2月6日
ハナもおタケも似た時間に眠っちゃった、そして今回はハナが再びドリームランドへ。
あぁ、毎回こんな悪夢を見るのは、普通にSAN値が削れちゃうだろうに。
お、でも今回は反逆したぞ。
あの小さな黒い鉤爪姿で反抗してる。
そうだよな、抵抗されるって思って無いんだよ大人は。
そうそう、燃やし尽くしちゃえ。
『派手』
「せやね」
『帰るぞ』
「おう」
あぁ、敵が同じ女だったから、女が苦手なんだな。
でも大丈夫だろう、お前は男の身体も手に入れたんだから。
『お前の新しい家はアレか?』
「おう」
良い家だよなぁ。
俺も、偶には穏やかに。
あぁ、ココは確かに穏やかだよな。
脳味噌溶けちゃいそう。
『それは困るな、君にはもっと考えて貰わないと』
『あぁ、おじさん、どうしてココに居るんだよ』
『君におじさんと言われると、何だか不思議な感覚に陥るね』
『だろうよ、本当の名前を俺も知ってるんだから』
『だがこうなると、真名にはそう意味が無いのかも知れないと思わされるね』
『世界が違えばアンタすらモブになるもんな、でもアレだろ、強さは変わって無いじゃない』
『君がそう思ってくれるから、かも知れないね』
『俺まで巻き込んで、何をするつもりなんだ?』
『演算、シミュレーションには非常に興味が有ってね、君はその歯車の1つなんだよ』
『まーたそうやって俺を利用しようとして』
『利用されない自由も有る、ただその代わり』
『続きが観れないんだろー、ズルいなアンタ』
『君に言われるとはね』
『だって、ココまで来て中途半端は気持ち悪いじゃん』
『だろう、だから頼むよ、最悪と悪意をシミュレーションに反映させておくれ』
『俺には最高の要求なのに、請われるとしたくなくなる』
『ふふふ、本当に似ているよ君達は、じゃあね』
座席からも画面からも、おじさんは居なくなった。
そうして山狩りが始まり、ハナが恐れた山姥は消え去った。
『コレで安心する様じゃ、まだまだなんだよなぁ』
悪意は根深い。
最悪は長引くモノだもの。
おじさんが、去ってしまった。
また会えるとは言ってたけど、安心して会える環境にしないと。
「おはようございます」
「おはよう、おじさん行っちゃった」
「呼べば来てくれるそうですが」
「呼ばなくても良いように、安心して呼べる様にならないとね」
「はい、ですね」
良い笑顔。
何で自信が無いんだろ。
目覚めると、少し時期はズレたがハナとショナ君の口論は見事に成立したらしい。
《こう、どうして折角の2人きりだと言うのに、揉めるんじゃろうな》
「思い遣りの行き違いなんだろう」
『互いに慮っていると言うのに、恋愛にはそう発展せぬモノなのだな』
「そう何でも恋愛に発展しては話が進まんだろう」
《あれ、お邪魔虫まで来おってからに》
『この状況にロキか、良いのか悪いのか分からんな』
桜木さんが僕をちゃんと心配してくれているのは分かったけれど、もっと話したい時に限ってロキ神が来てしまった。
『なんだ、意外と平気そうだね』
「あぁ、心配してくれたのね」
『だって、前の世界からでしょ?』
「そこが良く分からんのよ、あんな風にハッキリ認識は出来て無かった。モブ的な感じで、そう言えば居たなって感じだったから」
「彼も、クトゥルフ神話の方なんでしょうかね」
「かもだけど、どう考えても人間だって感覚なのよなぁ」
『不思議だねぇ、あ』
「あ、すみません、お腹が減ってますよね」
「ロキも一緒に食べる?」
『ううん、様子見に来ただけだから、じゃあねー』
「もう見えなくなっちゃいましたね」
「ね、お店って開いてるのかな」
「お酒が出るお店なら、大丈夫そうですね」
「流石に朝からは飲まんが、行くか。起きて、クーロン」
『あぃ』
「じゃあ、行きましょうか」
美味しいがいっぱい。
しかもタラモサラダが酒が飲みたくなるタイプの味付けで、平和になったら飲みます。
我慢、あぁカラマリフリットよ、ビール飲める人間には最早拷問やね。
