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2月1日

 どうしてこうも上手く行かないのか。

 病室に来ていた看護師とショナ君をくっ付け様とするだなんて、予測出来なさ過ぎるだろう。


「似てると良いらしいし」

「ハナ。あまりゴリ押しは良くないぞ」


「あ、すまんすまん」

「ショナ君、少し今後の事で話が有るんだが」


「はい」


 病室を出て直ぐに暗い顔になってしまった。

 ある意味で真に受けないで欲しいんだが。


「本気にしてはいないよな?」

「まぁ、はい」


「そうか、すまん。アレは誤解され易いみたいでな、俺からしてみれば」

《おはようございます、大事な話でしたら部屋を用意しますが》

「いえ、もう大丈夫です」


「ショナ君」

「いえ、本当に大丈夫です」

《なら良いんですが》


 こう揉めていると、今度は例の看護師が病室から出て来た。


「あ、おはようございますネイハム先生、回診ですか?」

《はい》


「宜しくお願いしますね、では」

「じゃあ僕は、向こうで待機しています」


 もしかして、アレは拗ねているのだろうか。


《あの態度では、何を言ってもアナタからの言葉は聞かないでしょう》

「だが」

《恋の揉め事なんじゃよな、くふふ》


《そうでしたか、ですがお2人共にゆっくり育てるべき事柄なんですし、あまり介入しては良くない方向に行った時にリカバリが難しくなりますよ?》


「実は、ハナがだな、今の看護師はどうかとショナ君にな」

《はぁ、何ですかそれ》


「俺が聞きたい、似ているからどうかと急に言い出したんだ」

《あぁ、忘れてましたけど、本来は自信が無い方なんですよね》


「だからってこう、振り切れるものか?」

《自信が無くとも、自己評価は本人なりに正常値なんです。自己肯定感もそこまで低くは無いので、行動は出来ちゃうんですよ》


「はぁ」

《心中お察し申し上げます》


 そしてハナの回診の間中、ショナ君の様子を伺い見てみたが。

 動揺は最初だけで以降は機械人間、鉄仮面は微動だにせず。


 回診が終わった病室に入った後も、様子は一切変わらないままだった。


「じゃあ、またエリクサーと湯治かね?」

《はい、また低値になってらっしゃるので、浮島にご帰還頂くのが1番かと》


「うい」


 今度は、泊まらせな様にしなくては。




 桜木さんの今回の言動を、もの凄く好意的に受け取れば、人としては嫌われていない。

 純粋に、自分が良い人間だと感じた人を紹介してくれただけ。


 最悪は、既婚者にさせて厄介払いしたいだけ。

 理由?

