第一節-03.公女、行方知れずになりました。買い食い。
◇◇◇
グランフルーリア帝国の帝都フルール・ド・セントル。そこの帝立高等学園に留学する目的は二つ。
わたし自身は、『帝国教育を学ぶ』と言うシャテニエ公国に帝国式の教育を導入発展させ教育大国、技術大国の礎を築くことにある。
一方、父シャルマン三世はどのようにお考えなのか?
二人の皇子の何れかとの婚姻で、帝国内の他の諸国からの保全と優位性を求めているのか?
それは、お父様本人が明言してはいないのでわたしには、わからない。
わたしはそれを見極める為にここ帝国に来ている。
わたしペルスネージュは皇子らの人となりを見て、教育技術大国を目指すか或いは、帝国の完全なる比護下での安心安全な公国を目指すか、を見極めよう。
ところで、二人の皇子ってお名前、何と仰るのかしら?見た目の特徴は?会場で見つけられるでしょうか?
まあ、王族皇族であれば砂糖菓子に群がる蟻のように貴族令嬢が集っているだろうさ。。。
ところで、昨日事故があり校舎の一部の修繕工事が始まっていると言う。
その為、学園敷地内は立ち入り禁止。と、なっていた。
まあ、それ以前に瓦礫の散乱する学園敷地は、立ち入り禁止になっているのだが。
ガーデンパーティーの会場は変更され、学園西に聳え立つ帝城の園庭での開催となった。
但し、急な変更の準備にお城も対応仕切れず、開催日も数日ずれ込むこととなり、開催日は第二週の週末、安息日である6日と通達された。
更に、7月第二週の3日は入学選考試験日であった。
これも試験日程、会場変更による混乱がかなりあったと後、伝え訊いた。
わたしは罪の意識に苛まれるのだった。
全く、物凄い大勢に迷惑を掛けまして、ごめんなさい……。
試験日直前の会場変更で何百人が混乱したか。
そして、只のガーデンパーティーの場所日時変更で夏期休暇の予定の狂った有俗層の子女も少なくないだろう。
そうそう、この『園遊会』であるが、新一年生を迎える在校生新2~4年生の集う夏のパーティなのだそうだ。
生徒会主催のパーティで、「在校生の結束を強め、新しい環境に不慣れな新一年生を導く為、うんぬんかんぬん……」と言う大義名分で始められた。と、訊く。
意味不明で訳分かんないパーティである。
もう20年は続いている学園の恒例行事なのだから、既に伝統と………。
取り敢えず、お父様に帰国の数日の延長のお知らせを認めた手紙を書いてぇーっと、封蝋に印!
因みに、わたし個人の印章は髙地に咲く、『薄雪草』。
何とも清楚で控え目なところが、わたくし的ですのっ。
ええーと、数日間、日程に開きが出来ましたわ。
「ガルデニア、市場行ってみない?」
一瞬、侍女は眉を寄せた。
「そのお姿では目立ちます」
「書斎でいい物見つけたのっ」
◇◇◇
帝都の中央、帝城ブルジュオン城の前の大きな広場。
この中央広場を囲む南側と東側が中央市場と呼ばれる帝国最大の商店街である。
中央広場から南門に延びる大通りの東側に6階建ての商業組合が建っている。
この街フルール・ド・セントルで最も高い建物が商業組合である。
尤も帝城が一番高い建物であるが……。
その建屋には革製品組合や精肉組合、八百屋組合など販売系組合が入っている。
その販売系の組合の他に鍛冶屋組合や石工組合など工房系、建具関係の組合などの建築系の組合も入っているのだと言う。
「昨日、臨時で召集されてなあー」
「ああ、聞いてる聞いてる。学園だろ?」
大工組合員と石工組合員の二人の会話。
「昨夜っから大騒ぎよぉ」
「俺らは明日から出張る訳だが、どんな様子よぉ?」
「それなあー、学園の校舎の西棟の一部、……っつか、真っ直ぐ切り取られたみてえに無くなってンだわー」
「?……なんだそりゃあ」
「教室あんだろ?その教室の形のまんま一階から四階まですっぽり無くなってた。まあ厳密にいやあ、綺麗に切り取れるわきゃ無え訳でな。切り取られた回りもあっちこっち建て直す必要が出て来てよお、校舎の半分近くを移転することになりそうだ」
「マジかぁ。じゃアレか解体屋が瓦礫片付けしてる横で、オメェらが新しい校舎造るって感じ?」
「ああ、だからよお工期が8月末ってなあ無理ってなもんよお」
「そもそも、誰がどうやって壊したんだぁ?それこそ攻城兵器的な物でも無きゃ破壊出来ねぇだろぉー!?」
「それ何だがあ────」
大工の男は回りの様子を伺った。
自分達の会話を立ち聞きする人間はいないことを確認し、声を絞り続けた。
「──────、───。──と言うことらしい……」
「ぇええー!お姫さんかもしれないってマジ!?何処の姫さんよぉ?」
「声、デケーよお」
◇◇◇
わたしとガルデニアは商業組合の建屋の前にいる。
何でも市場の案内チラシが貰えるって話しを先程訊き、この建屋に来たのだ。
しかし、不案内なわたしとガルデニアは只、立ち止まり建物を眺めていた。
大きいなー!高いなー!でっかいなー!
