2月10日
離婚するなら、最初から結婚しなければ良い。
その程度で人間を推し測れるなら、誰も苦労はしないんですけどねぇ。
「それにしても、君が胃痛で倒れるとはねぇ」
「すまんな、もう大丈夫だ、心配を掛けた」
「いやいやいや、そう出るとはね、君を見誤っていたよ。ね?」
《そうかも知れませんね》
素直に同意出来無い理由は、疑っていたからか、他の問題なのか。
ネイハム君、君はどんな問題を抱えていると言うのだろうか。
クトゥルフに私も魅入られたのか、汚染されたのか。
寝過ごしたと言われている間に、桜木花子が他の世界で動いている映像を目にしていた。
映画館、クトゥルフ。
数少ない基礎情報でも十二分に分かる、映画館に居た彼の名はニャルラトホテプ。
だが桜木花子の口からその名は出なかった。
けれど彼は知っていた、桜木花子、そして武光君の事も、全て。
そして武光君が先読みの能力を有していたのでは無く、寝ている間もこの能力で全てを把握していたのなら、慌てるのでは無く、心配しての胃痛なのも理解出来る。
けれど、彼の口からニャルラトホテプの名も、映画館の事も語られた事は無い。
それは何故か。
言わない事が対価なのか、言えないのか、敢えて言わないのか。
もう1度映画館をと願いながら眠ったものの、映画館には2度と行ける事は無いまま、1日が過ぎてしまった。
そしてその事を言おうとした瞬間、武光君の状態を理解した。
まるでイップスの様に話せなくなってしまう。
話せない可能性は非常に高い。
けれど味方で有る可能性は半々、彼の側に居る神がニャルラトホテプなのだから。
「あぁ、疑ったままで居てくれて構わない、俺の行動を抑制しないで居てくれるのなら、な」
「そのタイミングはまだまだだよねぇ」
《そうですね、4番目について考えなくてはいけませんから》
感想文を出しただけなのに、返事が返って来るだなんて思わなかった。
ソチラの世界でもサイコパスやシリアルキラーと知らずに結婚していた方が居た筈ですが、それについてどう思うか。
だなんて、まるで私が間違った事を、返答を間違えた?
何を?
『少し、ヒントを差し上げましょうか?』
『はい、お願いします』
『知り合ってから結婚まで、先ずはどんな関係性になっていきますか』
『知り合い、友人、恋人、婚約者、結婚相手。でしょうか』
『相手を知るのに、どんな情報が必要ですか』
『交友関係、友人知人関係、ご両親、親族。あ、お付き合いの期間が短かっただけでは』
『ですが、彼らの誰1人、殺人をしていると見抜け無かったからこそ、警察に捕まるまで分からなかったのでは?』
『はい、けれど見ないフリをしていた可能性も有るんじゃないでしょうか』
『そうですね。では、それは必ずしも意識的に行える事でしょうか』
『いいえ、認知の歪みが起きていた可能性も有るとは思います』
『けれど?』
『知ろうとすれば、好きなら、愛してたら分かったんじゃないですか?』
『どうやって?』
『それは、恋人なら、まして結婚相手なら』
『では、相手の嘘を見抜ける技術を大人全員が持ち合わせていると?』
『そうじゃなくて、愛しているなら、真実をすべて話すべきで』
あぁ、また言ってしまった。
べきは目標、絶対じゃないのに。
『そう、確かに真実をすべて話すべきかも知れません。ですが、愛しているからこそ嘘をつく、自分を誤魔化し、嘘だとすら気付いていなかったら、神々以外に、本人にすらも嘘だと分からないのでは?』
『はい、そうだと思います』
『では、君はお相手には何処まで話すつもりですか?』
『それは出来るだけ全てを話すつもりです』
『では子供の頃からと言う事で宜しいですか?』
『はい』
『では嘔吐した回数も、おねしょをした回数も言うんでしょうか』
『それは、いえ、そこまでは言わないと、思います』
『ではもし強姦されてしまったら、どう何をされたかまでも話せると言う事ですか?話さないのは罪だと思いますか?』
思わず極論だと思ってしまったけれど、コレはサイコパスや殺人鬼の話。
ココでは極論かも知れないけれど、向こうでは日常で。
なら、けど。
『話す内容量を、コントロールする事は、有ると思います』
『それは罪ですか?』
『場合によっては、はい』
『では結婚相手に詳しく言わない事は悪い事でしょうか』
『いえ、けど、殺人は』
