かる、コレは秘密を守る為の処置。

 もし舌を得てしまえば、彼らは命を失ってしまうかも知れない。


 私は、試されているんだろうか。

 (エルヒム)様、私はどうすべきなんでしょうか。




 使節団員の内2人が、舌を無くしているらしく、その治療の相談にとタケちゃんがやって来た。


「ココで治して帰せば命の危機が有るかも知れないんでな、ココへ帰って来たら治してやりたいんだが」

『素材が有れば簡単でしょ、多分ハナにも出来るよね、スクナ』

『出来るけれど、場合によっては訓練が必要。いつから無いのか、それ次第』

「あぁ、舌の置き場にガチで困るか」


『うん、それに咀嚼も、暫くは噛んだりして大変だと思う』

「話せる様になるには時間が掛るか」

『話した事が無ければ大変だと思う』

「エナさんは喋れてるよな」


『知識とクエビコで補った』

「あぁ、どう動かすか動画に有るか」


『うん。だから文字を覚えさせた方が早いと思うよ、何ならもう覚えてるのかも知れないし、引き離して確認した方が良いかも』

「警戒心が強い、それに地頭が悪く無ければ自分がされた行為についても考えてるだろう」

「それと、向こうの神様が許すかよね、誰がそうしたか分からないけど、神様の命令なら治すのはそもそもダメでしょう」


「あぁ、それもそうか」


 嫌だな、寝たきりの次に嫌だわ、舌を失うのは、味わえないとかマジ無理。


「その、味覚を補完出来る人工舌とか無いんかい」

『昔は有ったけど、もう自己細胞から臓器を作り出せるから。うん、一時的な補助品なら有るよ、話も出来る仕組み』


「それ取り外しは」

『可能だけど設置には小さな手術が必要』

「なら魔道具ではどうだ?」


「あぁ、魔法の美味しい液体とか言いよね」

《承った、じゃと!》




 話す事も、文字を強要される事も無く。

 彼らの味覚へ刺激を与える、魔法の液体を賜った。


「発案者の好みになってしまったが、まぁ、試してみてくれ」


 私も試しにと味わってみたけれど。

 甘酸っぱい炭酸ジュース、ほろ苦くて甘いチョコレート、そして食欲をそそる豊かな塩味のスープ味。


『美味しい』


 向こうには無い言葉に、2人も頷いた。


 そうか、この2人を治せる治療師様を呼ぶべきなんだ。

 ならきっと、ココよりも遥かに短命な我々の光となる。


 そう、そうしていつかこの2人にも、言葉と味覚が戻る筈。




 喜んでたらしい。

 根治させられたら良いんだが、それは向こうの神様次第。


「向こうで治して良いってなっても、ワシ無理なのよなぁ」

『もう勝手に作らせてる、舌2枚』


「あぁ、遺伝子情報はもうゲットしてんのか」

『うん、それから解析も、もしかしたら短命かも』


「あら」

『魔素が少ないから命のサイクルが短いかも知れない、その仮定には当て嵌まってる』


「それ、ココのを使っても」

『それは無理、短期の延命にしかならないだろうって皆が言ってる』


「あぁ、ならココの乗っ取りか、避難して来るか」

『普通ならそうだけど、最悪は短期の延命、人は愚かだと言う大前提の最悪の想定』


「人は低きに流れる、貧すれば鈍する、今だけでもってか」

『うん、そうなると狙われるのは召喚者、特に君かマサコだと思う』


「容量が大きいからって、攫ってどうなるよ」

『乗っ取れそうな次の異世界へ、とか』


「あぁ、切符かっ」

『かも知れないし、本当に友好的かも知れないし、2つや3つに派閥が分かれていて争いに巻き込まれるかも知れない』


「先読みはどうなってるのよ」

『好きに見れるのはだんまり、好きに見れないのは警戒しろって言ってる』


「何で言わないの、言えないの?」

『言えば未来がブレるかも知れない、そうして大幅な変更は代償を必要とするから、言えない』


「あぁ、そうか」

『宇宙の法則が乱れるぅ』


「はいはい」


 向こうの出方次第であの星を壊す事になるのか。

 嫌だな。




 桜木さんがしてたって言う大型戦の訓練って、凄く残酷で。

 けど、相手が想定出来無いなら、するしか無いんですよね。


 どう思ってるか聞きたかったけど、作戦の都合上、一緒に居られないし。


『あの、武光さん』

「おう、どうした」


『その、桜木さんって、いつもは何してるんですかね』

「エリクサー作って昼寝して、治して。アイツの元は虚弱で病弱だったんでな、リハビリを交えながらの訓練になってたりもするが。何か気掛かりか?」


『いえ。病弱だったんですね、可哀想』

「だが今はすっかり元気だ、心配しなくても大丈夫。マサコはマサコで動いて考えてくれれば良い」


『はい、じゃあ、おやすみなさい』

「おう、おやすみ」


 虚弱で病弱だったから、そんなに訓練して無いのかな。

 可哀想。






 ハナちゃんもおタケもその気は無いんだろうけど、結局はハナちゃんかマサコを招く結果になる様な事をしちゃって。


 つかシナリオが変わったのに少し命令を変えるだけで済む柔軟さ、流石、神様(エルヒム)

 けど単なる人間だけに出来るワケが無いんだよな、黒い仔山羊ちゃんを共有して、今回は使節団員に付き添わせて。


 かなりシュブと繋がってるんだろうな、クトゥルフと人間だと相乗効果で1+1が2じゃなくなる、彼らは1+1で200、10倍なんだぜ、10倍。


「ココから黒い仔山羊が見えると思ったんだがなぁ」

『俺としては、今回は使節団員の近くに居るかもって思うんだよね。けどシオンちゃんで見えるかどうかだよね、クトゥルフの適性が閾値に達して無いと見えないのかもだし』


「あぁ、そうか、浮島に招けば良いのか」

『そうそう、そしたらクトゥルフの適性が残ってるのか分かるかもだし。多少なりとも物事を動かさないと、どれだけの振れ幅が有るか分からないからねぇ』


「そうだな、大人しくして貰ってたからと言ってどうなるか分からない部分も有るか」

『だね』


 つか俺を信用し過ぎだよね。

 大丈夫かな、この子。

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