2月11日
沢山の人間が降っている。
雲1つ無い水色の青空から、雨粒の様に、雪の様に降り続ける。
紙吹雪の様に軽く。
沢山の人間が舞い落ちている。
いつの間にか外に出ていた。
自分の差す透明なビニール傘に、さっきまで人だった雨粒が当たる。
ポツ、ポツと、透明な傘に透明な雨が落ちる。
傘と雨粒を、ボーっと、ずーっと見ている。
『アレは、ココの地球か』
「ううん、違う地球」
クトゥルフを得られないまま、ハナが第2地球の夢を見た。
後は、転移が起こるかどうか。
「任せる事になるが、頼めるかネイハム」
【はい、お任せを】
エナと五十六が出した作戦は、俺が囮になりボロを出させると言う単純なモノだった。
ジブリールに電波やネットへ配信させ、全世界規模で主義主張を伝え、果ては標的となる様に仕向ける。
「よし、やるか」
タケちゃんが標的になる為に、女体化した状態で主義主張をズケズケと。
しかも敢えて角が立つ様な言い回しをして、煽る煽る。
「プロ煽りスト」
「論争を起こす為と言えど、コレは、凄いですね」
「今日まで外に出るなって、この為だったのかな」
「かも知れませんね」
「けど、コレで逆に厄災が起きるとかは」
「除外されてるそうですよ、コレは膿み出しだそうで。桜木さんの夢見が現実となった場合の軽減措置も含んでいるんだそうです、移民が来た場合、コレ以上の騒動になるかも知れないので」
「あぁ、移民か」
『大丈夫、良い感じに徒党を組んでくれる筈だから』
信じてるけど、不安。
何が不安なんだろうか。
マサコさんが潜入を終え、ユグドラシルへ帰って来た。
少し前よりは付き合い易くなったけれど、正直、もう話もしたくない。
『はぁ、凄い汚染具合でした』
『そうなんですね、お疲れ様でした。ハナさんがギョズレメって言うホウレン草とチーズのパイを買って来てくれたんですけど、食べれますか?』
『ありがとうございます、頂きます』
タケミツさんに言われてココに居るけれど、こんな偏見と偏食の人とは一緒に居たくない。
狩りにも反対する人だし、同じ宗教だった事も嫌になる。
けど、仲間だから、仲良くしなきゃいけない。
「エミール、少し外へ、日光浴に行きましょう」
『すみません、失礼しますね』
『いえ、ありがとうエミール』
『助かったよパトリック』
「心が黒くなる前に、逃げ出しても良いんですよ」
『そうだね、今度は上手くやるよ、ありがとう』
ハナさんに似た治癒魔法は使えるけど、切断すら治せないし。
どうしてこんな人が呼ばれたんだろう。
避けられてるのは分かってる。
彼が娯楽の為だけに狩りをしていたワケでは無いし、害獣駆除の役目も有るって、今なら分かる。
なのに私は否定した、彼のアイデンティティや思い出を否定して、侮辱してしまった。
押し付けは悪だと分かってるのに、私も汚い大人と同じ事をしてしまった。
そして潜入して、如何に偏った考えや知識が恐ろしいのかも知った。
けれどもう、打ち解け合える事は無いのだろう。
『偏見は悪だと思ってたのに、私が偏見を持ってたらダメですよね』
《偏見を意識し過ぎて、意識を向け過ぎたのかも知れませんね》
『そうですね、反省してます』
仲間だから仲良くしたかったのだけれど、その機会を失ってしまった。
何て自分は馬鹿なんだろうか、もっと良く考えて発言しておけば良かった。
ヘイトも注目も俺に集まった。
そして俺へのテロも無事に計画され、後は実行されるのみ。
「うむ、順調に思えるが」
【そうですね、桜木花子も訓練の見学を始めました、せめて見て覚えたいそうで】
「そうか、アレは程々と言う概念が偶に欠けるんでな、頼んだ」
【はい、では】
後は、マサコへのフォローか。
「行くぞシャオヘイ」
『あぁ』
サクラちゃんが泣きそうな顔をしながら治すものだから、自然と身を守りながら戦える様になって来た。
