2月5日
《君、迷子かい?》
「ううん、迷って無いから大丈夫」
《嘘ツキね、こんな真夜中に子供1人は可笑しいじゃない》
「じゃあ帰る」
《ふん、嘘ツキの化け物め》
《化け物》
《ばけもの》
《バケモノ》
《ほら、鏡を見てご覧よ、化け物が映ってる》
ハナちゃんの悪夢は相変わらず鮮明で、強烈。
けどコレはクトゥルフの影響じゃない、コレは純粋な悪夢。
クトゥルフには好物だからこそ、敢えてそのままを味わう、料理と同じで余計なモノは一切無し。
あぁ、おタケの苦悩も食べて遊んでるのかもな、流石クトゥルフ。
マーリンに助けて貰わなかったら、呑み込まれてたかも知れない。
怖かった。
悪夢に置き去りにされて、そのまま。
「ありがとうマーリン」
『別に、少し寄っただけだ』
ツンデレさん、起きても居てくれた。
優しい。
「下まで付き添ってくれませんか」
『断る、呼べば良いだろう。ドリアード』
《しょうがないのぅ》
ショナが来てくれるまで付き添ってくれんの、優しい。
「失礼しま」
『じゃあ俺は帰る』
「ありがとう」
《マーリンは照れ屋でな、くふふふ》
「あの」
「今のはマーリン、悪夢を見てたら助けてくれた」
「じゃあ」
「いや、クトゥルフはまだみたい」
「そうなんですね、大丈夫ですか?」
「むり、久し振りに良く見る悪夢を見て、下まで頼む」
「はい」
今日はクーロンとコンちゃんと一緒に寝よう。
桜木さんに頼まれ事をされるのは珍しくて、つい嬉しく感じてしまった。
「おはようクーロン、トイレ前で歌ってて」
『あい』
『わたしも』
どうしてなのか、童謡が混ざって赤い靴の女の子が売られていく歌に。
「ふぅ、ご苦労様でした」
「あの、今の歌は?」
「赤い靴の子がドナドナされる歌」
「混ざってますよね?」
「混ざってますね、ちゃんとは知らないから」
「あ、そうなんですね」
「多分、他のも混ざると思う」
『ご主人大丈夫?』
「おう、今日は一緒に寝よう」
『あい』
『わたしも』
「それはだめ」
『えー、じゃあだっこ』
「いや、しょうがない」
「ちょ、大丈夫ですか?」
「ワシより軽いのは大丈夫」
『うごける?』
「ギリ」
「エナさん、僕で我慢して下さい」
『しょうがない』
意外と力持ちでビックリした、そして腰を痛めて無いか心配になったけれど、直ぐに治して食卓へ。
『おはようございます』
「おはようエミール」
ハナが本来より1日早く悪夢を見て、マーリンが助けてくれたのは良いんだが。
ドリームランドへは未だに行けず、鍵も得られず。
『おはようございます』
「おはよう」
エミールはマサコに会いたく無い、と浮島で過ごしている。
コレは、どうにかすべきかどうか。
『あの、改めて桜木さんにお礼と謝罪を』
「そうか、後で呼んで来よう」
あの悪夢を見た後だが、大丈夫だろうか。
謝られてもねぇ。
「少し踏み込むけど、帰還希望だよね?」
『はい』
「なら一時的な事だし、気にしないで」
『すみません、ありがとうございます』
「いえいえ」
「よし、俺らは少し体を動かしてくるか」
『はい、失礼します』
「エミール、練習はした方が良いよ」
『泣かれたら面倒だから行きたく無いんですけど』
「関わらなければ良いけど、一応仲間なんだし、表面上の付き合いとか、社交辞令がこなせるのも大人じゃない」
『はぃ』
「もう最悪はお腹痛いって逃げて来て良いから、行っておいで」
『本当にそうしちゃいますからね?』
「おう、エリクサー作って待ってるわ」
『はい、行ってきます』
「行ってらっしゃい」
ワシも練習すべきよね。
けど、身内をボコボコにすんのって凄く気が引ける。
ハナがクトゥルフを得られない事の余波として、先ずは土蜘蛛族への道が。
いや、逆手に取るべきか。
「少し席を外す」
『はい』
そしてマーリンへの接触を願いながら、昼寝へ。
お昼寝をして起きると、マーリンとタケちゃんが。
クトゥルフ用に土蜘蛛族なる人達に会いに行こう、と。
「ほ?」
「紫苑に着替えて行くぞ」
「おう」
山奥の炭焼き小屋。
ココに?