「ビール飲める人間には地獄やんな」
「少量なら飲んでも大丈夫ですよ?」
「飲めないねん、飲める?」
「少量なら、でもそんなに美味しくは無いですよね」
「子供舌」
「桜木さんが言いますか」
「同類でも言う権利有るわい」
「ですね、シードルならどうですか?」
「朝からアカンやろう」
「ココは真夜中ですよ」
「ワシより臨機応変よな」
「郷に従ってるだけですよ」
「飲めば?」
「勤務中なので」
「ワシもやで」
「どうしたら飲んでくれますか?」
「君が飲んだら飲む」
「じゃあ、毒消しの魔道具有りで良いなら」
「えー」
「注文してきますね」
『押し切られましたね』
「だね」
まだまだこれからなのに、平和を実感してしまっている。
コレを守りたいと思うけど、何からどう守れば良いんだろうか。
桜木さんは折角飲んだのに、ホテルへ着くなり直ぐに代謝させてしまった。
何でも、飲むと短時間で起きてしまうそうでそれが嫌なんだと。
「二日酔いになるんですかね?」
「なのかも、頭痛と尿意で目覚めは最悪だから」
『眠そうですね、まだココは真夜中なんですから、寝ても大丈夫ですよ』
「ですね」
「すまんね、どうにも眠くて」
『もう寝ちゃいましたね』
「水音が好きだからなんでしょうかね」
波の音が聞こえるホテル。
ドリームランドでも、家の近くには小川が流れているし。
『憶測ですが、きっと水音が良い記憶と結び付いてるんでしょうね』
「もっと、色々と聞きたいんですけど、上手くいかないものですね」
『それこそ待つべきかと。ただただ、言うタイミングを慎重に選んでいるだけですから』
「そう配慮して頂かなくても良いんだと、どうしたら分かって貰えるんでしょうね」
『厄災を無事に乗り越えれば、時間は沢山有りますよ』
そうなったとして、僕は傍に置いて貰えるんだろうか。
《ドリームランドへ行った様じゃな》
「そうか、同行者は?」
《蜜仍とロキじゃ、今は山で早掛けをしておる》
「あぁ、そうか」
メンツは少し違うが、このまま順調に行けば花街か。
『あの、おはようございます』
「あぁ、おはよう」
『あの、今日はどうしたら良いと思いますか?』
「そうだな、何かしたい事は有るか?」
『その、お礼が足りない気がして、買い物に行こうかと』
「そうか、なら行った方が良いな」
この、ワンクッション挟む会話の形式は非常に苦手だ。
どうしてこう、さっさと本題から入れないんだろうか。
あぁ、イジメられていたとドリアードが言っていたが、だからだとしても前の印象とはかなり違うな。
この分野はネイハムだとしても、どう相談すべきか。
『あの、もし良ければ一緒に』
「すまんが予定が有るんでな、ゆっくりしてくると良い」
『はい、ありがとうございます』
こう言った社交辞令も面倒だ。
あぁ、どうしてもハナと比べてしまうな。
《おはようございます》
「おはようネイハム」
《何か聞きたい事が有れば素直に聞いた方が楽になれますよ》
「どうして、アレは、あぁなんだろうか」
《空気を読むのが少し苦手でらっしゃるので、軽い思考の放棄が起きてるんですよ。自己を守る為に、常に伺い尋ねてるんですよ》
「正直、面倒なんだが」
《向こうの女性に多いと聞きましたが》
「そう言うのとは俺は関わらなかったんでな、どう接すれば良い」
《優柔不断な8才児とでも思えば良いかと》
「どうしても、ハナと比べてしまうんだが」
《12才と8才なら、当然成長している方が楽に思えるものでしょう》
「ハナが12か、ふふ、どんな子供だったんだろうな」
《そうですね、意外と変わらないのかも知れませんし、もっと拗れていたのかも知れませんし》
「煩わしさと面倒が、こう。ダメだな。自身の父性に不安が出る」
《ご自身にも、煩わしい面倒な面が有ると自覚してみると良いかも知れませんね》
煩わしさと面倒が嫌い。
それを避け、他人に、ハナに押し付けて鍛錬に逃げた。
そう後回しにする悪癖を、常に自覚せねばな。
ドリームランドのホテルで眠った所で目が覚めた。