普通の人間なら当たり前なんだけど、元魔王のアレクとか白雨は捨て身が多いし、言っても聞かなかったんだよね。
もう普通の人間なのに。
折角なら大事な時にだけ捨て身になれれば良い、その方が普通の人間でも出来ない事だから。
その意味がやっと分かってくれたみたいで、もう捨て身はしなくなった、後は捨て身になる時を見極めるだけ。
『いやぁ、成長したねぇ』
「そうなの?ボロカスよ?」
『ボロカス度が減ったよ』
「まぁ、胴体と頭部は守ってるみたいだけど。生に執着が無さ過ぎでは?」
『有り過ぎるより良いじゃない、進んで捨て駒になろうとしてくれてるんだもの、コレは良い事だよ』
「悪人ならね、少し話し合いをするわ」
皆が悪人だって言ってるのに真面目だよね、そんな事を聞いたら簡単に捨て駒には出来なくなるのに。
エナさんと共に、アレクと白雨から過去と悪行について聞いたけれど。
『うん、相違無い』
「なら余計に悪人とは言い切れないじゃないの、社会情勢と性質と人間の業が複雑に絡み合って、こうなっただけなんだし」
「でも被害者は居るもの」
「加害者も居る。強盗に入ったら強姦致死を防いだ、それで捕まっても情状酌量の余地は有っても良いだろうに」
「でも」
「ワシが同じ事をしても情状酌量を訴え出ない気か?」
「いや、出るけど。サクラはそんな事しない」
「馬鹿か。じゃあ盗まれた物を取り返しに行った、そこで人を助けた。なら良いか」
「俺はそんなんじゃないし」
「白雨は分かるだろう?」
『俺が実際に殺したのは、襲って来たのだけだ』
「もー」
『サクラちゃん、許されたく無いんだよ、まだ償って無いから』
「なら償えたと思う時が来るのかね君ら」
「許されたら」
『人々から許されたら』
「なら厄災が終わったら聞こう。それまでに死ねば逃げただけの卑怯者とする、必死で生き返らせるからな、分かったか」
「うん」
『分かった』
『はい、じゃあ練習に戻って』
「うん」
『おう』
「後は捨て身をして良いタイミングなんだけど、ワシに判断は無理だ」
『そこは考えてるんだ』
「1億も助けられるならアレクや白雨も本望でしょう、けどワシが居ない時に判断が出来るか、何人救えれば良いと思えるか。500人だってコッチが提示して、499人なら迷いが生じるかも知れない、けど問題の本質はそこじゃない。3人救って死んだ後に1億を救えた機会が訪れる可能性も考えられるか、500人救ったら1億が犠牲になるかも知れないならどうするか。ワシが指示するんじゃなくて、あの2人に決めて欲しい、見極めて欲しい。犠牲になるって事の本質を良く考えて欲しい、んだけど、どう言えば良いと思う?」
『そう言えば良いんじゃない?』
「それって結局は指示じゃない?言われた事しか考えないのは考えて無いと同じじゃない、良い大人なんだから、責任を取りたいなら自分で考えを導き出すべきでしょう」
『頭良いね』
「頭が良いならどう伝えれば良いか分かるでしょうよ、どうしたら良い?」
『それは人間の領分じゃない?』
「あぁ、先生に相談か」
『だね、良い子良い子』
猫可愛がりすれば良いと思ってんの、ココの大人。
桜木花子から相談頂けたかと思えば、ご自身の事では無く他人の事、しかも元魔王と大罪の死生観について。
【エナさんがもう概要を送ったって言ってるんだけど】
《死生観や犠牲論でしょうかね》
【まぁ、そんな感じ】
《コレはご自身でも犠牲になるつもりで考えた事でしょうか》
【おう、スペアかも知れないじゃない、マサコちゃんの。それでエミールだけでも残れたら、ココは安泰でしょう】
《対地球だからでしょうか》
【いや、大して役に立て無いから、この結論に達するのは妥当かと】
《貪欲ですね、悲嘆と魔王を人間にしたと言うのに》
【貪欲て、まぁ、そうなるか】
《半分は冗談です。ただ、どうして犠牲になる事を考えたかが気になります》