『浄化殺人、名誉殺人の勉強はしましたよね。罪を罪と思わなければ、罪悪感は発生しない、寧ろ立派で誇らしい事をしたとすら思っている』
『はい、でも』
『では君は友人知人全てに、人を殺した事は無いか、罪を犯した事は無いか聞いて回った事が有るんですか?』
『いいえ、常識的な人達だと思って接していたので、聞いた事は無いです』
『では家族は?親族は?』
『無いです』
『誰かが態々尋ねているのを見聞きしましたか?』
『警官以外は、いいえ、無いです』
『では、結婚する際に、調査は入るかも知れませんが。全員が全員、相手に尋ねている、尋ねるべきだと思いますか?』
『分かりません、こう聞くと尋ねるべきなのかも知れないと思います。けどそれは、相手に不信感や疑念を募らせてしまう行為だし。けど』
『疑いの眼差しを向ければそう見える、けれど疑わなければ見えない。なら全員を疑いの眼差しでみるべき、なんでしょうか』
『それは、それでは見誤るかも知れない、けど。どうすべきなのか、分かりません』
『では最初の話に戻しましょう。サイコパスやシリアルキラーと知らずに結婚していた方が居た、それについてどう思うか』
『はい、私は……』
これ程までに頑なな方だとは。
サイコパスやシリアルキラーと知らずに結婚していた方が居た、それについてどう思うか。
その答えは、結婚相手なのだから、だからこそ、時間を掛けて良く見定めるべきだ、と。
問答の無意味さをこれまで何度、味わった事か。
一進一退。
他者の例え話なら多少の理解は出来ても、自分に落とし込めるとなると、途端に実際の自己の像とはかけ離れた、実現性を無視した理想論へと舵を切ってしまう。
かと言って、自己認識力を高めさせるには時間と協力者が不可欠で、それから丹力に忍耐力、精神力も必要となる。
『正直、これ程までの方とは今までお会いした事が無くて、自信が無くなりました』
「だろうねぇ、しかも向こうで培われた部分も大いに有るだろうからね。ただ頑なであるならまだ良かったけれど、信念は宗教観と共に崩壊し、修練を繰り返すのは反復行為と化している。不安定過ぎるんだよね」
『かと言って礎をと言ってもです、一時滞在ですし。本来の神獣を手放し、罪悪感を手にしてしまった』
「だねぇ、恋愛も知らない様だし、難しいだろうねぇ」
『はぃ』
「今は虚しい時間稼ぎにしか思えないかも知れません、けれどもし本当に開眼したなら、それは向こうの世界でも効果を発揮するかも知れない。果ては次の召喚者様、転生者様の為、もう少しだけ頑張って貰えないでしょうか」
そして万が一にも、他の召喚者様や転生者様と。
『あの、転生者様とお会いさせるのは問題が有るのでしょうか』
「あぁ、良いかも知れないねぇ、価値観を崩壊させて、再構築。けれどあまり期待はしないでおくれよ、若いからと言って柔軟性が有るとは限らない」
桜木と相性の悪い小野坂とか言う女と会う事になったんだが。
『宜しくお願いしますね』
「おう」
『可愛いお洋服ですね』
「好きで着てるんじゃねぇよ」
『え?』
「好きで着てるんじゃない」
『似合ってますよ?』
「だから着てるワケじゃねぇよ」
『え、あ、そうなんですね』
コレだよコレ、俺が想定してた向こうの普通の反応。
「どうしてなのかは、聞かないんだな」
『いや、聞いたらマズいかなって』
「なんで」
『え、えっと、何となく』
「あぁ、そうそう、気になってたんだよ。例えばだ、俺の前世は男で、いずれ男になるつもりで、それでも今、男性恐怖症は出るのか?」
『え、あ、そうなんですね』
例えばって言葉、無視かよ。
「で?」
『えっと、今は大丈夫です』
「なら中身が女の少年ならどうなるんだ?」
『えっと、その時の、外側に、合わせます』
「なら俺と風呂に入れるのか?元は二十歳過ぎで死んだ男だぞ?」
あぁ、この間って相手にとっての正解を考えてるんだってな、どんだけ中身が無いんだよ。
『その、対象は』
「女だが、未成年には興味無い」
『すみません、無理です』
「けど外見は女だぞ?」
『けど、はい、すみません』
「なぁ、お前、前の世界で全員、異性愛者の女しか周りに居なかったのか?」
『その筈、ですけど』
「同性愛って言ったら殺されるのに、か?」
お、考えてんのか?
つかリズム悪いなぁ、初めて考えたのかよ。
つかマジかよ、先進国出身なんだろ?