「どおーしたい?お嬢ちゃん達ぃー」
男性に声を掛けられた!───お父様以外の殿方とお話しなどしたことありません。と言うことは無いが、ここはガルデニアに頑張って頂きましょう。
取り敢えずガルお願い!……………ってガルデニアに目を合わせて顔を彼女から男性に意識を向けるように「んっ」「んっ」って二度首を降った。
なのに気付かないの!ガルデニア。何てニブチンなのでしょう。
しかも「なぁに?」って「コテンッ」と首を傾げる彼女の可愛いこと可愛いこと!って、そぉじゃ無いわぁ。
「んー?どしたぁー!?嬢ちゃん」
「ここの建モンに用があんなら、おっちゃんら案内すんぜえ」
ほらっ!ガルデニアぁ、主人の役に立ってよう!
「───ぁ、ぇぇと、ぁ、案内の…案内のチラシ?……を、、、」
「案内チラシ?」
「アレだあー、石工のお、市場の案内冊子のことだろお」
「あぁーそれならなぁ、この建モンに入って真っ直ぐ行くと窓口があンだわぁ、その窓口のぉ、………メンドぉだな、大工のぉ連れてってやンかぁ」
「だなあー。お嬢ちゃん達、付いて来なあー」
気の良い30代くらいの男性に案内されて着いたところは、『総合案内所』と言う所であった。
「ここの窓口のねぇーちゃんに訊けば冊子買えるぜ!」
「あっありっがとぉーございます」「ありがとうございます」
「じゃあなあー!」
わたし達がお礼を言うと、彼らは行ってしまった。
「庶民にもああ言う殿方がいらっしゃるのですね」
「そうですね…」
窓口に並び『中央市場案内(図解)』とタイトルの書かれた冊子を受け取る為、金貨を出した。
「───はぁー、お客様、銅貨四枚ですよぉ。もう少し細かい貨幣はないんですかぁ?」
なんとも面倒臭そうに言う窓口業務の女性。
少し頭に来て、
「だって貴女、お値段のこと一言も言わなかったではありませんのっ!!?」
窓口の女性の近くで書類仕事をしていらっしゃった男性職員の方が、「おい、失礼だろ?…代われ!マリー」と仰った。
「──申し訳ございません。どう、なさいました。私は 組合長のオスカーです」
「いえ、最初からお値段のご提示があれば、金貨など出しませんでしたわ。銅貨四枚でしたね?───はい受け取って下さい」
「重てお詫び申し上げます」
丁寧に頭を下げるオスカー様。
「お詫びと言っては少ないでしょうが、割引券をお納め下さい」
受け取った厚紙の綴は、『半額券』。
「土地建物販売等以外の何処のお店でも使えます。利用方法注意事項はこちらを参考に──」
と、一枚の紙を渡された。
さて、市場を堪能しましょう!
