1月27日
今日は満タンにするのかと思ったけれど、その為にもと魔石を様々な神様から貰い受けた方が良いと言われ、魔王と共に花子の姿で回る事に。
「良いの?」
「まだ身分証が無いしな、万が一が有っては困る」
「身分証を持って無いってココじゃ有り得ないんで」
「あぁ、そっか」
そうして先ずは魔王とクーロンと共に、島根の山奥にある金屋子神社へ向かった。
そして30分もしないウチに、ハナから連絡が来た。
「どうしたハナ」
【女はダメみたい】
「なら他に思い当たる場所に行ってみたら良い、ついでに神々用の献上品になりそうな土産も頼む」
【成程、おう、行ってくる】
そしてインカへ行った事を確認し、俺は最低限の訓練へ。
怠けても良いんだが、最悪の想定、マサコとの戦闘に負けない様にしないとな。
夕飯をしこたま買って来たので、ヴァルハラにタケちゃんを迎えに行くと、すっかりぐったりしていた。
ずっと戦ってたんだろうか。
「おう、妹、お帰り」
「ずっと?」
「あぁ、偶にはな」
「もっと練習しても良いんだよ?」
「イヤ、夢中になり過ぎて何も考えられ無くなるんでな、偶にで良い。脳内麻薬が出て、そうやって俺は悩みを誤魔化して来た。俺は良い親でも何でも無い、本当はただの脳筋馬鹿で、考えるぞと気合を入れんと考えない、嫁の事も良く考えてやれない馬鹿なんだ」
「疲れたのかタケちゃん」
「家庭の味で育てようって話し合ったのに、料理は任せっきり。2人の為の料理なのに、俺は手伝うぞって言って怒られた。しかも何で怒られたのか最近まで分からない馬鹿で、だから最初は俺が前衛なのかと考えてた。けどココで重要なのは魔法、神、精霊、魔道具。なら俺に求められてるのは何か、知識、経験、それと少しの知能かも知れないと思ったんだ」
「何で急に人間宣言してんのよ」
「俺もただの人間なんでな、久し振りで疲れ過ぎたのかも知れん」
「馬鹿は一生分からない、分かったなら馬鹿じゃないよ」
「お、妹には嫁が怒った理由が直ぐに分かったか」
「分かる様に言ってくれたからね。家庭の味は2人の味、楽をしたかったら嫁さんの味で育てたいって言えば良かったんだよ、そこは馬鹿だな」
「だな、ウチの家の味も知って欲しかったんだ。俺が育った味、嫁の家の味、両方有ったら良かったと思ってたのにな、月日と試合で忘れるんだ、馬鹿だから」
「貰った針でゴリゴリ彫り込んでやろうか、忘れない様に」
「頼む」
「じゃあ追々ね。厄災が終わりそうになったら両腕にゴリゴリ掘ってやんよ」
「だな、家庭の味は2人の味。そうだな、他の文言も頼むか」
「訓練は程々にってか」
「確かにそれもだ」
「腹減った」
「動けないんだが、エリクサー持ってるか?」
「ワシの失敗作で良いなら」
「おう、意外と好きだぞ、エグ酸っぱくて目が覚める」
「食欲増進用なんすよ」
「おうおう、もう腹が空いてきた」
馬鹿だ馬鹿だと言うけど、少なくともウチの父親より遥かにマシだよ。
ハナさんが買って来てくれたチリ料理は凄く美味しくて、そして良く聞いてると、全部先に味見をしてから僕へと食べさせてくれていた。
熱いとか辛く無いとか。
僕の自立を願って、両親は僕に厳しくしてくれていた。
けど、凄く辛かった。
見えないのに行儀良く食べろとか、逆に火傷しない様にってヌルいスープだったりとか。
それを両親も食べてる事が辛かった、父さんは熱いスープが好きなのに、僕のせいで我慢していたり。
僕を手伝いたい母さんと、自立させたい父さんが良くケンカして、そんな声が聞こえてくるから部屋でも気を紛らわすのが難しくて。
僕のせいじゃないのに、僕の事でケンカして。
だから家にも居たく無かったのに、家が田舎の方だからって1人で出掛けたりも出来無くて。
だから逃げ出した、またケンカの声が聞こえて辛くて。
良く歩く道だから大丈夫だと思ったけど、足を滑らせて。
そこから先は良く覚えて無いけど、気が付いたら草むらに居て、ハナさんの声が聞こえて。
「次はどんなのが良い?」
『最初の、ライスのヤツで』
「旨いよなサフランライス、綺麗な黄色」
こう甘やかして欲しいんじゃなくて、もっと前みたいな家族に戻りたかった。
学校の事を話したり、父さんの仕事の話を聞いたり。
料理してる母さんの周りで邪魔したり、手伝ったり。
それが何にも無くなった事が嫌だった、目が見えなくなった次に嫌だった。
『ハナさんも好きですか?サフランライス』
「好き、香りが良い、けど何て言えば良いんだろな?何の匂いだろ」
「そうだな、新鮮な空気の匂い」
「あぁ、かもかも。次は何にしようか」
ハナさんもタケミツさんも、見えない事以外は普通に話してくれる。
特技や好きな事、将来の夢。
父さんも母さんも避けてた話、友達も先生も、僕に気を使って空気が重苦しくなる感覚が凄く嫌だった。
でももう少しで僕の目は治る。
だから今だけ、甘えさせて貰える。
『エンチラーダで』
「チーズたっぷり、アツアツですぞ、あーん」
ご両親は良い人達だったんだと思う。
だからこそ、エミールにはどうするか聞けないまま。
「エミールの事か」
「あぁ、おう。すぐ直るから甘やかして貰います、って、それまでは厳しく躾けられてたんだろうなって。だから、戻るかどうか聞けないよなって」
「聞けば選択を迫る事にもなる、か」
「戻ったら目も元通り、だけど家族が居る。ワシは家族が居るけど、戻りたく無い。立場が違うから、意図せずココへ残れって誘導しそうだし。けど親交は深めたいから、何か、良いアプローチ方法は無いかなって」
「父親か?母親か?」
「主に父親、クソな事をほぼ網羅してんだけど、暴力は無かった」
「友人関係はどうだ?」
「引き籠りぞ、殆ど居ないわ」
「恋人はどうだ」
「居ません―、だからきっと、ベッドで病死してるのを家族が見付けるんだと思う。それで家族は元通り、居ない方が長い目で見て良いのよ」
「何が有ったか知らないからこそ言うが、お前は戻らなくて良い。ココでは居て良い存在なんだ、妹にはそれでは足りないか?」
「足り過ぎ、寧ろ居て良いのかって悩んでるわ」
「コレから先の重要な役割が存在しているかも知れない、意外な才能が有るかも知れない、お前を本当に必要としてくれる存在が現れるかも知れない。まだそう悩んでても良いとは思わないか?なんせココへ来てまだ2週間だ。一緒に見付けよう」
「頼もしいな、ワシと大違いだ」
「そうは言っても妹の方が魔法の適性は有るんだ、俺は頭でっかち、妹は柔らかさ。発揮する分野が違うだけだろう」
「どうだろうな、本当に自信が無い子なのよ、ワシ」
「俺もだ、だから俺も悩んでる」
「何を」
「妹の将来の夫選びだ、適当なのは許さんぞ、メシが美味くて」
「お父さんか」
「おう、だからパパの言う事は聞くんだぞ、悩んだら寝ろ」
「おう、寝る。おやすみグーグ」
「おやすみ妹」




