1月31日
精神科医ネイハム先生の年齢を濁しました。
結局ロキは温泉を堪能し、夕飯を食べてから帰って行った。
そしてこちらはもう爆睡。
おじさんの夢すら見ぬまま、目が覚めた。
外はまだ真っ暗、日本時間を確認すると朝の8時。
「おはようございます、桜木さん」
「ちゃんと寝た?」
「寝ましたよ、大丈夫です」
うん、嘘は無いっぽい。
「なら良いけど」
「じゃ、バイタルチェックしますね」
「おうよ、リズちゃんとかも大丈夫なのかな」
「大丈夫だそうです、ただただ爆睡しちゃったそうです、武光さんも」
「良い意味で寝込む呪いかい」
「寧ろ快眠でしたよ」
「夢の続きが見たかったのになぁ」
「武光、起きろ」
「ハナは」
「大丈夫だ、今さっき起きたみたいだ」
「そうか、無事か。魔素はどうだ?」
「まだみたいだが。計測器の試作機2号が出来上がってな、持ってけとさ」
「そうか、送る」
リズを送った後、ロキが来たらしい。
もう神々にも運命にも逆らう気も、逆らえる気もしなかった。
『タケミツさん、お話が有ります』
「おう」
どうしたって納得がいかなかった。
勝手に呼んで、信用出来ないって。
『確かに治して貰った恩は有りますけど』
「神々が、少なくとも人間のリズですら現状維持を望んでいると思うか?」
『いいえ』
「もしハナを心配してくれてるなら、ハナやお前が思う良い世界にしたら良い。厄災が終わった後にでもだ」
『ですけど』
「それか、帰れば良い。落ち着いたハナが聞いたとしても、多分アイツは残るだろうがな」
『そんなの、ズルいですよ』
「俺はそもそもハナが残るだろうと、大きな厄災が来るだろうと思ってきた。だからこそ厄災だけでは無く、この世界をより良くしたいとも思っている。ただ、俺1人だけで出来るとは思って無いからこそ、エミールにも協力して欲しいんだが」
『考えさせて下さい、もう少しだけ』
「分かった」
桜木の浮島からロキ神が立ち去ると、凄い静かだ。
穏やかで静かで、今の俺なら少し耳が痛くなる静けさ。
「良い天気だな」
「うん」
「お前の夢は?」
「マンガ読んでゲームして、ピザとコーラに囲まれて」
「映画にアニメにラノベに、編み物か」
「そりゃもう怠惰に過ごしたい…怠惰って居るの?大罪の」
「居るぞ、国際系の法務官だ、上の方のな」
「そんな重役させてんの」
「名前の意味が逆なんだよ、勤勉で真面目過ぎる。怠惰が出来ないのが罪なんだ」
「憤怒も?」
「必要悪、怒る役を引き受けてる様なもんだ」
「嫉妬は?」
そうなるよな。
武光に、気を引く様な事は言ってくれるなと言われたが。
「引き籠ってる、悲嘆としてな。その悲嘆を知ってるカウンセラーと」
「会う会う、コレが大丈夫になったら会う」
「お、おう。何時でも会える様にしとく、じゃあな」
「おうよ、またねー」
落ち込むより、フルスマイルじゃんよ。
「おう、どうだった」
「超、上機嫌だったぞ」
『何も知らないから、ですよね』
「なんだ、まだ拗らせてんのか」
『拗らせてるって』
「じゃあ想像した事有るのか?完全で完璧な世界をだ。俺は想像した、妄想して考えた、そうするとな、どうしてもデストピアか管理社会か独裁国家か、そうなっちまうんだよ」
『それは、想像力や期待が足りないだけじゃ』
「じゃあお前の考える完璧な世界の構造を教えろよ、ワクチンは強制か?任意か?接種不接種を一緒にするのか?働けない人間の境界線は、知る権利はどうするんだよオラ、答えてみろよ」
「リズ、まだ知ったばかりなんだ」
