3月2日
おタケが消えたと思ったら、映画館に現れた。
それからハナちゃんの映像に切り替えて、どうしても手足を失ってしまうのかと呟いた。
それからはもう黙って宇宙しか映らない映画を眺めて、泣き続けて。
『もー、泣くなってば』
「無理だ、このまま誰にも見付けられなかったら、ハナは」
『本来はどうなの?』
「通信機を付けるらしいんだが、この内部映像は観れなかったんだ。今となっては、メイメイの配慮だったんだと思う」
『なら、この後に付けるかもじゃない』
「生きる気力が、希望が無ければ、生きようとしないかも知れないんだ」
『こんだけ移民を連れてるのに?大丈夫だって、責任感は有るんだもの』
「だが、シュブニグラスの集めた人間だと思えば、自分ごと消すかも知れない」
『そんなさ、妹がヤっちゃったからって卑下する事無いじゃん』
「そう言うワケでは」
『ハナちゃんも大人なんだしさ、信じてあげようよ。今回は、それが足りなかったと俺は思うよ?』
「そう、だが」
『仕方無いな、早送りしてやろう』
「おい」
「リズちゃん、おはよう」
「なんで、ボロボロになってる」
「ミスった」
「だろうよ」
「一瞬心が、ミスった、すまん」
「精霊が、報告書すら出してくれないんだ」
「あら、出してどうぞ、全部」
《はい》
「やっとか、何が有った」
「色々、方舟は」
「どっちのだ」
「どっちも」
「機械のは全滅だ。黒山羊は」
「なに」
「普通の黒山羊に戻った」
「いや、前は手乗りで」
「しかもメ~、しか言わん」
「なにその狐に化かされた話」
「俺が聞きたい」
「中身は」
「無事だ、別の病院で検査中。アポロこと、鈴木千佳子も、使節団員3人も無事だ」
「はぁ、マジか、良かった」
「良くない、何で治らない」
「聖痕で原罪的な?」
「んなワケ有るか、有って堪るか。皆で決めたんだ、何でお前だけ背負う必要が有る」
「別に独りで済むなら良くない?そこらの子供に背負わせたく無いし」
「無いんだぞ、脚も、腕も」
「そこはこう、義体で宜しく。科学の発展に献身を」
「で、治さない理由はソレだけか?」
「治さないって意識は無かった、蝶々見てて眠っちゃって、そっから意識が無いんだが?」
「だろうな、クーロンが引っ張って地球に連れて来たら、黒山羊がドロドロ溶けて、お前だ何だと出て来て大変だったんだからな」
「あー、グロそう」
「お前は意識が戻らないわ、再生する気配も無いわ。千切れた腕と脚はどうした」
「知らん」
《即座に吸収されました》
「で」
「で、気が付いたら黒山羊ちゃんの中でして」
「あーもー、クーロンが見失ってからもう、大変だったんだからな」
「被害は?」
「竜種が怪我した程度だ」
「あの肌色、ワシ狙いだったんだもの」
「だからって向かうか」
「おう」
「なら、なんで心が折れてミスった」
「今度で良いか、それ」
「あぁ、だが下の検査はして貰うぞ」
「おう」
病気も怪我も妊娠も無し。
タケちゃんが報告したのかな。
だよな、心配性だし。
「心配でな、すまん」
「寝てる間に勝手にしたら良かったのに」
「原因不明の昏睡で、検査中に起きたら流石にビビるだろ」
「まぁ、つか玄海婆さんぽくない?」
「我慢してた事を」
「アレ撃てねぇかなぁ」
「それと、武光達の事だ。帰還した」
「な!ワシ、聞かれて、いや、アレか、ソラちゃんかと勝手に思ってたわ」
「後悔、して無いか?」
「いや。ただ、現実に向き合わないとだな」
「まだ猶予は有るだろ、デブリ回収をして欲しいんだが」
「おかのした」
戻って来たカールラに世話を焼かれ、クーロンと共に宇宙へ。
リズちゃんは凄く謝ってくれたけど、却って助かった、マジで。
メイメイは前と同じ様に、リズと通信しながらデブリ回収。
そして当然、俺も小野坂も居ないので、移民には従者達が付き添う事になった。
『もう、生きてるって情報でウキウキじゃんよショナ君』
「あぁ、姿を見てショックを受けないだろうか、いっそ叱られたい」
『俺は叱らないからね?』
寝床で悩んだけれど、結局帰ったのは浮島。
蜜仍君にアレク、ミーシャにネイハム先生、コンちゃんに白雨、それとショナ。
不思議な位に普通に接してくれんの、皆。
最初から怪我してたみたいに自然で、気を使われてない様な錯覚さえ起こしそうになった。
厄災が終わったんだ。
後はもう、どう生きるか。
『ハナさん!』
「エミール、ご心配お掛けしました」
『いえ、痛く無いですか?』
「おう、幻肢痛も無し。ただ、義手とかにするか遺伝子を変えるか悩んでんのよ、だから決まったら一気に変えて治してってしようかなと思うんだけど」
『遺伝子を変えるってヤツですか?』
「そう」
『どんなハナさんも好きですけど、僕は変えて欲しく無いです』
「そうなるとハーレムか召し上げなんよ」
『はい、ハナさんの答えが出るのを待ってます』
「あぁ、うん」
移民の方をお願いしてたのに、デブリ回収に出ちゃったのか、何かおかしくなっちゃったんだろうか。
《ご主人、もう寝よ》
『一緒に寝よ』
「うん、じゃあ、先に寝るわ、おやすみ」




