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2月2日

 ショナに起こされ軽めの朝食の後、日本の山奥へ。

 ドリームランド用の従者の為らしいが、炭焼き小屋が有るだけ。

 普通のお爺さんが炭の番をしているが。


「召喚者の桜木花子です」

『欧州のエミールです』

「中つ国の李 武光だ。土蜘蛛族の話を聞きに来た」


 土蜘蛛族?


《ここはただの炭焼き小屋ですよ、道に迷いましたかな》

「国防省庁、従者庁の柏木卿に聞いて来たんだが、責任者を出して貰おうか。無駄な時間を割ける程の余裕は無い、それが理解出来る者を呼んで貰おうか」

「また凄んで、ごめねお爺さん」


《っ、アナタ達は、国が何をしたか知ってて》

「知らんから来たんだ、時間を無駄にさせる気なら帰るだけだ」

《ちょちょ、おいおい待て待て、召喚者》


 あら、綺麗な人。




 昨夜からずっと考えていた、この小屋の人間は随分と自分勝手だと。


「話を聞きに来ただけで、この対応は何なんだ?八つ当たりしたいんだったら、ココの本来の人間であるコッチの従者にするのが筋だろう。それにだ、余裕が無いと俺は言った筈だぞ?何も聞かずに人の足を引っ張る等とは、最低な行為をしていると思わないのか?大体だな」

「ちょ、タケちゃん」

《すまんすまん、ちょっと恋路がアレでな》


「それと世界とを天秤に掛けてまで、ぶつけるべき不満なのか?」

《アナタは人を好きに》

「あー、タケちゃん婚約者持ちで、しかも子持ち予定なんだよなぁ」

《すまんて、抑えてくれ、な?》


「そもそもだ、召喚者が3人も来てると言うのに危機感は無いのか?それにだ、俺が愛する気持ちを分からないと、どうして」

「タケちゃん、それ以上はいけない、泣いてまうよ」

《泣いてなんか》

《もう君は黙ろうか。すまなかった、話を聞きに来てくれたんだよな?》


「あぁ、だが、聞かせる気は有るのか?」

《勿論だとも》


「だが、そこのは不満そうだぞ。俺は帰還希望だが、この子もエミールも残る予定なんだ。不満を持たれる様なら、警戒を解かせるワケにはいかないんだがな」


《申し訳、ございませんでした》


《足りないね、言葉も何も全く足りない。怒らせてはいけない人間が外界にも居ると学習してくれなかったのは残念だよ。すまない、処分するから》

「ちょ」


《里を出たがっていたんだ。家族か、恋人でも無い憧れの人間を追うか、選ぶ時が来たんだよ》

《そんな!》


《金は持たせる。さ、どうする、今しか決断させてやれんよ》


「あの、どうなってるんです?」

《ウチは外界とほぼ隔絶していてね。この子は変装、外の者に憧れて外へ行けない事に不満を持っていたんだよ、普通の人間になら八つ当たりしても良かったんだが。すまないね、時間を取らせて》

