2月4日
《ほれほれ、神獣の親が来たぞぃ、外で待っておる》
「マサコはどうした」
《まだ寝ておるでな、大丈夫じゃ》
「そうか」
ドリアードに起こされ泉へ向かうと、雄々しいケンタウロスが困った顔でドリアードの根に捕まっていた。
『それで、どうして俺を捕まえる様に指示を出したんだろうか』
「すまない、先ずは話し合いたい」
『分かった、逃げないから放してくれ』
「ありがとう、助かる」
《ほれ》
『で』
「この卵の中の性別を聞きたい」
『決まって無い、召喚者が求める姿に形を変えるのが神獣だ』
「どの神獣もそうなのか?」
《じゃの、最も必要とする要素を汲み取るんじゃと》
なら、マサコがあのキメラを無意識にせよ求めたと言う事になるが。
「それを本人が否定すれば」
『最悪は死だ』
《厄災を終えるまでは母体と胎児も同然なんじゃと、繋がりが途絶えれば神獣は死を待つだけじゃ》
「そうか」
俺がシャオヘイを求めて無いから、お前は生まれてくれないのか?
『もう良いかな』
「あぁ、すまない、助かった」
《すまんの》
「はぁ、俺は戻る、マサコを頼んだ」
《ふむ》
エミールと共に訪ねて来たタケちゃんが、悶々としながらも朝食を作ってくれて。
何を言い出すかと思えば。
「神獣を交換って、可能なの?」
《お互いが受け入れれば可能じゃが》
「男性不振が酷く出れば、最悪は拒絶する可能性も有るんでな、念の為だ」
「ならカールラか」
「桜木さん、本当に良いんですか?」
『そうですよ、そんな我儘に』
「いや、拒絶された神獣の方が可哀想じゃん、凄い傷付くでしょカールラも、クーロンも」
《なく》
『しぬ』
「まぁ、こうだし、マサコちゃんの為と言うか、タケちゃんは神獣の事も考えてるんでしょ」
「あぁ、今直ぐにマサコの性格や考えを変えるのは不可能、しかも子は親を選べない。そう合わない者同士を無理に一緒にするよりは、と思うんだが、頼めるか」
「もしだし、お願い」
《あい》
「ありがとう、助かる。朝食を向こうにも渡してくる」
「おう、いってら」
そして暫くして、タケちゃんの懸念していた通りになってしまった。
【すまんが、来て貰えるか】
「おう、行こうかカールラ」
《はい》
花子になり、カールラとキメラちゃんを交換。
泣いて謝られてもね、思春期だからしょうがないんだろうけど。
「ミーシャ、ちょっと良いかな」
「はい」
「差別とかされて無い?大丈夫?」
「はい、ただ思春期特有の男性不振みたいです」
「なら良いんだけど、無理しないでね」
「桜木様も、無理なさらないで下さいね」
「おう」
そして神獣にはコンスタンティンと名付けた。
《ありがとうございます》
「いえいえ、お洋服を作りに行こうか」
《はい》
こんなに可愛いくてモフモフなのに、性別なり何なりに拘り過ぎるって、本当に良く無いな。
うん、関わらんとこ。
ハナは紫苑になり虚栄心の店へ行き、コチラは。
『マサコさん、性別を変える魔道具が存在してるのは知ってるんですよね?』
『はい、そうですけど』
『なら男性の姿じゃなければ平気なんですか?』
『はい』
『なら男性器が全く無ければ良いんですか?男性の姿の境目って何処なんですか?』
「エミール」
『男ってだけで怖がられて、差別されて、可哀想じゃないですか』
『私は別に、ただ純潔の』
『男が全員マサコさんに気が』
「エミール、少し頭を冷やしてこい」
『はい』
こう、エミールは意外と怒りっぽいと言うか、正義感からの怒りだからこそ諫め難い。
さて、どうしたものか。
「色々有ったにせよ、これからも遠慮はしないでくれ、ココではストレスは魔素の回復の妨げになる。要望が有れば、コレからも遠慮せずに言ってくれ」
『はい、すみません、ありがとうございます』
「すまんが俺は向こうをフォローしてくる、頼んだミーシャ」
「はい」
さぁ、コッチだ。
