1月24日
「おはよう妹」
「お、はようタケちゃん」
「妹、よだれ」
「お、おう…顔洗ってくる」
前よりはマシだが。
だが、まだ出会って数日なんだ、仕方無い。
柏木さんが寝てるからと、プールに行く事に。
しかも暑いからと、水着まで。
「おー、着替えたかー」
「筋肉凄いな、タケちゃん」
「まぁな」
そうしてギリギリストレッチを施され、やっとベンチで休める。
フルーツアイスティー、うまい。
昼食をプールで。
瑞安は余計な事はしないし、言わないし。
コレで本当に良いヤツなら良いんだが、魔道具でどう出るか。
「うん、旨いな。妹、どうだプールは」
「くっそ楽しい」
「だろう、きっと回復も早い筈だ」
「おう」
プラセボでも何でも良い、回復さえしてくれたら、ハナはもっと自由に動ける。
「虚弱体質はどうなんだ?」
「今はもう何も無いから大丈夫よ」
「そうか、ならそろそろ本題に入るか」
「あ、ちょっと待って下さい、秘匿の魔法を使いますから……はい、どうぞ」
「ホムンクルスは人造人間」
「魔王を人造人間に、か」
「なんなら人間にしようかと」
「感情の分離で大罪が産まれたなら、更に分離させれば、か」
「おう、流石タケちゃん」
「いや、あの回顧録を見てな。で、魔王はその可能性に気付いてたか」
「とんでもない、元は余計な感情を分離してたんです。だから、もう分離しようと考えもしてなかったんですよ本当に。でも、父親と言うモノには、確かに興味はあります」
「父性と、従者とか兄とかどうよ、双子の父親と兄」
「で、可能かどうかを聞きに行くんだな?」
「だけどまだ時間がね、エリクサーとか医神の事を欧州で、アヴァロンで聞こうかと」
「おう、だがもう少しだけ、良いだろう」
「しょうがない」
『《やたー!》』
タケちゃんはアヴァロンでタブレットを触ってたかと思うと、寝落ちした。
筋トレ好きそうなのに、ワシが無能なばかりに。
「ごめんな、タケちゃん」
「桜木さん?」
「筋トレ好きそうじゃん、なのに勉強ばっかでさ」
「どうなんでしょう、好きなだけで格闘技は難しそうですし」
「でも君は好きだけで従者じゃない」
「福利厚生も充実してますので」
「あぁ、確かに公務員枠だろうけど」
「それに、教師を目指してらっしゃるなら、やはり勉強もお好きなのかも知れませんよ」
「凄いよな、27で新しい道に行こうとするんだもの、根性が凄い」
「桜木さんも、学校に行こうとしてたんですよね?」
「散々不登校をしてな、大学とか専門なら合うかもねって。手に職が有れば、病弱でも何とかなるかと思ったんだけど。多分、落ちてたよ、基礎がクソだもの」
「ココでも通ってみませんか?」
「えー、何か、ちょっと無理かも。学歴が関係無い仕事が良いな、楽でヒマで程々に稼げるヤツ」
「それこそ、好きな事をして良いんですよ?」
「じゃあ引き籠もり」
「マンガ読み放題、ですか」
「なんだよー」
「いえ、人と関わるのが苦痛なら、ちゃんと言って下さいね。僕でも、苦手だって思ったら交代して欲しいって言って下さい」
「ショナは平気、大きい大人の男の人が苦手なのよ」
「じゃあ武光さんって」
「ちょっとは苦手だけど、ギリギリ平気」
「だから瑞安さんを選んだんでしょうかね」
「人が良さそうだからでは?ニコニコしててワシよりお人好しに見えるもの」
「武光さんの言う様に、どう判断すべきなんでしょうね、良い人か悪い人か」
「それこそ、魔導具とか?嘘発見器みたいなの」
「有ると良いんですけどね」
「無いのは、アレか、タケちゃんが言ってた魔導具反対派みたいなのか」
「正直、こう調べていくとそうなのかなとも、思いますね」
「そうなると国連じゃん、デカ過ぎないか?」
「大きい組織程、人も多いので」
「そうか、急務なのに、また眠い」
「下調べは任せて下さい」
「すまん、頼んだ」
桜木さんはベールがすっかり気に入ったらしく、こうしてお昼寝でも使う様になった。
もう、何かしらのコンプレックスを抱えているのに、相談はして貰えず。
それとも、僕が男だから?