『すみません、分からないです』
「ふーん」
『すみません』
「それ、何について謝ってるんだ?」
『えっと、不機嫌にさせてしまったかな、と』
「なんで?」
『話が、続かないので』
「ならお前が続けろよ」
『え、はい、すみません』
うん、続かないのな。
何を話せば機嫌が良くなるか、それが分からない、じゃあ自分が嫌われてるからだ。
って結論になるんだろ、凄いよな、努力しないで済む言い訳まで相手に押し付けるんだろ、怖いわ。
「続けないのかよ」
『あの、何か機嫌を損ねる様な』
「いや、嫌いでも何でも無いが」
『そう、ですか』
こう言う時だけ、相手が嘘つきだって決め付けるんだろ、どんだけ自分の都合で信じたり疑ったりすんだろ、凄いわマジで。
「で」
色々と話そうと思ってたのに、実は中身が男性かも知れないってだけで、頭が真っ白になって。
前は、そう言われたら、そうなんだねって過ごせてたのに。
しかも、嫌いでも何でも無いって、けど不機嫌で。
『すみません』
「不機嫌じゃ無いんだが、愛想を振り撒いて貰えないと話も出来ないのか?」
『え、あ、いえ。でも、笑った顔の方が、可愛いですよ』
「可愛いって言われたくないなら?」
『あ、すみません』
「不機嫌では無いが、外見だけで決め付けられると凄く不快だ。アンタ本当に性指向だの何だのの先進国から来たのか?周りに俺みたいなのは居なかったのか?」
『いえ、居ました』
「どれだけ親しかったんだ?お泊り会は?」
『いえ、遠慮してたのか』
「男性恐怖症だって公言してたんだよな」
『はい』
「お前以外ともか?」
『いえ』
「何でだと思う」
『それは、だから遠慮を』
「言いがかりを付けられたくないからだとは思わないんだな」
『私、そんな』
「俺の中身がどうか聞いたのにもだ、笑った方が可愛い?それが男に言う事か?」
『すみません』
「で、そんな言動をしてたんじゃないかって話なんだけど」
『してない、筈です』
「指摘されて無いだけじゃないか?」
『どうしてそんな』
「なら何かを指摘してくれた友達は居たのか?何を言われた?」
『誤解を、招き易いから、言い方を柔らかくした方が良いね、とか』
「ほら、キツい言動してるって事じゃねぇかよ」
『それは、注意とかはキツく』
「あっそ。じゃあ話を変えるけど、何で男性恐怖症なんだ?」
『男の人って乱暴だし、汚い言葉を良く使うし、性的な事ばっかりで』
「男だけ、なのか?そんな女は、あの世界には居ないのか?」
『探せば居るだろうけど』
「で、お前は何か被害に遭ったのか?」
『嫌な言葉を』
「だけか?」
『そうですけど、言われたほ』
「露出狂も痴漢も無いんだな」
『はい』
「周りもか?」
『え、いえ』
「そいつらも男性恐怖症か?」
『はい、カウンセリングに』
「お前は?」
『いえ』
「何でだ?」
『思春期独特のものだから、様子を見る様にって、言われてて』
「何か自分で努力したのか?」
いつか治るかも知れないし、治らなくても良いと思ってたから。
けど、そんな努力もしない人間だと思われたら。
『はい』
「俺も嘘を見抜ける魔道具持ってんだ、残念。嘘つきって大嫌いなんだけど、お前は?」
『ごめんなさい』
「嘘だ、カマかけただけなんだけどな。つか謝り方、俺を年下だと思ってんのか?」
『すいません』
「すみませんでした、若しくは申し訳ございませんでした。だろ、外見が年下に見えたら適当な口を利いて良いって教育を受けたのか?」
『すみませんでした』
「謝れば何も答えなくて良いってか?」
『そう教育はされてません!すみませんでした!』
「逆ギレかよ、嫌いでも何でも無かったんだが、マジで無理だわ。だから誰も大して注意してくれなかったんだろうよ、ココでもチヤホヤして貰えるだとか、そう簡単に労力を割いて貰えると思うなよ。真に人格を見られるんだ、愛想と本心位は誰にだって簡単に見抜かれる。それと、泣いて許されるのは若いガキの頃だけだ、良く覚えておけよ」
悔しくて、頭が真っ白で。
けど、感想文を書かないといけなくて。
逆ギレした事を書きたく無い、けど、きっとリズさんの方から伝わってしまうし。
どうしよう、もう怒られたく無いのに、嘘つきだって思われたくないだけなのに。
内容より、言い方。