【子孫繁栄が要求なら、それは生き残ってから考えれば良い。改革が必要なら既に動き始めてるから、それも生き残ったら考えれば良い。なら逆に死ぬかも知れない時、何を犠牲にし、何を助けるか。うん、要するに暇だったから、そこに至った】
《哲学者向きですね》
【ディスってる?】
《いえ、寧ろ褒めてるんですよ、本当に。ただ犠牲になれば良いとは思っていないと安心してもいますし、頭は悪くは無い》
【良かったら悩まんもの】
《馬鹿は悩みませんよ、容易く捨て身をする様な馬鹿なら悩みません》
【そう、その馬鹿よ】
《私から伝えても宜しいでしょうか》
【なら立ち会う】
《信用頂けませんか》
【うん】
《私の経歴をお知りなら妥当ですね。分かりました、浮島で話し合いにしましょうか》
【毎回すまんね、こう、何処へでも行けるドアが有れば良いんだけど】
《運輸業界まで敵に回りそうですね》
【あぁ、邪魔するなら死ねば良いよ、動けないで困ってる人だって居るだろうに】
《偶に過激ですよね》
【寝たきり状態も想定したからね、魔法が有るなら使うべきでしょうよ】
《そう言う事でしたか》
【おう、何時迎えに行けば良いかね】
《そうですね、お昼寝の後にでも》
【おう、じゃあ後で】
「うん、元気そうだね」
《ですが、他人の問題に過敏に反応するのはどうかと》
「それが桜木君の優しさなんだと思うよ、自己より他者。桜木君の場合は、自己の問題から目を逸らすには、他者の問題を考えさせるのが1番。優しい気の紛らわし方で良いと思うよ」
《まぁ、小動物を殺すよりは良いかも知れませんが、何れは他者への依存になりますよ》
「そうなったら少し視線の矛先を変えてあげれば良いでしょう、素直な部分も有るんだし」
《それではコチラが依存される可能性が》
「家族にすら頼る事も依存と捉えるなら、依存で結構。寄る辺の無い浮き草状態を耐えられる程の強度は、人間は持ってはいないんだよエルフ君」
《差別発言とも取れますが、今回は見逃しましょう》
「他者と関わりを持たずに生きられる者と、そうで無い者が居るんだ。今回は父兄に父兄をと頼まれた以上、父兄として支えるしか無いんだよ。丁度、桜木君の寿命と君が同じ位だろうし、良い巡り合わせじゃない」
《家族としてですか》
「そうそう、そして僕は医師として見守り、見送られる。君を置いていくには些か心配だったんだ、僕からも頼むよ、父兄さん」
《気が早いですよ、もう厄災を無事に乗り越えられる算段をしてるんですか》
「勿論だよ、今回は心根の優しい方々ばかり、しかも教養も有るし道徳心も備わっている。大昔の召喚者様とはワケが違う、だからこそ信頼しているんだよ、召喚者様をね」
《ですが人の心は》
「移ろい易く変わりもするが、それは環境次第。昔とは違うんだから、もし悪く変われば僕らとこの世界の責任だ。あぁ、その責を負いたくなのかな?」
《煽っても無駄ですよ、私なりの父兄しかしませんからね》
「勿論だよ、なんせ武光君の要望なのだから、謹んでお受けしないとね」
《厄介な事を請け負ったとは後悔しています》
「大丈夫、良い事もきっとあるさ」
《だと良いですね》
浮島で寝て起きたら、可愛いドアが立て掛けられていた。
丸ノブで上にはステンドグラスの明かり窓、おしゃかわ。
「コレは?」
《何処へでも行けるドアじゃよ》
「は、素敵過ぎでは」
《出入りに使うんじゃし、アチコチに設置せねばならんからのう、おしゃかわで当たり前じゃろ。とな》
「お礼をせねば」
《あの土産で十分じゃと。過不足が有ってはならんでな、寧ろもう少し要望が欲しいんじゃと》
「ならつく、いや、クローゼットか。いや、うん、保留で」
《ふむ、承った、じゃと》
不足は勿論、多過ぎてもダメなのか、気を付けないと。
「不足してそうなら教えてね、キノコ神」
《はん!誰がお前なんかに》
「まぁまぁ、そう言わずに、甘いモノもお好きでっしゃろ」
《ふん、貰ってやるわ、有り難く思えよぅ》