「全くだ、俺らに関係は無いだろう。有るとしたら、話を聞いてからだ」


《だね、すまない》


《申し訳御座いませんでした、里に置かせて下さい》

「その程度の気持ちで八つ当たりか、何処までも迷惑な奴だな」

《全くだ。よし、案内するよ。お前は交代だ、もうココの番をさせて貰えると思うな》


《はい》


 もう、何処であっても叩きのめす決断をしたんだ。

 手は抜かない、ハナに嫌われてもだ。




 それ以降は桜木さんと真っ白な女性が話をしながら、竹藪の中を進む。

 武光さんは思ったよりは怒っていない、先程のは立場を示す為の怒りの表現に過ぎなかったらしい。


 桜木さんとエミール君を守る為の行為。


「さっきの子、何であんな事に?」


《ココの者の結婚条件は厳しいからな、絶妙に見合わんのを気に入ってな。あ、従者も婿候補だぞ、外の血は必要だからな》

「え?!」

「マジっすかぁ」

「好きな人が居ないんだから別に良いじゃん」


《お主も嫁候補だぞ☆》

「あぁ、それもそうか」

「僕、まだ結婚はちょっと…」

「ちょっと、俺もまだっすね」


《戦が終るまで待つぞ!さぁ、着いた、伊賀も甲賀も混ざった隠れ里へ、ようこそ》




 本来通り、洞窟へ向かい歴史が語られる。

 そこで俺がすべき事は、次にどうするべきかを考える事。


 土蜘蛛の能力は欲しいが、心を読まれては困る。

 今回は見極めを行って貰う程度にするか。


山之 蜜仍(やまの みつなお)です」

「武光だ」

『エミールです、宜しくお願いしますね』

「はい、宜しくお願いします蜜仍君。先ずは、このショナから従者の説明を聞いて貰いたい」


「はい!」

『あの、心得もですか?』


 空気が凍り付くとはこの事か。


「そうだな、それも聞いた上で考えて貰おう」

《で、本題に入ろうか、何の用だい?》

「夢見出来る人を探しに来た、プロがここの人間に適格者が居るって」


《そうか!あははは!君は夢見だったか。ならあの子は最適だろう、村1番の夢見だ》

「戦闘とかグロいのに耐性無いとダメなんだが」


《そこも問題無い、私と繋がってるから過去の大戦も見ている。あの子は次代候補なんだ》

「何それ便利」


《だろう、私も先代から夢見で大戦を知ったからな。それに術も、影移動もなんでもござれ》

「一子相伝?」


《長の術はな、だが他の者も多少なりとも術は使える。ココで途切れさせるワケにはいかんからな》

「大変だね、是非にもショナを説得してみるよ」


《ありがたいが、期待しないでおくよ》


 ハナもエミールも、余計な事を。


「そんな、楔って。土蜘蛛様」

《大方、色恋で揉めて入った文言なのだろうよ。手を出してはいかんだの、良いだのと。要するに、好きにしろと言う事じゃないのか?クエビコさんや》

『あぁ、そう解釈してくれて構わない』


「なるほど、分かりました」

「後は、どの位強いのかによるよね」

「そうだな」

《では試しに、その従者と一戦交えてはどうか、ウチのは強いぞ》


「よし、宜しくショナ」

「俺も加えて貰おうか、大戦を乗り越えた技術なのだろう」

「はい!宜しくお願いします!」




 洞窟横の竹林の中、戦闘が始まった。


 タケちゃんが先ず飛び上がり、威嚇の為か少し離れた場所へ武器を投げ付けた。


《ほう、早々に影縫いが見破られてしまったねぇ》


 なるほど。

 ショナを守った形だ、そして2人は高い所まで跳び、作戦会議。


 そして空間移動を使い、圧勝。


「タケちゃん、圧勝やん」

「忍者は有名だろう、シミュレーション位はするさ」

「助かりました、ありがとうございます」

「負けちゃったぁ、流石凄いですね召喚者様は!」


「俺だけでは無いんでな、ショナ君が居てこそだ」

「いえいえ、武光さんの作戦のお陰です」

「土蜘蛛様、もっと僕、修練したいです。皆さんと一緒に」


「すまんが、本来はハナの従者になって貰いたいんだ。夢のな」

「ドリームランドですね!行ってみたいです!」

「ええよ」


「念の為に、告解の魔法や盟約魔法も使わせて貰いたいんだが」

「ちょ、そこまでせんでも」

《いや、事態が事態だしな、構わんか?蜜仍》

「はい!お願いします!」