ならミーシャさんに相談してるだろうし、でも。
いや、もう少し待とう。
いつか話して貰える時の為に、出来るだけの下準備をして待っていよう。
おタケとハナちゃんが一緒に寝ても問題無し。
何故なら、やっと本編を観れるんだもん。
けど、今日の分しか観れないの、明日のが観たかったら明日まで早送りするしか無い。
『連ドラかっ』
おタケは熟睡中で、今は俺だけ。
でもハナちゃんが美味そうなの食ってくれるから助かる、メシで暇潰しって正直アリ。
しかも一緒に同じメシを食って、同じ様に景色や人を眺めて。
何か、ちょっと勝手に親近感が湧くよね、一緒に生活してる家族みたいでさ。
まぁ、向こうは俺の事を全く知らないからストーカーの方が正しいんだけどね。
あれ、コレあれかな、いつか会えるってなったら引かれるかな。
あぁ、このワクワクテンションは引かれちゃうよな、ちょっと落ち着かないとな、変な性癖出してドン引きされたら気持ち良くなっちゃって、またドン引きされて。
あ、それも良いかもなぁ。
はぁ、会えないかなぁ。
あの神が不穏な事を思ってそうな感覚だった、無表情なまま、ただただ画面を眺めてる映像で。
夢だったのか、何なのか。
柔軟しながら考えたのだが、サッパリ分からん。
「タケちゃん、空から男の子が」
「ほう?」
「武光さんの事ですかね?」
「いや、金髪の少年…ショナ何か連絡来てる?」
「いえ、まだ何も」
「ちょっと下に行こうショナ。何もなかったら直ぐ戻る、クーロンおいで、カールラも」
『《あい》』
「俺も行く」
俺なら直ぐに場所も分かって、助ける事は出来るんだが。
ハナも大男が苦手だと言うし、やはりココはハナに任せるのがベストなんだろうな。
『14才です』
「わ、若いなぁ…困った……もうあれだ、ココは異世界です」
『変な番組の何かですか?それか、僕を誘拐しても大したお金にはなりませんよ』
「普通そうなるよね。でもマジなんだ」
「俺もそろそろ自己紹介をしよう。李 武光だ、タケちゃんか、お兄ちゃんと呼んでくれ」
ココでハナも周りも手で制し、エミールの様子を見る。
中国語は分からない筈だが。
『そんな、知らない人にお兄ちゃんは無理ですよ』
「ほう、中国語を知っているとはな」
『え、いや、アレ?』
「ニーグンツーフートーフェィシャー、你个子很高很帅」
「エミール、意味分かる?」
『背が高くて、ハンサムです』
「コレは転移の恩恵だと思う」
「そっか、ワシ向こうだと中国語は知らんかったよ、チェンシェンシャイグ-、健身帅哥」
『じゃあ、脳に何か機械を』
「そう着地するか」
「したっけ、たげ訛れば分かるんだべか」
「だったら、凄く訛るのは分かるんだろうか」
「おぉ」
『あの、今のって』
「わぃー、きまげるじゃ」
『あ、すみません』
「嘘ウソ、イライラして無いよ、寧ろ感心してる。青森弁通じるとか新鮮だもの」
「妹、もっと、そうだな、同音異義語は無いのか?」
「え、すすぃ、すす、すず、すんず」
「寿司、煤、鈴、神事?か?」
「おう、凄いな恩恵」
『あの』
「お、エミールも有るか同音異義語」
『えっと、小麦粉の花』
「ぉお」
「いや、タケちゃん、楽しまんでくれよ」
「すまん、そうだったな。その手の小さな傷を治す所から始めてみないか?」
「だね、泉で軽い怪我は直ぐに治るんだけど。あ、服とかはそのままで大丈夫よ」
俺が早々に介入したせいか、ハナが泉へ入りながら手を。
「ハナ」
「入ってみた方が安心出来るかと、ほれ、大丈夫よ」
『温かい、ですけど』
「上げてみ、直ぐ乾くべ、匂いも無し」
『はい……』
「緊張感と警戒心と、服が張り付く感覚で寝るのなんて無理だと思うじゃん?けど妖精女王さんとか居るので秒で寝れます」
《ティターニアです、宜しくお願いしますね》
「入らなくても良いけど、ほっとくとかは無理よ、君は未成年で怪我もしてるんだから」
『あの、この目は』
《貴方の目を一瞬で治す事は出来ませんが、擦り傷であれば直ぐに治ります》
「エイル先生はどうだろう」
《楽勝じゃろ》
「そうだ、今のはドリアードだ、触って確かめてみるか?」
『誘惑するって言う、御伽噺のドリアードですか?』
《じゃの!エイルはユグドラシルじゃが、このまま案内するか?》
「酔うんだよなぁ」
『あ、あの、無理して泉に入らなくても大丈夫ですよ』
「君が納得すっ」
「ドリアード」
《だって困っとるんじゃもん》
『あの、さっきの方は』
「ユグドラシルだ、帰してやれドリアード」
《今か?連続は吐くと思うぞ?》
「あぁ、酔いは治せないのか」
《アレも目が良く無いらしいでな、仕方無いんじゃと》
「そう急に送るからだろう」
《準備させても変わらんと思うがのぅ》
『あの、水から上がった音がしないんですけど』