「はい、どうも」
この神様、人間は好きなのよな、オモロ。
「サクラ、虚栄心が服出来たって」
「おぉ、取りに行くわ」
そして虚栄心も人間好き。
ワシ、そんなに人間好きじゃないから、凄く不思議。
ウチの勇者様、なんでそんなに人間が好きなのか、だなんて。
「別に、そんなに好きじゃないわよ」
「そう?大罪の皆って、好きじゃなきゃ出来ない仕事ばっかりしてるじゃない」
「人間全てが好きってワケでも無いわよ。ただ、凄く好きなのが偶に出て来るから、この世界を大事にしてるってだけよ」
「達観って言うか、心が広い」
「嫌いな人間に目を向けてたって時間の無駄じゃない。だから好きな事を見聞きして、好きな事をしてた方が有意義でしょ、ただそれだけよ」
「嫌いだと注視しがち」
「嫌い程度で済ませるからよ、害が有る毒持ちだって思えば、気を付けて避けてれば、見ないでも歩ける様になるじゃない」
「器用」
「訓練よ、アンタも少しは会得なさい、人生これからなんだから」
「でも、苦言を呈してくれるかもだよ」
「人間性次第ね。言葉を選んで分かる様に言ってくれるなら聞けば良いけど、態々棘付きで言う輩は無視しなさい。棘を取り除く余裕の無い奴と居ても、いずれは消費される側に回るんだから、一周回って無駄よ」
「棘を、後から認識するタイプの馬鹿なんですけど」
「棘無しばかりの環境に慣れなさい、私もちゃんとアレは棘付きだって教えてあげるから、それに慣れる所からよ」
「はぁ、子供達は大丈夫かしら」
「アンタより柔軟だから、暫くは大丈夫でしょうよ、ねぇドリアード様」
《そうじゃの、懸念すべきは今後、特に思春期と青年期じゃと。恋愛感情や結婚の問題が出るかどうか、良き相手に巡り合えるか、じゃな》
「ワシの結婚運をこう」
「ダメよ、あの子達の婚期が来てからになさい、良い人が見付かるかも知れないんだから」
「氏族かハーレムか整形でしょ、愛してくれる人が居るかどうかすら危ういと思ってんのにさ、究極の選択しか無いやん」
「コレしか無いと思うか、こんなにも有ると思うか、だけどコレばかりは本当に究極の選択よね」
「せめてね、どんな顔にするか」
《もう出とるらしいが、見るか?》
「あら、まだ見て無いの?」
「そん、そんな簡単に。そうか、エナさんか」
《じゃの!》
「オススメは13番、48番と108番、666番かしらね。もし気に入らなかったら4桁代のオススメも教えるわよ」
「そん、厄災後に見ようと思ってたのにぃ」
《今から周りに慣れ親しんで貰っても良かろうよ》
「そうよ、自分だけじゃなくて周りにも慣れて貰う必要は有るんだもの、なら早くても良いじゃない」
「自己否定に繋がりそうだし、化け物って言葉を受け入れる事にもなりそうで、気が進まない。化け物と言う言葉を拒絶して否定したら、じゃあ何でそんな言葉を言ったのかって事になる。今まで通り愛されなければ、化け物と言う言葉が正しかった、親は正しい事を言ってたんだって、なる」
「まさに英雄気質よね」
《ふむ、神話には良く有る事じゃろう?》
「ぉお?あぁ、親殺しの事?」
《じゃの、ウラノスは息子のクロノスを怪物とみなし抑圧し、殺されたんじゃ》
「そしてクロノスも同じく抑圧し、ゼウスに殺された」
《そしてゼウスはオーディンと名を変えたが、化け物と謗った義兄弟の息子によって滅ぼされた。英雄譚なんぞは大概がこんなモノじゃよ》
「ワシ英雄ちゃう」
「あのロキ神もそう言いそうよね」
「ぐぬぬ」
「自称人間の化け物から見たら、人間のアンタは化け物。アナタの親の知能が異常に低くて、感性も下劣なら、確かにアンタは化け物に見えても仕方無い。神を畏怖する様に、異質を排除するのは人間の性、って事にはならないかしら」
「そう知能が低いかどうかは」