「だからってだ、外見は兎も角としても中身は俺が最高齢なんだぞ?それを想像力も人への期待も足りないと、コイツは俺を、年上をバカにしてんだよ」
『そう言うつもりは』
「つもり?じゃあ何だよ、この世界や事実を知ったばかりの程度のお前が、どんなつもりで言ったんだ?」
『誤解させたなら、すみませんでした』
「は?謝れって言ってねぇんだよ、どんなつもりで言ったのかって聞いてんだよ」
「日本人は控え目だと聞いたんだがな」
「あぁ、それは海外勢の勘違いだな、同じ土俵に上がって来た人間には容赦しないんだよ。で?」
「はぁ、本当に容赦無いな」
「舐められるのだけは大嫌いなんでな」
「ならハナは大変だろう」
「いや?女の癖に軽口が言えて、お前が言う妹感が有って楽だぞ」
「微妙に俺のと違うがな」
「お前は過保護だもんなぁ」
「少しな、あの寝てる姿を見ると、俺やアイツの母親の気持ちすら分かる気がしてくるんだ」
「歯軋りに涎な、日常の歯の食いしばりが原因だろうってな」
「あぁ、顎が弱いと言うか、原因はそれだろうな」
「で、想像力豊かなエミール君は、桜木の事も世界の事もどうすべきか具体的に言えるよな。人に期待出来る召喚者様のお前なら、容易く想像出来るんだろう」
『出来もしない事を言って、すみませんでした。どうせ大人は、人間は碌に考えて無いだろうって、見下げた考えが出ました。期待をすれば人は裏切らないって、今は思って無い筈なのに、昔の考えが出て言ってしまいました。具体的に考えて無いのに批判的になってました、ごめんなさい』
「うん、今日はこの位にしといてやる。でもだ、お前の考える最高な世界の話は聞き出すからな、どんな手を使っても、だ」
「俺も良く話し合う、付き合わせてくれエミール」
『はい、すいませんでした、ありがとうございます』
キレたリズは初めてだったな。
「すまん、もっと段階を経て伝えたかったんだがな。こうなってしまった」
『いえ、僕は、凄い失礼な事を言ったのは確かなので』
「いや、若いんだ」
『だからです、経験に勝るモノは無いって父の言葉を忘れてた僕が悪いんです、年齢と共に積み重ねられる知識や経験は、図書館にも勝るって。納得して、良い言葉だって思ってたのに』
「良い父親だな、俺も見習いたい。もっと聞かせてくれないか?」
昼食もジャンクフード、旨い。
そして悲嘆の事情をざっくりと説明して貰い、カウンセラーの予約も完了した。
後はもう、ただボーっと植物を。
《緊急事態宣言です》
《旭川市中央公園付近の皆様、至急お近くの建物へ避難して下さい》
《繰り返します、旭川……》
『行くなハナ、おタケが出ると』
「公園に移動」
【はい】
最悪だ、どうしても誰かが死んでしまう。
今回も賢人、最悪だ。
「ハナ!賢人をしまえ!」
ハナの意志か精霊なのか、即死状態の賢人が地面から消えた。
そして行動にも変化が。
俺の手を擂り抜けて、ハナが真っ先に怪物へと切り掛かって行った。
だが、コレすら前と同じ。
エミールの援護射撃が有っても、何度も何度も再生し、ハナの体力だけが消耗していく。
「ごめんタケちゃん、少し時間をお願い」
「おう」
そして本来の道筋へ。
魔力を操作し、怪物を倒した。
コレだけ進めてコレだけ揃えたのに、被害は変わらなかった。
そして賢人やカールラ、クーロンの回復は早かったが。
もっと、駒を先に進めるべきだったんだろうか。
「良かった、男で」
「ハナ、お疲れ様」
『ハナさん!』
「帰ろう」
例え見えないとしても、黒山羊は何処に居るんだろうか。
おかあさんに、明るいくて強いのいわれた。
遠くだ。
あ、消えちゃった。
あれ、誰かみてる?
