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1月26日

 実際にハナが見た悪夢が増強された様な、今まで見た事も無い悪夢を見た。


 大罪化したくない、魔王化したくない。

 そう思いながらも内在する醜悪さを自覚し、外の轟音に怯える。

 全てに怯えながら、すっかり古びた小屋から外を見ると。


 角が生え、怒りの形相をした俺が窓に、窓に写っていた。


 映画館で観るよりも遥かに恐怖と混乱に支配されていて、まるで現実の様で。


「コレを定期的にか、しんどいな」




 朝食が出来たとタケちゃんを起こしに行くと、汗をびっしょりかいて。


「大丈夫か?」

「いや、少し悪夢をな、もう大丈夫だ」


「悪夢か、そら汗もかくよね」

「あぁ、少し水浴びをしてくるよ」


「ついてこうか?」

「ありがとう、大丈夫だ(メイメイ)、直ぐに戻るから向こうで待っててくれ」


 悪夢、タケちゃんが汗をかく程の悪夢って凄そうだな。




 ハナ達とヴァルハラで朝食を食べてから、再びニーダベリルへ。


 ハナは本来と同じ様に鞭やベルトをゲットしたのは良いんだが、ストレージが未だに存在しない事から、バッグを受け取る事になった。

 確かに、空間移動さえ気にしなければ、コレでも問題無いだろうか。


「はぁ、落ち着く」

「素晴らしいベールだな」

《でしょう》

《この子専用なのよ》

《マントもね、ふふふ》


 そして魔道具や眼鏡の調整も、不味い、コレで転移されたら。

 いや、空間移動が無い状態で転移は。

 いや、本当にそうなるとは限らない。


「後は移動だな、ロキ神の靴の様なモノは無いか?」

「運痴の身に余るのでは?」

《それこそ腕の見せ所よねぇ》

《そうね、それこそ神の魔道具》

《楽しみね、ふふふ》


 万全にする不安と、抜けを残した時の不安。

 かと言って進んでしまう道筋を押し留める事も難しい。


 なら、本当は本来通りに進めるべきなんだろうか。

 だが。


「おぉ、可愛い、柔らかい、軽い」

「革靴にもヒールが有るんだな」

『おう、真っ平らは逆に疲れるんだ』

『そっちはマントのに合わせてな』

『防寒に滑り止めに……』


 そして俺もバッグを受け取り、幾ばくかの猶予が出来た。

 お礼の品はハナの綿や魔石の欠片で良いらしく、もう少し出そうとすると家へ逃げられてしまった。




 装備もすっかり充実したので、エンキさんとエイル先生のエリクサーや鍋を貰い受け、次は虚栄心の店へ。

 カーテン内でタケちゃんと共に、虚栄心に採寸される事に。


「スッキリズッパリザックリし過ぎよ」

「いやー、気分爽快、ご機嫌だぜ」


「それにコレは、流石に入れ代わりは無理よ」

「ですよねー、身長差ー」

「小さくて可愛いのが(メイメイ)だからな」


「男性体は多少は大きいもん」

「おタケ似ねぇ」


「そう?」

「ベースがね。にしてもおタケは変わらないわねぇ」

「そう身長が変わらんのはつまらんぞ?」


「嫌味やー」

「そうねぇ、嫌味な子ねぇ、よしよし」


 タケちゃんをイメージしたワケじゃないのにね、言われるとそうかもと思える。

 不思議。


「話を変えてすまないが、隣の地区について何か知ってるか?」


「どう言う事?」

「すまんがガブリエル、説明を頼む」

『はい』


 転生者を隠匿していると聞いて、凄くガッカリした様子の虚栄心。


「そう、だから警戒して入れ替えを。はぁ、ごめんなさいね、ウチのが目を光らせてる筈なのに」

「怠惰と憤怒か?」


「ええ、その筈なのだけれど」

『普通の子供として登録されているので、ソチラからのアプローチで調べるのはかなり難しいかと』

「えー、第三者機関的なのは無いの?」


「それがウチと民間人なのだけれど、バレたら国連からの加護はもう。そう、そこまで腐敗してるのね」

「その可能性を探っている段階だ」


「バレたら国連から除名処分、それに乗じて独立って、またバカな事を考えてるのね。更にまた土地を失うだけだって言うのに」

「前例が?」


「女同士の妊娠に反対して、産婦人科へ同時多発テロ未遂」

「ぅわぁ」

「俺の調べた範囲には無かったが?」


「過度にヘイトを溜めても信者が危なくなるから、情報規制が入ったのよ」

「そうか」

「ヤベェな、その残党?」


「いえ、その筈は無いんだけど、再捜査させましょうかね」

「あぁ、内密に頼む」

「仮に一掃されてたとおしてよ、独立したいって、そんなに抑圧されてるの?」


「向こうでは一大勢力でしょう、そして一時は同じ位に勢力を拡大した。けどまぁ神様達の返り討ちに合ってコレだけ縮小した感じだから、謂わば異世界と過去の栄光に縋って憧れてるって感じかしらね」