「あら簡単よ、アンタなら子供に化け物って言うの?あのショナ君が化け物って言うと思うの?知識に教養、道徳心、感性、それが正常なら、余程の事をしない限りは化け物だなんて言わないでしょう。それとも、犬猫をニコニコ殺しまくって親を半殺しにでもしたの?」
「いや、半殺しにはしたかったけど、言うので手一杯だった」
「ぶん殴っても良かったと思うけど、アンタはしなかった。それだけ理性が働くマトモな人間なのよ」
「度胸が無かっただけ」
「無意識であれ、理性の計算の上でしょう。それに、アンタの方が長生き出来る可能性が有ったなら、老いた時に復讐出来るじゃない、そこで手を出さなければね」
「そこまでは考えて無かったけど、そうか、帰って復讐も有りなのか」
「そうやって嫌な人間と一生関わるか、好きな事を追い求めるかはアンタ次第だけど。もし親に借金があるなら相続放棄なさいよ、親の借金を背負うなんて馬鹿な事をしても、無駄に苦労するだけなんだから。何か継ぎたいなら心機一転して継ぎなさい、本当なら何処でだって続けられる筈よ、プライドと伝統を履き違えたらダメ」
「そこは大丈夫、ただのサラリーマン家庭だし」
「でもお祖母様が居たでしょう、その世話をして、次にアンタに世話になる頃には借金しまくって、子に擦り付ける。良く有るって聞いたわよ、転生者から」
「あぁ、そこまで極悪かどうか、分からんな」
「擦り付ける気が無くても、引きずり込まれるからこそ、逃れられないって聞いたわ。アンタの場合は幸せになる事こそが復讐。朱に交われば赤くなるんだから、戻っても離れられないなら、残った方が良いんじゃないの」
「復讐出来るのかと思うと一瞬揺らいだけど、そも記憶が残らないなら復讐出来るかどうかだし、また病弱には戻りたく無いし。残る一択ですよ」
「はぁ、ちょっと心配しちゃったわ、余計な事を言ったかもって」
「復讐を終えて何か得られたら良いけど、ココで得られる事を越える事は無いだろうし、執着は捨てるべきよね」
「捨て方よ、出来るだけ小さく微塵切りにして、嫌な事だけを捨てるの。良い事は良い事、そうちゃんと区別しないと、何もかもが嫌になっちゃうわ」
「そうね、嫌な事だけね」
「まぁ、全てが終わってからでも間に合うでしょうよ、手伝ってあげるわ」
「ありがとう」
素直で可愛いのに、本当に頭が悪かったのね、親馬鹿ならぬ馬鹿親。
知能指数に差が有り過ぎて、子が化け物に見えちゃったのね、可哀想な馬鹿親。
何か、スッキリしちゃった。
どうしようか、親が馬鹿ってだけで、こんなにすんなりと納得出来るものかしら。
「ショナさん、ちょっと良いですかね?」
「はい?」
「ウチの親が馬鹿過ぎて、ワシを化け物って言ったかもって虚栄心から言われて、かなり納得してしまったんだが」
「失礼を承知で言うと、その通りかと」
「親が馬鹿?」
「はい。仮に美醜の事だとするなら、自己の美醜の価値観を、暴言を使って幼い子供に押し付けたんですよ?同性なら許されるワケでは有りませんけど、異性の幼い子供にどんな影響を及ぼすか、それを分かった上でなら馬鹿で性格が悪いです。仮に分かって無かったとしても、馬鹿です、言わずもがな馬鹿です」
「ふふ、凄い馬鹿って言う」
「幼稚と言うにはあまりにも馬鹿なので、どうしても馬鹿としか言えなくて」
「ふふふ、君が馬鹿って言うの何かおモロイ」
「こんなに言う事って、そう無いので」
「馬鹿と言われて納得するって、短絡的で、アホっぽくない?」
「被害児童は、子が親の非を認める事が難しいそうで。そちらではストックホルム症候群、コチラでは危機的適合症状と呼ばれています」
「ほう」
「庇護者に阿らなければいけない状況において、阿っただけ、それを正当化しなくては心に軋轢が生じてしまう。この場合は合理的で適切な判断を下しただけでも、道徳規範の逸脱による罪悪感も含まれます、適者生存をしたに過ぎないのに、生き残った事に罪悪感を感じてしまう。心的外傷後ストレス障害、聞いた事は無いですか」