外には朝日、ドリームランドでは夕焼けだった。
「大丈夫ですか?」
「おう、そのウチ蜜仍君から報告が入ると思うから、報告書の作成を手伝ってあげて」
「はい」
そうして優雅に朝食。
少しトルコチックなメニューに、海辺。
景色だって何だって良いんだけど、どうしても楽しみ切れないよね。
それでもトイレには行きたくなるし、お土産は買わないとだし。
そうして今回選んだのは、お酒とオリーブの実、自分用にはスノードームと青い食器達。
「よし、帰るか」
「今回は服は買わないんですか?見てましたよね、青いワンピース」
「ミーシャに似合いそうだなってだけよ、暖かい時期に来て歩いてたら似合いそうだなって」
「桜木さんに似合いそうなのも有りましたよ?」
「また暖かい時期に来れたら考えるわ、置いてくぞ」
「はい、また来ましょうね」
結局、桜木さんとちゃんと話せないままにお土産を配り歩き、浮島へ行く事になった。
今回も小野坂さんは居らず、どうせならと島を割譲する事に。
「アレだな、何処へでも行けるドアが有ると良いな、住み分けにもミーシャにも良いだろうし」
家は小野坂さんの意見が聞けるまで保留に、島を分割後、魔道具考案へと向かった。
ステンドグラスの明かり窓に、丸ノブのドア。
それと洋服箪笥型も、直ぐに出来上がった。
「コレなら何処に有っても馴染みますね」
「洋室限定やけどな」
そうして神々が引き上げ、お昼寝の時間になる頃、ロキ神がやって来た。
『俺も一緒に、良いでしょ?』
「良いけど、死なないでね」
蜜仍君にも気を付ける様に言ってから、桜木さんが眠りについた。
僕も行きたいけれど、人数が多いと負荷が多くなるからと今回はロキ神に蜜仍君、そして後衛にはマーリン導師が補佐役で控えている。
そして最終手段として武光さんが行く事に、どうしたら役に立てるんだろうか。
ドリームランドから帰って来た直後、ロキの助言で強敵と戦う前にヘルヘイムでの戦闘訓練が行われる事になった。
相手はショナとドゥシャ、そしてタケちゃん。
《大丈夫、私が生き返らせてあげるから》
「うい、宜しくお願いします」
勝てる勝てないの概念を捨てて、魔剣1つで勝負。
やはり、俺の勘は正しかった。
ハナは、俺より強い。
「参った、臨死体験は初めてだったな」
「大丈夫?記憶の欠落は?」
《大丈夫よハナ、ココでなら補正も掛かるから大丈夫よ》
死屍累々。
ショナ君もドゥシャも俺も殺され、知らぬ間に追加で入ったらしい蜜仍までもが死んでいる。
それをハナが治していく。
苦しそうに、悲しそうに。
『ごめんね?ちゃんと見定めようと思ってて』
「いや、知れて良かったと思う。自分が凶器だって」
それでも、コレでも辛うじて帰還出来た位なんだ。
そろそろ本格的に修練に加わって貰うべきかも知れんな。
「何を落ち込んでいる、俺は本気だった。そして魔法の適性がそう無い、だがお前には有る、その差。力や経験が全てじゃないと知れて、俺も自分の立場を理解出来た気がするぞ」
「立場?」
「俺は教師を目指してる、そして家族を作ろうとしている。それは2つ共に同じく、グループの調和と平定が大前提、俺の役目はそこに有ると思う」
「じゃあ、ワシが前衛?」
「厄災の内容によるが、そうなる事も覚悟すべきかも知れん」
「マジか、何か怖いな」
「すまんすまん、治すのに集中してくれ」
「おう」
今回は、ショナ君はハナに怯えなかった。
当たり前の様に受け入れ、神々との修練に加わるべきだと進言した。
「ある意味で安全に死を体験出来たので、僕としてはお礼を言うべきかとも思うんですが」
「ポジティブか、怖いはもう、殺しちゃったって言うのに」
《そんな事を気にしないの、そもそも弱いのがいけないのよ》
『だね。じゃあ、俺としてみようか』
コレはイレギュラーだったが、ハナの能力を更に知る事が出来た。
電界を会得したハナが、俺らには感知出来無いロキの動きを把握し、完全に追従して追い詰めた。