 そして今度はリズの元へ。


 それから柏木卿の元へ。


 何人を生かし、何人殺すかの話は出ず。


 採用試験はそのままに、昼食の話へ。

 エミールの卵の事も有り、浮島でお子様ランチを、となった。


『ハナさん、まだお外は怖いですか?』

「そうだね、良い天気は怖いね」


 コレも本当はどうにかしたいのだが、ドリームランドでの修行や雷電の習得が残っている。


「ハナ、眠いか?」

「んー、タケちゃん、どうしてあんなに怒ったの」


 そうだ、勘が良いんだったな。


「秘匿案件と知った段階でな、国や政府を恨んでいる可能性を考えていた。嫌な場面を見せた、すまない」

「あまり恨まれる事をしないでおくれね」


「あぁ、気を付ける」


 そうして今度は省庁横の施設でドリームランド行きの下準備。

 ネイハムを迎えに行き、ハナの仮眠を見守る。




 桜木さんが目覚めた。


 いつもと様子が違う。

 真っ青になりトイレへ行ったまま、戻って来ない。


《様子を見て来ても良いですかね》

「あぁ、頼む」


「今日は、行かないんすね」

「あぁ、聞いてられる気がしない」


「ドリアード、何が」

《おタケ、お前じゃろう。諍いを見せたであろう》


「そうか、すまなかった」


 今までで1番落ち込んでいる様に見える。


 それ以上、誰も何も言わないまま。

 桜木さんが戻って来るまで沈黙は続いた。


「空気重っ」

「ハナ、すまなかった、本当に」


「いや、元々はワシの過去が原因だけど。もう誰かと喧嘩せんでよ」

「あぁ、分かった、誓う」


「アカン、ゲロ出ちゃうぅ」

「すまん」


「嘘ウソ、ちょっと良いかね。大事な話や」


 武光さんが聞いてられる気がしないと言った通り、悲惨な現実が悪夢として繰り返されていた事。

 最近は見ていないから油断したが、諍いを見たのが切っ掛けで表層化したのかも知れないと。


《良く考えれば、現実と認識しても耐えうる精神になったとも考えられますね》

「ポジティブ」


「俺らに聞かせて良いんすか?」

「あ、聞きたく無かったかもか、ごめん」


「違くて、大事な事じゃ無いっすか」

《ですが君にしてみれば、大事では無い、大した事が無い方が良いのでは?》

「だね、仔犬に噛まれた程度に思いたい」


「いや、絶対大型犬っすよ」

「たった1回だし」

「そう回数の問題では」


「でも、あまり可哀想な子って態度は勘弁。上には上が居るんだし」

《そう思いたいそうなので、暫くはそうお願いしますね》


「うっす」

「はい」


「タケちゃんも、そう責任を感じないでくれ」

「あぁ、いや、すまなかった。もうしない」


「蜜仍君も、今回はごめんね」

「いえ、桜木様が良ければですが、僕はドリームランドに行きたいです、また一緒にモフモフしましょ?」


「そうだね」


《まだ食欲が湧かないでしょうが、何か食べて下さい》


「先生、炭酸は胃を刺激するんだったか?」

《そうですね、温泉も。体を温めてみては?》


「おう、ちょっと戻ります」




 今回は折角、上手く行く筈が。

 俺の怒りに充てられて悪夢と化してしまったか、すまない。


「すまない」

「諍いの内容が全然違うから、いつもなら大丈夫だと思うんだけど。ごめんね、繊細で」


「いや。もう、いっそ殴って欲しいな」

「ワシの手が折れそう」


「だな、あんなに食べてるのに」

「少しはか弱く見えるかしら」


「見える、もう何処かのお姫様だ」

「それは無理が有り過ぎる、髪の毛短いし」


「ほら、伸ばした方が良いだろう?」

「後ろ姿詐欺過ぎて罵倒されそう」


「それ、マジで有るのか?」

「他人がされてるのは見た」


「言った方の顔面は」

「イケメン擦り潰した感じ。そして合コンではイケメンは美女へ、ワシは空気へ」


「おぉ、合コンへ行った事があるのか」

「友人に恵まれましてね、呼んでは頂けた」


「俺の所はな、学生は恋愛禁止。ただし、成績を落とさなかったら暗黙の了解で許される、何なら成績が伸びたらお咎め無し。で、大学に入っていきなり解禁、目も当てられない状況もチラホラ。お互いに友人に構ったりなんだで、この年になった」