◇◇◇
公女様方が案内所を出られて、私はホッとした。マリーは窓口業務から外そう。
「組合長、なんすかさっきのっ!あんな小娘に媚びへつらっちゃってさぁー」
「マリー、さっきのお方、誰か分からなかったのか?──まあ、分かるわきゃ無いか。
───あのお方、御髪をお染めになられていられたが、おそらくシャテニエ公国公女ペルスネージュ様、その人だ」
「ええーーーっ!」
後、受付嬢マリーは大いに反省した。らしい……。
◇◇◇
道の脇に小さなお店が並んでいる。ガルデニアによると、出店とか屋台と言う簡易式(組み立て式)の店舗であったり、移動式のお店なのだそうだ。
なる程、幾つかのお店には車が付いている。
「ねえねえ!あれっあれ食べたいっ。水飴だって!飴なのに水だって!?」
店舗の台には大きなビンがあり、水のような物が入っている。『水のような』と言うのは、そのビンの中の水に木の串が刺さっていたのだから………。
「二つね。少々お待ちっ」
と言う水飴屋の男性は木串を二本使い透明な固い液体?をその木串で練り始めた。
透明なそれは徐々に白くなり、体積が少々増えたように思えた。そしてその白い塊の表と裏に薄いクッキーのようなお菓子をくっ付けて、
「水飴一つ銅貨二枚、嬢ちゃん可愛いから二つで銅貨二枚でいいよー。ほいっ」
本当に飴のようだった。
甘いし、柔らかいし。ああ、前に頂いたキャラメレって言ったかしら?に、似た感じもするが、違う気もする。
市井には面白い食べ物があるのね!
『買い食い』と言うものは、テーブルも使わず椅子にも座らず、立ったまま食べたり飲んだりすることだと訊いていたの。
なる程、小串に肉とか着いているし、水飴だって木串付きだし、小さな紙袋に入ったお芋だって持ち歩いても平気ね。
お店によってはテーブルと椅子が用意してあるところもあった。
そう言う出店の大半は酒精を扱うお店だった。
その店舗の隣や近い所に串焼きや乾物などの肴になりそうな物のお店が並んであった。
「共生って言ったかしらね」
「姫様、何ですか?きょせいと言うのは」
「大きなお魚の口の中や周りに住み着く小さなお魚がいるんですって。何故そこに住んでいるかと言うと、大きなお魚の食べ残しや歯に着いた食べ物の欠片を頂いたりして一生を送るの。大きな魚も口の中が綺麗になって、どちらにもいいことになるんだって!そうやって共に生きるから『共生』と言うらしいのだけれど、勝手に住み着いているのに、仲良しっぽい言い方よね!」
「え?子どもが出来ないようにするアレですよね。姫様」
「…ガルデニア、共生よ?勢いを奪い去る『去勢』ではなくて、共に生きる。と書く『共生』のことですの」
「なる程ぉ。ですが姫様。我々もこの市場も同じではないですか?服屋の隣に鞄屋、靴屋それと装飾品の店舗があるようですし………。
それと、王の周りの重臣のおこぼれに群がる小貴族どもとかも『共生』だとガルデニアは思います」
なる程、社会はそうやって廻っているのですね!勉強になります。
だけれどガルデニア、その小貴族のそれは『共生』と、言うより、『寄生』だと思うのだけれど。
水飴、肉串、ホットドッグ、肉饅頭、じゃがバターといろいろ『買い食い』をして、お腹いっぱい!
ガーデンパーティーまでまだ日があるので、ドレスを見ようと市場の案内冊子を見ながら目的のお店に着きました。が、その服屋がありません。
「あー、その店なら無くなったよ。似たような店ならほら、あっちに」
と、以前は服屋であったらしい雑貨屋の店主に教えられ数件隣の服屋に入りました。
「ガルデニアには、栄枯必衰と言う言葉が浮かびました」
お店の中は所狭しと商品が陳列していることもなく、商品と言うより作品を展示しているかのようにゆったりとした空間を演出しているかのようです。
「いらっしゃいませ。
────お客様、当店のご利用の方は、初めてでしょうか?」
「はい」
「ではお引き取りを、……出口はそちらになります」
「?」
「無礼である!何故そのような物言いをするのかっ!」
ああー、ガルデニアが自分のスカートの中に手を入れているぅぅぅー!ダメ!ダメダメッ。普通にスカートの中を弄る女性とか、無いわあー!
