2月13日
向こうのハナは順調に進み、4月になっていた。
それは確認出来たんだが、やり直しの神と話し合う前に目覚めてしまった。
気持ちを切り替えた筈なんだが、ストレスで眠りが浅そうだと神に。
「そうか」
ハナのストレス値を計測出来る何かを、先ずは人間へ頼む事に。
窓口はリズ、リズにもいつか礼をせねばな。
「ストレス値を計測したい?何でだよ」
「アレに我儘を言って貰う為と、話を聞き出す為だ」
「あぁ?うん、まぁ、普通じゃない注文だし、危なく無いだろうし、直ぐ出来ると思うが」
「あぁ、頼む」
そして再度ハナの好みを調べてみると、何故か更新が、ショナ君が最新の更新者だが。
「ドリームランドへ行って、傾向を探ってまして」
「なので(仮)なんだな」
「はい、いつか答え合わせが出来たらなと」
「そうだな」
本当はココで言うべきなのかも知れない、限りなく茨の道に近いと。
だが、まだきっと何処かに可能性が有る筈、情報開示されて無い、何かが。
限られた人間だけが閲覧出来る報告書に、津井儺君が桜木花子の好み(仮)と、載せていた。
物欲や所有欲と言うより、多趣味である事が見受けられたが、同時に新たな懸念点も。
自信の無さや執着の無さから、この世界の為に犠牲になる事を厭わないのではと。
私にとっては最悪の想定、仮にそうして亡くなったとしたら、大罪として目覚めるかも知れない。
亡くなる直前の未練から憤怒になった大罪の様に。
《五十六先生、やはり大罪か魔王になりそうです》
「悲観的だねぇ、寧ろ君が悲嘆になってしまうんじゃないのかい?」
《この事のみについてなのでご心配無く》
「執着や頓着はまだ無い様に見えるだけだと思うけどなぁ」
《例えば》
「それこそ好みだよ、男娼館には彼女の好みらしきのが沢山居たもの、誰かに愛されていると分かったら、直ぐに執着してくれると思うけどなぁ」
《報告に無いんですが》
「だって、彼女の個人的な範囲かなと思って」
《だからって私にまで報告が無いのは》
「ドリームランドで君に言おうとしてみたんだよね、そしたら声が出ず、君にも見えて無かったみたいで。だからコレは、あぁ、言って欲しく無いんだなって思って、今までね、うん」
《それで今、ですか》
「怒らないでくれよ、出来る出来無いで何かを判断してみたかったんだよ、僕なりにね」
《コレは、探索は1人より2人の方が有効かも知れませんね》
「はぁ、切り替えが早くて助かるよ」
《どうして男娼館へ行かれたんですか》
「好みの探索に、ただそれだけだよ」
《だと良いんですがね》
「あぁ、曲解したフリをして言い触らさないでくれよ」
《考えておきます》
「困ったなぁ、君の恨みは長持ちするから困るんだ」
《前よりはマシかと》
「まぁ、何十年も前に比べたらマシだねぇ」
大昔に俺が返り討ちにしたエルフが、元魔王の能力で俺に面会する為にやって来た。
怠惰の担当医だったネイハム、今は俺の検査官の1人。
寿命もそうだが、近年は検査官候補になりたがるのは年々減り、ココ暫くはネイハムだけが検査に来てくれるんだが。
《お久し振りです、どうも》
「あぁ、抜き打ち検査か?」
《はい、是非八つ当たりに貢献して下さい》
「分かった」
不死性の不定期確認。
最初はありとあらゆる溶液を試されたモノだが、最近は傷口を切り確認するだけに。
ネットにも流れるこの映像なんかも、特に不評で閲覧者は政府機関の者が殆どだとか。
《はい、終わりました。相変わらずの回復速度ですね》
「衰えず、か」
《はい、変化は無いです》
「後は」
《ご相談に来ました》
「おう」
あの桜木花子君が、実は既に国連で魔王か大罪候補として認定されている可能性が有る。
そして、それを殺せと。
《下手に未練が残るよりは良いかと》
「最近だと断トツで最悪な部類の八つ当たりだな」
《魔王が人間に戻る直前の、苦悩した表情を見ましたので。コレが最悪の場合の、最適解かと》
「何をどう想定すればそうなる」
《アナタの様に、好意を抱かれた相手に殺される事です》
転移後にこの地の人間に恋をし、その相手も俺も殺された。
他に奪われる位ならと、俺はとても悔しかった、そして意識が薄れる中で憎む切っ掛けになったやり取りが有った。
それは。
『おう、サド野郎か』
《どうも、憤怒の検査に参りました》
「どうした」
『移動魔法使える様になっただろ、ココ』
「あぁ、少し良いか?」
《はい、お待ちしております》
ご友人だと思っていた相手に裏切られ、想い人と共に殺された憤怒。
そしてココの杜撰な捜査や不誠実な対応を死の淵で知り、蘇った元召喚者、それが大罪化した憤怒。
関係者を全て殺し、怠惰へ自首した際に私が殺そうとした相手。
当時は人権等存在しなかった時代なので、私はお咎め無し。
そして死ねなかった、殺せなかったと落胆した姿を周囲にドン引きされたんですよね。
ちょっといけそうだなと思っての、軽い行動だったんですけど、そこで若手の検査官だった五十六先生とお会いして、カウンセリングを受け、恨みを自覚した。
もう今は平気なんですが、大罪へ恨みを持っていると、未だに何故か誤解されたまま。
「待たせたな」
《いえ、考えて頂けましたでしょうか》
「断りたいが、先ずは可能性についてもう少し聞かせて欲しい」
《従者が好意を寄せているんですが、叶わないかも知れないんです》
狗神を憑けても非常に可能性は低い、そもそも相手がドン引いてしまえば苦労も水の泡。
津井儺君がそんな方では無いにしても、狗神と恋心の作用で逆恨みする可能性は十二分に存在してしまう。
誰かに奪われるなら、得られないなら、と事件になった実例は数知れず。
そして仮に狗神を憑けられても、本当に灯台が抑えられるのか。
ルーマニアの国家元首が言ってた通り、全く同じ性質で無ければ、灯台はそのままに。
そうして誰かが恋をし、桜木花子が気の有る素振りが見えてしまったら、同じ様に奪われる前に殺す可能性は高い。
そして、その事に激しい怒りを持てば。
「俺の様になる、か」
《アナタよりは愛されたがりですので、絶望から悲嘆かも知れませんが。不死性を得る前に、隠密でお願い出来たらと》
「怠惰には話さないのか」
《先ずはアナタにと》
「俺としては、殺すべき時が来れば、あの魔女狩りの様な」
《彼女がそうなんです、その性質を持っています》
「あぁ、だからか」
《この世界へ怒りを向ければ、多分、アナタより強いので、その前にと》
「個人的にか」
《報告すればラベリングが行われますからね、その小さな可能性を未然に防いでるに過ぎません。理想は介錯ですが、最悪は暗殺でお願いします》
「先ずは俺から怠惰への相談で良いか?」
《はい、補足は私が。ココへ泊まりますので、お呼び頂ければ伺います》
「分かった」




