2月10日
無色国家用の飛行機は真夜中に立ち、会議の1時間前に到着。
そうして布教の為にと入国審査を受け、無色国家専用の検査を受けたらしい。
僕は基地から同時期に発着した飛行機に乗ると言い、賢人君と共にアレクに浮島へ送り届けて貰って、やっと休む事が出来た。
「いやぁ、良い冒険だったっすよねぇ」
「もう2度としません」
「でも、桜木様が困った事になったら?」
「それは、でももう単独では動きません」
「是非、そうしてくれ。朝食に行くぞ、今日はハナの為のお子様ランチだ」
桜木さんに変身したミーシャさんと共にヴァルヘイムへ。
暫し小野坂さんとも会食し、省庁へ。
次には蜜仍君が変身し、再び桜木さんとして食事を摂って貰う事になった。
『そんなに食べても、身に付かないものなんですか?』
「ハナは特に、魔素の吸収や回復に回されてるんだよな」
「おう」
『美味しいですね、クロックマダム』
何処までも予想通りで助かった。
デモ隊がどうやって会議を嗅ぎ付けたのか、省庁の外でデモを始めたらしい。
そうしてスパイ共が安全の為に移動すべきだと焚き付け、移動する事に。
あの精神科コンビの予想通りの動き、そうして俺達はバラバラにさせられた。
「なぁ、連絡を取り合いたいんだが?」
何処で情報が洩れるか分からないからと、他の召喚者と連絡を取る事すら拒否された。
想定通り過ぎても、逆に不安になるな。
「武光様」
「まぁ、任せようシェリー、なんせ国連所属の従者なんだからな」
諸悪の根源がココにまで沁み込んだのか、最初から根付いていたのか。
その解明は、ココの者に任せよう。
地味な顔立ちで良かった。
僕が居なくても誰も気にしないでくれた、そうして会場の外でマントの隠匿の魔法を使い、小野坂さんのグループを追跡。
精神科医の方々の作戦通り、小野坂さんを取り込む為に説得を始めた。
だが武光さんの選んだマイケル補佐官が阻止し、流石に小野坂さんも警戒心を出し始めた。
『確かに疑う事は良くないですけど、それと警戒心を無しにしろと言うのは、並行には出来ないって分からないんですか?』
彼女の原動力は、怒りらしい。
怒りを原動力にして初めて、自律走行するらしかった。
『彼女は未成年ですが、知識も道徳心もしっかりしているんですよ、あまり見下げた事を言うのは失礼だと気付かないんですか?』
こうしてマイケル補佐官に認められる事で自信を得て、善悪の判断にも影響し、決断出来る様になるらしい。
武光さんの人選は、正しかったのだと確信が持てた。
何とか小野坂の方は切り抜けられたらしいが、問題はエミールだ。
逃走したらしい。
「まさかこう、ハナを真似るとはな」
「武光様、駄洒落でしょうか」
「いや、そんなつもりは無いんだが」
この軽口が気に入らなかったのか、スタンガンを使われてしまった。
結界有りで幾ら素体だとは言え、ココまで強硬手段に出るか。
「武光様」
「初めて喰らうが、凄いな」
「改造されてますね、後が怖く無いんでしょうかね」
シェリーの質問に容易く答えてくれた。
天使が協力してくれてるからこそ、自分達が正義で間違えてはいない、後は天国に行くだけなのだと。
「そうか、協力しているのか、天使が」
【今回は我々の問題ですからね、暫くは眠って頂きましょう】
『大丈夫、何も心配はいらないよ』
あぁ、ルシフェルか。
スタンガン、怖っ。
「おう、眠らされた」
『うん、見てた、つかスタンガン凄い怖いね』
「あぁ、動けなくなった」
『また平然と』
「それよりハナはどうだ」
『巻きも、戻せたわ』
おタケが言うには、殆ど本来通り。
兄弟に会って、大魔女ロウヒに会って伝書紙と分解魔法を教わって、また戻って言い包められて。
絵本を読んで身分証を発行して、今はドリームランド。
「2月17か、ドリームランドをココまでこう、早回しをすべきだったんだろうか」
『芸術も夢も願望も、抑圧されてこそだと思うんだよね。第1世界でこうなったかって言うと、きっと少し違ったんじゃ無いかな』
「抑圧や規制が、ハナには必要なんだろうか」
『ピカソが周りの人間に恵まれてたら、あの絵が出来て、評価されてたと思う?俺は絵も作風も平凡になって、あの素敵な絵は出来上がらなかったと思うんだよねぇ。ハナちゃんも、もし本来が男だったらそもそもココには居ないかもだし』