「お人好し」

「だな、それにビビってたんだ。早い年齢の出産で大変な事になってる奴も居たから、ビビってた」


「相性が有るからね、子供との」

「それに置く瞬間の緊張感な、抱いて無いと泣き続けるのを見た時は本当にゾッとした。親に認められないと手伝いも無しで、そう言う状況にしたく無かった」


「ウチの親の諍いは、もっと無益で激しかったから、普通なら大丈夫だからね?アレはワシらの為だったんだし、偶々だから気にしないでよ?」

「おう、ありがとう」




 浮島に戻っても、桜木様と武光さんの問答は少し続いた。


 俺は家庭の事だけ。

 お2人が居た世界は、周りまでヤバいんすよね。


 お役に立てるかなと思ったんすけど、俺の方が甘い環境なのに。

 自信が消えそうかも。


「先生、俺ら、役に立てるんすかね?」

《ココなら安心して貰えるんだと、事実を示す。聞かれたら答える、盛らず、減らさず、ありのままの実体験を話すだけで、充分かと》


「ぶっちゃけ俺より」

《桜木花子はそう思って無いかと、たった1回の暴言、親との相性の問題程度の認識ですし。それを否定するのは、外野の仕事では無いので》


「えー、もっと何かしたいんすけど」

《なら、もっと世界でも良くしておいたら良いのでは》


 確かに。


 納得していると柏木さんから連絡が、ホムンクルスの事だった。

 許可が出たのはついさっき。

 神託が降りたって。


「制限は予期せぬ出来事を起こすと出た、らしいっすよ」

「何それ、繊細さが評価された感じで若干不服なんだが」

「無双して良いなら楽だ、よし、行くか」


「ちょ、コレはワシが」

「大人の連帯責任だ。置いてくぞ?」


「もー」


 エミール君にはショナさんやミーシャさんと神獣ズ、コッチは魔王を連れて先ずは省庁へ。


 そして、ホムンクルスの施設へ向かった。




 俺と言う異分子の要素は有るが、今回は控え目に徹する。

 どうしても、俺も連帯責任が有るのだと理解して貰いたい。


「ごめん賢人君、事前に警告しとく。きっと酷い何かがあるかも」

「人体実験っすか?」


「あら、予測してたか」

「まぁ、そうっすね」

「俺も覚悟はしてる、さ、行こうか」


「おう」


 桜島の麓にある、簡素なプレハブ小屋の群れ。

 建築現場へのカモフラージュ。


 そして内部も、科学的なセキュリティは勿論、迷い家(マヨイガ)と呼ばれる魔法か何かが発動している。


 最低な面と良い面の両方を備えた施設。


「召喚者を造ろうとして失敗した?」


「はい」


「マジっすか…なんっつー怖い事を」

「内密に国連で決め、各国で秘密裏に研究されました。ですが今は禁止され…ココが最後の稼働する施設です」


「だけか?国に貢献出来た技術は無いのか?」


「御座いますが、所詮それは言い訳に過ぎず」

「良いから、言ってみてくれないか?」


「人工血液、人工臓器、です」

「転生者や召喚者が」


「いえ、最初の基礎はそうですが、良くも悪くも、我々だけで行いました」


「曲がりなりにも、沢山の人を救いたいだけだったんだよね?善意で」


「はい…前任者達は皆、救いたかった…と…私も、今でもそう思っているのです」


 飲み込むまでには時間が掛かる。

 どんなに覚悟していても、デカい棘付きの異物。


 飲み込み、消化への時間は人それぞれだと先生に諭された。

 あの先生を引き入れといて、良かったのかも知れん。


「動画はある?」

「はい…」


 ハナの呪いはこう言った事には効かない。

 寧ろ、よりクリアで細部に目が行き、絶叫は鼓膜にこびり付く。


「この失敗した方々、私のせいなんですよね…」


「そうかもね、罪悪感が出た?」

「はい、とても」


 こんなに悲しそうな顔だったろうか、魔王の顔は。


「あの、主任。もし、万が一このホムンクルスを製造するってなると、どうすれば?」

「今まではテンプレートを用いてまして、それがこちらに、歴代の召喚者様のです…」


 あれだけ言っても、賢人には辛いか。




 俺、めちゃくちゃ考えが甘かった。


 何ならちょっと脅されてる程度の感覚で、ちょっと試されてんのかって位で。

 ショナさんじゃ無くて、俺が呼ばれて嬉しいとか思っちゃってたし。


 確かに俺だからココへ呼ばれたんだろうけど、凄い事を知っちゃって正直もうパンク寸前。


「武光さん、何で俺なんすか?」


「家族への造詣が深いだろう」

「まぁ、多少は有りましたけど、ココまでの事を受け止める度量は」


「だが、ココの人間は等しく、この事実の土台の上で生きて来たんだろう」

「はぁ、そうなんすよねぇ。俺の親父が生きてるの、ココのお陰なんすよね。酒で肝臓、ダメにしたんすよ」


「末裔や末端が全責任を負う必要は無いだろう、戦争でも何でもそうだ。当時の当事者が最も重い責を負うべきで。その先の有益な事にまで罪悪感を感じるのは、先人や祖先に、逆に失礼だと思うがな」


