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2月10日

 今日は悪夢を見なかった。

 それだけでも心穏やかに過ごせる、起きる事が苦痛じゃない。


「はぁ、見なかったよ、おはよう」

『おはよ』

《おはようございます》


 ただ、口の中が苦い。


「おはよう先生、口の中が苦い」

《副作用ですか。治療は可能ですか、スクナヒコ様》

『うん』


 苦くない。


「ありがとうございます」

『うん、朝ごはんにしよう』


 昨日の罪悪感か、非常に気分が重い、憂鬱。


《ご相談頂けませんか》


「少し、なら」


 先ずは昨日の事を話すと、感想を求められた。

 コレは、言って良いんだろうか。


《言い出すべきか悩んでいる事が有る様に見るんですが》


「ハマムで心配された事が、良く分からなくて。大丈夫かどうかショナに聞かれて、共同浴場だから心配したのかなと」

《他にも有りそうですね》


「後々になって、男性体の反応の事を心配してたんだな、と。で、もしかしてマキさんが気になるから、そう尋ねたのかなと」


《魅力的な女性でしたか?》

「そらもう、可愛いし性格も良さそうだし、おっぱいが大きくてスタイルが良い」


《お気に召しましたか?》

「気に入らない方がどうかしてる」


《それを心配していたのでは?》

「あぁ、けど本当にどっちも精神面が左右するんだろうね、何も反応無し」


《男性の場合ですと表面的に分かり易く出るんですけどね、心因性の勃起不全》

「そこまで追い込まれてそうに見える?」


《はい》


「罪悪感から心底楽しめない事に罪悪感を感じて、もう、無限ループ。しかもクトゥルフを得られるかどうか、悪夢を忌避する事にも罪悪感が有る」

《どうすれば解消出来ると思いますか》


「ストレージが得られたら、少しは。厄災で役に立てたら、1番楽になれると思う」

《ホムンクルスの案は君の案ですよ、その功績だけでも認めませんか。長年の魔王問題を解決したんですから、それだけでも本来なら帰還に繋がる功績ですよ》


「それだけ大きい厄災が来るって事よね」

《かも知れませんが、災害かも知れませんし、もう少しだけ評価を先延ばしにしませんか》


「口が上手い、タケちゃんが警戒するワケよね」

《マイナス思考と言う割には冷静ですね》


「マイナス思考って冷静過ぎる事を言うのでは」

《過度にマイナスな事しか考えられない場合を言いますね》


「じゃあ普通だ」

《そうですかね、言わないだけでマイナス思考そうですよ》


「何でそう思った」

《不安を過度に吐露しない点ですかね、適正量を測りかねてるのかと》


「おう」

《あんなに警戒していたのに、何か有ったんですか?》


「マーリンに、お世話になった罪悪感も有る」


《それは、夢の中ですよね?》

「そらそうよ、けど、違う姿てして貰って。申し訳無いなと」


《同情だけでする様な方では無いので、そう自己嫌悪や罪悪感を感じな、誰か聞いても言いですか?》

「この世界の人、コレ以上は無理」


《分かりました、それで罪悪感なんですね》

「無意識を感じ取ったんだろうけど、うん、はい」


《夢は夢、今はストレス解消の夢を見ただけと思いましょう》

「おう」




 国連へ接触してみたが、敵の見分けは出来ても味方となると難しい。

 善人だからと言って有用な人間とも限らない、だが裏切らずに信念の有る者を。


 あぁ、シャオヘイが居てくれたら。

 もっと最初からお前を。


 そう思ったからか、卵が割れ。


「シャオヘイ、やっと」

『もっと最初から求めてくれれば良いものを、本当にお前は不器用なヤツだ』


「あぁ、そうだな、悪かった」

『で、見極めれば良いんだな』


「あぁ、頼む」


 常人には姿の見えぬシャオヘイの手助けにより、顔合わせや挨拶で選別が可能となった。

 シャオヘイが懐いた者を協力者の候補とし、顔を背けた者はブラックリストへ。


 その中でも特に懐いたのが、ルイ大使。

 評判では真面目で面白味に欠ける、と、最高だろうに。


『あの、お呼びだとお聞きしたのですが』

「あぁ、だが少し個人的な事でな、同性同士の婚姻について国連の人間がどう思っているか聞きたくてな」


『えっと、それは個人の意見で宜しいんでしょうか』

「あぁ、ただ貴方の場合は国連大使と言う立場が有る、なので少し外部で話したいんだが」


『はい、構いませんよ』


 そうして浮島に連れて行き、呼び出した真意を話す事になった。