「それを確認する方法が、シミュレーションか」
『まぁ、俺にはまだ情報が足りないから何とも言えないけどね』
「ならコレから先が良い情報源になる筈だ、アイツはシオンとして生きるからな」
『あぁ、良い感じに先が気になる事を言うなぁ』
「ふふ、少し早回しでも構わないぞ、暫く俺はココに居る予定だしな」
『じゃあ、ちょっとだけ』
うん、ココで温泉郷が完成してたら、このマーリンに出会えないかも知れないよね。
形成過程で。
「形成過程で入り込んだ異物、か」
『だから入れたんだと思う、ほらココ、守りが堅いから』
「確かにな、後々になって出られないと言っていたしな」
『こうしてミアちゃんと出会うのだって遅れてたかもだし、魔獣退治はこのままだろうけど』
「全体に遅れが生じる可能性も有る、か」
『先んじる不安が有るのは分かるけど、どっちかだと思うよ。そうなると、その遅れの方が俺は心配だな』
「ふふ、心配性が移ったのかも知れんな」
『慎重なのは良いんだけどねぇ、遅れが生じた場合をしっかり考えた方が良いよ』
だって、急に加速出来ないじゃない、人間て。
遅れが生じた場合。
確かに、先んじる不安にばかり囚われていたが。
「武光様」
「あぁ、大丈夫だシェリー、動きは有ったか」
「いえ、3時間程眠ってらっしゃいましたが」
「そうか、良い昼寝だった」
最後の場面は、本カードを受け取っていた場面、2月20日か。
『随分と落ち着いてるね』
「まぁ、メイメイが信頼している天使なら、疑う必要が無いだろう」
【それを聞いて主も安心しているよ、そろそろ啓示が有る筈だから、騒がしくなるよ】
「そうか、シェリー」
「はい、覚悟は既にしています」
小野坂さんが天使を呼び出し、事の顛末を知り大激怒し、教会側とは完全に断絶する道を選んだ。
そして何個か隣に居たエミール君も、改宗するとまで言い切り神獣を呼び出した。
『ごめんねパトリック、こんな事に力を使わせる事になるなんて』
「いえ、皆さんを助けに行きましょう」
獣化したパトリックが窓を蹴破り、カールラの気配から小野坂さんの部屋へと割って入った。
『あ、私もそうすれば良かったんですね、頭に血が登ってうっかりしてました。カールラさん、宜しくお願いします』
《お任せを》
カールラが獣化し、マイケル補佐官と小野坂さんを背に外へと飛び出した。
そして武光さんもシャオヘイの背に乗り、シェリーさんを抱えていた。
「後はハナか」
《大丈夫じゃろう、白雨と爆睡中じゃし》
『体調が悪いんですか?』
『ふふ、良く眠る人なんですよハナさんて』
『肝が据わり過ぎかも知れんがな、騒動を知らん方が良い場合も有るだろう』
『なら、出来るだけ私達で何とかすべきかもですね』
「だな、何か良い案は有るか?」
『もう、片っ端から捕まえましょう』
「おう」
順調なのに、不安になってしまう。
桜木さんが本当にスペアで、もし帰って来なかったら。
【頼もしいですね、さ、コチラですよ】
『うん、さぁおいで』
小野坂さんには、ルシフェルさんの光は畏怖と言うより、憧れが強く出るらしかった。
何が良かったのか、小野坂が急成長した。
そして天使と組み、今回の戦犯を自ら名乗り出させ、ほぼ末端まで捕まえる事が出来た。
「助かった、俺だけではこう上手く事が運べなかったかも知れん」
『もう、今度からちゃんと相談して下さいね』
『そうですよ』
「悪かった、ハナが起きると不味いんでな、外で話そう」
『あ、ですね』
『はい』
それから第2地球の事でも変化が起きた、出来るだけ中立的な立場では居たいが、警戒はしたいと。
『国内と言うか、地球内でこうなんですし、警戒しないのは良くないですよね』
「だな、見極めるにはどんな段階を踏むのか、各国のを比べてみたいんだが」
「うっす」
『コレ、残党の炙り出しが出来るかもですね』
アイツが居ない方が、結束出来るんだろうか。
いや、光の当たり方か、それか本当に相性なのか。
「あの、武光さん」
「ショナ君、ハナが起きたのか?」
「それと、少しお話が」
「分かった」
ショナ君の情報で、小野坂の覚醒の切っ掛けが分かった。
怒り、それと年上の男性から認められ、褒められる事。
確かに、近くに置いてたのは司教と、シスターだったか。
「武光さんだと、若干ですが、年が近いのではと」
「あぁ、マイケル補佐官で正解だったのかもな」