多分、手持ちの暗器を出そうとしているのは分かるけれども、……それを知るのは、ここではわたしだけなのよおー。
短気はいけないわ!けれど、行動が痴女っぽい。
「ワタクシどもの店は一見さんをお断りさせて頂いております。ワタクシどものお店をご利用の際は、ご紹介状などございますれば……」
懐からわたしは小剣を出し彼に渡した。
「───これは!?」
「8歳の誕生会で父に頂いたプレゼントですわ」
「───水車を挟んだ二体の竜。水竜、と、火竜、か?……。その後ろに薄雪草の花。……失礼ですが、シャテニエ公国の公女殿下で、間違いございませんか?
しかし、御髪が……」
「これですか?染めたのです。身分とかって、バレると不味いでしょ?それと、大公の娘です。王族や皇族ではありませんので、敬称に『殿下』はどうかと……」
お店を案内して下さったのは、先に『一見さんお断り』を言った店員、……と思ったら店長でした。
案内されて店舗二階の部屋に通されました。
女性の店員が数点のドレスを用意して立っています。なんだろうと思っていると、
「お似合いになる物を用意しておりました。お嬢様はこちらの物で気に入ったお品はございますでしょうか」
「失礼を致しました公女様」
店長が頭を下た。それを見た女性店員は一瞬瞠目すると頭を下げつつ、
「失礼致しました。
───姫様、このドレスなどは如何でしょう」
どうも貴族と思って対応したら一国の公女と知った女性店員は、かなり恐縮している様子でした。
ところで、何も言っていないのに何時の間にドレスなんて用意したのでしょう?しかもサイズがわたしの体型に近いようだ。
高級服店侮る難し………。
「今度の安息日、二日後ににパーティーがあるのですが、お仕立ては間に合うでしょうか?」
「少々難しいと存じます。ですが出来合いのお品物を手直し致しますれば四半時程度のお時間を要しますが、本日中にお渡しすることは出来ましょう。
只、出来合いの物ですので、お身体に一度は合わせる必要があると存じます。それと、出来ますれば、その御髪の色を元に戻して頂きませんでしょうか?」
と、言う訳で女性店員に店の奥、浴室へと連行され、髪を洗い流されてしまったわたし。
折角染めた髪色(茶色のつもりが、黄土色になった)に合わせて普段は着れない色のブラウスを着たのに。
姿見に写る合わせた明るい黄色っぽいドレスは、自分で言うのもアレだが、似合って見えた。
「良くお似合いです姫様」
「ありがとう」
「───そうですね。ここのレースとここも外して、……少し色合いを変えて付け替えましょう。───んんー、そうねそうだわそうしましょう。もう少し手を加えますので、明日の夕方にはお届けさせて頂きます。それでよろしいでしょうか?」
そんな感じにドレスを新調して仕舞いました。
商業組合で頂いた半額券、使いました。
髪の毛を洗って仕舞ったと言う謝罪をされ、ワンピースに合う唾の大きなボウシを貰って仕舞いました。
帝都シャテニエ公家の邸宅にあの服屋の店長とあの女性店員が翌日の朝食後にいらっしゃいました。
来客対応の侍女がわたしのお部屋に案内して来たのです。
普通、サロン辺りに通すんじゃないかしら?と思ったのですが、ドレスの微調整をするのが普通なのよね。
サロンとかのパブリックな場所じゃなく、肌を出せる場所、私室に通すのは至極当然なのですね。
あの明るめの黄色いドレスは日の光の下では淡い色合いに見えました。
それもその筈、出来合いのドレスを覆うようにオフホワイトのヴェールを使っていたのです。
もう別物になっていました。
なのに、デザインはお店で見た時よりシンプルになっていました。
「姫様を飾り立てるのでは無く、中身を引き立たせる方向でデザインを変えました。───ですが、素晴らしいっ!美しいです。姫様」
おい!ルビ、おかしいことになっているぞ?間違っているぞ!
「私、姫様にお会い出来てとても僥倖だと思います。次回がありましたらまた私にご用命下さい!」
おおーい。ルビ違うよ店員さん。