「理想はそうっすけど」

「綺麗事と思うのも、事実と思うのも、お前の心次第だろう」


「強いっすよねぇ、お2人とも」

「そうでも無いぞ、まだ罪悪感でいっぱいだ。俺は器用じゃ無いんでな、ココの犠牲者より生きてるハナの方が気がかりなんだ。ただ、目先の事だけで手一杯なんだよ」


「でも、俺」

「お、魔王が弱気になり始めたか」


 一瞬、イラッとしてしまった。

 魔王に、魔王のせいなのにって。


 でも、武光さんに論破された。

 魔王が居なくても、次は大罪が大義名分を担うだけって。

 ぐうの音も出ないで聞いていると、今度は静かに桜木様が切れた。


 魔王に、人間として苦労しろって。

 それから主任さんも、切れたっつうか、堰を切った様に話し始めた。

 人間が如何に大変か。


 この人も苦労してんだよな、仕事と家族で、だから苦労が分かるんだよな。


 あぁ、責めらんねぇよなぁ。




 次はアレクの素体へ。

 うん、アレクだな。


「じゃあ、やってみようか」


「賢人、行けるか」

「うっす」


 ハナも俺も緊張している。

 成功するとは分かっていても、不確定要素が多過ぎる。


 俺と言う異分子、そして本来とは逸れた事象が山程有る。


 成功しなければ、暴走すれば、俺が方を付ける。


 《「成功です!」》


 本来通り、赤茶毛はセバスチャン・パーカー、黒髪にはアレクシス・フォスターと名付けた。


 そして、仔犬にはルシア。


 ホッとした、飛び上がりたい位に嬉しい。

 だが、まだまだ。


 血の盟約にギアス、そうしてやっと安心出来る状態になった。


「桜木様!成功ですよ!大丈夫です!やりましたよ!」

「本当に大丈夫なん?呆気なくない?」


「はい!2人とも不死性は失われ、傷が付いたままですし、魔力上限も人並みです。胃腸も膀胱も正常に活動してますから、食事も排泄も行えます、後は、睡眠も」

「涙腺も?」


 あぁ、ココで賢人は辞めない選択肢が出るのか。

 ハナの視界だけでは知れない事が沢山有るんだな、これからも出来るだけ側に居よう。


「はい!ただ、練習は必要でしょうが」

「ありがとう主任」


「いえ、コチラこそ、本当に、ありがとうございました」


「よし、次は病院かね」

「だな」




 成功したのに、ずっと武光さんが難しい顔をしたまんまで、もしかして何か問題が有るのかと心配してたら、ただ喜びを我慢していただけだった。

 桜木様を持ち上げて、アニメみたいに高い高いして、グルグル回して。


 分かり難いけど、分かり易いんすよね。

 桜木様も。


 病院の検査の後は研究所での検査、後日改めて魔法を封印する印が入る事に。

 心配性っつうか、念入りっすよね。


「おう、お疲れ様。今日からお休みでしょ」


「はい、色々考えさせられましたし、丁度良かったっす」

「ごめんよ」


「いやいや、ショナさんなら立ち直れ無いかもですし。にしてもあの映像、想定してた通りっすね。殆んど見れなかったっすけど」


「そういう話がアッチであったから」

「もう、マジでアッチ怖いんすけど」


「ごめんよ、本当に」


「いえ、俺を指名してくれて嬉しかったっす」

「でもだ、今後は無理せず断って、見ない聞かないは自衛権」

「だな、送るぞ」


「はい、じゃ!桜木様!」

「おう、じゃね」


 武光さんに省庁まで送って貰い、そのまま報告書の作成へ。


「はぁ、書き上げる自信無いっすよ」

「思ったままで良い。辞めるなら辞めてもハナには言い訳をしておく」


「武光さん、不器用な方っすよね?」

「おう」


「おうって。俺位に柔い人間が居た方が楽っすよ?クッション要員は居ないと」

「お、なってくれるか?」


「そりゃそうっすよ、ショナさんの事も有るんですし~」

「余裕か」


「全然。でも、それとコレは、もう別なんで」

「良いと思うぞ、そのお前の感覚」


「あざっす!」




 浮島に戻ると、3人は既に爆睡していた。


「ショナ君、事情は聞いたか?」


「賢人君からの報告書と、桜木さんからの話で」

「どうして、君じゃ無いんだと思う」


「僕が、ショックを受け、従者の職を辞めるかも知れないから、でしょうか」

「もし君が、この事実を最初から知っていたら、ハナには知って欲しく無いんじゃないか?」


「…はい」

「それと同じだ、ただ守りたかっただけなんだ」


「守ろうと思ってたのが、こうなっちゃうんですね」

「心を守ってやるのも、立派な役割だと思うぞ」


「はい」


 解せない様子、本来では伺い知れなかった部分だ。

 しかも明日は小野坂が来る筈、どうしたって、不安は残るものだな。

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