『本来は心根の優しい、素晴らしい信徒ばかりなんですよ』

「よしよし、どうどう」

「だが思い込みが激しいのも居るからこそ、こうなのだろう」


『残念ですが、はい』

「かと言って大事な本の中身を私達が改訂すれば文化侵略になってしまうし、自浄作用に期待し続けてたのだけれど。残念だわ」


「あのさ、大罪はコレだけしてるのに情報共有されないのは何で?」

「そりゃ神扱いされて無いからよ、どちらかと言えば人の扱いだもの」


「色々してくれてんじゃんよ」

「だな、少なくとも精霊レベルは確実だろう。どうして天使との連携が取れないんだ」

『していたんですが』

『人間から悪魔扱いを受けてね、だから関わらない事にしたんだ』


「あら久し振りじゃないルシフェル、元気そうね」

『君も、元気そうで何よりだよ』

『人が、天使と大罪が関わる事を悪としたので、我々は手を引くしか無かったんです』


『それでどうなるか確認してみたかったんだ、上手くいくのかなって』

「まぁ、結局は失敗よね、転生者の出現を報告させるに至らなかったんですもの」


『主は人の善意に期待していたんだよ』

「はいはい」

「どんまい」

『すみません、ありがとうございます』

「過保護にすれば自立しない、だが手を離せば勢力を広めたがる。人間は実に難儀な生き物だな」


「そうね、本当に」

「すまんな、巻き込む事になるかも知れん」


「良いのよ。さ、私は頑張って良い服を作るわ。ソッチは、無理しないで頂戴よ、召喚者様もただの人間なんだから」

「おうよ」

「世話になるな、じゃあ、また」


 そうして入れ替わったまま、お昼はタコス。

 エミールにも買って行って、満腹にさせたった。




 そしてエジプトからの招待がドリアード経由で届いた。

 そうだったな、一時は神々と戦争になるかもと言われていたんだった。


 だが俺の事を見透かされては、いや、寧ろ受け入れて貰うべきなのかも知れない。

 思い悩んだ結果、俺はそのまま女性体で、ハナは男性体で。


「どうも初めまして、えっと」

『待って、こちらはあだ名で呼び会う習慣なの』


「あ、っと」


 本来との性別も違うんだ、余計に悩むだろう。


「そうか、ワンワンだ」

「し、あ、チェリコです。コッチは…マー君」

「ケー君で」

『クーちゃん』

《カーカー》


 そうして足飾り(ペリセリド)腕輪(アルミール)、武器を数種類と香油。

 ハナはネフェルトゥム神の青い蓮の花を貰った、悪夢を払い、寝坊しないお守りらしい。


「ありがとうございます」

「コレは、夢見には影響しないんだろうか」

『勿論、大丈夫ですよ』


 眠る際に傍に置くだけで良いらしく、早速アヴァロンでは花瓶に飾って置いていた。




 タケちゃんと外で日光浴し、次の段取りをご相談。


「後は、温泉か」

《ちょっと待ったぁぁあああああああ!》

《あら、ノームさん》


《あら、ちゃうわ!ワシの土地で何させるつもりじゃティターニア》

《温泉をと》

「スクナさん、おいでませスクナさん」


《ちょ、自分、話聞いてた?》

「おう、シオンでもダメなの?」


《いや、べっ》

『スクナヒコだ、宜しく』

「おう、(ワン)若汐(ルォシー)になった李 武光だ」

《どうも、ティターニアです》


《自分ぅ、タイミングぅ》

『問題が有るのか?』

《いえいえ、どうぞどうぞ》

『あぁ、問題無いぞ』

「向こうにねー、温泉が欲しいです」

「何なら珍しい泉質が良いな」


『よし、任されよう』

《あぁ、ワイの存在感が流されるぅ》

「ごめんごめん」

「すまんすまん、キノコの神でもあったんだったなノーム神は」


《せやで、けど別に興味無いやろブスが》

「ブスて、外見がメスがアカンのか」


《おう!》

『はぁ』

《もう》

《胸を張って言うでないよ馬鹿者が》

「どうしてそんなに女が嫌なんだ?」


《近寄んな巨女が。魔王全盛期の頃や、人間に騙されて奴隷にさせられそうになってん、魔王倒す為に魔石欲しい言うから》

『人間の女に騙されて捕まってたのを俺が助けてやったんだ、少しは俺の言う事を聞けと何度も言ってるんだがな。毎回、話の途中で動き出しやがる』