『天使さんだって見た目からは分からないのに、容易く気を許して。悪魔だと言われてるキメラと同じ姿でオスだからって、あんなに優しそうな神獣を怖がるなんて。僕が未成年だから平気みだいですけど、それって果ては差別に繋がると思いませんか?未成年だから、男性だからって、ハナさんと大違いで、残念です』
「神獣の為にも怒ってくれてるんだな、エミールは」
『でも、ごめんなさい、怒らせる様な事を良いそうになりました』
「だな、だがその疑問も分かるし、その怒りも分かる。男として接したり、そう見ても無いのにそう決め付けられる様な事をされたら、俺だって馬鹿にされただ何だとキレるさ」
『けどタケミツさんは黙って、僕を制しましたよね』
「ココでは過剰防衛かも知れないが、向こうでは過剰では無かったかも知れない。自分を守る為に必要な防御反応だとしたら、まだ慣れないマサコを責められ無いだろう」
『そう、ですね、すみませんでした』
「まぁ、だからこそエミールが中々信用してくれなかった時も耐えられたんだぞ」
『すみませんでした』
「そう膨れるな、其々に様々な理由が有っての事だと思った方が、ストレス耐性も付く。何事も練習だ、練習」
『はぃ……ハナさんに言わないで下さい、僕がこんなに短気だなんて、思われたく無い』
「いや、寧ろアレは良い子だって褒めてくれると思うぞ?実際にも、良い子だから怒ってくれたんだしな」
『けど』
「大丈夫だ、俺が良い様に言っておいてやるから」
『ちょっ、待って下さいってば』
「競争だ、あはははは」
タケちゃんとエミールがキャッキャッしながら虚栄心の店に来た。
「ちょっと、煩い兄弟達だわね」
「すまんな、エミールを誂って遊んでる最中なんだ」
『もう』
「悪いお兄ちゃんだなぁ」
「そうだな、エミールと違って俺は悪い奴だ」
『だからもう、言わないで下さい』
「何、気になるじゃん」
『ダメです、聞かないで下さい』
「ふふふ、神獣とお前の為に怒ってくれたんだよエミールは」
『もー』
《男が全員マサコさんに気が有るワケでは無いとまで言おうとしてのぅ、くふふふ》
「止めた後も収まらなくてな、未成年だ男だと過度に区別をしては、果ては差別になるんじゃないのか、とな」
「あらー、ワシもそこ疑問だったのよね、ナイス」
『短気でごめんなさい』
「いや、コンちゃんの為にも怒ったんだろうに、優しい証拠だよ、良い子良い子」
ギュってされちゃった、かわヨ。
「ほら、言った通りだろう」
「ワシに関して何を言ったんですかねぇ」
「褒めるだろうと褒めただけだ」
「見透かされてんなぁ、よしよし」
『優しそうなのに、男ってだけで酷い反応をして、それが凄く、何だか許せなかったんです』
「あぁ、それはワシもよ」
「ただ、思春期独特の防衛反応でも有るのだろうし、前の世界基準の防衛反応のままなら、仕方無いだろう、とな」
『はい』
「あぁ、そこまで考えてあげたんだ、偉い、優しい」
「ほう、紫苑は苦手か」
「泣いて解決する環境に居たから直ぐ泣いて、泣きっぱなしなんだろうなって、その割に過剰反応で、イラっとした。ワシ大人気ない」
『それ、僕もそう思いました、ウチは泣く前に整理しろって教育されてたので』
「泣くな、では無いんだな」
『はい、泣きながらでも説明するのは良いんです。ただ泣くだけって、浸る事と同じだって、悔し涙も説明した後。泣いて良いタイミングを見極める事も、大人への一歩なんだって言われました』
「君の親は神か」
「だな、泣いても良いが説明をする、確かに大事な事だ」
「君の親元で産まれたかったな」
あぁ、またウッカリ時を止めてしまった。
「いや、お前は俺の妹だろう」
「あぁ、そう言う間?」
「寧ろ、言ってしまったって顔にどう対処するか少し悩んだな」
「あぁ、すまん、普通の家庭で育ったら出ない感想だよなと思って、言っちゃったなって」