シュブさん所の黒い仔山羊ちゃんじゃん。
しかも何かちょっと。
あれ、なんでこっちみた。
ハナは男のままの姿で病院に運ばれた、そして様々な検査が行われ。
俺も従者も呼び出されるのは本来通りなんだが、エミールも付いてきた上にリズも。
ネイハムもか。
《どうも》
「あぁ」
《アナタの予測が当たりましたね》
「何の事だ」
《人間側は予知夢迄も見れるのか、予知夢の精密度にすら疑問を抱いていました。それは私もです》
「ほう」
《そしてクトルゥフを得た成果なのか、予知夢となってしまった》
「なら、ハナが呼んだと穿った見方をする輩も出ているんだろうな」
《はい》
『どうしてそう身勝手なんですかね』
「お、ヤるかエミール」
「少し待って欲しい、問題はその穿った見方をする人間の後ろに」
《無色国家が絡んでます》
「疑問なんだが、クエビコ神の力か?」
『オモイカネだろう』
《みたいですね、確かな情報筋とだけ記載されてますので》
「そんなざっくりなのかよ」
「それでも、他国の情報は得られない上での事なのだろう」
《はい》
「連携は」
《ココだけなら、ね》
『あぁ、全体の連携を求めるなら』
「人間の許可か、悪循環だな。で」
《鑑定を受ける事になるでしょうね、アナタと桜木花子の精神鑑定を求められるでしょう》
「おう、構わん」
『タケミツさん、こんな』
「俺らはもう、普通の人間が手に負える力を越えてるんだ。それを人が恐怖するのは当然、安心と信頼を得る事も、召喚者として大切な義務だと思っている」
ハナの受け売りだが、俺も鑑定されるのか。
『なら、僕も受けます』
「いや、もうめちゃめちゃお前怒ってる感じなんだし、今受けたら反逆者のお墨付き貰っちゃうかもだぞ?」
「そうだな、もう少し整理出来てからでも良いだろう」
《そうですね、余計な詮索はさせないに限りますし。受けるべき時に受けた方が効果的な場面も有るんですよ》
「だぞ、この人、エルフの経験則に俺は従う」
「俺もだ、エルフは人間の何倍も生きてるそうだからな」
《ほんの100程度ですよ》
「君ねぇ、ココでサバ読む?」
ハナの裏の担当医、五十六、だったろうか。
優しそうでは有るが、未知数。
《先生、若く思われたいんですよ少しは》
「100以上だからね、酸いも甘いも嚙み分けて、通じるかなこの例文」
『分かりました、今はそうしときます』
「うんうん、逆らう事だけ、従う事だけ、信じる事だけに染まるのは良く無いからね、自分の目で見て聞いて、そう動くのが何にしても1番の打開策だと思うよ」
『はい、ありがとうございます』
そうだった、所詮俺達は0世界の人間。
物分かりの良い子だと思っていたが、それはハナが居たからで。
まして見た目に、その年齢に容易く左右されてしまう癖は、エミールにも小野坂にも残っているんだろう。
「もし良かったら、先ずはモノの見方や調べ方を、この先生とリズに教えて貰ってはどうだろうか」
「おう、良いぞ」
「気に入らなかったら直ぐに交代しますが、お任せしますよ」
『はい、お願いします』
《では、先ずは私と武光さんとの面談をしましょうかね》
「良いが、この先生は同席しないで良いのか?」
《録画しますし、クエビコ様も居ますし。どの道再検証用に後で見るでしょう》
「うん、1人にだけ任せる事はしないからね」
「そうか、頼む」
桜木さんは眠ったまま。
武光さんは精神鑑定に、そしてエミール君には磯山五十六先生と言う精神科医と、リズさんが学習補助に加わったのだが。
通り過ぎる時、エミール君に睨まれてしまった。
「あの、凄い睨まれたんですが」
「バレちゃったらしいっすよ、流れで心得が」