「その、選んだ基準は何処なんでしょうか」
「ハナだ、アドラー派に近いと書いてあったんでな、根掘り葉掘りは俺も好かん」
「そこなんですね」
「あぁ、それと優しそうな顔と、しっかり怒れば怖そうな所だな」
「確かに、ハッキリ物を言う方でした」
「どうした」
「桜木さんが帰って来ないかも知れないと、不安が拭えないんです」
「正直、俺もだ。もし争いの無い、ココ以上の場所なら帰って来ない方がアイツの為かも知れない」
「それに、もし好きな人が出来たら、振り切ってまで帰って来て貰う価値が、本当にココに有るのか」
「これしきで不安になるな、それにもう改善の兆しが見えているんだ。より良く、今以上にしていこう。一先ずはハナの事だ」
「はい」
桜木さんは入眠させたまま、偽装情報に合わせて静養する事になった。
そして小野坂さん達は一纏めに行動する事になり、僕と賢人君は偽者の桜木さんとお別れする事になった。
『分かります、1人になる時間って大切な人も居ますし』
「そうだな、ましてや基本は独りだったんだ、無理をさせたのかも知れんな」
『予知夢の事も有りますしね』
もう、探しに行く事も出来ない。
(超、暗いっすね)
「すみません、少し集中力を欠きました」
「ショナ君、最近休暇は取ったか?」
「いえ、長期勤務を」
『休める時に休むべきですよ』
『そうですよ、ハナさんもそのつもりでショナさんを外したのかもですし』
「そうっすね、俺もちゃんと休めてこそしっかり働けてるんすよ?」
「必要ならきっと声が掛かるさ」
「はい、分かりました」
そうしてアレクへと省庁に送り出され、僕の仕事が本当に終わってしまった気がした。
「どんまい、大丈夫だって、生きてるから」
「なら、もし何か有ったら」
「大丈夫、ちゃんと教えてやるよ」
「ありがとうございます」
「じゃあな」
「はい」
そしてもう1つの問題が眼前に突き付けられた。
僕の婚約者だと名乗る、無色国家所属の女性ハンナと、僕に気が有るらしい華山香が裏口で揉めていた。
『あ、彼ですよ、私の婚約者です』
《津井儺君、先程から》
「柏木さんと武光さんへ連絡をお願いします」
《はい》
『追い掛けても良いんだと、父が言ってくれたんです』
「誤解が有る様ですね、僕の所属はこの国家のままです。ましてやアナタには触れてもいません。全ては召喚者様と天使さんの騒動の一環で、僕はアナタの婚約者では有りません」
『それでも私にはした記憶が、確かに私は感じたんです、心の繋がりを』
「夢かと、科学的に検査すれば僕はアナタに何もしていないと証明出来ますが」
『心と心が確かに』
「僕には既に、もう好きな人が居るので、アナタには決して繋がってはいません。完全な誤解です」
『じゃあ、アレは』
「なら僕が検査を受けます、何も無いと証明してみせます」
だから俺はダメなんだ。
ショナ君に下半身の検査を受けさせてしまった、全ては純潔を証明する為にだ。
「すまん、完全に抜けていた」
「いえ、僕も抜けてました。まして追い掛けて来るなんて想定外です」
《機微に疎いんじゃもんなぁ》
『寄り添われた時点で覚悟すべきだったのかも知れんな』
「ほう」
「直ぐに部屋を出ると思ってたら、されただけです」
《結果は陰性です、良かったですね》
「無い事も証明出来るのか、良い世界だな」
《ですが、向こうは納得されてませんね。夢で繋がった、心が繋がったのだと言い張ってますからね》
「そう言い張ってくれるのがハナだったら良かったのにな」
「全く想像が出来ないんですが」
《ですね、謝って逃げ出すタイプでしょう》
「「確かに」」
「あ、すみません」
「ふふ、ハナで心が一つになっているのは、間違いなさそうだな」
《ですね、事情が事情ですが法的措置を検討しては?》
「それは流石に、ある意味で被害者でもあるでしょうし」
【我々に任せてはくれないだろうか】
『死天使の力が強過ぎたみたいなんだ、ごめんね、リカバリーをさせておくれ』
「そうか、俺は頼むべきだと思うが」
《ですが、具体的にどの様な事をなさるんでしょうか》
夢を夢と認識させるらしい。
記憶がハッキリし過ぎているのが原因なので、記憶を薄めて感情も薄めるんだと。
「頭をいじるって事ですか?」
【記憶は話し合いではどうにもならないからね、例えそうしても何年も無駄にさせてしまう】