優しく諭されても容易には通じない、そしてキツい言い方をすればもっと通じない。
今は過呼吸を起こしているので、過呼吸を落ち着かせるアナウンス器具を与え、落ち着くまで1人にさせる事に。
《酷な役目を与えてしまい、申し訳ございません》
「いや、マジ切れじゃないし気にすんなよ、寧ろ前の世界はクズだったなって、今はホッとしてる位だわ」
「ほうほう、詳しく聞きたいねぇ」
「無関心じゃないからこそ俺はアイツに言ってやった、先生達の代わりに、向こうに良い影響を及ぼす可能性がナノミクロンでも有るから。それが出来たのは、コレが正しいと信じているから、信じられる環境、知識が有る。けど、向こうで俺が1人こんな風にしたって、キツい嫌味なヤツってだけの評価で終わらず、評判が悪くなる。けどココは違う、言う労力を評価してくれるから、だな」
「いやぁ、見た目がどうにも可愛らしい幼女なので、つい撫で撫でして高い高いしたいんですけど。ありがとうございます、コレで暫くは時間が稼げるかも知れません」
「そうなんだよなぁ、コレでも効かないかも知れないんだろ。大丈夫か、あのマイケル、どうよマイケル」
《初めての手練れに辟易してらっしゃいますけど、転生者様が励まして下さったとなれば、喜ぶかと》
「良くやってくれてるけど、無理すんなよ。よし、励ましになるか分からんが、飴ちゃんもヤるか、渡しておいてくれ」
《はい、確かに》
「さ、もうココは大丈夫ですから、お父様の所へ行ってあげて下さい」
「おう、じゃあな」
《お強いと言うか、言葉の強弱を知ってるからこそと言うか》
「だよねぇ、僕らにはアレだけつっけんどんな物言いには罪悪感が湧くけれど、彼や彼が居た世界では当たり前。しかもまだ序の口、手加減してアレだろう、きっとコレ以上の言葉を浴びせられたのが桜木君なんだよねぇ」
《良くノーム神と掛け合いをしてましたからね》
「言葉を綺麗に取り繕う事に労力を割くなら、アレだけの口撃の中で生きてた方が、まだ状況把握能力が伸びたかも知れないよね」
《そうですね、真意をハッキリ言われる環境なら、言葉を取り繕う事への脳の容量が割かれなかったかも知れませんしね》
「けど、それが本当かどうか分かるのは、向こうの世界の人間の評価次第」
《ですけど、彼女に共感する様な、似た思考ばかりなら》
「批判まっしぐらだろうねぇ」
桜木さんは、言い責められて過呼吸になるのだろうか。
比べるつもりは無いのに、不意にそう思ってしまった。
桜木さんならどう言うのか、どう言い返すのか。
そう蜜仍君と話していたからだろうか。
「ショナさん、桜木様ならどう返すんでしょう?」
「最初から、もう、下手に出てましたね。賢人君の様に話してましたよ」
「あー、ぽいですね、秒で想像出来ました」
「おう、お前らも見てたのか」
「はい!お勉強させて頂きました、ありがとうございました。お疲れ様でした、ご苦労様です」
「おう、あ、それココではどうなんだ?」
「どう、とは?」
「あぁ、ご苦労様やお疲れ様を目上に使うか目下に使うかどうか、ですかね」
「おう、それそれ。俺はもう上も下も気にしないで言っちゃってるけど、向こうだとアホみたいに怒られたんだよなぁ」
「無効と同じく江戸時代から目上に使っていた記録が有りますし、ココは労いの言葉と言う事で特に気にされてませんよ」
「一々上か下か気にするなんて凄くダサいしカッコ悪いのに、良く偉そうに指摘出来ますよね?」
「知ったかぶりたいんだろ、実際の歴史だと真逆なのにな。それと、利益になると思ったヤツが歴史を無視したり、マナーを捏造すんだよ、あ、大概のはゲン担ぎ以下だからな。でさ、就活で使える!とか言って人事のヤツが馬鹿なマナーをネットとかで広めてさ、んでマジで実行した就活生は全部排除して、情報の取捨選択がちゃんと出来るのだけ採用してたのが居てさ、ゾッとしたわ」
「サイコパスちっくですね!」
「マジな、今思うとそうなのかも知んないけど、俺には凄い良い奴だったんだよな、面白いし、嫌な事をされた覚えも無いし」
「仕事仲間だったからなんでしょうかね?」
「あぁ、かもな、でもま、俺に害が無いなら何でも良いわ」
「ですよね」
「あの、コレから加治田さんの所ですよね?お送りしますよ」
「おう」
「あの、桜木さんなら、泣いたりするんでしょうか」