 実は嫌いな人間の顔に似ているのかも知れないし、何か僕がしたのかも知れない。


《ネイハムはどうじゃったかのぅ》

「儚げイケメン、眼福」


《そうかそうか、無愛想なのはエルフ特有じゃから、我慢しておくれ》

「全然良い」


 こうやって自他共に認める面食いなのに、どうして僕が期待出来るのか。

 それとも、お2人で誂っているんだろうか。




 本来とは少し違うが、ドリアードとミーシャの諍いの後は湯治。

 そして本来通りなら、ドリームランドの予定だが。


《おタケや、ハナが深い眠りに行ってしまったんじゃが》


 露天風呂の横にある長椅子に、腰にタオルを巻いたまま横になっていた。

 改めて思うに、無防備過ぎる。


「ショナ君、君が運ぶか?」

「いえ、前に、僕が運んだか気にされたので」


「体型を気にしていただけだろう。ふむ、先ずは点滴か」


 痛みへの反応無し。

 ドリームランドに行っている時が、1番穏やかな寝顔かも知れない。


「あの、コレは」

「ドリームランドにでも行ったんだろう」


「そんな、大丈夫なんでしょうか」


 大丈夫だとは思うが。

 もうショナ君を行かせるべきか、と言うかどうして俺は同行しなかったんだ。


『やっほー』

「あぁ、ロキ神。ハナなら寝ているが、どうした」


『ちょっと遊びに…凄い深いけど、大丈夫?』


 本来より早いが、頼むか。


「ドリームランドに行っている可能性が有るんだ」

『ドリームランド?』

《仕方無い、説明してやるかの。クトゥルフじゃ、クトゥルフの夢の世界、それがドリームランドらしいんじゃが》

「場合によっては、死を迎える可能性が有るそうで」


『え、誰か紹介しようか?』

「あぁ、宜しく頼む。温泉に浸ける、運ぶぞ」


 回復途中だからこそ怪しまれないだけで、今後もロキ神が関わるならフォローが難しいかも知れんが。




 桜木花子が本格的にドリームランドへ行った可能性が有ると報告を受け、クトゥルフ神話の情報が解禁された。


《五十六先生、知ってらっしゃいましたか》

「知らないよう、まして僕はただの人間なんだから」

『神々同士の争いを感知するのは不可能だからな、無理も無いだろう』


「うわぁ、それも初耳だ。凄いねぇ、召喚者が来ると色々と知れて良いねぇ」

《喜んでばかりも居られないのでは》


「ココにも居るだろう神様達の名前も有るし、大丈夫だとは思うけどなあ」


 そう、信頼だけでどうにかなるんでしょうか。




 こう、信頼するだけで良いと俺は安心していた。

 神々が何とかしてくれるだろうと、逃げだ、鍛錬が楽しくて面倒がっていただけだ。


 妥協で、甘えで、無責任だった。


『大丈夫だよ、ヒュプノスとは親和性が高いみたいだし』

《我もロキも弾かれるとはのぅ、親代わりなれば心配にもなるわい》

「向こうのドリームランドに名前が無いと、入れないみたいですね」


「そうか、ならノードンス神とお会いしたいが。いや、邪魔する可能性も有るのか」

『だねぇ』


「なら、マーリンか!だが」

《会えるかどうかは向こう次第じゃな》

『人間嫌いっぽいしねぇ』


「エミール、暫く頼む」

『はい』


「ドリアード、眠りの魔法を頼む」

《うむ》


 マーリン、ハナを心配してくれているなら。

 どうか、頼む。






 高い高い塔の上。

 深い森に囲まれた塔の上で、マーリンが茶をしていた。


『なんだ』

「ハナの事を頼みに来た、アイツは今」


『ドリームランドに居るんだろう、ほら』


 敵を倒し、森を切り拓き、道を作っている。

 本人にその気は無くとも、確実に洞窟へと向かって行っている。


「誘導、されているんだろうか」

『あぁ、少なくとも俺にはそう見える』


「はっ、先日は助かった。感謝致します」

『アイツにも言ったが、俺は所詮、伝言しかしていない』


「それでもだ、ハナに冷静さと方向性を与えてくれた。ありがとう」


『ふん、何処も五月蠅いな』


 そしてマーリンが眠りに落ちると、今度は画面からマーリンの声が聞こえ始めた。

 優しい、良い神様だ。


『騒がしい。お前、ココで何してる』


《ふむ、なるほどのぅ》

「ドリアードか、助かった」


《別に、我が余計な事を言って混乱を招いた責任を取っているだけじゃし》

「しおらしいな、水分が足りないのか?」


《萎れては居らんもん!じゃがな、ナイアスやエイルにしこたま怒られたわぃ、言うべき時が有るとな》

「直情的だがお前は優しいからな、知ってしまえば言わずにはいられなかったのだろう」


《悔しかったんじゃよ、従者創成期には無かった文言じゃ。残念でのぅ》

「人は容易く忘れる、言葉だけでは容易く真意は誤解される。文章なら、真っ直ぐ伝わると思ったのだろう」


《もっとこう、細かく書けんかったんじゃろうか》

「そこはクエビコ神に聞くべきだが、大方、但し書きで溢れてしまうからだろう。但し、好意がどう言ったモノか見極めるべし、だとかな」


《ふん》

「さ、もう帰るかな。俺が居てはマーリン導師は帰って来づらいだろう」


《そうじゃな、送ってやろぅ》






 武光さんは眠って暫くすると直ぐに覚醒したが、桜木さんはまだ眠ったまま。

 寝逃げや過眠では無いとは言え、死ぬかも知れないドリームランドへ、どうして行ってしまったのか。


「ショナ君、心配無い」

「どうして」


「付いて行かなかった理由は、ハナに負担が掛かるかも知れないからだ。俺を意識する事で、夢の中でも負荷や、隙が生まれるかも知れない」


「どうして、行ってしまったんでしょう」

「死ぬとは思っても無いんだろう、そしてその死を認識するのも危ういのかも知れない」

《じゃの、死を認識すれば死ぬとは、夢には良く有るんじゃし》

『ねぇねぇん、そんなに危ないなら』


「だとしてもだ、地盤固めなら見守るしか無いかも知れん」


《ふぅ。強いね、この子》

『良いなぁ、見たいなぁ』

《お主はダメじゃろう、どう不運が影響するか分からんのじゃし》


『えー』

《誰が行くにしても、もう少し先が良いかな。その子が言う様に、地盤固めしてるみたいだし》

「もっと言うなら、探索だろうか」


《うん、そうだね》

『それで、何でヒュプノスは戻って来たの?』


《報告と、時間が止まったから。多分、僕を認識するのは不味いんだろうね、そんな雰囲気がしたんだ。ただ、何時また動き出すか分からないし、まだ接触出来て無いからまた行くよ》

「すまない、助かる」


《いえいえ、じゃあね》


 桜木さんが好みそうな美しい翼人、ヒュプノス神が再び浴槽の縁に体を預けると、眠ってしまった。




 心配そうなショナ君を放っておくのは忍びないが、自国の宮殿へ行き、無色国家と人事の再チェック。

 そしてネイハムの元へ向かい、今後の相談をする事に。


《ヒュプノス神に、マーリンもですか》

「多いか」

「そうだねぇ、もう関わっている神様達の数が平均を上回ってしまっているね」


「この国だけの統計でもか」

「うん。多神教では有るけれど、崇めるのは1柱だったりが殆どなんだよ。他の神様に助けを求めるのは、何処か、不敬じゃ無いかと思ってたみたいだからね」

《なので、そもそも関わる数が少なかったんですが》


「この国だけでも既に、スクナヒコ様、クエビコ様、タマノオヤ様と。万能神を拝めて無いからこそのチョイスだとは思うけれど、どうしてもこう数が多いとね」

「俺と混ぜてもか」

《何故こんなにも必要なのかが理解出来無い輩もいますからね、万能な1柱で事足りるだろうと》


「良いと思うんだけどね、全体的にはバランスが取れてる様に見えるんだし」

「なら、俺の母数を増やすか」

《アナタが目を付けられますよ》


「そうだね、今は桜木様に集中してるだろうから。君が下手な動きをすれば、徒党を組んでると見られかね無いねぇ」

《同感です》


「動くな、か」

「まぁ、当分は必要最低限が良いと思いますよ」

《意外としっかりしてますね先生》


「見た目は兎も角、君よりはまだ若い方だからね。それに元々は戦争や戦略の研究者だったんだよ、その僕にしてみたら、人が争う理由は容易く想像が付くからね」

「なら、無色国家の狙いは」


「半分善意だろうね、もう半分は自分が望むより良い世界の拡大、救世主になりたいんだろう。理解して欲しい、崇め奉られたい、褒められたい、認められたい。そんな所だろうかね」


