2月8日
ハナは今日も悪夢を見て、マーリンに助けられ。
確かにハナは強いが、同時に脆さも有る。
コレがいつまで続くのか。
そもそもハナが耐えられるのか。
あぁ、シャオメイなら何と言ってくれるだろうか。
『おはようございますタケミツさん』
「おはようエミール」
今日の悪夢は、電車を乗り間違えて駅構内から出られずに、ゾンビに追われるいつものヤツ。
連日はキツい。
《おはようハナ》
「おはようヘル」
本当なら死の国に居る事を怖がるべきなんだろうけど、正直言って悪夢の方が怖い。
『おはようサクラちゃん』
消耗してるからか、もうハグに慣れたのか、ロキにハグされても動揺しなくなった。
悪夢には慣れないのに、コレには慣れてしまうのね。
《もう、抵抗して良いのよ》
「いや、また悪夢だったから、安心する」
『毎日は辛いよね、良い子良い子』
日に日に弱る桜木さんを見守るしか手段が無くて、思わず心得について邪推してしまいたくなった。
現地民として、良き友人として居る為の心得も、裏を返せば人間側に引き留める手段にもなる。
けれど、他にも役割が。
「ショナさん、お話が有ります」
「はい、何でしょうか」
「十戒、心得についてです」
「僕も、その事について考えてた処です」
「心に入り込み楔になれ。コレについて、どう思いますか」
「召し上げと言う安易な選択をさせるな、だと思います。人間側に引き留めろ、それが最良の選択ならば実行せよ」
「桜木様の現状を考えると、召し上げが最善だと思うんですが」
「最悪は、です。そもそも支えにすらなれない様では失格だ、とも言えると思います」
「僕は友人になれ、だけでは無いと思うんですが」
「そうですね」
「桜木様は無理ですか?」
「何がですか?」
「僕は未成年なので、そう言った行為は出来無いんですが」
「あぁ、いえ、はい」
初めて動揺する姿を見た。
大人だからこそ、恋愛沙汰に疎いだなんて思わないじゃないですか。
どうしよう、余計な事を、藪蛇を突いたのかも。
「あ、あの、別に、ショナさんにしろってワケでは無いので」
「ですよね、はい」
何で落ち込むの?
え?
初恋とか?
どうしよう、全く想定して無かった。
なんなら熟練者が選ばれてるのかと思ってたのに。
「その、そう言う気は無かったんですよね」
「はい、僕には気を向けられてる気配も無いので」
ガッカリしてるけど、自覚してるんだろうか。
いや、うん、自覚が無い方が良いかも知れないし、このままにしておこう。
「そうなんですね、余計な心配をしました。それだけです、では」
「はい」
こんな事は想定外で。
取り敢えず、武光様に相談してみよう。
蜜仍から、ショナの恋心について相談されたのは良いんだが。
「それで、貞操の為にも気付かせないで良いかなと、思ったんですけど」
「あぁ、そうだな、助かった」
「けど、そう言った行為は、ストレス解消にも繋がるそうですし」
「あぁ、いや、うん。男しか居ない状態で相談は難しいものな、ドリアード」
《まぁ、適任者は我じゃよね》
「穏やかに、穏便に頼むぞ」
《怖い怖い、大丈夫じゃて、先ずは話を聞くだけじゃよ》
そうストレス解消をしろと言われるとは。
「いや、そんな気軽にはちょっと」
《欲求が無ければ問題無いでな、周りに男しか居らんし、ワシが相談相手にと選ばれたんじゃよ》
「あぁ、そうなのね、ビックリした」
《じゃが、我のオススメとしてはマーリンじゃよね》
「は?」
《なんじゃ、嫌か?》
「いや、恩人なのにお相手までって、向こうに悪いでしょうが」
《嫌では無いんじゃな?》
「嫌も何も」
《片親はインキュバスじゃし、互いの利益になろうよ》
「そ、個人情報、プライバシー。マーリン、引き取って」
《神霊じゃったら気付くか既に知っておるから大丈夫じゃよ》
「にしたって本人から聞くもんなんですよ、人間は」
《アレは人間では無いんじゃし、別に》
『散れ馬鹿』
《ふん》
「すみません、巻き込んでしまい」
『いや、コイツに任せた馬鹿共が悪い。もう昼寝の時間だろ、付き添ってやる』
「すみません、ありがとうございます」
ドリアードを絡めると、碌な事が無いな。
ハナの夢にマーリンが介入するのは良いんだが、こう、マーリンがココまで心を寄せてるとは。
「はぁ、何て事を」
《体は繋げておらんのじゃし、安眠効果も有るんじゃし、何がダメなんじゃ?》
「普通は好いてるのと」
《それは大丈夫じゃよ、ハナが気になっている者の姿をとるのじゃし》
「それは」
《プライバシーじゃしぃ》
後で映画館で確認出来るかどうか。
いや、そも確認しても良いものか。
そも確認してどうなると言うんだ。
この先の生死すら危うい状況で、確認したとて。
いや、少しだけ、生き残る可能性も有るのだし。
起きても居るの、気まずい。
「大変、申し訳ございませんでした」
『俺は別に不快じゃない、嫌ならまた青い蓮を飾っておけば良い、じゃあな』
いや、いや、良い夢でしたけど。
コレはちょっと、いや、どう整理をすれば良いんだろうか。
『ご主人?大丈夫?』
「おう、悪夢は見て無いよ」
いや、取り敢えず切り替えて、ヘルヘイムへ戻ろう。
お昼寝から戻って来た桜木さんに傷を治して貰い、また訓練。
大型の相手への訓練は僕らはした事が無いので、蜜仍君とロキ神に指導して貰っている。
「すみません、ありがとうございます」
「いや、無理せんでくれとは言えないんだよな、すまん」
支えるも何も、辛い思いしかさせて無いのに。
僕なんかが楔になれるワケも無い。
ハナとどう顔を合わせたら良いのか、寧ろ今までが合わせ過ぎだったかも知れない。
毎回、過保護になってしまっている。
《今日は良いんですか?》
「あぁ、ハナも良い大人だしな。お前も、か、そろそろ交代して良いんだぞ」
《じゃあ2日だけ、中途半端にしたくないのでちゃんと復帰させて下さいね》
「おう、じゃあ行くか」
女媧神からも助言を貰い、博宇を従者に迎える事になった。
ハナが気に入る顔では無いのが特に安心だな、男らしい精悍な顔つき、あの大國に似ているから大丈夫だろう。
『宜しくお願いします』
「おう」
後は。
クトゥルフを得られれば良いんだが。