「無いだろ、あんな自分の有利になる様な場面じゃ、意地でも泣かないで。申し訳なくて泣くタイプだろ」
「怒ったり泣いたりして貰えなかったのは、信用して貰えて無かったんですかね」
「お前なぁ、4番目が俺を信用してるから泣いたり怒ったりしたワケじゃないのは分かるだろ。多分、ずっと気が張ってるんだろ、じゃないといけない、そう思ってんじゃねぇの。厄災が終わったら凄い荒ぶるかもな?」
《じゃがそう我慢やストレスとは感じて居らんかったでな、そう気にする事でも無かろうよ》
「かった?何か有ったのか?」
《はっ、すまぬ》
こうして桜木さんが居なくなった事が、リズさんにまで伝わる事に。
「は?」
《稀にじゃが、有る、らしい、んじゃよ》
「非常に不確定な情報だそうで、報告には、妄言扱いなんだそうです」
「いや、何処に居るんだよ」
《分からん》
「おま、お、いつ帰ってくんだよ」
《分からん》
「はー?何でだ?何でだよ」
《ネイハムやイソロクは執着を得る為では、じゃと》
「は?執着?」
《うむ、我武者羅に、意地汚くしがみついてまで生き残る、その執着じゃよ。薄いらしいでな、命大事に、をする為では、じゃと》
「はぁ、まぁ、そうか。それこそココでは孤児で根無し草、自己評価も低め、そう心配すんのもおかしくは無い、か」
「僕は、桜木様は優し過ぎて、身を投げ打つんじゃないかって心配です」
「アイツそんなに優しいのか?」
「対比しちゃったから、真逆なら、そうかなって」
「あぁ、まぁ、そうかもな。それこそココで好きなヤツでも出来てくれてたらなー、戻る事とか、執着とかも少しはなー」
「心得って、そう意味だったんですかね」
「心得?」
「従者心得です」
「あぁ、そんなの有るのか」
「知らないんですか?」
「おう、聞きに行くか」
パパから聞いたが、まぁ、妥当っつうか。
「で、少し僕は誤解してたなって、思ったんです」
「あぁ、だろうな。けど、4番目みたいなのが居たら100でも足りなくなるだろう、なら、10で。削いで厳選して、後は本人達がどう思うかに任せたんだろ」
「ですね」
「けどだ、コレ、アイツが知ったらどう思うんだろな」
「ショナさん、どう思いますか?」
「誤解するかどうか、半々だと思います」
「前からそう思ってたのか?」
「いえ、今日、4番さんを見て、です」
「ならその前はどうなんだ?」
「誤解されるかも知れないとは、思いませんでした」
「けど今は、違うんだろう。何でだ」
「恋愛感情が絡めば、人は時に予想もしない挙動を起こす、ので」
「あぁ、あの女従者な、マジクソでビックリしたわ。つい、可哀想だ、ってな」
「凄い動機ですね」
「な、人の安全が掛ってんのにな、省庁の入庁資格と国連の、もう少し厳しくしろって言っといたわ」
「ですね」
何でコイツこんなに落ち込んでんだ?
リズさんからショナさんの事を聞くとか、マジ新鮮。
つか、落ち込んでるのって。
「恋心、じゃないっすか?」
「あー、あー?アレが?お前が万能鉄仮面って言ってんのに?」
「いや、ただの童貞なだけっすよ」
「おま」
「いや何なら、童貞ですが何か、とか言われたんすよ?」
「あぁ、あー、そんで自覚も怪しい時に居なくなられて、恋愛感情に発展しても可笑しくは無いだろうなぁ」
「でもそこなんすよ、救われちゃった側なんで、恋愛性転移だとか共依存だとかって思っちゃってるんじゃないっすかね」
「それでか、成程な、ダメじゃん」
「そうなんすよぉ。俺としては、上下関係関係なきゃ良いだろって思うんすけど」
「従者一筋だもんな、初恋じゃないって切り捨てるかもだな、ダメじゃん」
「ねー、何とかしましょうよー」
「いや、氏族の蜜仍は、まだ未成年か」
「まぁ、ハーレムに耐えられるのかって問題も有るんすけど、なら整形で良いじゃんってなりそうなんすよね」
「けどだ、それだとエミール君に公務をおっ被せる事になるんじゃないのか?」
「そこなんすよねぇ」
「あぁ、最悪の想定が頭を過ぎったわ」
「どしたんすか?」
「コレを4番目が知ったら、居着く、とか」
「あー、ヤバいっすね。最初からなら良いんすけど、もう無理っすよ俺、あの人の従者とか」
「けどだ、いざとなったら」
「まぁ、桜木様の事は一旦忘れて、つか忘れさせて貰って、っすね」
「そこまでするかよ」
「俺も嘘は大嫌いなんで」