「あら、魔王ごめんなさいしとこか」


「ごめんなさい、ノームさん、私と人間の争いに巻き込んでしまって。でも、私の事は嫌いでも、はなちゃんは嫌いにならないでくれませんか?」

「まぁ、今は紫苑なんですけどね」

《シオンちゃんはええねん、シオンちゃんは》

「外見至上主義と言うか、外見だけでこうも対応が変わるか」


《そら無毒そうな蛙と毒々しい蛙やったら、無毒そうなの選ぶやろがい》

「まぁ、確かにだけども」

「どっちに毒が有るとしても、か」


《せやせや。ほいで、ワイあんたを良く知らんねんけど、何で暴れてしもたん?》

「ワシがザッと言うと、人間の女が人間の男に虐められてて、()ったら逆恨みされた、仕舞いには復讐の応酬、果ては人間全体への復讐に移行。合ってるよね?」

「凄くざっくりで大雑把ですけど、はい、合ってます」


《そうか…そうなんやな……やっぱ人間恐いやん!しかも女絡んでるぅ》

『出来たが、どうだろうか』

「おぉ、ありがとうございます」

「よし、入るか」


《何や、ワイの扱い雑ちゃう?》

『おう』

《妥当じゃよねぇ》

《かも知れませんね》


 いや、キノコは気になるよ、キノコ好きだし。


 そして流石にタケちゃんは男に戻って、皆で温泉へ。


「白くて青い、凄い」

『時期によっては緑色にも見える筈だ』

《エエ仕事しはるわぁ》

「何だかんだ言っても堪能するんだな、ノーム神」


《そらね、それはそれ、これはこれや》

「なぁ、キノコ神はキノコ何でも生やせるの?」


《ノームさん、な》

「で、どうなのよ」


《そらもうソッチで言う西のキノコはフルカバーよ》

「無毒化されたアンズタケは無いのか?」

「なんそれ」


《なんや食った事無いんかい》

「存在すら知らんかった」

「名の通り杏子の様な匂いがする」


「えー、しょっぱいとフルーティーは許されなぃー」

《いやいやいや、ピザとか最高やで?》


「えー、舞茸の土瓶蒸しの方が良いってー」

『紫苑はキノコが好きか』


「好き」

「ならこれはもうキノコ対決だな、キノコ神」

《ノームさん、な?》

『よし、上がったら貰い受けに行こう』




 そして温泉から出て其々に行動する事に。

 俺は俺で魔石を貰い受け、暫しキノコ神の晩酌に付き合う事に。


「すまんな、つい気安くしてしまった」

《エエんよ、繊細なシオンちゃんの為に道化位はしたるわい》


「そう見えるか」

《そらな、容量と繊細さはイコールな面も有るしな。ほいでストレスっちゅう抑圧と安心っちゅう解放を繰り返して容量は拡張されんねん、揉み洗いで柔らかくなる綿と同じや》


「なら、あの透過性は」

《後天性や、けど先天性でも有るねん。ある程度の本来の柔軟性が有ってこそや、硬い木は折れるやん?それと一緒で柔らかい竹はしなるやん、そんな感じやね》


「俺は、どうなんだろうか」

《硬いねんなぁ、真面目過ぎるねん生来が。けどゴムみたいにビロビロになってまうよりはエエよね、真面目なんはワイも好きやで》


「柔らかくなる為には」

《いやいや、あんさんは寧ろ幅を広げる方がええやろ、それこそ無理してベロベロになってまうより合う方向性やと思うで?》


「魔女狩りを知ってるか?」

《あぁ、悲惨やったなぁ、男も女も関係無しに火炙りや拷問や、って。悪い奴がそんな目に遭うのはエエねんけど、ホンマに何も悪い事をしてへん子が殆どで。中には魔女やないのに殺されたのも居ってな、地上は地獄やったけど、もう既に条約が広まっててん。ワイの様にアホみたいに捕まったり、どっかでは神殿も破壊されてしもて、ワイらが身を守る為の条約でもあったんよね。恥ずかしいわぁ》


「主導者は、召喚者と転生者か」

《せや、共存出来る言うて頑張ってた人間の派閥も有ったねんけど、それこそ利権が絡んではって、大多数は正義やから押されてもうてんな》


「なら、ジャンヌの様な性質は全滅したと思うか?」

《ココ最近は平和やん?そう性質を持ってても揉まれへんから表在化せえへんねんと思う。それと、何処かに隠れて存在してるんちゃうの?ワイの探知出来る範囲には居らんけど、集めとる奴が居ったしな、何百年も前やけど》


