2月15日
神様からは、治療魔法が可能な者を2名お連れする様にと言われただけで。
他の要望は一切無し。
ただ数日後に言葉を伝えれば良いだけなのに、どうしてこんなにも不安なのだろう。
『あ、お祈りのお邪魔をしてしまいましたね、また後で来ますね』
本当は少女の言葉も分かる。
なのに偽れと。
偽りは良くない事なのに、神様はどうして。
桜木さんは訓練にも参加しないし、使節団員さんとも会って無いみたいだし。
エミール君はしっかり頑張ってるのに、何をしてるんだろう。
『マサコさん、何か有ったんですか?』
『いえ、お祈り中なので出て来たんです』
『そうなんですね』
桜木さんがどうしてるか、エミール君は知ってるかな。
『桜木さんは訓練って、どうしてるんですかね?』
『対大型戦を想定したりして、独自の訓練をしてるそうですよ』
『あ、そうなんですね』
そうですよね、サボってるワケは無いですよね。
『サボってるかもとか思ってたんですか?』
『え、いえ、そんな事は思って無いですよ。そんな風に思う様な躾けはされて無いので』
『ですよね、凄い驚いてたからどうしてなのかなと思って』
『いや、大型戦を想定して無かったなと、思って』
『そうなんですね。お邪魔しました、失礼しますね』
私がそんな風に思う様な人間だなんて、どうしてそう思っちゃったんだろう。
相変わらず、全く進展の気配が無い。
どうなってるんだ、ハナとショナ君は。
「はぁ、ネイハム、どうしてこうなる」
《互いに奥手でウブなら有り得る事かと》
「そこは分かるが、どうして誤解する方向へ2人で進むんだ」
《同じく互いに自信が無いんですから、仕方の無いのでは》
「こう、どうにか」
《そう手を加えれば子育てが上手く行くとでも思うんですか、もう少し堪えて下さい》
「うぐぬ」
《見守るのも、親の役目かと》
「あぁ、あぁ」
それでも、もし叶うなら、ショナ君とハナには幸せになって欲しいんだ。
使節団が来てるらしいんだけど、手伝えず。
ワシは今日もエリクサーを作って、訓練で出た怪我人を治しています。
「またか、大丈夫か?」
「すみません、はい、大丈夫です」
ショナの怪我が多い、そして怪我酷め。
「いや、大丈夫じゃないでしょうよ、何が問題ですか」
「いえ、いや、はい」
「直ぐに解決しませんか」
「多分、はい」
「君が相談しないなら、ワシももうしない」
「しま、す」
ただ、どう相談すれば。
《悩んではらっしゃる様ですけど。どのジャンルか、お聞きしても良いですか》
「桜木さん、関連です」
《バレンタインと何か関係しますか》
「渡して、良い感触を得られなかったんですが、神々や精霊は大丈夫だ、と」
《あぁ、いけませんね、ちょっかいを出すと武光君に怒られますよ》
《だって、ウジウジウジウジと意気地が無くて腹立たしいんじゃもん》
《成長過程を加味するのも》
《じゃったら、厄災で亡くなっても良いんじゃな?いつ何が起こるかも分からんのじゃよ?》
今日生きているなら、明日も生きてるだろう。
その次も、その次の日も当たり前の様に生きているであろう、確かに無意識にそう思っていたけれど。
《だとしても、人の気持ちを推し進めるのは介入度合いが高いんですし、人に請われた時だけにすべきでは?》
《召喚者の事は別じゃろう》
「あの、桜木さんの要望では無いって事ですよね」
《アレの今の要望は役に立つ事じゃ、けどそれが良い事か悪い事かは別じゃろ》
《不安定な時期に推し進めて捻くれたら、どうしてくれるんですか》
《ぅぐぐ》
《素直ですけど、反応が素直に出るかは別なんです。下手に意固地になってしまったら、素直には聞いてくれなくなる可能性も有るんですよ》
「先生は、どう思われますか」
《幸せになって貰いたいとは思いますが、幸福とは難しい問題ですからね、顔が良くて性格が良いからと言って、桜木花子の幸せに繋がるかは別ですから》
《ほれぇ、じゃから自信が無いどうこうは関係無いんじゃよ、お主がどう思うかじゃ》
《捻くれずに考えて欲しいと言う事は分かりました、私が補佐しますから、ちょっかいは止めて下さい》
《まぁ、お主がどうにかするんで有れば控えてやっても良いぞぃ》
《止めて下さいね》
《ぅう、仕方無い、承った》
《さ、捻くれずに考えてみて下さいね、今日はドクターストップですよ》
捻くれているつもりは無いのに、捻くれていると言われても。
「あの」
《日光浴をしに行きましょう》
成人後の初めての好意は自覚し難く、コントロールする事も難しい。
一旦そう見てしまうと、恋心の成長を止められない。
「先生、機嫌が良い?」
《ですね、生きてると楽しい事が多いなと思いまして》
従者と召喚者の恋模様を目の前で観察出来るんですから、こんなにも貴重な体験はそう出来ませんからね。
エリクサー作りから訓練へ合流して、お昼寝して、エリクサー作り。
厄災が起きるまで、コレ、ぬるま湯過ぎでは。
「ぬるま湯や」
『成長はしてるんだから良いの』
「ぬるま湯やんな?」
「訓練の内容は熱湯レベルですから大丈夫ですよ」
「信じるからな」
「はい」
ショナは昼寝の後になって落ち着いたらしいけど、何だったんだろうか。
「桜木様、もう悪夢は大丈夫なんですか?」
「そうなのよ、だから余計にぬるま湯に感じる」
「不思議ですね、あれだけの怪我を治してる方が悪夢を見そうなのに」
「まぁ、見ないに越した事は無いからね」
クトゥルフに見切りをつけられたから、見ないだけかも知れないけれど。
それを言ったら、タケちゃん泣くんだろうな。