「そんな大事でも」
「正常性バイアス」
「ぅう、知ってますぅ」
「今の桜木さんは正常な判断が出来る状態だと僕も思います、今は過渡期で、認知のズレを修正するタイミングなんだと思うので。厄災の事が有ったとしても、修正はして良いと思います」
「修正レベルって、そうよね、他者なら批判出来るけど、自分の親となると庇いたくなる」
「誰しもが親を庇うとは思います、けど庇えるレベルを超えてます」
「そう言って貰えて嬉しいのは、性格が悪く無いか?」
「同じ価値観を共有出来て僕も嬉しいですし、性格が悪いとは思いませんよ」
あぁ、コレも嬉しい。
まるで受け入れて貰えたみたいで、何なら好きになってしまいそうだ。
危ない、冷静にならないと。
「ありがとう」
何処へでも行けるドアの設置に来て頂いて、そのまま浮島へ。
五十六先生は武光君と、私は桜木花子と。
《問題に進展が有ったそうで》
「そして問題が増えた」
《その問題とは、言い難い事の様に見えますが、私では不適格でしょうか》
「いや、うん。親を謗って貰えて、うっかり好きになりそうになった」
《虚栄心をですか?》
「いや、従者」
《何の問題が?》
「氏族じゃないもの」
《あぁ、祥那君ですか》
「危なかった、勘違いしそうになったわ」
《そう自覚してらっしゃる時点で、錯誤や錯覚に惑わされそうも有りませんけど》
「自分の家族の事をバラすって、ハラハラドキドキですよ、落ち込んだり自信も無い状態だったもの。錯覚に違い無い」
《関心や好意が無いと発動しませんよ?》
「そら有るよ、可愛いもの。けど上司と部下やぞ、パワハラやし、氏族じゃないし。ハーレムにも巻き込みたく無いし、整形もビビってるし、無理しか無いじゃん」
《写真、見てみませんか》
「今度じゃダメ?」
《それとも選んで貰いましょうか》
「今度じゃダメ?」
《フラれる予想しかしてませね》
「向こうに好意が有っても錯覚に違いない、何故なら良く一緒に居たりするんだもの」
《そんなに容易そうには見えませんけどね》
「まぁ、そんな容易いと知ってしまうと、冷めるわな。同じ状況なら誰でも良いのかよ、って」
《奥手でらっしゃる》
「煩いですねぇ、その通りですよ」
《探ってきましょうか》
「お願いします」
そう言ったものの、探る間も無しに好みが存在しないのだと前提条件を話され。
寧ろ意見を聞かれた時に、どうすべきなのかと問われ。
《そのままをお伝えすれば良いのでは》
「僕には全て同じに見えます、だと流石に角が立つと言うか、逆に真意を疑われそうで」
《あぁ、童貞でらっしゃるそうで》
「そうです、そんな僕の意見を聞いて何になるんでしょうか」
《あの子の場合だと、誇っても良い事だと思いますよ》
「そう、なんでしょうか」
《もし気が有るならですが、その場合は覚悟もしないといけないですし、厄災後に考え始めても良いと思いますよ》
「いえ、どうせ僕は無理なので、お気遣い頂いてすみません、ありがとうございます」
コレは、既に拗れてるんですね、成程。
ネイハムからハナとショナ君の相談が来るとは。
《相当、拗れますよ、あの2人》
「だろうな」
《そんなに驚かれないんですね》
「ショナ君は俺のイチオシなんでな」
《あぁ、そうでしたか》
「だが今直ぐには無理だろう、だからこそ貴方に頼んだんだ」
《まさに父兄ですか》
「おう」
「まぁネイハム君なら何とかしてくれるでしょう、次は小野坂君の所へ行くけれど、もう良いのかな」
《少し、お待ち頂けますか》
そうしてハナと少し話し、ユグドラシルへ。
好みが無いって、ある意味厄介よな。
困った、少し頼りにしようと思ったのに。
「人相学で選ぶってのは有りだが。エナさん」
『ジャンル別にしといた』
「流石、ありがとう、おやすみ」
『何時になったら一緒に寝れるの?』
「さぁ」
少し漏れてるのが心地良いらしいけど、神様でもね、男の子だし。