「ドリアード、何か情報は無いか?」

《我の範囲にも居らんが、ナイアスはどうじゃ?》


『そ、ぇっと、秘匿案件なので、私からは何も』

《そない言うって事は、居る言うてるのも一緒やんな》

《じゃの、アネモイ、いや、アイオロスに聞くかの》

「頼んだ」


「ただいまー、マジで貰えたー」

「よし、エミールも呼んでキノコ祭りにするか」




 エミールは泉を通り抜ける分には問題無いらしく、キノコ祭りに呼ぶ事になった。

 そして土瓶蒸しやら炭火焼きやら、温泉の洗い場を作ってくれた神様達にも振る舞って。

 大宴会へと発展した。


『ジューシーで美味しいですね、シイタケ』

「何でも食べて偉いねエミールは」

「いや、コレマジで美味いっすよ、天然物ヤバい」

「ほう、珍しいか」


「養殖が殆どっすもん、舞茸も匂いが全然もう、凄いっす」

「語彙力が低下する美味さ」

「だな」


 あぁ、山菜も食いたいな。


「スクナさん、タラの芽は誰に頼んだら良い?」

『カヤノヒメとククノチだろうね』


 こう気軽に言ってしまうと、来て貰っちゃう事になるのね。


「あ、すみません、ちょっと食べられたらなと思って聞いただけで」

《良いのよ》

『問題無い』


 あぁ、柏木さんを呼んだらどんな反応をするかな。

 喜ぶかな?それとも心臓発作を起こしてしまうんだろうか。


「あの、タケちゃん、柏木さんとか呼んでも良い?」

「あぁ、そうだな、なら先生達も呼ぶか」


 魔王には申し訳無いけど、柏木さんに五十六さん、ネイハムさんを呼ぶ事に。




 不甲斐無い我々なのにも関わらず、神々にお会いした事が無いと言う私の言葉を気にして下さって、桜木様が浮島へと招いて下さった。

 スクナヒコ様にカヤノヒメ様とククノチ様、ノーム神に妖精女王に。


「あぁ、ありがとうございます。長年の願いを叶えて頂いて」

「いや、宴会になってしまったので、こう、折角だから」

「まぁまぁ、我々も親交を育もうじゃないか柏木君」

《肝が据わり過ぎですよアナタも》


 目頭を何とか抑えながら、召喚者様に作って頂いたキノコ料理を頂き、神々が楽しそうに宴を開く浮島を眺める。


 今までは何の疑問も抱かずに、それどころか神々が其々の領分で満足しているのだろうと勝手に思い込んでいた。

 けれど慈悲深い神々であればこそ、誰にも救われずに苦しむ者を見て、心を痛めるであろうと想像出来た筈なのに。


 そして国連内部の腐敗についても、その可能性を無視し、神々の落胆を招いたかも知れないと言うのに。


「そう泣きそうな顔で神様を眺めては、逆に申し訳ない気がするんだけどもねぇ」

「あぁ、すみませんね、どうにも自分の不甲斐無さを痛感してしまって」

《100年は交流が途絶えていたも同然なんですから、お互いに思う所は有るでしょうけれど、今は宴会の場ですから》


「そうですね、もう少し楽しめる気概を持たなくてはいけませんね」

「大真面目君との評判は本当だったんだねぇ、通りで友人にならなかったワケだよ」

《如何に仕事を他人に振るか、そればかり考える人とは確かに合いませんね》


「今でもコチラに五十六君の手腕は届いてますからね、見倣わないといけませんね」

「それが出来てるから君は上役に居るんだろうに、そう謙遜されても僕はちっとも嬉しく無いよ」

《似た者同士と言う事にしておきましょうかね》


「そうかも知れませんね」

「それは困るよ、適当に長生きしてこそなんだから」