「たった、そんな事の為に」


「心の穴を埋めるには何かが必要だからねぇ。どんなに小さく見える穴でも深さは分からない、人によっては国を手中に収めても埋まらない場合も有る。1人2人、数人程度のイエスマンで満足するか、数億じゃ無いと埋まらないか。人間の根本はそんなに変わら無いんだよ、承認欲求の現れ方は違えど、全く無い人間は少ないからねぇ」


「ネイハム先生は無さそうだが」

《とんでもない、じゃなかったら研究論文なんて出しませんよ。どう思いますかと聞く作業と同じです、そして「そうですね」「違うのでは」といった応えを欲しているからこそ、表に出すんですよ》

「反応が有るって事は、存在を認知される事でも有るからね。自分が存在しているかの確認作業は、健全な心の在り方だと思うよ」


《人と関わる事も、論文の発表も、人間同士が接触する行為ですから》


「なら、誰とも関わらず、閉じ籠もっている者は」

「神経が剥き出しになっていたら、普通の風すら辛いからね。膜を貼り終える迄、ただ身を守っているに過ぎなかったんだと思うよ。桜木君は」

《問題は過ごし方ですね。身を守る術を学習しないまま年を重ねても、歪な膜は身を守りきれません》


「そうそう、そう中途半端な状態で関わってしまうと、また身を守る為に殻に戻らなくてはいけなくなるし。膜も殻も歪まずに育たないと、外部も自身も傷付けてしまう。君はまだ分からないだろうけれど、四十肩と言うモノが有ってだね」

《ザッと言うと関節の間が骨化して棘状になり痛むんですよ、実際に。私達は、身を守る術を適切に教え、指導するのが役目だと思って仕事をしています》


「僕はね、未熟児で殻を割られてしまった子を保護する感じかな。剥き出しの皮膚の痛みは、考える事を阻害してしまう。僕らは膜で、防風林で、安全な建物で、暖炉で有りたい」

《じゃあ私は冷風機にしておきますよ、風通しも大切ですから》


「優しいでしょう、こうフォローしてくれるんですよ。表情は無いけれど、こう良い子なんですよ彼は」

「大丈夫だ、そこは信頼している」

《ですが難しい顔をしてましたね》


「俺は、適切に育てられた方だなと、父と母に感謝せねばと思っていた」

「それと、周りの人や環境にもだね。親が良くても、環境が宜しく無いと容易く人間は犯罪や悪に染まってしまうものなんだよ」


「それでも、出来る事は有るだろう」

「するか、しないか、生きるのを止めるかだね」

《桜木花子に幸せ自慢をしても大丈夫ですよ、そう妬む等の感情より、学習意欲の方が高いので》


「もっと欲張ると、見本や手本になる話、そして行動を示して欲しいね」

《ハイプレッシャーですね》


「彼は切り替えが上手なんだ、心根も強く優しいからね」

《そう期待していると言う事なので、聞き流して頂いて構いませんからね》


「あぁ、ありがとう」




 桜木さんは水中で完全に脱力しているお陰なのか、寝返りを一切しないまま数時間眠っている。

 点滴の中身はエイル神のエリクサー、濃度は100%。


 呼吸を確認しては状態報告し、情報の更新を待つ。

 クトゥルフや魔女狩りの詳細情報は未だ、審査が必要な事に苛立ちを覚えたのは初めてだった。


「どうだショナ君」

「あ、お帰りなさい。まだです、ヒュプノス神の反応も有りません」


「ハナは、君の料理が好きなんだ。例のお子様ランチを作っておかないか?」

「良いっすねそれ、何を買って来ましょかね?」


 僕が気を遣うべきなのに、僕の方が気を遣われてしまっている。

 良くない、先ずは言われた通り料理をすべきかも。


「それじゃあ」


 医神達に助言を頂きながら、献立が出来上がった。

 ハンバーグオムライスの中は薄味のバターチキンライス、特大エビフライとカキフライには特製のタルタルソース、昼食にとリクエストされていたタラコとイカのパスタ、ラザニア、帆立の貝柱入りクラムチャウダー。