「あぁ、あぁ」
「で、どうだったんすか?桜木様とは」
「何も有るワケが、そもそも男性体なんですよ?」
「あ、そういう感じなんすねショナさん」
「賢人君は、平気そうですね」
「今までは女の子だけっすけど、役目的には覚悟した方が良いかなとは考えた事もあるんで」
「それって卑怯じゃ無いですか?」
「嫌じゃ無ければ、大罪や魔王化されるよしマシじゃ無いっすか?」
「それが卑怯だって話です」
「選んでくれてもっすか?」
『桜木さんが覚醒しそうですよー』
「あ、はい、今行きます」
面談を終えネイハムと向かったのは、食堂では無くハナの居る病室だった。
《どうも、精神科医のネイハムです》
「一応、桜木花子です」
《一応とは》
「見た感じ花子とは言い辛いかと」
「先生、名を付けるのは不味いんだろうか」
《そうですね、まだ候補を考えるに留めておいて貰えますかね》
「離人症の気が有りそうですかね」
《良くご存知ですね。まだ良く知らないので、念の為です》
「じゃあ、候補だけにしときます」
《はい、空腹感はどうですか》
「すっごい空いてます」
《では、お食事の後に面談致しましょう》
「はい」
報告書とは違い朗らか。
男性体で有る事での変化なのか、人見知りはそこまででは無かった。
「先生、話の続きはどうする」
《そうですね、お食事は取られましたか?》
「いや、戦闘後で、食欲がまだ出ないんだ」
《いけませんね、何か胃に入れて下さい》
食堂へ連行し、汁物でもと選ばせたが。
半分程で止めてしまった。
「食べるので話をしたいんだが」
《分かりました。何が気掛かりですか》
「全てだ」
大きな溜め息。
表面には薄っすらと少しの苛立ち、奥底には大きなストレス。
《もう少し具体的に宜しいでしょうか》
「厄災、ハナ、エミール、そしてココの人間。全てにおいてだ、1つ1つ処理すべきなのは分かるんだが。戻る以上、時間が限られているんでな、焦りもするさ」
言えない事が後方に控えている様な言い回し、この場だからか、私だからか。
《他に、愚痴やご相談が出来る方は、いらっしゃいますか》
「そうだな、あぁ、居る。すまんな、元来体を動かす事が専門だったんで、頭を使うのが苦手でな。助かった」
《ええ、では》
お話出来る方が居るなら、問題はさほど無さそうですが。
懸念すべきは、やはり桜木花子なんでしょうか。
今度は桜木さんが単独で面談へ、エミール君の補佐には僕らが付く事に。
先程よりはマシでも、視線や雰囲気に棘が。
「あー、なるほどっすねぇ」
「何がですか」
「いやぁ、気の所為かもだし」
「そうですか」
「冷たいなぁ」
「そうですか」
「良いんすかねぇ、そんなんじゃエミール君に取られちゃいますよ」
「別に構いませんが、そもそも同時期の召喚者同士は」
「歴史的に揉めてた時代の人間と、偏見が緩んだ時代の人間と同じにしちゃうんすか」
「ですけど、憤怒さんには」
「そりゃ好みじゃ無いし、お祖父ちゃんかもって人は無理だって言ってたんすもん。でもエミール君は年下だし、可愛い外国人さんなんすよ」
「それも、良いんじゃ無いんですか」
「へー、意外とヘタれで臆病なんすね、親近感湧くなぁ」
『あの、ショナさん、お話良いですか』
「はい」
『ショナさんが逆の立場なら、心得の事を聞いてどう思うんですか』
「どう聞くかによるかと。ただ、誤解される懸念は有りました、でも僕はあくまでも格言としか思っていません。親しくなると言う事は、種類が有ると思うので」
『そうですか、じゃあ戻ります』
「はい」
「良いんすかね。今のって受け取り方によっては、その気は無いって宣言した感じっすよ?」