《では程々に、真面目な話でもしましょうかね。どうですか、彼らは》


「群を抜いた優秀さですね武光様は、そして桜木様は見ての通り、お優しい」

「そして病弱、凄いよ本当に、喘息も何も基礎疾患無しでコレだけの病歴だもの」

《ドリアードからの聞き取りには苦労しましたよ、ハッキリした病名が名言されて無いんですから》


「そうそう、遺伝子疾患と言えるまでのモノは無し、(仮)で済ませてるのも多いからねぇ」

「しかも実際に症状を訴えても詐病と謗られる始末、本当に、向こうは碌でも無いですよ」

《ですが、より上位の存在や価値観にしてみたら、我々も碌でも無いと言う評価をされそうですよね。国連の腐敗に自治区の無作法を許していては》


「そうだねぇ、例えば神様とか。にしても気付けないモノかねぇ」

「凪の底で潜水艦に動かれては、私達には探知が不可能ですからね。悔しいですが、本分が違うので」

《国としては、どうなんでしょうかね》


「どうやら少しは確認出来ては居たみたいですが、なんせ動きが無いので。個人の価値観の範囲内の自由ですからね、宗派も理想も」

「ではテロ認定範囲内の行動はしてはいないんだね」


「ですね」

「にしてもだよ君、了解。だけは無いんじゃ無いかな」


「参謀に関しては君の方が優秀でしょうから、お任せしようと思いまして」

「嫌だ嫌だ、そうやって優しいフリで試すんだから、全くもって質が悪いよ君は。だからガーランド女史にも」

《良い大人が過去を持ち出して喧嘩しないで下さい、大人気ないですよ》


「だって今回は柏木君が悪いだろうに」

《桜木花子に慣れているからこその対応なのだと、私はもうとっくに納得していますよ?》

「察しが早くて助かります」


《ですが柏木さんも、もう少し言葉を尽くして下さいね。私が居なかったらこうはなってませんよ?》

「そうですね、もう少し言葉を尽くしましょう。どうか、召喚者様達を宜しくお願い致します、五十六君」

「仕方無い、今日は引き分けにしてやろうかね」


《そうですね、武光君も目的が明確だったんですが、本当にどうすべきか分からない様子でしたからね》

「情報も少ないんだ、仕方無いよ」

「ですが向こうでも既に調べているそうで、情報が統合する日も近いかも知れません」


「でだ、どう情報共有すべきだろうかね」

「もう考えは有るのでしょう」


「全く面白味に欠ける奴だ。桜木君達の魔道具を借り受ける事が出来れば良いんだが、どうだろうかねぇ」

《ならそう要望してみましょう》




 ネイハムから通信機の魔道具を借り受ける事は不可能か、と。

 このまま貸しても良いのだが、音声だけでは内部犯に使用されても困る。


「こう、アレよ、鏡通信なら共有し易いのでは?」


「そうだな、頼めるだろうか」

『そら厄災用の備えだからな』

『厄災が終われば機能を停止させるぞ』

『それで良いならだが、どうする』


「良い?」

《はい、是非》


 ハナはすっかり観賞用にネイハムを愛でて、だが出来るなら近付かせたくは無い。

 けれど、どうすべきなのか。


「少し良いか」

《はい》


 俺が警戒しているからか、警戒されている気がする。


「俺を分析して欲しくは無いんだが、どうしてだ」

《失礼しました。向こうの生まれの割には柔軟性がおありなので、どうしてかと》


「子育てや教育について深く長く考えた結果、では満足して貰えないだろうか」

《でしたら桜木花子に、ご自身のお子さんと重ねている可能性や危険性についても、自覚が有ると思って宜しいですかね》