『その後は私がフォローするから大丈夫だよ』
「お願いします」
彼女の記憶は正常化され、夢を夢と認識し、早速美しい翼人に目を奪われた。
もう、僕の事は欠片も気にせず、ルシフェルさんへ憧れの眼差しを向けた。
【どうです、罪悪感の欠片も残らない完璧さでしょう】
《強烈ですね、不安になる程に》
「だな」
「ありがとうございました」
『ふふふ、大丈夫だよ、あの子は外見だけに惹かれる様な子じゃないから』
そんな事は知っていると、恩人に口答えしそうになってしまった。
コレが、相性が悪いって事なんだろうか。
【ふふ、彼には相性が良くない様だね】
「あ、すみません」
『良く有るから気にしないで、それと、影が濃く感じる事も。誰にでも其々に良さが有るんだから、絶対に比べちゃダメだよ、例え無意識でも』
「はい、ありがとうございました」
「ふぅ、強烈な光だったな」
《ですね、やはり桜木花子の異常性が際立ちますね》
「あの、小野坂さんは憧れの眼差しを向けてたんですが」
《まだ正常な方の反応かと、強い光を信仰するのは良く有る事ですから。ですが、あの光に親しみを感じますか?》
「いや、だが」
《ですが、サングラス越しならどうでしょう、丁度良い光に見える可能が有るかと》
「桜木さんの目が、曇っていてると言いたいんでしょうか」
《寧ろ、呪いによって視野狭窄が起こっている危険性について言及しているんです。良い作用だけであれば良いんですが、薬ですら副反応が有るんですよ?》
「例えば、どんな弊害を心配しているんだ」
《そこが分かる前に居なくなられたのが、余計に心配なんです。何をどう、見えているのか、もう聞けませんから》
「俺からの偏った意見は、参考にはならないだろうか」
《話半分にはお聞きしますが》
「そうか、ならショナ君を送ってからだな。すまん、送るぞ」
「はい」
桜木花子の生い立ちへや周りの反応の憶測、向こうの人間だからこそ話半分の半分以上を取り入れたいんですが。
《どうしても話半分にしか考えられませんね》
「なら、後はリズか」
《そうなりますね》
「仮に、もし、この憶測が正しかったら」
《毒親や環境からの呪いは有るでしょうが、意外と簡単に解けるかも知れませんよ》
「ほう」
《紫苑さんも愛されてしまったら、きっと受け入れてしまうでしょうね》
こうなると、つい男性体だったならどうなるのか。
自由に育った場合、本来の性別はどちらを選ぶのか。
性対象はどちらになるのか。
凄く、気になりますね。
紫苑も、ショナ君は愛せるんだろうか。
『大丈夫でしたか?従者さん』
「あぁ、所用も済ませてたんでな、遅くなった」
『言ってくれないんですか?』
「少し、プライベートな事になるんでな」
『じゃあ聞かない様にしときます、私も言い触らされるのは嫌ですし』
『ですね、訓練を続けますけど』
「あぁ、俺も混ざる」
潔白も、二重スパイも純血も認めて貰えたけれど、本当に休暇を取らされてしまった。
一体、何をしたら良いんだろうか。
『そう落ち込んでくれるな、アレの為に家でも探してやってはくれないか』
「でも、そもそも帰って来ないかも知れませんし」
『帰って来た場合だ』
「国内かどうかも」
『なら他国でも探してやれば良いだろう』
「あぁ、ハンですね。でも、きっと遠慮すると思うんです、どんな立場になっても」
『ならより支えられる様に、様々な知識を吸収しといてやれば良いだろう』
「僕、何も知らないんですよ」
『肌触りの良いモノが好きなのは知っているだろう、青や緑色が好きで、旨いモノが好きな事を、お前は良く知っているだろう』
スノードームやキラキラするモノが好きで、服は見る方が好きで。
和装にも興味が有るみたいだし、服飾を勉強すべきなのかも。
でも、虚栄心さんが居るんだし。
後は、経営関係だろうか。
でも。
「すみません、ありがとうございます」
『全く、折角の休暇に引き籠もるな。ベガスにでも行けば良いさ』
「はい、ありがとうございます」
おタケが眠ると、ハナちゃんが動き出す。
陰陽みたいだよね、性格も全然違うし。
「そうか?」
『最初は明るい馬鹿だったんでしょ』
「まぁ」
『あ、美味そうだなぁ生ハム』
「どうしてそう、メシが出るんだ?」
『さぁ、ハナちゃんの優しさかもね』
それか、クトゥルフオプションかな。