《そうじゃよ、向こうで水から出ておるんじゃし》
「生きてはいる、筈だ」
《カールラ迎えに行く》
『クーロンも』
「あの、僕も良いでしょうか」
「今のは神獣と従者だ、分かった、行ってこい」
『あの、そう体を張って頂かなくても』
《そう心配するんじゃったら入ってみたら良かろう》
「こら、そう煽るな。先ずは傷を治し」
「ぅう、吐いたらごめん」
「妹、カールラ達はどうした」
「へ、わがんない」
「桜木さん、すれ違いで、大丈夫ですか?」
《吐く?》
『何かお話する?』
「トイレ、吐く」
こう、早々に介入するとこうなるのか。
久し振りに吐いちゃった。
「はぁ、胃液だけだったわ」
「なら歯磨きをしてこい、歯は大切だ」
「ふぇい」
ドリアードやクーロンを触らせて何とか納得して貰えて。
タケちゃんが介入したから直ぐに納得して貰えると思ったんだけど、そう上手くいかないもんね。
「すまなかった、言葉だけでは無理だったな。邪魔をした」
「いや、タケちゃんでも上手くいかないもんなのね、上手く行きそうだったのに、不思議」
「言葉より、体験、体感する事を優先してきたんだろう」
「あぁ、じゃあアレは故意にやられたのか」
「だろうな」
「難しいな、見えない人に信じて貰うのって」
「全くだ、もう少しスムーズに受け入れる方法を。そうだな、信頼を得てから、本人から直接聞くか」
「確かに」
そんで少し動きたいって言って、オベロンと訓練始めちゃって、しかも少しキレ気味。
つかマジで強いな、凄い。
『やるじゃんか』
「偶々だ。よし、妹、治してくれ」
「いや、そんな」
《もう少し先にと思っていたのですが、練習してみますか?》
「そん、マジで?」
「木も骨もそう変わらないだろう」
「なんつー暴論を」
《いえ、似た部分は有りますよ》
「マジか」
「俺を使え、それとももう少し大怪我の方が良いか?」
「いやいや、コレで、練習になるよね?」
《はい》
「じゃあ、お願いします」
そして、死の天使の登場。
何回見ても驚く顔が面白いな、ハナは。
【私で良ければ、教えましょうか】
「ひゃぅ」
「アナタは」
【通りすがりの死の天使です、どうも】
「ほ、はい、桜木花子です」
【痛覚遮断で宜しいですか?】
「ひゃい、やば、ひゃっくりが」
「このしゃっくりも頼む。それと、誰も殺さないでくれよ、俺は練習に戻る」
前の俺はただ殺気立っていただけで、それが却って最後まで踏み込めない原因だったと思う。
今度こそ殺す、邪魔なモノは全て、例え神でも。
『相当鍛錬したな』
「いや、まだまだだ」
冷静に、確実に、誘い込まれず、隙を見つけ出す。
「タケちゃん!」
窮鼠猫を嚙む、やはり油断は禁物だな。
つい、勝てるかもと喜んでしまった。
『ふぅ、危なかった、すまんな』
「いや、油断した」
「いやいや、腕が吹っ飛んだのに普通に喋る」
「おう、今は痛く無いぞ?」
「まだ何もしてないわ」
「そうか、頼んだぞ妹、深呼吸だ」
「もー、止血してて」
腕を繋ごうと必死に。
急だったからか、こんなに震えて。
緊張しないと言っていたが、コレは流石に無理か。
「すまん、そう緊張してくれるな」
「無理、マジ無理」
「悪かった、そう歯を食いしばるな」
「歯軋りしてやるからな、覚えてろよ」
「おう」
なのにちゃんと集中出来る、お前は凄い、凄い奴だ。
もう、映画みたいに腕が宙を舞ってさ。
もうね、頭が真っ白になったよね。
【うん、上出来だ】
「はぁ、死ぬかと思った」
「助かった、凄いな妹は」
「ケロっとしやがってぇえ」
「すまんすまん、信じてたんでな、心配は皆無だった」
「信頼が重い」
「まぁそう気張るな、回数をこなせば良いだけだろ」
「ワザとはダメ」
「いや、アレは本気だった」
『あぁ、だな』
「もー、命のやり取り禁止」
「ならもう1回か」
『おう、良いぞ』
「もー、ティターニア」
《はいはい、休憩させてあげて下さい》
【そうだな、良く頑張った】
「いや、まだいけるだろう、自己回復なら」
【あぁ、残念だけど余力は有る】
「よし、なら応用編だ、限界を越えるぞ、ストレッチのな」
【君の兄は厳しいな】
「ぅう」
他人を実験台にするよりマシだけど、初めて聞いたよ、体の悲鳴。
「次は腹筋だな」
うん、イメージは掴めた気がするけど。
「急にスパルタ」
「内臓は下がり過ぎても良く無いらしいんでな、応急処置だ。休憩しよう」
飴と鞭が凄い。
精神的にも堪えたのか、ハナは眠ってしまった。
そして俺はハナが目覚めるまで、再びタブレットに履歴を残す事に。
「はっ、腕は」
「すまん、もう大丈夫だ」
「はぁ、トイレ」
「おう」
《甘いんだか厳しいんだか分からんのぅ》
「出来る時に、だ」
「また勉強かタケちゃん」