「あぁ、だが全く重ねないなんて事は不可能だろう、そして自分の幼少期についても。童の時は語ることも童の如く、人となりては童のことを捨てたり。コリントの信徒への手紙、13章11節についてどう思う」


《幼子の様な考えや気持ちを捨ててしまったのか、捨てたいのか、捨てたかの様に忘れてしまっているか。アナタも、幼少期に何か有ったと言う事でしょうか》

「まぁ、事故で片親を亡くしているに過ぎんがな。ハナの様に家族についての問題はそう多くは無い」


《何が有ったか想像が付いてそうですね》

「ウチの国に当て嵌めるとな、容姿の事で何か言われたか、男児では無いからと関わっては貰えなかったか。又はその両方か、病弱なのにも関わらず両親から溺愛され過保護に育てられた気配が殆ど無い、なら妥当だろう」


《ですが、良い大人なんですから、恋愛関係かも知れませんよ》

「まぁ、それも有るだろうが、そこに立ち入るにはもう少し時間が必要だろう。出会ってから、まだ1週間も経ってないんだしな」


《彼女のカウンセリングをさせては頂けないでしょうか》

「興味本位は猫をも殺す、俺がな」


《どうして警戒されているんでしょうかね》

「顔が良い上に底知れないからだ、そして人を操作するなんてのはアンタにとっては簡単な事だろう。そんなヤツを近付けさせる程、俺は甘くない」


《ですが、手助けは必要かと》

「なら一切手を出さないと神に誓って欲しい。そうだな、ノーム神にでも誓って貰おうか」

《お、キノコ生やせばエエか?》


「だな、手を出そうとすれば苗床として生を終える事になる」

《では、誓わせて頂きます》

《おかのした!》




 鏡通信機を受け取り、お返しにお酒。

 こんなので良いのかと悶々としながらネイハムさんの所に行くと、カウンセリングを受けてみないかと誘われた。


「そんなに変ですかね」

《いえ、ですがストレスは大敵ですから、何かしら小さな事でもご相談頂ければ、と》

「まぁ、嫌になったら僕に交代しても良いし、他の、女性でも良いし」

「選考にはコチラも関りますのでご安心下さい」


「いや、そう、悩みと言う程の事は、もう無いので」


 コレ、普通じゃ出ない返しだな、マズったかも。


《では、悩みが出来たらと言う事で》

「はい、どうも」


 体質が体質だから警戒されてるのかも、溢れたら大変になるかもだし。

 でも、それを相談して何になるんだろうか。




 エミールのアクビが宴会を解散する合図となり、神々や精霊は其々の場所へ。

 俺らは暫し暖炉前で寛ぎ、ハナから鈴藤紫苑はどうか、と。


「お、使えますよ、同姓同名はお婆さんっすね」

「迷惑掛らんかな」

「流石に性別が違うんだ、大丈夫だろう」


「なら良いけど。この、(あざな)って?」

「まぁ、あだ名やミドルネームに近いな。過去には子女は名を明かさない事も有った、桜木紫苑でも俺は問題無いと思うが」


「色とりどり過ぎてちょっと、せめて同系色じゃないと」

「藤も紫色っすもんね、収まりが良い()()っすよ」

「お、駄洒落か?」


「あ、いや、違うんすよー」

「タケちゃんオッサンだなー?」

(メイメイ)よりは年上なんだ、仕方無い」


「ふぁ、じゃあ鈴藤紫苑で。おばあちゃんももう寝るよ」

「おう、俺は卵の事も有るしな、エミールと泉で寝るよ」


「おうよ、おやすみグーグ」

「おやすみメイメイ」

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