2月28日
地震で目覚めた。
「こういうの、初めてかも」
「村でも無かった?」
「無かった筈、寝てて気付かなかっただけかもだけど」
「天変地異、地震に関する話は?」
「悪魔の寝言、イビキ、悪魔の復活前の予兆。良い記載は無い筈」
「良く覚えてんねー」
「別に、熱心とかじゃ無いんだからね、それしか無かったの」
「はいはい」
まだ日の出前。
エリクサーをガブ飲みしながら考える、どう助けられるのか。
高度な文明は嘗て有った。
ならアクトゥリアンに協力を仰げるかも知れない。
けど、証拠も何も無い。
仮に入手したとして、どう動かすか。
「ダメ、眠い」
「うん、布団に戻ろう」
そうして再び寝て、エリクサー作りをお願いしつつ補給して。
テラスでボーっと一服ししていると、イナンヌが訪ねて来た。
エルヒムが呼んでいる、と。
「紫苑」
「おう、行ってくるわ」
椅子の後方下部の入口が再び開く。
そこを降り、扉が閉まるとエルヒムが以前と同じ様に変化した。
《うん、順調だね》
「その支配から抜け出す方法は?」
《アマルテイアが知ってる》
「なら良いけど、まだ?」
《ふふ、もうすぐだよ》
「ずっともうすぐ言うやん」
《詳しく言ってシミュレーションから外れて欲しく無いんだ》
「それは信じるが」
《コレ、日記》
「頭を覗いてる?」
《ううん、シミュレーション。そして君がそう答えたのは僕にとっては正解》
「こわ、演算凄過ぎる。あ、向こうなら何処に住みたい?」
《景色の良い場所なら何処でも、綺麗な海と森が見える所が良いな》
「なら日本は最適やね、それかハワイ」
《そうなんだね、楽しみにしてるよ》
「うん」
《じゃあ、戻ろうか》
「もう?」
《うん》
「何か、急に不安になって来たわ。何も聞かないままに動くのは慣れてるけど、何か、不安」
《正常な反応だよ》
「さよか」
《ごめんね》
「謝らんで良いから、穏便に解決を頼みたい」
《うん》
「静か」
《遮断は完璧だから》
「前、こんな静かだったっけか」
《ううん、少し設定が変わってるから》
「電源を、止めたのか」
《電界も得てるんだ、そっか》
「君の生命維持装置が」
《良いんだ、コレが支配から抜け出す方法だから》
「いや、そう、生き返りたく無い?」
《利用はもうされたく無いけど、うん、もう十分生きたから》
「嘘がバレてると分かってるだろう」
《じゃあ、最後に、お願いが有る》
何もかも思い通りにいかない。
何もかも、予想もしない方向へ行く。
『素敵、穢れた神に身を捧げるのね』
「止めてくれ、止めさせてくれ、頼む」
『そんな、子供みたいに駄々をこねて大泣きして、可愛いわね』
「見たく無い、頼む、もう」
『怒りと絶望と悲しみと。同情よりも欲望的で、哀愁と憐憫に満ちた情欲、最高だわ』
コレは、俺が焦った対価なのか。
それとも代償なんだろうか。
同情からこんな事をして欲しくなかった。
好きな人と結ばれて欲しかったのに。
「どうして、こんな」
『ふふふ、もう開放してあげる。けど最後まで壊れないで頂戴ね』
おタケが目を覚ましたのは、アポロの部屋だった。
そして先ずはアポロを地球へ送り、エミール君を迎えに行った。
そうして竜と共に第2地球へ。
エルヒムの予測は何処までも可変式なのかと、おタケが戻って来た時には既に、方舟が移動しようと地面を揺らしていた。
そしてハナちゃんは例祭服を着た女性体の姿で、既にイナンヌ達を殺害した後だった。
「アクトゥリアン、証拠だ、引き上げさせろ」
【みなさーん!危なさそうなのが出て来ますからー!直ぐにでも引き上げて下さーい!】
「ハナ」
『ハナさん』
「エミール、この人達を直ぐに運んで蘇生して、それからコレも。お願い」
『はい』
「ハナ」
「直ぐに引き上げて、シュブさんだ、アマルテイアと名乗ってるけど、クトゥルフの地母神、シュブニグラスだ」
『正解、楽しんで頂けたかしら』
「悪趣味が過ぎるだろう」
「タケちゃん、見てたんだってね、全部」
「いや、俺は」
「いや、良いんだ、ワシは他の方舟を落とすから、竜を引き上げさせる方へ回って」
「待ってくれ!」
『はいはーい、言う事を聞かないと犠牲が出ちゃうわよ。じゃあね、愛しい子』
シュブニグラスはハナちゃんに付いて行き、エルヒムは美味しかったか、どんな味だったのかを嬉しそうに訪ねた。
俺らクトゥルフの特徴、凄く性格が悪い。
人々の感情の波が大好きで、神も精霊も居ない世界では無双し放題。
けど、好きになる事も有る。
そう、好きだから虐めたくなる。
人間が大好きで、人間を愛してしまう神の特性は同じまま、創造者が作った特性だけは変えられなかった。
どうしても人間に執着してしまう。
じゃなかったら関わらないじゃない、人間なんて生き物に。