「おう。コレからも筋トレとストレスはするんだぞ妹。働くにしても引き籠もるにしてもだ、健康は必要だろう」
「ふぇい」
「どうして戻りたく無いのか、聞いても良いか?」
「健康、人、かな」
「家族は良いのか?」
「ワシお荷物じゃけ、ずっとお荷物だったから、まだ役に立つのか不安。コレだって必要無さそうな位に、医療とか科学が進んでるじゃん」
「だとしてもだ、男同士ですら妊娠は不可能なんだ、まだまだ伸びしろは有るだろう、ハナにもココにも」
「それ、魔導具で女になるのはダメなのかな?」
「そうだな、男のままでホルモンを女性化させる方が大変な事になりそうだし、良いと思うが」
「あぁ、ホルモンの影響か、そっか。癌とかになったら困るものな」
「そう考えると、病院に世話にならない年は無かったな、怪我に健康診断に」
「あぁ、タケちゃんもか、格闘技はそっか」
「通院回数でも競うか?」
「お、なら入院回数だな、2桁ぞ」
「喘息か?」
「違うのよぉ、ヘルパンギーナ分かる?5才過ぎでもなりまくってた」
「糖尿病は無いんだよな?」
「無いの、体重以外は何も、あ、目は悪かった」
「かった?」
「小児乱視って、治る乱視、眼鏡で治った」
「なら、捻挫の回数にしとくか」
「負けないぞ」
「成程な、だから運痴か」
「おう」
『あ、の』
「お、エミール君」
「あ、煩かったか、ごめんね」
『いえ、すみません、聞いちゃって。もう大丈夫なんですか?』
「吐いたのは、あぁ、今は健康そのものよ」
「だが最初は殆ど意識不明状態だったんだろう?」
「インフルエンザに罹った状態で転移してね、気が付いたら病院で防護服に囲まれてた、ゲームの世界なら死んでたね、重火器を扱えないし」
「あぁ、アレか」
『あの、言語以外に、どうやってココが異世界だって信じたんですか?』
「こうやって泉とかで回復すると、髪も爪も異常に早く伸びるから、そこで異世界なんだなってちょっと思った。凄い食っても勝手に痩せてくし、痛覚を遮断してストレッチ出来て柔らかくなったし、天使さんも居るし、魔法が使えるし」
「だな、妄想なら俺には魔法を受け入れる事は難しいと思う、自分の体と科学しか信じて無かった。そうだな、歴史を知って俺は異世界なのだと実感したぞ、そこまで細かく脳内で構築出来るきめ細やかさは無いんでな」
「そうね、ワシの知らない事が存在してるからね」
「それと魔法と神獣、適応する為にも眠気と空腹感が凄いが。どうだ?腹は減らないか?」
『いえ、別に』
良い音だ。
「良い音だなエミール君」
「何でも有るでよ、アレルギーは?」
『無いです、すみません、何でも食べれます』
「なら、エミール君が食った事が無いモノにしてみるか」
「梅干しとか漬物いっとく?」
『はい』
こうチャレンジ精神が有るのが素晴らしいんだよな、エミールは。
「苦手なら残しな、ワシが食うから」
「いや、昆布の佃煮なら俺が貰う、良い塩梅で懐かしい味な気がするんだ」
『大丈夫です、このあまじょっぱいのが懐かしい味なんですか?』
「こうした甘辛い味付けの元祖はウチだろう」
「否定せんわ、ラーメンも君の所だと思う」
「ココにも有るか分からんが、常州市の銀糸麺、塩城市の魚湯面も美味いぞ」
「食いに行く?瞬間移動が出来るのよ、魔王のお陰で」
『ま、魔王?』
「安心安全良い魔王」
「しかも2児の父親だ」
「そう言われると照れ臭いですね、角が有るんですけど触ってみますか?」
『え、いえ、いいです』
「そうですか、残念です」
「よしよし」
「まぁ、目が治って見てみたらいいさ、結構な美丈夫だぞ」
『あの、どうしたら治るんですか?』
「妹」
「無理無理、怖いもの、エイル先生に頼むか、人間の病院に行くかよ」
『その、エイル先生って』
「北欧のヴァルキリー、医神のエイル先生、エリクサー作りも教えてくれた」
「エリクサーは魔素の回復薬だ」
『あの、ドリアードさん』
《おうおう、なんじゃ?》
『お世話になっても良いんでしょうか』
《そんな大袈裟な事でも無いんじゃが、来て見せてくれ、とな》
「食い終わったら行くか」
「任せるよエミール、移動だけ体験しても良いし」
『じゃあ、はい、お願いします』
慣れない、しかもミーシャも来て吐きそうになってるし。
「ぅう、ミーシャ、待ってても良かったのに」
「ぃぇ、大丈夫ですぅ」
「この子はエミールだ、大丈夫かエミール君」
『僕は大丈夫ですけど』
『私はウルス、宜しくお願いしますね。そしてココは』
《《ユグドラシルのヴァルヘイムですぞ!》》
「デッカいカラスさんやで」
『風圧は有りますけど、羽音が』
「フギンとムニンだから、だろうか」
《ですぞ、触りますかな?》
《ちゃんと清潔にしてるですぞ?》
「触るぅ、ツルツルやんけ」
