1.人魚の姫は盛大な勘違いをする!
今回の作品はラブコメです!
コメディが多いと思います。
皆さん、こんにちは!
あたしは今、絶賛逃亡中です!
「おいッ!! 待てッ!! これ落としたぞ!!!」
「ギ・・・ギャアーーーー!!!! こっち来るなーーー!!! あたしを食べようだなんて、100年早い!!! 」
「・・・なに言ってるかよく分からないんだが・・・! とにかく!! これ、落としたッ・・・ぞッ!!」
「いやぁぁぁーーーー!!!! 離せーーー!!! 離せって言ってんだッ!!!」
「お、落ち着け!!! 落ち着かなければ、手も離さないからなッ!!!」
スーハー、スーハー・・・・
「・・・・・で、なんなの?」
「落ち着くのが早すぎるッ!! これ、落とした・・・・」
そう言ったこの男は、右手を上げて・・・・
「い・・いやぁーーーー!!!」
「お、おい! どうした!?」
「そ、そ、そのッ、その・・・・・右手ッ・・!!!」
「あ? 右手? それがどうし「いやぁぁぁーーー!!! 食べられるぅぅぅ!!!」
「は!!? 違うッ!!・・・ってもしかして、この包丁のことか?」
「いやぁぁーーーー!!!」
「やっぱりそうか。・・・・・すまんかった。これでどうだ?」
「・・・はあ、はあ、はあ・・・・。ダイジョウブ・・・・・」
「包丁が怖かったんだな。どうしてそんなに怖がるんだ?」
「・・・・・のよ」
「ん?」
「あたしはッ!! 人魚なのッ!!! 魚よ!! さ・か・な!!」
「いや、人魚は魚ではないだろッ!!」
「あんたはあたしのことを、落とし物を渡すふりして殺して食べる気なんだわッ!!」
「だから、違うっつてんだろ!!」
「いえ、あたしは信じないわ!!! 絶対そうよッ!!」
「だからなんでそうなるんだ!?・・・もういいッ!! 受け取らないなら俺は戻るからな!!」
「あっ、待って!! それは返してちょうだい!」
「ああっ、もう!!! 言うのが遅いんだよ!!」
そう言ってあたしがさっき落としたものを投げて渡してきた。
「ほれ、これでいいだろ?」
「何よ、偉そうに・・・」
偉そうにふんぞり返るこの男に、あたしは頬を膨らませてそう言った。
「だぁぁぁぁ!!! まだ文句あんのかよッ!? もういいか!? 俺は今日やってくる客に料理を大量に作らなきゃなんないんだよ!!」
「そうなの? それならそうと早く言ってよね」
「おまえのせいだろうが!!・・・・ってうわ!? 本気でヤバい!! もう行くからな! 今度こそ!!」
ものすごいスピードで駆けて行ってしまった。
ーーーーーー
では改めまして、あたしは人魚のリレイシアです!
さっきは、包丁持った男に追いかけられて食べられそうになってたところなんです!!
か弱い人魚の乙女を食べようとするなんて!!
なんて、残虐非道な男なんでしょう!!
人間に化けて街を散策しているところを、さっきの男が包丁を振り回しながら(?)追いかけてきたのよ!!
(リレイシアちゃんにはそう見えていました!)
本当、運が悪いわ!!
今日やっと、人魚の国の王様であるお父様から陸に上がるお許しがもらえたのに、陸に上がって早々に人間に食べられそうになるなんて!!
人間という生き物は、人魚を食べるのね!!! 人間はみんな、あの男みたいなんだわ!!
今度から陸に上がる時は、変装をしていきましょ!!
ーーーーーー
そして、二度目の陸にて。
あたしは今日も、陸に上がって街を散策しています!!
ちなみに、変装はバッチリよ!!
黒いバンダナに黒いサングラス、赤い布を口に巻いているわ!
なんかみんながジロジロ見てきているわね!
あたしを食べようと狙っているんだわ!! でも、そうはさせないんだから!!
街を歩いていると、誰かが誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。
「・・・おい。おい! おい!!・・・・おいーー!! そこのお前!!!」
そして、声の主に腕を掴まれた!
その相手は・・・
なんと! 前回、包丁を振り回してあたしを追いかけて食べようとしていたあの男ではないですか!!
「ギャッ!!」
「可愛くねー悲鳴だなッ!! 人の顔見てすぐに悲鳴上げんなよッ!!」
「可愛くなくて悪かったですよーだ!! そんなこと、あたしを食べようとしてたあんたが言えることではないじゃない!! そもそもなんであたしだって分かったのよ!? 変装は完璧だったはずなのにーー!!」
「お前の変装は怪しすぎるんだよッ!! なんだよ、その黒サングラスと黒いバンダナと口に巻いてる赤い布はッ!? 完全に不審者だろ!?」
「えッ!? そうなの!? 同じ人魚の仲間にこれが一番変装には適してるって言われたんだけどッ!!」
「お前それ、揶揄われてるだろ、絶対」
そう言ってこの男は、呆れたようにあたしを見下ろした。
ふと、その顔を見てこの男の名前を知らないことに気付く。
・・・・よく見ればこの男、小綺麗な顔をしているわ。薄茶色の髪にブルーグレーの瞳をしている。
「・・・あんた、綺麗な顔しているわね。そういえばあんたの名前って結局なんなの?」
「いまさら、そのこと聞くか?・・・・エヴァンだ。」
「ん? なんて言ったの? 聞こえなかったわ?」
「俺の名前はエヴァンっつたんだ!!・・・ちなみに平民だから姓ないぞ!」
「そうなの。・・・あたしの名前はリレイシアよ。人魚の国で唯一の姫なんだから、敬いなさい!!」
「偉そうだな、おいッ!・・・ってその前にその変装道具をまず外せよ!!」
「・・・そうね。分かったわ」
変装道具を外し終わると、なぜかエヴァンが目を見開いて硬直していた。
「エヴァン、どうしたの?」
そう言うと、さらに目を見開いて固まった。
「ねえ、一体どうしたのよ?」
さらに声をかけると、エヴァンが我に返った。
「あ、あぁ・・・。お前、変人だが、人たらしでもあるんだな」
「何よ、それ!! あたしが変人!? そもそも人たらしってなに!? あたしは変人でも人たらしでもないわよ!!」
「・・・まぁ、そういうことにしておくか」
「そういうことにしておくもなにもないわよッ!!」
とても不本意なことを言われてしまったわ!
「あっ! ごめんなさい!! 今日はもう帰らなきゃ!!」
「帰るって海にだよな? それだったら、そこの道曲がって、まっすぐに行くと海に出ると思うから、それが一番近道だぞ」
「そうなの!? ありがとう!! それにしてもあんたって、あたしが人魚なこと、全く気にしないのね!!
・・・とにかく、教えてくれてありがとう!! じゃあね!!」
「あ、あぁ、どういたしまして・・・」
あたしは、なんでか分からないけれど、エヴァンがあたしが人魚であることを気にしないでいてくれるのが、とても嬉しく感じた。
海に向かって走っている途中、ずっとあたしの頬は嬉しさで緩んでいた。