「大事な要件が有る、土蜘蛛族の長に会わせてくれ、御託は後で聞く」
エナさんを抱えたタケちゃんが殺気と威圧を混ぜたせいか、おじいさんは硬直したまま。
「あの、すいませんおじいさん」
《おいおい、殺さないでくれよ》
「あぁ、アナタが長か」
今回はスムーズに来れたな。
《やれやれ、それで、その子が融合体かな》
『おもきえな』
「クエビコさん、知り合いだったのね」
『まぁな』
「それで、ドリームランドへ行くのに難航していてな、念の為に協力して貰おうかと思ってたんだ」
《だけ、かい?》
「獅子身中の虫への対策も、だ」
《良いが、条件が有る》
「ほう」
《これから来る子に従者の仕事を教えてやって欲しい、従者志望なんだよ》
そうして蜜仍に会えたのは良いんだが、正直、クトゥルフに行けるかどうか。
「実際に夢に行けるかどうかは分からないんだが、頼めるか?」
「はい、お任せ下さい」
後は、コレをマサコに。
いや、国連の汚職からにするか。
国連が有るとまでは教えて貰ったけれど、ココでも汚職の可能性が有るだなんて。
『その、それで』
「ハナを使い君が祭り上げられる可能性が有ったんでな、少し準備が整うまでココに居て貰ったんだ」
『その、桜木さんやエミール君は』
「あぁ、既に知っている、その為の性別変更でもある」
『そうなんですね、それなのに、すみませんでした、我儘を言って』
「いや、それは良いんだが。実はこの先、君には潜入して貰いたい、難しいなら断ってくれて構わない、無理すれば良いと言う事では無いんでな。自分の技量を見極めて、答えを出して欲しい」
『その、具体的に向こうは何を』
「想定している限りでは、独立。果ては神も魔法も科学も否定した原始的な生活の押し付けか、テロか」
『そんな』
「予想、想定だ。先ずは無色国家等の勉強をして、考えてみて欲しい」
『はい、分かりました』
マサコちゃんが潜入捜査するって。
大丈夫かしら。
「ドリアード、マサコちゃん無理して無い?」
《熱血漢じゃて、大丈夫そうじゃよ》
「あぁ、ただ無理はさせないでよ、面倒臭い事になられても手助け出来るか怪しいし」
《まぁ相性も悪いんじゃし、そうお主とは関わらせぬよ》
「あぁ、相性悪いのか」
《かなり、じゃな》
「まぁ、そう言う事なんでな、妹は気にせず過ごして欲しい」
「無理して関われって言わないのね」
「相性は重要だ、ましてや大事ともなればより重要視されるべきだろう。避けろとまでは言わないが、俺やエミールと居る時以外は接触しない方が良い」
「あぁ、うん」
「よし、またな」
「おう」
あぁ、相当に相性が悪いんだな。
「桜木さん、そろそろお昼寝しませんか?」
「もうそんなか、寝る寝る」
今日は悪夢を見たからと、桜木さんはソファーでお昼寝。
肌触りの良い毛布に顔を埋めて、クーロンを抱え込んで、片手はコンスタンティンの背中を撫でて。
頭上にはエナさん、同じ様に毛布に包まって。
《ショナさんもどうですか?》
「じゃあ、少しだけ」
エナさんが横になっているソファーを背に、コンスタンティンの横に座る。
人の寝息と暖炉の火が跳ねる音と、穏やかな風の音と。
ご主人様と離れ、マサコと教会へ。
私を神獣に相応しいと褒めても、本当の神獣では無い以上、マサコが喜ぶ筈も無いのに。
『ありがとうございます、他に挨拶すべき方は居ますか?』
目標、目的が有れば、マサコが納得すれば受け入れる。
素直だけれど頑固、真っ直ぐで正義感も有る。
けれど、だからこそご主人様とは合わない。
彼女は折れる事を負けと感じる、引く事を良しとしない。
年上だから、ココでも先輩だから、ご主人様は常に折れる側になる。
それは決して良い事では無い。
私は交換されて良かったと思う、こうすれば確実にご主人様を守れるから。
モフモフが無いのは寂しいけれど。
ショナの寝顔は拝めた。
何なら動画を撮ってる。
「あ、おはよううございます」
「おはよう、疲れてた?」
「いえ、暖かくて。僕、何か寝言でも?」
「いや、安らかなもんでしたよ」
「そう、ですか」
「おう」
永久保存や。
タブレットを触っていたのか、僕を撮っていたのか。
いや、僕を撮る意味は?