『本当だぁ、温かい』
『クーロンもなの』
《カールラもなの》
「お、嫉妬ドリルか」
「嫉妬ドリルで抉れるぅぅう」
『ふふっ』
《さ、道すがらお話しますぞ》
《ココのラグナロクのお話ですぞ》
話し好きで助かる。
ココは前回通りだな。
《エイルー、患者ですぞー》
《患者を連れて来ましたぞー》
『はいはい、落ち着いて。どうも、エイルです』
「お久し振りです、エミールを少しお願い出来ますか?」
『勿論よ。エミール、早速診察していいかな』
『はい』
『はい、じゃあ彼のプライバシーもあるでしょうから、皆はこのまま外で待ってて』
「おう、じゃあエミ」
『い、あの、一緒に、居てもらえますか。ハナ、さん』
「おうよ」
問題はココからだ、コレから始まる病歴の披露に加わるかどうか。
いや、ココは控えておこう。
武光さんはタブレットを触って、通信が出来無いとなると少し溜め息をついた。
勉強熱心で文武両道で、こうなりたいと思っていたのに、僕はまだまだで。
「おやすみエミール」
『はい、お休みなさい…』
エミール君からの信頼を得るサポートも、僕は出来ず。
『よし。ハナ、エリクサー作りは進んでる?』
「いやぁ、すんません」
「俺が頼んで、治療魔法を会得して貰った、痛覚遮断もな」
『あら凄いじゃない!』
「マジでもうさ、直ぐに腕を吹っ飛ばして、頭真っ白だったわ」
「だが成功したんだ、違和感も何も無いぞ」
『見せて見せて。うん、うんうん、凄い凄い、良い子良い子』
武光さんとオベロンの模擬試合は壮絶で、僕は目で追えない時が有ったのに、目が悪い筈の桜木さんですら目で追えていて。
素地と言うか、根本が違うのだと分かった。
いずれ桜木さんとの模擬試合も、僕が負けるのかも知れない。
「それでなんだが、少し人間の用事がな」
「うん、エミールをお願いします」
『勿論よ』
《我々もですぞ》
《お守りしますぞ》
「それとミーシャ、瑞安も頼むよ」
「はい」
《お任せを》
「よし、じゃあ行こか」
『《あい》』
そして魔王に空間を開いて貰い、省庁へ。
この能力もそう、確かに人間だけの進化の限界点なのかも知れない。
もっと魔道具が進化していたら、もっと何か出来ていた筈かも知れない。
ショナ君の挙動が前と違う。
非常に思い悩んでいると言うか、何なら落ち込んでいると言った様子。
「柏木さん、おはよー」
「おはようございます、桜木様」
「初めまして桜木様!賢人です!」
「あ、はい、どうも…」
「妹は人見知りでな、すまん」
「あ、いえいえ、宜しくお願いします」
「どうも」
「そうだ、引き継ぎはどうやってするのか少し確認したいんだが、立ち会っても良いか?」
「ええ、どうぞどうぞ」
「じゃあ、向こうで」
「では、桜木様」
「おう」
うん、明らかに様子がおかしい。
「どうした、ショナ君」
「限界点を感じて、僕なりに調査に出ようかと」
「へ?」
「待て待て、そうだな、先ずは賢人にもその事を話すか」
「はい」
万能鉄仮面のショナさんが、限界を感じてるって。
しかも、人類とか世界の限界点、神様の協力無しじゃ伸び悩むだけとか。
「マジで、どしたんすか?」
「武光さんとオベロンの模擬試合で痛感したんです、僕は目で追えない時も有ったのに、桜木さんは目で終えてた。しかも、少し目が悪いのに、ですよ」
「あぁ、それこそ恩恵だろう」
「ですけど、これじゃあ僕ら従者はただの役立たずで、足を引っ張るだけの存在になってしまう。なら、内調や隠密任務に」
「待て、まだまだ俺らは出来ない事や足りない事がだな」
「それも時間の問題で。なら、僕らが出来る事は、より良く、スムーズに動ける様に補佐する事なんじゃないかと」
「ショナさん、自信が無いからって直ぐに引くのはダサいっすよ?」
「別に僕は」
「いや、出来る事をしようってのは分かるんすけど、武光様がまだ必要としてくれてんのに、どうせ役に立たないって投げ出すのは責任感が無さ過ぎじゃないっすか?」
「待て、そう悩ませるに至った経緯が有るんだ、聞いてくれ……」
いや、確かに男同士で妊娠出来無いっすけど。
そこだけを軸に。
「え?武光様って」
「いや、俺は異性愛者だ。それはこの話の主軸では無い、気付く切っ掛けに過ぎないと言う事だ。どうして魔王の様に誰もが空間移動出来ないのか、どうして誰もが性別を自由に選べないのか、どうしてそうなっているのか」
「武光さんはそれを、既得権益や何か、裏が有るのではと考えているんです」
「あー、どっちの国だろ」
「どっち、とは」
「理想郷か、旧米国っすね」
「あぁ、そうか、1国では無いのか」
「なので、僕がオセアニアに潜入しようかと」
「いやいやいや、いきなりは不味いだろう、せめて準備をだな。魔道具をコチラでも準備させる、それからまた話し合おう」