 そして野菜ジュース。


「ショナさん!目覚めるかもっすよ!」


 桜木さんが目覚めたのは、眠りに付いてから6時間後だった。




 ハナは、目覚めて先ずはトイレに。

 そして野菜ジュース、常温のエリクサー、クラムチャウダー。


 そしてショナ君をべた褒めしながら昼食へ。


「良いお嫁さんになると思う」

『ふふ、そこはお婿さんでは?』

「家庭的で素晴らしいって事だろう」


「そうそう」


 デザートには島産フルーツのムースパフェ。

 甘味も出来るのは、本当に凄いと思うんだが。


「凄いぞショナ君」

「ジュラさんに教えて貰っただけですから」

「にしても凄いのに、自信を持つべきだと思う」


 お前が言うかと、そう言いたいが今は飲み込みドリームランドの話へ。

 この流れで、また看護師の話を出されては困るんでな。


「それで、向こうではどうなったんだ?」


《ストレージ機能の拡張。自身も無機物への憑依、発光を獲得しました》

「おめでとうソラちゃん」


《はい》

「それと、探索者になっちゃった」


 マーリンやヒュプノス、そしてウムルに出会い少し能力が拡張されたと。


 そして、バイタルチェックの結果は低値。

 あれだけして余力を得た筈なのに、まだダメか。


「よし、胃と顎に優しい献立も考えるか」


 納豆丼、南瓜プリンを主軸に、他の食材の加工は最低限。

 里芋は皮蒸しにし、牛肉やスネは下茹でした状態で用意しておく事になった。


「1品だけ、歯応えが有るモノが欲しいんだけども」


 流石病弱、既に0で試した事が有るらしく、柔らかいモノばかりだと食欲が低下すると、食欲増進に歯応えの有るフライドガーリックと枝豆のポテトサラダが加わった。


『ユリ根も混ぜて』

《うんうん、豆と芋は常食して欲しいからね》


 あぁ、あの精神科医達への親近感はココか。


「サラダの分際でファッティーよなぁ」

「そこは筋肉へ繋げたら良いさ」


「ムキムキになりそう」

「その顔でムキムキか、ギャップが凄いな」


「不思議よな、コッチの方が女顔っぽく見える」


 確かにそうだが、コレも呪いの影響なんだろうか。


「どっちも、俺には可愛いメイメイだ」

(ディディ)ちゃうのね」


「そうだったな、名前はどうするんだ」

「えー、皆の前で言うの恥ずかしいんだけど」


「よし、ストレッチでもするか」


 ココでもハナが選んだのは、紫苑だった。

 そして選んだ理由は、音の響きが何処でも使える事と、鬼の醜草だからと。


 もし名前を決める時点で呪いが解けていたら、違う名前を選ぶんだろうか。


「性別的にもどっちでも使えるかなって思ったのも有るんだけど、良過ぎよね」

「そうか?他にも候補が有るのか」


(じゅん)とか」

「6月で潤いか」


「他にも有るんだけど、紫苑が1番優しい響きかなって」

「先生に聞いてみるか、紫苑」




 こう空間移動ばかりだと運動不足になりそうだけど、タケちゃんが居ると間違い無く健康になりそう。


 今回から腹八分目で食事の回数を増やし、消化を促すのに気功をさせられながら、先生と話す事に。


《何事も試行錯誤は大事ですし、やってみましょう》

「へい、しんど」

「呼吸を意識だ」


《武光さんをどう思いますか、紫苑さん》

「甘いのにスパルタ、頭良い、良い兄ちゃんって言うか、最早父ちゃんよな」

「力が入り過ぎてるぞ」


《お2人に質問なんですが、性的対象の性別は》

「女だ」

「この状態だと、どっちも試してはみたい気はする」


《どっちもですか》

「花子でもそう思う時が有ったりもしたけど、紫苑だともっとこう、気軽に試したい感じすら有る。趣味嗜好が混ざってるのも有るけど、何か、肩肘張らないで良い感じ」


《ハードルが下がった感じでしょうか》

「だね、妊娠しないってのが大きいけど。機能して無いからだけじゃ無くて、潔癖が取れた感じ」

「良いんだか悪いんだか」


「別にそんな、ホイホイやりたいとかじゃ無いよ。ただ、結婚前提じゃ無いお付き合いをする人間も理解出来るかもって感じ」

《一応、性病は存在してますからね?》


「そうなの?根絶してそうだけど」

《特定の種類は根絶出来ましたが。結局は自覚症状が無ければ病院には行きませんし、医療が発達すると意外と気を付けないモノなんです。ですがそういったグループでは逆に定期検査が実施されている分、安全と言えば安全なんですが。不意に不特定となさる方は、性病の存在を忘れがちですから》