「問題、有りますか」
「いや、無いと思うなら別に良いんすけど」
「賢人、中つ国に少し行くんだが、どうする」
「勿論行くっすよ、じゃ」
「はい、行ってらっしゃいませ」
先ずは夜市へ賢人と回る。
あんな事が有った後とは言え、楽しそうにしてくれるのはホッとする。
そしてショナ君とエミールに少し問題が有ったらしく、報告してくれた。
「遠慮する気も分かるんすけどねぇ、何かモヤモヤするんすよぅ」
「何だ、くっついて欲しいのか?」
「そうじゃ無いんすけど。俺、1回死んだじゃ無いっすか、また明日死ぬかもって思うと勿体無いなって思っちゃうんすよね」
「死は、遠い存在か?」
「そうっすね、遠かったっすね。どうしたって事故とか有るんすけど、数は少ないっすから。まして病気も怪我も、従者でもっすね、死ぬと思って無かったんすもん」
「それでモヤモヤか」
「ショナさんは俺より優秀だし、桜木様も強いんすけど。誰が何時死ぬか分からないのに、遠慮って非効率だと思うんすよ」
「戦争に行く前に、そう言う場所に行く文化も有るそうだしな」
「そう言う刹那な感じじゃ無くっすよ、こう、思いをちゃんと伝え合う的な」
「ハナはアレでも奥手だろうに」
「確かに、凄いギャップっすよねぇ」
「性別の問題は根深いからな、急かず見守ろう」
「うっす」
そうして夜市で食い物や酒を買い、賢人を省庁に待たせ。
エイルとオベロンを連れて、クエビコ神の領域へ。
『コレは、どういった事だろうか』
「神々に愚痴を聞いて貰おうと思ってな。オベロンには訓練の相手を、他には野次と助言を頼みたい」
『おう!良いぞ!』
『もー、ごめんなさいねクエビコ神、私知らなくて』
『いや、まぁ、良いだろう』
綺麗な先生よなぁ、濃い色の金髪に目が緑、端正なお顔立ち。
眼福。
先生を眺めていると、ノック音。
『呼ばれたって聞いたんですけど、良いですか?』
《私が呼びました、どうぞ》
「おう、心配お掛けしました」
『いえ、弱くてごめんなさい』
「いや、治ったばかりで武器も合わないだろうし、倒せたし大丈夫よ」
《お2人には、少し私の事も話しましょうかね》
アヴァロンに居た時は戦争もあったけど普通に幸せだった事、親が逃がしてくれてココに来た事、両親は争いで亡くなって、争いの原因は人だと思った事。
それで、人の感情の研究を始めたのだと。
「好奇心が強い」
《どうも》
『人が憎く無いんですか?』
《誰か1人だけが悪い事って、実は意外と少ないんです。例え独裁国家のトップが悪人だったとしても、そうして祀り上げる人間が居なければ、普通は独裁国家にはなり得ませんから》
「だよねぇ、長年の疑問だったのよ。誰か1人だけの名前をあげつらって大々的に言うのはどうなのかって、向こうで世界史とか頑張って勉強してみたんだけどさ、つい納得出来なくて調べて。で、イエスマンで固めてたって言うけど、そのイエスマンが反対意見を言う人間を排除してた可能性が有ると思うのよね」
《でしょうね。自分に都合の良い、目立つ人間が居たら利用する原理と同じかと》
「なるほど、で、先生は人類憎い?」
《何処まで規模を広めて憎むべきなのか、そう仮定して調べて考えてみた事も有りましたけど。世界全体を憎まないといけなくなると判断して、止めました。悪人を育てた親兄弟、友人、教師、環境、国、宗派と無限に拡がりますからね》
『でもそれって、極論じゃ』
「極論には極論で対抗するしか無いのでは?仮に独裁国家を解体しようと考えると、トップを殺しても首が挿げ代わるだけじゃない?じゃあ何処まで殺せば止まるのかって考えると、何処までってならん?それとも実は良い方法知ってる?」