「そうっすよ、俺と桜木様が合わないかもだし」
「人見知りは人見知りですけど、武光さんも居ますし、打ち解けたら早い方なので」
「だとしてもだ、1度ちゃんと話し合おう」
「そうっすよ、動くにしても打ち合わせは大事っす。すんませんでした、煽る様な事を言って、全体を考えてくれてたんすよね?」
「違うんです、僕の弱さを認識しただけで」
「いや、ショナさんがへっぽこなら俺とかマジでクソの役にも立たないじゃないっすか」
「あくまでも僕個人の感想なので、賢人君なら別視点から何か出来るかと」
「なら、しっかり休んで更に視点を変えて考えてくれ、良いな?」
「はい」
凄い、自信無さげ。
初めて見るかも、そんなに凄いんすね、召喚者様って。
どうしてこうなる。
「あ、タケちゃん」
「どうだ、コッチは」
「申し訳ございません、ホムンクルスについては暫くお待ち頂く、と言う事になってまして」
「そうか、国連か?国か?」
「両方ですが、私としては賛成です。そして、内情を探るべきかも知れませんね」
「オセアニアって知ってる?」
「あぁ、今さっき聞いた」
「人間だけの道が限界点に到達している。なら、それを突破するには、そして障害となるモノは」
「オセアニアと旧米国、か」
「はい」
「何か、参謀とか欲しいなぁ」
「そうか!確かにな、内戦も起きかねんなら確かに、そう言った軍師的な存在は、誰か居ないか?」
そうだ、効率を求めるなら時には人を頼るべきだった。
「そう、ですね、少しお待ち下さい」
「あぁ、頼む」
「はぁ、ホムンクルスから内戦か、嫌だな、戦争は」
「だな、だがココには魔法も有るし神も居る、そうなる前にケリを付けよう」
「おう」
「先ずは魔道具か、ショナ君が潜入しようとしている。早々に準備しないとな」
「マジか、危ないじゃんか」
「準備が整うまで動くな、しっかり休めと言ったんだが、どうだか」
「隠密任務用って、何が良いだろ」
「姿を見えなくする魔道具は必須だろうな」
「それと、通信機?」
「武器も欲しいな」
「寧ろそっちが先?」
「いや、ココの神に協力を仰ぎたい、しかも知恵神なら良い案も出るかも知れんし」
「お待たせいたしました、安全性を最優先に候補を出しました」
「ほう」
「北海道の精神科医の先生が何で?」
「その方は元は戦略部門の方で、何故、人は争うのかと畑を変えて研究してる方なんですよ」
「五十六、ほう、精神科医か。俺とハナも、いや、国や国連に報告されても不味い、か」
「それは困る」
「少なくとも嘘を見抜ける魔道具等の促進派ですし、経験豊富なエルフの精神科医も近くに居りますので、大丈夫かと」
「柏木さんと年が近い?」
「まぁ、国防大学では同期生ですが、会った事は殆ど無いですし。お互いを書類を通して知ってるかどうか、ですね」
「そのエルフの資料もくれるだろうか」
「はい、コチラです」
「わぉ、イケメン」
「ですが年齢は3桁なんですよねぇ」
「180て、ミーシャですら100なのに」
「長寿種は見た目では分からんな」
そしてこう、コチラが選別する側なのは有利だな。
次こそはおかしな挙動をしたら排除してやる。
「あ、それと神様に会おうかと」
「オモイカネ様から連絡を頂いてまして、お会いしたい、と」
向こうですら会った事が無いのに、コレは一体。
「おー、会いたい」
「その後に、クエビコ様へと。宜しいでしょうか?」
「あ、あぁ、俺も立ち会えるのか?」
「いえ、オモイカネ様は今回は無理なのですが、クエビコ様は大丈夫かと」
「すまんー、ワシだけ会いに行ってくるおー」
「おう、頼んだ」
「おう」
何が、どうなっている。
液体金属の神様。
水銀って確かに不老長寿とか神秘的な話が有るけど、それが神様って。
しかも容器が機械に繋がれて。
【クエビコに渡して欲しいモノが有る】
モニターに表示されてるのがオモイカネさんの言葉、らしいけど。
騙されてるのかしら。
いや、でも、神様なら見抜いてくれるだろうし。
「あの、何を?」
【蓋を開けて指を入れて欲しい】
「いやいやいや、一切触れるなと」
【目は盗んである、早く】
仕方無しにオモイカネさんの入った瓶の蓋を開け、指を突っ込む。
そして液体金属が上に伸び、指に僅かに触れた、かと思うと直ぐに離れた。
指を見ると指紋の溝にキラキラが、大丈夫かしら、水銀って体に毒よね。
「あの」
【後は任せた】
もうね、出る時が最高にドキドキしましたよ。
頼まれたとは言え、確実に悪い事はしたので。
けど神様と会って緊張したんですねって感じで、普通に帰してくれた。
そしてクーロンに魔王やタケちゃんが待つ場所まで飛んで貰って。
「はぁ」
「流石の妹も緊張したか」