「怖いわー」

「紫苑でも治せないモノなのか?」


「あぁ、病気はまだ何もしてないね」

《流行性の感染症は免疫の為に掛かった方が良いですが、もう既に予防接種もさせて頂いてますしね》

「スクナ神、万が一にはだ」

『感染症は敗血症も起こす場合が有る、少し良くなったら練習しよう』


「あーい」




 そして帰宅すると、良く居る少年と同じ様に無垢な顔をして、紫苑が問題発言を始めた。

 どうしてそうなるのか、半分は分かるんだが、何故ショナ君がウブで有るのかの話へ。


「心得の、解釈違いと言うか」


「じゃあ、ご指導係はまた別に存在するの?」

「指導と言うか」

「そこは色欲さんの店じゃ無いっすか?」

「ほう」


「会員制で色々な種類の趣味嗜好に出会えるらしいっすよ」

「その会員証は、どう受け取れるんだろうな」

「あ、虚栄心にこの格好見せたいな」


「そうだな、服も仕立てて貰おうか。どちらにでも使える服を」




 虚栄心は慣れてるのか何なのか、紫苑だって言うと普通に受け入れてくれた。


「じゃ、いらっしゃい」

「あーい」


「ふふっ、全然違うじゃないの、中身」

「脳内物質の変化ですかな」


「そうね。でも、少し心配だわ」

「イケメンカウンセラーに掛かってるよ」


「あら羨ましいわね」

「紫苑って名前も使って良いって、最初は離人症を心配されてた」


「寧ろ、違う方を心配しそうよね」

「男として生きるとか?ココは特に縛り無いんでしょ?」


「無いけど、召喚者には居なかったんじゃ無いかしら」

「そうなのか、でも別に、どっちでも良く無い?」


「普通はね、順序が逆なのよ」

「徹底したカウンセリング、からの段階的な性転換治療。整形もそうなんだってね」


「したいの?」

「したかったけど、紫苑は変えなくても良いと思ってるから悩むなぁ」


「まぁ、どっちかしか選べないなんて時代が遅れてるのかも知れないわね」

「どっちでも良いが理想かなぁ」


「どっちも愛されたい感じ?」

「んー、花子を受け入れる人ってどんなんだろ、信じられんわな」


「考えられない、じゃなくて。信じられない、なのね」

「花子だとらしさに悩む事とか有ったけど、まだ紫苑は何も無いからね」


「嫌な事を性別のせいにしても、大して良い事無いわよ」


「あぁ、花子を受け入れないと不味いよな」

「まぁ、そう急がなくても良いんじゃないの。厄災が終わってからでも、時間は有るでしょう」


「紫苑だと焦る感じが減るのよ、何かしないとって焦燥感が紛れる」

「それ、良い事なのかしら。センシティブな感覚が阻害されて無い?巫女は殆ど女なのよ?」


「えー、だって凄いザワザワするんだもん」

「心配だわ、おタケも呼ぶから服着て」


「へーい」




 危惧していなかった事が問題となった。

 夢見や神託の巫女としての能力が、紫苑によって阻害されているかも知れないと。


 事を急いだ弊害か。


「はぁ、すまん」

「実際がどうかは別よ、でも心配なのよ。何だかんだ性別は重要な働きをする事も有るから」

「んー、例えば?」


「どちらでも無いと嫌がられる事だって有るのよ、得体の知れないモノに人は恐怖し排除してしまうから。神様にも居るんじゃないかしら」


「んー」

「王子様と王子様が出会ったら、生まれるべきお子様が生まれない、生まれるべき運命が阻害さちゃうかも知れないのよ」

「そうかも知れんな、よし、暫くは」


「えー、やだぁー」

「こら紫苑」

「ちょっ」


 ココで逃げ出すか。


「アクトゥリアン、紫苑は何処に行った」

【浮島ですねー】


「そうか、すまんな虚栄心」

「あの子、女性性がそんなに嫌なのね」


「あぁ、だがこう激しく拒絶するのは想定外だった」

「きっと楽しくて仕方無いのね、男性性が」


「みたいだな、最近はずっとあの格好だったんだ」

「煩わしいみたいだものね、女性性って。ま、寸法は図れたから、出来たら連絡するわ」


「あぁ、助かる」

「良いのよ、楽しいから」


 一通り探し回ると、小屋の布団に潜り込んでしまっていた。

 子供か。


「ハナ」

「実は花子の名前嫌いなんじゃー、起きてる時は紫苑が良いー」


「分かった分かった、取り上げ無いから話を聞いてくれ」


「分かって無い、少し体験した程度じゃ分からんのだよ。あの、女性の体の面倒さを」


「なら教えてくれ、頼む」


「ムダ毛処理、月経痛、月経前症候群の数々。ヒール、スカート、ファッション、胸がモゲそうな思いで走る短距離に長距離、ノーブラ最高だ馬鹿野郎」


「分かった、先ずは走ってくるが」

「タケちゃんの女体化の胸のサイズによる」


「ほれ」


「もっと有れ」

「有れと言われてもだな」


「スクナさん」

『細胞を増やしたら良い』


 胸にも成長痛が有る事を初めて知り、モゲると言う感覚も得た。


「うん、実に邪魔だな。肺から持って行かれそうだし、過敏になった感覚もうざったいな」

「でしょ。でもさ、タケちゃんは身長変わらないから良いけども、ワシ小さいんやぞ?運痴だし、ブヨブヨだし」


「後ろ向きな考えでの男体化には反対だぞ、それにもう胸も何も無いんだろう?」

「皆が気を使うのが嫌だ、かと言って女性従者を増やすのもビビってる。正直アレは戦闘無しでもドン引きだ、執念が過ぎる」


「そうだな、だがアレは俺の配慮不足だったんだ。許してくれ」

「タケちゃんを許すも何も無いんだが、コレが1番良いと思うのに、ダメなんやろ」


「女扱いが嫌か」

「ザッと言うとそうです」


「分かった、話し合ってみるから今日はメイメイで居てくれ」


「分かった」


 困った。

 それもコレも呪いのせいなのだろうが、どう言うか。


「諸君、ザッと言うと女扱いが嫌だそうだ」

「そんな扱い、しましたっけ?」

「身に覚えは無いですけど」


「俺からザッと言うに、大事にされ慣れて無いのかも知れん」

「あー」

「そんな不憫な理由が、こうなりますか?」


「自身の女性性への嫌悪もセットだろうな」

「マジっすか」


「それに加え自信の無さが組み合わさり、ショナ君に女性を紹介すると言う暴挙に出た」

「あぁ、ドンマイっすよ、ショナさん」

「はぁ」


「なので、今後も変わらず接して貰いたいんだが」

「うっす」

「はい」


「すまん、助かる」


 呪いが有るのに俺が上手く立ち回れ無かっただけ、事態をややこしくしたのは俺だ、すまんハナ。