「実はだな……」




 無色国家が旧米国や教会と協力している可能性と、その証拠が目の前に。


『それで、何故私に?』

「ウチの神獣が貴方を気に入ったんでな、そう信用しただけだ」


『残念ですが私にはどうにか出来る程の権限は、ある意味でお飾り、外交官に過ぎないんですが』

「それでも構わない、内情を探れたらそれで良いんだ」


『それで、その、同性婚の事は?』

「あぁ、俺は異性愛者だ、心配しないでくれ」


『あ、そうなんですね、てっきりその事でご相談が有るのかと』

「すまんな、半ば誘い出す為の口上だ」


『そうですか。なら、それを口実に味方を増やすのはどうでしょう』

「ほう」


『この問題の派閥は同性婚反対派です、嘘が魔道具で分かるなら、大々的に意見を募れば、より選別が可能かと』

「だが敵対行動を取られても困る、果ては神々の。そうだな、この話もしておくか」


 神々が介入を望んでいらっしゃるだなんて。


『見捨てないで頂けるだけでも有り難いのに、今一度、介入して頂けるんですね』

「あぁ、既に連携は整いつつあるが、その前に露払いをとな。厄災が終われば俺は帰るだけ、残る召喚者が安心していられる世界をと思っている」


『そうでしたか、尻込みした様な事を言って申し訳ございません、どうか協力させて下さい』




 この世界の顔面偏差値は高い。

 なんか可愛らしい人が居ると思ったら、国連の大使、名前はルイちゃんだと。


「宜しくお願いします」

『はい、宜しくお願い致しますね、桜木様』


 シャオヘイが気に入ったとは言ってたけど、コレ顔で選んだとか無いよな。


『メェー』

「ほう、ハナの気持ちも分かるのか」

「これ、読むな」


『メェー』

「顔に書いて有った、だと」

「ぐぬぬ」


『メェー』

「あぁ、そうだな、そろそろ昼寝の時間だろう」

「おう」


 何で他のと違うんだろう。

 いや、違うのは良いんだけど。


『どうする』

「添い寝だけで、お願いします」


 あの夢は強烈なので、もう少し手加減して頂いて、安らげる夢にして貰った。




 マサコと理想郷(オセアニア)と呼ばれる地域へ来たけれど、武光の言う通り、存在していてはいけない結界石が存在していた。


『何処まで恩知らずなんでしょうね、住まわせて頂いてるのに』

《私は触れる事は出来ません、お願いしますねマサコ》


『はい』


 結界石を破壊後、既にストレージに入れて有った偽物の結界石を設置。

 本来の地の神々で有る、エインナガ神とユルルングル神にご協力頂く事に。


『私がエインナガ』

《ユルルングルだが、蛇は苦手か、小鳥にでも擬態してやろう》


『あぁ、そうだな』

『すみません、お気遣い頂いてありがとうございます』

《ふむ、気にするな》


 そうして神々が付けた印を元に敵味方の選別をし、武光や五十六へ報告し、更なる指示を仰ぐ事に。




 マサコちゃんが潜入してると言うのに、ワシと来たら。

 食って寝てエリクサー作ってるだけやんけ。


 何か役に立ちたいのに。


「エナさん、ワシ何か役に立ちたい」


『なら悲嘆を救ってみる?』

「ほう?」


 嫉妬、悲嘆と呼ばれる、周りに影響を及ぼす大罪の1人。

 気になってはいたけど、外出は控える様に言われてて忘れてた。


『魔王やルシフェルと同じなら影響もされないだろうし、人間にしてみても良いと思う』

「クヌムさん処?」


『うん、自爆されても困るでしょう』

「確かにな」


 そしてタケちゃんの許可も得られたので、会いに行く事に。




 桜木さんが大罪も人にして、白雨さんと名付けた。

 桜木さんの心の声を聞く事以外、特に能力も無いらしい。


『このまま、ココで世話になって良いんだろうか』

「あ、死ぬ?」


『いや、それはもう少し先にしておく、厄災で死ぬかも知れないしな』

「あぁ、でもワザとは止めて、それで巻き込まれる誰かが可哀想だから」


『あぁ、分かった』


 良く居る様な平凡な容姿。

 元は悲嘆だと言われても、全くそうは思えない。

 そもそも事前知識が無いからだけれど、誘惑し、人を殺し合わせた様には見えない。




 魔王の事と悲嘆の事で、役に立てた実感は有る。

 明日は何も悪夢を見ずに居られるだろうか。


「おやすみなさい」

「おう、おやすみ」


 今日はマーリンの助力も何も無し。

 明日こそは、クトゥルフを得られるだろうか。

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