コレ、まだ言わない方が良いよな、巻き込む事になるかもだし。
「おぅ、殆ど話せなかったし、クエビコさんの所に行こう」
「おう」
妹がソワソワしていた理由は直ぐに分かった。
オモイカネ神の片鱗を運ばせられたらしい。
『すまんな、ウチのが迷惑を掛けた』
「はぁ、騙されてるのかとビビったよぅ」
「コレはどう言う事なんだ?」
『我々は国の要、機密事項、同じ場所には居られず、連絡も一方的な側面が有る。そして神々の介入を願われても、連携を取るには不十分な存在。なら共同体を新たに作るべきだ、との同意に至った』
「そこまでもう話が伝わってんの?」
「ドリアードか」
《じゃの、許可を頼む》
『あぁ、正式な許可を与えよう』
《ふぅ、ココでも活動するには情報共有が条件じゃったで、すまんがベガスでの事も共有されとる》
「それは別に良いけど」
「なら、旧米国の神々にも伝わっていると言う事だな」
『あぁ、互いに一時的な許可を出し合っていたに過ぎなかったが、今、正式な合意を得られた。介入の規約を変える良い機会だ、とな』
「それで、その、共同体って?」
『お前の計画するホムンクルス、もう1体追加してくれ』
「は」
『我らは動けぬでな、ドリアードと同じく付き添うには、個体を得るべきだとの結論に至った』
「あらま」
「いや、待ってくれ、それだと過度の介入になるのでは」
《見聞きするだけじゃったら介入でも何でも無いじゃろう、なぁ、天使や》
『お邪魔致します』
『あぁ、許可する』
『私達は見聞きした事を全て主に共有しています、そして介入する場合には現地の神々や精霊に許可を得る。見聞きを介入とするなら、それは神々すらも否定する事になる、そうした地域を我々も理想郷と呼んでいます』
「あぁ、そっか、そも媒体が無いと情報共有が難しいのか」
《じゃの、しかも我ですら情報の共有は難しい、となればより高度な媒体》
「人間か、だが」
『何が心配だ』
「まだ、俺らは空間移動も得られて無いのにだ」
《そう直ぐにホムンクルスの準備は無理じゃろし、時間はまだ有るじゃろ》
「だとしても」
全く予想もしていない事で、本来にも無い道筋で。
だが、コレを拒絶するには理由が足りない。
「守れないから怖い、的な?」
「あぁ、俺が付きっ切りになるワケにもいかないだろう、まして人の体だとしたら能力もどうか」
《魔道具に武器じゃったか、それなら用意も有るでな、心配するでないよ》
「なら、良いんだが」
「あのー、人間の用事はどうしますかね?」
「何かあったっけ?」
「あぁ、エミールの国のか」
「うっす」
《ならばサッサと行って来い、待ってるでな》
コレは、どう動くんだ、どう動けば良い。
何か悶々とするタケちゃんと共に、大きな時計塔の裏道に出たけども。
「あぁ、挨拶か、良い機会かも知れんな」
タケちゃんの不審な呟き、それと厳戒態勢で流石に気付くよね、女王陛下じゃないか、この先に居るのって。
『では、コチラへどうぞ』
「待った、コレ」
「あぁ、女王陛下との謁見だろうな。任せておけ」
いや、頼もしいけども。
良い機会だ、ココで神々の介入について意見を聞いておこう。
「案内ご苦労でした魔王。そして良く来て下さいました召喚者様、そして神獣様も」
「李 武光だ」
「桜木花子です」
「早速だが意見を伺いたい」
「はい、何でしょう」
「神々の介入、そして魔道具の進化について。そうだな、一個人としての意見を聞きたい」
「一個人、ですか」
「あぁ、女王としての見解なら調べれば出るだろう。だが、世界を見て来たアナタが、どう思うか。男同士でも魔道具で妊娠が出来る、そうしたより良い世界についてどう思うか、だな。因みに俺は異性愛者で、魔道具の事はモノの例えだとでも思って欲しい」
「そうですか、素晴らしいと思いますが。では何故、どうしてココで実現されていないのか。成程、だからこそ神々の介入についても訪ねているのね」
「あぁ、折角居るのに、どうしてココまで抑え込む必要が有るのか。関わりたいと願われてるウチが花だと思うが、どうだろうか」
「医療や科学の発展の為に、嘗て条約が結ばれたとは聞き及んでいますが。では、いつまでなのか、それについては明記は無かった。なら、もう解禁しても良いと個人的にも思います。けれども」
「オセアニア、そして自治区」
「はい、力が無いからこそ怯えるモノの為の国、だったのですが。物質は必ず変質する、なら人の思いも当然変化している。フィラスト、協力してあげなさい」
「ただエミールにはそこまでの話は出来ていない、自由に動けず未成年だ。追々、説明させて欲しい」
「分かりました、お任せ致します」
「うむ、時間を取らせてしまったな。すまない」
「いえ、ではまた」
物怖じしないにしても限界が有るよ、タケちゃん。