 紫苑を取り上げられる不安から少し取り乱したが、エリクサー作りで落ち着いた。


 うん、逃げ出すのは大人気無いな。


 でも、女扱いはそう表面的な事じゃ無いんだよタケちゃん。

 皆で仲良く温泉に入りたいだけなのよ。


「桜木さん、制限付きでドリームランド行きの許可が出ました」

「場合によっては俺やショナ君も向かう」

《僕らもね、ウチの子だよ》

『モルペウスだよ、宜しく』


「宜しくお願い致します」




 本来と少し違うが、モルペウス神もヒュプノス神も待機してくれている。

 コレで、大丈夫だろうか。


「マジで、人格違う感じっすよね」

「ココで育ったら、紫苑の様になってたのかも知れんな」

「ココなら、誰かが異変に気付きますからね」


「もっとスムーズに、もっと心を開かせたかったんだがな」

「言い辛いんすよ。俺も自分の家の事は、どこか恥ずかしいって思ってるんで」

「恥ずかしがる必要なんて無いんですけどね」




 そして桜木さんは覚醒してくれた。

 大爆笑しながら。


「桜木さん、笑ってましたけど、何か面白い事でも?」

「不謹慎で言えん」


「ダメですよ、条件として夢の内容を報告する事になってるんですから」


 漁村の最後は悲惨なものだった、ノードンス神の雷が雷鳴と共に人々に落ち。

 ヒュプノス神が呼んだ兄弟、悪夢の化身イケロス、死そのものであるタナトスが人々を恐怖に陥れた。


 天使の様な姿に懇願と悲鳴を上げる住人達が、何だかとても面白くて可笑しくて、どうしても笑いが止まらなかったと。


「ざまぁ、と。まるで時代劇を見てるみたいにスカッとして、ついニヤニヤしてしまった」

《あははは、本当、ね。久しぶりに大暴れしてイケロスもタナトスも楽しかったってさ、ニュクスもそのうち遊びにおいでって言ってたよ》


「お世話になりました、ヒュプノスさん、モルペウスさん」

《良いの良いの、少ししか手助け出来無いけれど、これからもどうか僕らに見守らせておくれ》

『うん』

『だね、その方が良いと思うよ。死ぬリスクがあるなら味方は多い方が良いし』


「うん、宜しくお願いします」

《よしよし、じゃあまたね》

『じゃあね』


「眼福」


 勿論神々だから子供扱いも、頭を撫でられるのも問題無いのかも知れないけれど。

 もしかして桜木さんは、年上が良いのでは。




 この後は、ロキがハナを攫って行くはずだが。


「近々、挨拶に行くべきだろうな」

「うん、だね」

『じゃあ先ずは俺の所に来てよ、俺のって言うか、娘のとこ』


「ヘルさん?良いの?」

『うん、勿論だよ』


 覚悟はしていたが、本当に慣れた手付きでやるものだな。

 ロキ神がハナを抱え、泉に飛び込んだ。


「桜木さん!」

「ナイアス、ヘルヘイムか?」


『はぃ、そうですぅ』

「様子を気にしてやって貰えるか?」


『はい、見える範囲でならですけどぉ』

「ありがとう。よし、訓練でもするか」

「な、追い掛け無いんですか?!」


「日本ならヨモツ神だろう、気難しいかも知れん。もし何か有ればナイアスが知らせてくれる筈、今は俺らに出来る事をすべきなんじゃ無いか」


「そうですが」

「見たいっす、ショナさんと武光さんの手合わせ」

「おう、ハナが居ないんだし、ヴァルヘイムへ行くか」




 サクラちゃんはグロ耐性も有るみたいだし、優しいし。

 弁えてくれるし、礼儀も有るし優しいし。

 ヘルの友達になってくれないかなぁ。


《攫うみたいに運んで、物騒じゃないのロキ》


「どうも、お世話になりました、ありがとうございます。桜木花子と申します」

《どうも、ヘルよ、ロキの娘でありユグドラシルの冥界の主。死者の国は初めてかしら?》


「初めてです、お邪魔します」

《…そう、ならココの物には触れない様に、ココで食べ物を口にしない様に》


「はい、あのザクロもダメ?」


《…ココで食べなければ良いわ、この母屋では何もダメ》

「はい、了解です」


《では…ラティ、レト、ご案内してあげて。ロキ、少し話をしましょ》

『え、え?なに、なんで怒ってるの?』


『桜木様、コチラへどうぞ』

『ロキ様の事はどうぞ、お気になさらず』

「そう?お邪魔しますね」


《もう。人間を、まして召喚者を攫って来ちゃって、何がしたいのよ》

『了承は得たよ?』


《だからって。まぁ良いわ、それで、何でこんな事をしたの》

『ヘルのお友達に良いかなーって』


《だけ?》


『何か、離れ難い感じがするから、もしかしたら危ない事に巻き込まれそうだなって』


《そりゃ召喚者なんだもの。で、もうそれだけ?》


『何か、良いなーって』

《はぁ、召し上げは厄災後にして頂戴よ》


『えー、ヘルを差し置いてそんな』

《じゃあ関わるのを止めなさい》


『えー、むりー』


《もう、惚れっぽいんだから。別に私の友達って大義名分は》

『ううん、ヘルの友達にってのが最初の気持ちだから、友達にはなって欲しい』


《私なんかが娘じゃ、きっと嫌がられるわよ》

『大丈夫、そこは気にし無い良い子だから安心して。落とせなかったとしたら、俺の魅力が足りないだけだし☆』


《本当に、自信満々なんだから。もし、仮に友達になれたとしてもよ、絶対に協力して上げないんだから》

『うん、愛してるよヘル』


《ふん、さっさと行ってくれば良いわ》

『うん、また後でね』


 ちょこんと座って。

 可愛いなぁ。


「ほー、バルドルさん」


『あぁ、バルドルね、アイツはラグナロクを戦い抜けそうも無かったんで保護したんだ、偉いでしょ』

『おかえりなさいませロキ様』

『では、失礼致します』


「バルドルの話、詳しく」


 ココで遠慮しないのが好き。


『オーディンの愛息子。頭が良くて優しくて美しい、良い奴なんだけど、優柔不断で…とにかく優し過ぎたから』

「ほう」


『演舞と言えど皆が本気で殺し合うし、そんなのを見せられないからね。一時的に、冥界に逃がしたんだ』


《私はあの子は嫌いよ、純真無垢なんて反吐が出るわ》

『ヘルちゃん、折角可愛いんだから、汚い言葉は良く無いよぉ』


《好きで女に産まれたんじゃ無いわ、それに、他に的確な言葉が見付からないんだもの、仕方が無いじゃない》

『本当に他に無い?』


《…虫酸が走る》

「ウザイ、マジ無理、ファッキン糞野郎?」


《それ、そう言う感じよ》


 ほら、合うって思ってたんだ。

 流石俺。


 っていうか、俺に言ってる?