目で見る事を諦め、何とか感覚で追えた速度。
当然、ハナの身体が悲鳴を上げた。
「動けない。咄嗟に痛覚切ったけど、多分、痛覚戻したら死ぬ」
《ふふ、怖いわね魔剣って、凄いわねハナ》
「そうだぞハナ。ヘル神、療養に戻らせても問題無いだろうか」
《勿論よ、ハナにはお日様も大事だもの。ロキも、ちゃんと面倒を見てあげるのよ》
『はーい』
そうして浮島へ戻り、泉へ。
点滴もさせると直ぐに眠り、鍵が浮かび上がった。
「俺も行きたいんだが、向こうのフォローに戻る」
「はい、行ってらっしゃいませ」
そうして小野坂の居るヴァルハラに戻り、学習の補助をしながら、一方ではドリームランドでの状況を聞く。
メンツは違えど、今回も無事に開拓出来た。
そうして港街のホテルで眠り、コチラで覚醒した。
『あの、私の、桜木さんのお役目は何だと思いますか?』
「小野坂は、どう思う」
『そう質問を』
「誘導したくは無いんでな、意見が全く無いなら無いで構わないぞ」
『私は、後衛だと思うんです。剣技だけでは実践でご迷惑をお掛けする可能性が高いですから、回復の係なのかなと』
「そうか」
『それで、その、桜木さんの役割もそうなら、私ってじゃあ、何の為に来たんだろうって、思って』
「其々、本人がどう思うかだろうな。そしてそう役割を自分で考えても、実は思わぬ配役かも知れんし、望まぬ配役かも知れん。例えそうだったとしても、世界の為になるかどうか、だろうな」
『こう、もう少し具体的にお願い出来ませんか?』
「出来る事を良く考え、こなす。誘導はしたく無いんだが、方向性を俺が出すべきだろうか?」
『いえ、そう言うワケでは』
「自信が無いなら神々や精霊に相談しても良いんだ、大丈夫、気の良いのばかりだぞ」
『はい、ありがとうございました』
不満気だが、皆が同じ思いだった事を少しは理解して欲しいんだが、難しい事なんだろうか。
大物を倒した後、フェンリルとヨルムンガンドと戦わされた。
今回はエイル先生付き、全力でとのお達し。
魔道具をフル活用して、アレクもショナも使って何とか倒せたけど、お説教になった。
『もー、回復させながら戦えるでしょうに』
「いや、まだ戦闘経験少なくて無理よ」
『じゃあ慣れなさい、力有る者の使命よ』
「ふぇぃ」
それがとても難しい。
どうしても治す方に集中してしまうと、戦闘が疎かになる。
戦闘に集中すれば治す方が疎かになるし。
『ほら、魔素はまだ有るんだから頑張りなさい』
「ふぇぃ」
スパルタ。
桜木さんの格闘センスは本当に0らしい。
こうして戦えているのは、憑依故なのだと神々が解説してくれた。
魔剣の制御と憑依により戦えている、要は精神力の問題で、魔剣に呑まれる危険性も孕んでいるが。
『まぁ、魔素かエネルギー切れを待てば良いだけだな』
『集中力もだ、アレも結構な気まぐれ持ちだしな』
『何かが切れれば、勝手に電源が落ちるだろうさ』
回復と戦闘が併用出来かけていたのだが、その解説通りピタリと動きが止まった。
『あら、エネルギー切れね。よしよし』
「空腹感の前に、動けなくなった」
「点滴と食事と併用しましょうね」
クーロンが温泉に浸け、エイル神が点滴を。
僕らは、御簾の裏で休憩。
『はい、あーん』
「怖いなぁ、こうしてマジで動けなくなる事が、本当に怖かったのに」
『大丈夫よ、そうなったらどうしたって治しに行くわ』
「それ、過度な介入じゃなかろうか」
『功労者に報いれないなら、滅べば良いのよそんな国』
「偶に過激」
『そう?皆大概はこうよ、はいあーん』
正直、僕も桜木さんを治して貰えないなら国を捨てるかも知れない。
そしてきっと、過去にもこんなやり取りが有ったからこそ、こうして神々が召し上げを想定しているのかも知れない。
もし召し上げられてしまったら、僕も召し上げては貰えないだろうか。
港街の残虐性、好き。
有るじゃん残虐性、歪んで歪にされた弊害だけど、まぁ無いよりは良いよねぇ。
あぁ、温泉かぁ。
良いなぁ。