「物怖じって知ってる?」
「知らんな、まるで意味も分からん」
「ヤバいっすね武光様、俺の方が緊張したかも」
『では、紅茶でも如何ですか?』
「いやいやいや、無理っすよ、食器とか高そうだし」
「分かる、けど興味も有る」
「折角だ、打ち合わせも兼ねて一息入れよう」
『では、ご案内致します』
凄い素敵な応接間にはアフタヌーンティーセットが。
「きゃわわ」
「すまんがマナーを教えてくれるか」
『非公式ですし、お好きな様にどうぞ』
「でも公式で緊張する前にお願いします」
「だな、頼んだ」
『では……』
先ずはラーメンみたいに素の紅茶を飲んでから、好きな様に砂糖やミルクを入れる。
そして軽い具材のサンドイッチから、重い具材の順に食べる。
次はスコーン、次いでケーキ類。
偶にサンドイッチが上段で、ホカホカのスコーンが下段の時が有るけど、ケーキ類を最後にすれば良いらしい。
だけ、だと。
「まるでラーメン」
「ふふっ、そうっすね」
「スープに麺に、成程な」
『ですがココは非公式ですし、お好きにお食べ下さい』
なら温かい物から食べるのが日本人ですよね、賢人君も同じ事を思ったのか先ずはスコーンへ。
「フィラストさんのオススメの食べ方を教えて下さい」
『そうですね、コレ位は載せますね』
盛り盛りのクロテッドクリームに、ラズベリージャムをその半分にも満たない程度に載せて。
「うん、成程」
『順番を変えるとまた違った味わいになるので、お試しになってみて下さい』
「うん、ありがとうフィラスト」
バターや生クリームとも違うクロテッドクリーム。
小皿が盛り盛りな理由が分かった、コレを食う為の生地なのよな、スコーン。
ハナが落ち着いた所で、今後の方針を話し合う事に。
「魔道具を入手するまで、大きく動く事は避けて欲しい。出来るだけ、近日中には入手する予定なんでな、日本の従者と連携を取って貰えたらと思う」
『それまでに下準備や調査を済ませておきますね』
「そして動く時は知らせて欲しい、大きく動かれたらリカバリーも難しくなるだろうから、最小で遂行して貰いたい」
『はい』
「タケちゃんは数人とかじゃなくて、かなりの人数を想定してるって事よね」
「でなければ最悪の想定の国連まで手を伸ばせてはいないだろう」
『国連も、ですか』
「あぁ、厄災規模の何かが起きるとするなら。巻き込まれてる可能性は高いだろう」
『そうですね、長年の平和の中で、腐敗している可能性は高いかと』
「既得権益ってもさ、例えば?」
「先ずは空間移動、運送業には大打撃だ。そして嘘を見抜く魔道具も、嘘つきには邪魔なだけ、そして性別を変える魔道具、製薬会社に医師会、どこまで分かって加担しているかは不明だが、それらに携わる者は無職になり兼ねない」
「いや、無職を大勢出すのはダメだろう」
「だからだ、無職も出さずにスライドさせていくには、今から、だろう」
『そうですね、医師や製薬会社が徐々に方向転換すれば良いだけですし。配るにしても先ずは絞ってから』
「でもさ、そう既得権益だけで徒党を。そうか、科学も神も否定してる人達が利用する側なのか」
「果ては進化の否定に繋がる論を持ってる連中なら。頭を押さえても、既得権益とは直接繋がりを見出せない」
『ましてや全員が全く同じ信条で動いているとは限らないなら、ですね』
「気付けないもんかね?」
『少なくとも表面上は無難に過ごし、何代にも渡って信念を共有しているなら、可能性は有るかと』
「そして召喚者の出現を切っ掛けとし、何かをする可能性を秘めている」
「勝手に信念を持ってて良いから、広めたがらなければ良いのに」
『他者が愚かで無知だと思っているからこそ、教えたくなるのでは』
「善意の裏返しと言うか、純粋な善意っちゃ善意なのよなぁ」
「ましてや悪に加担している感覚が無ければ、罪悪感も無いだろう」
「それでさ、マジで害そうとしてる人が居たら、人間の限界点だって事になっちゃうよね」
「だな」
ティータイムを終え、エミールの為にシェパーズパイやハギスを買い、ハナにはスノードームやぬいぐるみを買わせ。
ユグドラシルへ。
そして全員で食卓を囲む。
ある程度腹が満たされているハナはエミールの世話を焼き、俺はエイル神と相談する事に。
『介入の事?』
「あぁ、流石に話が早いな、助かる」
『勿論賛成よ!大手を振って熱心な子に教えられるなんて、最高』
「そうか、なら良いんだが。他の神々はどうなんだろうか」
『あ、でもロキは除外させて、それにヘルも。皆が皆介入したら混乱しちゃうから』
「あぁ、分かった」
『ふふふ、後は厄災を無事に過ごすだけね』
それが1番難しいと言うか、特に今回は本来とはかなり違う筋道。
良い方へ向かってくれれば良いんだが。