『え、俺に言って無いよね?』

「いや、言って無い、と思う」


《本当に。それに私は可愛く無いわよ、可愛いなら、とっくに結婚してると思う》


『それは、ヘルちゃんがあんまり神々しいから』

《ウザイわ》


『ヘルちゃんは可愛』

《パパもう止めて。それより、用があったんじゃなかったのかしら、ロキ》


『うぅ…サクラちゃんの相談相手になって貰おうと思ったんだけれどね?ヘルちゃんが嫌でなければなんだけどもぉ』

「サクラちゃんて」

《私なんかより、もっと、良い神々が居るじゃない。私に出来るのは死者の管理位よ》


『いやね、現世で殺して蘇生させてって物騒じゃない?だからココで練習させてあげられないかなぁって。他の召喚者が無茶する子っぽいし、ね?魔王も一緒だし、殺して蘇生させてを繰り返すとか楽しそうでしょ?』


《それは面白そうね、良いわ、蘇生ならいくらでもしてあげる》

「魔王はまだ殺さないよ?一旦人にして活躍させてから、周囲に審判を委ねるつもりではあるけれど」


 優しいなぁ。


《あらそうなの、人に成らせるなんて面白そうね、宛てはあるの?》

「んー、ホムンクルスに分離した魂を入れさせて、それでも何か残ったらぶっ殺そうかと。ホムンクルスの方は酷使して、代理で罪を償って貰う。とか」


 良いね、そう言うとこも好き。


《そう、それならそのホムンクルスが逆らえない様に契約させると良いわ》

「契約って血の盟約の?」


《いいえ、もっと古くて強い魔法。ギアスよ、人によってはゲッシュとも呼んでいるらしいわね》

『過激だねぇ、有無を言わせない強い魔法だよ。神に誓いを立てるんだ、それを破れば死ぬ』

「いいねぇ」


《でしょう。だから、それはどの神でも良いのよ、何かしらの庇護を受けられるから。でもオーディンだけはダメ、やったらココには出入り禁止》

「多産の神も浮気性もダメだね、自分にその加護は微妙だ」


《そうね、それが良いわ》

「ヘルさん、良い?」


《え、なんでよ》


 うんうん、好き。


『全部クリアだし、良いんじゃないかな?』

「具体的にはどうやるの?」


『神の名に誓って、その誓いを破った場合の罰も誓う。それから欲しい恩恵かな』

《そう、本人の前でなくても良いし、その神が見合うと思えば叶うから。だから、あんまり無茶な要望は私には無理よ》

「謀反しなきゃ良いかな、逆らったら地獄行きとかだと、なお良い」


《それ位なら出来るけれど。でも、本当に大して加護なんて無いわよ》

「謀反しないのが大事、それ以外はまた考える」


《良いわ、今日からあなたは死の庇護者》

「ありがとう…お礼と言えるかあれだけど、桃とか上げたら嫌がる?」


《いえ、好きよ》

「リンゴは?」


《好き》


「いる?」

《1個で良いわ、ソコに植えるから》

『ヘル、サクラちゃんは植物を育てるのが上手なんだよ、手伝って貰おうよ』


《そう、分かったわ、出来たらで良いからお願い。ラティ、レト、来て頂戴》


『はい』

『お呼びでしょうか』


《ハナが桃やリンゴを植えてくれるんですって》

『それは素晴らしい』

『華やかになりますね』


「何処に植えたら良い?」

《何処でも良いわ》


 サクラちゃんは、俺とヘルにとっては最高。

 この死の大地に植物を植えてくれた、そしてヘルに花を見せてくれた。


 好き。


『凄いです!』

『こんなに早く、育つなんて』

「実を付けてあげたかったんだけど、虫も妖精も居ないから受粉出来なくて」


『それは我々が!』

『はい!』

《ありがとう、でも暫くこのままで良いわ。それに…そろそろ帰った方が良いんじゃ無いかしら、きっと従者が心配してるわ。ねぇ、ロキ》

『あ、うん、帰る帰る。お邪魔様、またねヘルちゃん』


「お邪魔しました」


『好き』

「何が?」


『サクラちゃんが』

「頭大丈夫?」


『酷い物言いも好き』

「戻って良い?」


『冷静な所も好き』

「あぁ、誂ってるのね」


『今度はフェンリルとヨルムンガンドにも会わせるね』

「良いけど、ヘルさん終始不機嫌じゃなかった?」


『俺が突拍子もない事したから怒ったみたい、直ぐ不機嫌になるんだ。本当の事を言っても、褒めても。女の子って難しいよねぇ…あ、サクラちゃんの事は気に入ったみたいだから大丈夫だよ』