なら、タブレットを触っていただけなのだろう。
「オヤツ、何にしますか?」
「この、バクラワ食べてみたい」
「それはちょっと、買いに行って貰いましょうか」
「なんならケバブも欲しいな、ビーフケバブ」
『わたしもたべたい』
「もう少し我慢して下さいね」
「そうそう、アレクも頑張ったんだから」
『はーい』
エナさんが来てから更に穏やかになって、良く笑う様になった。
けど、僕にだけは笑って貰えない。
武光君からは自然に任せて欲しいと言われたものの、このまま放置すれば拗れるのは目に見えていて。
【僕は、このまま業務を続けて良いんでしょうか】
《失礼を承知で伺いますが、恋愛経験は?》
あぁ、けどコレでも。
【無い事と、今回の事が何か】
自覚出来ませんか。
いや、自覚したく無いんでしょうかね。
《例えばですが、好意を抱かれたとしたら、君は先ずどう思いますか?》
【錯覚か、何かかと】
《では、逆の立場なら?》
【同じく、錯覚かと】
《では、桜木花子が従者だったら、どう思うか》
【錯覚かと。逆も、そうかと】
《では、そうなる前にどう態度に出して線引きしますか?》
【そんな、僕を意識してる様には】
《そう見えない様にしているなら、そう見えないのは当然では》
【でも、メンクイなんですよ?】
《なら聞いてみましたか?自分の顔は不細工か》
【聞いてはいませんけど】
《紫苑さんの状態なら意識されずに答えて頂けると思いますよ、同性として、答えてくれる筈ですから》
【ですけどその場合って、ただの社交辞令では】
《そこもお尋ねしたら宜しいかと。ただ、深淵を覗けば深淵にも覗かれます。意識してしまえば、意識されて避けられるかも知れませんね、いわゆる好き避けですよ》
【そ、好かれてる素振りは】
《そうなる前に抑制してるのかも知れませんよ。欲しがりません、勝つまでは。そう言ってらっしゃったなら、徹底してらっしゃるだけかも知れませよね》
【っもう少し、様子を見てみます。ありがとうございました】
《はい、では》
コレは、報告した方が良さそうですね。
ネイハムから報告を受ける事になるとはな。
【暫くは様子を見するそうですが、自覚するのも時間の問題かと】
「ハナの方は大丈夫だろうか」
【エナさんに構ってるそうなので、まだ大丈夫かと】
「そうか、助かった」
【いえ、では】
前回は、さっさと恋心が芽生えれば良いと思っていたが、結局は上手く行かなかった。
が、今回も、そもハーレムか氏族か整形か。
極端な選択肢しか無い事が原因で。
そもそも、前回はそれすらも解決出来なかったワケで。
それこそ、ドゥシャに頼むべきか。
だが、何をどう頼めば。
ココの泉で休憩してたエミールの卵が、孵化した。
優しい感じ、名前はパトリック。
「宜しくお願いしますね」
「おう、コチラこそ」
今度はエミールとパトリックが虚栄心の店へ。
ワシはずっとエリクサー作り。
『あきた?』
「まぁ、それと、そろそろこの滓をどうにかしたいんだが」
『えいるとすくなをよべばいい』
「そう?スクナさん、エイル先生、ご協力していただけますかね?」
『うん、良いよ』
『しょうがないなぁ、ふふふ』
バスボムに丸薬。
効果は弱いけど、一般人にも使って良い物らしい。
「弱い方が手間が掛かるのか」
『毒と同じよね、薄めたら薬になるもの』
『小児用だと思ってくれたら良い』
「あぁ、成程」
丸薬作りをしていると、もう夕飯。
厄災後も、コレで良いかも。
桜木さんはクーロンやコンスタンティンと共に寝室へ。
悪夢の内容を聞きたかったけれど、聞けないまま。
「おやすみなさい」
「おやすみ」