「ちょっとアンタ、マトモな家庭で育って無さそうなんだから、別に良いじゃないの」
「いやー、そこまででも無いよ?」
「暴言暴力だけじゃないのよ、今ならどれだけ異常だったか分かるからこそ、出た言葉でしょう」
「まぁ」
「それに、もっと酷いのが居るだの何だの言われたんだとしたら、それも加害者の言葉、アンタは被害者。酷さだの上下左右は被害者には関係無いの、それも理解してるでしょう、ちゃんと認めなさい」
「へぃ」
「もう、落ち込まないで頂戴、話しても大丈夫だって言いたかっただけなの、ごめんなさい」
「そうだな、妹なりの感想を言ってくれて良いんだぞ」
「いや、うん、がんばるわ」
「おう」
「さ、今回は早く仕上がる予定だから、アレクに言えば良いかしらね」
「おう、俺が居ないとダメなんだよな、シオンは」
「おう、頼んだ」
信用して無いワケじゃないんだけど、どうにも言い難い。
浮島へ戻ると、まるで何事も無かったみたいにエナさんを構って喜んでいる。
僕は今でも信用して貰えて無いんだろうか。
『はみがきめんどう』
「だよね、わかる。ショナにして貰いなさい」
「あ、はい」
僕がエナさんを世話しても問題無いらしく、上機嫌にニコニコと眺めている。
どうしたら信用して貰えるんだろうか。
「眼福」
拝まれた。
「あの」
「あれ、眼球の幸福、ココって使わないの?」
「使いますけど」
「あぁ、使い間違い?」
「え、いえ」
「なら良かった」
そんなにエナさんの容姿が好みなんだろうか。
「そんなにですか?」
「おう」
そんなにメンクイって嫌われるんだろうか、不機嫌と言うか、何だろう。
『かんぺき』
「ですな、寝ましょうか」
『いっしょにねる』
「君は男の子なので遠慮しろ。アレク、宜しく」
「おう」
『あーん』
子供か。
そしてコッチ、何が気に食わないんだろうか。
「ショナ、そんなメンクイってダメか?」
「え、いえ、別に、個人の自由かと」
「いやほら、差別的だとか、低次元だなとか」
「いえ、ただ、そう公言する人は少ないので」
「どうして少ないの?」
「外見は遺伝子レベルからでも変えられますし、内面に惹かれたって言うのが、多い感想ですから」
「じゃあ内面だけで外見はどうでも良い世界なの?」
「いえ、化粧も存在してるので、そうでも無いかと」
じゃあ何で不機嫌なんだろう。
「あ、好みが有るのがおかしい?」
「いえ、多分、普通かと」
おや。
「答えなくても良いんだけど、恋愛経験は?」
あら、あらあら。
《くふふふふ、イジメじゃイジメじゃー》
「あ、ごめん、違う違う、ワシの価値観が変だから不機嫌なのかなって」
「え、いえ、不機嫌とかじゃないんですけど。すみません、どう信用して貰えるかと悩んでて」
「あぁ、信用はしてるんだけど、何か、どう言えば良いか分からなくて。被害者ぶらない様に言うには、どうしたら良いかな、と」
「そのまま、感じたままを言って頂ければとは思うんですけど。あ、無理して頂かなくても良いんですよ」
「父親から化け物と言われた事だけが引っ掛かってるだけで、そう何も無いのよ、良い思い出も何も、特に無いだけ」
「ですけど、ネグレクトの概念は理解してらっしゃるんですよね?」
「けど、死に掛ける程でも無かったからって感じで。他人がされてたらね、異常じゃんって言えるんだけどね」
「僕には、化け物には見えてませんからね」
「おう、ありがとう」
有り難いんだけど、じゃあ何で父親は化け物だと言ったのか、ってなるんだよね。
笑ってくれない理由も、メンクイなのも全て理由が有ったのだと分かったけれど。
踏み込んでしまった罪悪感なんだろうか、信用して貰えて無いかも知れないと穿った思いを表に出してしまったからか、凄く胸が痛む。
どうにかする事は出来ないんだろうか。
僕に何が出来るんだろう。