「本当に?果物とか実とか、本当は嫌じゃ無かったろうか」


『そりゃ喜んでるさ、ここは不毛の土地と言われて、呪われてるんだから。育つだけでも凄い事なんだ』

「…ヘルさんは、何か悪い事したの?」


『いや、肌の色が少し違うのと…ただ、病弱だったから。俺が産褥で苦しんでる合間に浚われて、あそこに捨てられた』

「オーディンな?殺す?」


『まぁまぁ、一応反省してるし…役に立つしね』

「えー」


『またあそこに来られる方が、ヘルはよっぽど嫌がるよ。実際に追い返したし』

「そっか、じゃあ殺さない」


『本当に君達は過激だなぁ、好き』

「どの感情よりも、怒りが一番強いって聞いた」


『でも怒りに飲まれちゃダメだよ、憤怒君だっけ?君のとこのさ、あぁなっちゃうよ』

「そしたら憤怒が、2人になるの?」


『いや、君が憤怒になる』

「なら元の憤怒は人間に戻れる?」


『どうだろうねぇ、俺らって召喚者に歓迎されなかったから。そもそもだ、憤怒を越えたら神に近くなっちゃうかもよ?』

「神に近いのは嫌だなぁ、崇められる様な人間じゃ無いし。気軽にフラフラ遊びに行けなさそう」


『俺はフラフラ遊び歩いてるよ?』

「それは北欧のトリックスターだからじゃ?日本の神様は、真面目なのが多そうだし」


『だね、じゃあ魔王化しない様に。あ、魔王化しそうになったら召し上げて良い?』

「召し上げ?」




 だからロキ神は避けたかったんだが。

 どうしてこう、悪化するんだろうか。


『大罪化や魔王化しそうになったら、サクラちゃん召し上げるね☆』

「ハナ、良いのか?」

「何も返事して無いのに言い切ってんの、この方」


『早い者勝ちかなーって、宣言しとかないと取られちゃいそうだし』

「誰によ」


 早まったか、俺のせいでこんな事に。


『誰だろうねぇ。魔属性が強いし、魔王かな?』

「私にはそんなつもりは無いんですけれど」


「ハナ、まだ人間を見捨てないでくれないか?」

「ワシ何も返事して無いんだからね?」

『返事を躊躇ってるって事は』


「そも召し上げって何よ」

『そこからかぁ。従者君、説明出来るかな?』


「はい」


 召し上げには無関心な様子だが、返事は保留状態のまま。

 最悪だ。


「ほう、なるほどね。保留で。で、攫う感じは以後禁止でお願いします、ロキさん」

『えー、呼び捨てにしてくれて良いのに、もう家族ぐるみの付き合いなんだしさ』


「娘さんに会っただけじゃんよ」

『つれない』


「あ、ウザいかも」

『え、やめて、ウザいは無しで、ごめんね?』


「ヘルさんのアノ憎まれ口、分かってきたかも知れん」

『えー、なんでー、こんな親しみを込めて接してるのに』


「距離が近い、距離を縮めるのが早い」

『ごめんね?お国柄かな』


「いや、貴方自身の問題では。現にヘルさんがあんなんだし」

『ぅうん…相性の問題もあると思わない?』


「どうかなぁ」

『難しいなぁ』


「ハナ、メシは食えるか?」

「食う食う」

「準備しますね」


 疑い深く慎重な性格で助かった。

 こうなると、本来通りは安心感すらあるな。




 桜木さんは作っておいた納豆丼を本当に飲み干した。

 武光さんの言う通りにして良かった、まさか本当に飲み干すとは思って無かったから。


「御馳走様でした」

「あの、桜木さん、僕も一緒に連れてって貰えませんか?」


「ヘルヘイムに?」

「ドリームランドにです」


「えぇーやだ、恥ずかしい」

《ふふふふ、なんせお子ちゃまじゃからのぅ》


「それそれ、天真爛漫ぷりを見られるのは恥ずかしい」


 コレは女性性への嫌悪と言うか、純粋に恥ずかしいらしい。




 ロキ神がココで本来から外れた。

 そして当然ハナの対応も違うのだが、来る迄に何が有ったんだ。


『えー、俺も行くぅ』


「無視するね」

『えー』


「兎に角だ、何でか知らんけどそうなのよ。つか誰かを連れてくって、どうやるのやら」


 鍵に触れるにしても、この精霊とハナの許可が無いとダメなんだよな。


「俺は、どうだ?」

「あぁ、タケちゃんなら」

「それでもです、国としては従者を連れてって欲しいんです、でなければ以降のドリームランド行きは許可されません」


「えぇー…分かった、候補者を選んでおいて、普通に寝るから準備してくる」

「はい、お任せ下さい」


 ココは先んじても良いのだろうか。


「俺も行くのは良いのかショナ君」

「武光さんなら安心かとは思いますが、従者無しはダメだと。コレは国からなんです」


「なら、俺にも目を通させて欲しい」


 当然だが、蜜仍は居ない。

 問題は、土蜘蛛の名をどう誰に言わせるか。


《ふむ、どれも夢魔の系譜じゃな》

「みたいだな。マーリンはどう思うだろうか」


《まだ、土蜘蛛の方がマシじゃろう、とな》

「ショナ君、土蜘蛛を知っているか?」


「いえ、ただ、閲覧許可申請が必要なワードみたいです」


「クエビコ神なら、知っていそうだがな」


『あぁ、良く知っているが。コレには段階が必要でな』

「分かった。アクトゥリアン、居場所は」

【もうちょっと、待って貰えます?】


「ショナ君、普通に眠るとは言っていたが。念の為に、至急で頼む」

「はい」


 意外にも揉めずに済んだのは、マーリンのお墨付きだからだろうか。

 最速で土蜘蛛族の情報が手に入った。


「知っていたか?」

「いえ、創成期の関係者は秘匿事項ですから」

「行っちゃいます?」


「いや、ハナが目覚めてからにしよう」

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