『いえ』
《思考実験には良い手なんですよ、個人単位にも落とし込めますからね》
「クソ親父をクソ親父たらしめたのは誰か。親は勿論、環境、その環境を作った周りの人、宗教、果ては国や世界ってなる。でも自国はそれなりに好きなのよ、知り合いが言うには段違いで治安が良いし、メシ美味いし、仏教とか神道だって良い事言ってる時有るし。で、ウチはクソ親が主犯だからクソ親だけを憎む様にした、周りも憎いけど接しないし。でももし探偵が来たら、良い事なんか言わないとかは考えてる、ボロクソ言うつもり」
《だからこそ、悪意には敏感なのでしょうかね》
「恨んで憎んでるから、恨まれ憎まれる怖さが分かる。だから、恨みを買いたく無いだけ」
《エミールさんは恨んでいないんですか、加害者を》
『憎くて、恨みました』
「ココへ呼べたらね、人体実験とか拷問しまくれれば良いのに」
《それは無理かと、戸籍は無くとも一応存在してる時点で人権は発生しますので》
「胎児も?」
《22週6日以降は発生します》
「あ、人の定義って何?細胞の割合?キメラにしちゃえば大丈夫?」
《そう考えてる事は他では言わないで下さいね?》
「おう、ほいで?」
《人由来の遺伝子を多種へ混ぜるのは禁止です》
「危険思想かしら」
《いえ、ですが今暫くは我慢して下さい、君の身の安全の為ですよ》
「エミール?」
『ハナさんなら、こうして色々考えてるって分かるのに。僕、リズさんを怒らせました、想像力が足りないんじゃ無いかって言っちゃったんです』
「あらー、想像力で痛みを恐怖するレベルの人よ?どうしてそうなったんよ」
『この世界の嫌な話を聞いたんです、それで、何で何もしないのかって』
「どの事か知らんけども、ワシも知ってる事かね」
『心得の事とかです』
「あー、ワシも誤解したけども、仲良くなったり好きになって貰いましょうねって。礼儀正しく古い堅い言葉で言っただけかと、そう思い直しました」
『それでも、嫌じゃ無いんですか?』
「仲良くするな、親しくするなと言われてても、きっとどっかで嫌な気持ちになるかと、利用する気かよとか。逆に何も文言が無かった場合だと、そもそも従者がこう世話好きになるか微妙かもだし」
《従者側にしてみたら、親しくなっても良いとの許可とも思えます。監修には、召喚者も関わってますから》
『以前の召喚者の話を聞いても?』
《良いですよ》
「リラックスなせい、ほれおいで」
『はい』
神々との戦いでスッキリしてハナの病室に戻ると、エミールがハナのベッドで寝ていた。
エミールが子供の顔をして、子供の様に寝ている。
「タケちゃん、エミール寝て無いん?」
「あぁ、思い悩んでる事もあってな。すまなかった」
「いえいえ」
《でしたら、今日は泊りの手配をしておきますが》
「問題無いけども」
「あぁ、俺もだ」
《では、院内をご案内致しますね》
「おう」
「またねー」
「おう。どうだった」
《召喚者らしい召喚者。そして人、神たらしでしょうかね》
「あぁ、アイツの良い所だ」
《アナタも女媧神を連れてらっしゃいますけど》
「優しい地母神なんでな、例外だ。俺の場合は殆どが先ず対価の話になる、アイツの場合は対価の話より、先ずは神々に構われる。入り口が違うんだろうな」
《嫉妬しませんか》
「まさか、アレは神々にとって心地良いのかも知れんしな。それは本来の性質なのだろうし、俺は望んでもいない。好かれるよりは対等で居たい、戦闘訓練に好意は不要なんでな」
《先日は疑って申し訳有りませんでした》
「いや、俺も慎重な者は好きだぞ」
《お任せ頂いても?》
「あぁ、勿論だ。宜しく頼む」