大閑話-03.彼女らは、亜大陸へ逃げました。
伝説の淫乱聖女。イン=アンナの短いお話し。
「第五節-04.公女、上陸しました。大海亀。」後半のの焼き直し、と言われたら、その通りです。と言います。
◇◇◇
家の周りを囲う木の柵は、殆ど役割を放棄したようにあちこち壊れている。
その場所は、「畑だ。」と言われて始めて畑だと気が付くだろう。
だってそこには作物どころか、草の一本も生えていないのだがら…………。
その畑の側に一件の家があった。
この貧しい家、農家の一人娘が私だ。
家以外のどの家も似たり寄ったりの状態なのは、一目瞭然で、この村全体が、貧しかった。
「お父さん。お母さんは、何処?」
わたしが父と呼んだ男性は、とても悲しい顔をしていた。
お母さんは、流行り病でついこの間亡くなったのだろう。
では、私の名は?
『ナンナ』。そうナンナだ。コウ族の分派『イ族』のナンナだったっけ?
お母さんの残した手鏡を覗いてみると、私が居た。
老人のような真っ白な髪の毛。瞳は兎かと思う程に赤い。そう赤かった。
本当に私かしら?
誰か知り合いに似ている気がするし。違う気もした。
でも、私は、ナンナだ!
段々と思い出して来た。
去年、私は穀物の不作を凄く心配して、それで、……そう、日照りの予感、……とは違う。
私は分かるのだ。前の年の嵐の回数や空気の匂いで、………だから私は、村の皆に対策を言った。「溜池を造れ」と。
今年は、私の言う通りに通り干ばつになった。
だけど、村は去年造った多くの溜池のおかげで、干ばつを何とか凌いだ。
だが、今回のこの流行り病は今までとは、まるで違っている。
前の流行り病の時は、村で蒸留した酒精で家の中や蔵の中を拭き掃除をして凌げた。
だが、今度の病は、訳が違う。
治す術が、全く無いのだ。
予防作?酒精の消毒は返って、病の源を活性化させるだろう。一番効果がありそうな方法は、焼き尽くすこと。
そうだ母はこの病で亡くなったのだわ。
皆に知らせないと!手遅れになる前に。。。
干ばつ、水害、数年に一度の流行り病。それらを凌いだ私達の村、イ族の村には、何時か災害を逃れた人々が多く集まっていた。
だからと言って、全てを救え導ける訳は無いし、凌げる保証も無い。
おそらくだが、幾つもの村や集落が滅んで仕舞っただろう。隣の村の開墾で、切り開いた森の奥に住んで居た動物か魔物の持つ病の源が蔓延したのが今回の病だ。
このままこの大陸に留まれば、やがてイ族も滅んでいたであろう。イ族に合流した人達も居なくなる未来だけが、鮮明に想像できた。
私は村の民に呼び掛け、山を越え川を越え、ついに大陸の西の果てに来た。
暫くはそこで暮らした。
ある朝、海岸に島が出来ていた。
だが、私は知っていたのだ彼を。
彼に私は話しかける。
「ねえ、貴方、私達を向こうの岸まで、運んで下さらない?お礼は勿論するわ。私が貴方のお嫁さんになってあげるの!」
大亀は言う。
「お嫁さんは何時か欲しいけど、僕はまだ子どもだよ」
「それなら、大きくなった時に私を貰ってくれたらいいのでは?そうね、君とか貴方とかそう言うのよりも、貴方には貴方だけの名前があれば便利よね。貴方の名は、……『薄皮まんじゅう』。……私、大好きです」
輝きは、向こうの岸まで届く程、光は夜空を焦がす程。輝きが白から薄い朱に変わり契約は成立した。
「主従の契約ね。貴方が私の従者、私は貴方の主人。そう言う風に出来ている。って、竜と虎が声を合わせて言うの!感動するわ」
薄皮まんじゅうにイ族は乗った。
大陸を離れ、海峡を行く薄皮まんじゅうと名付けられたザラタン。
三日の昼を過ごし三日の夜を越えて、薄皮まんじゅうは、亜大陸の沿岸に着いた。
「貴方の名前は、貴方の物よ。でももし私が貴方を必要と感じたら、その時、また貴方の名を呼ぶわ。元気で居てね。私の薄皮まんじゅう様、甘くて大好きです」
「僕も大好きだよ。僕だけのイ=ナンナ姫」
いつまでもいっしょに居たかったが、貴方には貴方の役割がある。元気で。
亜大陸の旅は過酷を極めた。
イ族の集団は、言葉の通じない亜大陸の人々に取って、目障りだった。
海岸沿いに進むべきだと、イ族の皆は言う。
「いいえ、砂漠を越えます。何故ならあの明星が満ちた時、海岸は波で綺麗になって仕舞うもの。
私は知っているのだ。禍とはどのような形なのかを。皆も知っている。雨の前は燕が低く飛ぶことを。皆は知っている。暖かな冬の後は寒い夏が訪れることを」
砂漠の民と出会い、そして別れた頃、私は子どもを生んだ。
砂漠の民と同じ真っ赤な髪の子ども。
ステップと呼ばれる乾燥した草原を行く集団、イ族。
先頭は彼らの長で、導きの力を持つ者、『預言者』にして精神的主柱の『聖女』のイ=ナンナ姫。
冬を越えると、私は羊飼いの子を身籠った。
山脈を羊飼い達と越え、川を下り亜大陸の中心と思う場所に町を造った。
私の子どもは六人いる。
亜大陸の言葉は、山の梺の豪族から、床の中で教わった。
一番下の子、リュシエンヌは私の希望で光。
気が付くと私は病魔に犯されていた。
「私の導きはこれが最後になります。子ども達、よく訊きなさい。もう予兆はありました。これから100年、大きな冬が訪れます。海は凍り付くでしょう。世界の何処かに明星が落ちたら、きっとあなた方にもわかる筈です。できるだけ南へお行きなさい。でもリュシエンヌ、貴女は北へ、私達イ族の再興の為に。彼、薄皮まんじゅうを探して海を渡るのです。それにしても貴女は、私なのですね。その黒髪、黒い瞳。
我が友であり私の旦那様『薄皮まんじゅう』は、きっとリュシーを待っているわ。リュシー彼に伝えて、イ=ナンナは貴方を愛しています。と」
◇◇◇
『預言者』である聖女の亡くなったその地は、何時頃からか、聖都イン=アンナと呼ばれるようになった。
「イ・ナンナと言う女性だと言われていますね。こちらの亜大陸の預言者、聖女とされた」
「知っていますぅー。で、その学説についての見解は?」
「イン=アンナまたは、イ・ナンナと言う女性は亜大陸で預言者、聖女として彼女の死後も慕う民が多かった。
その頃、大陸もこっちの亜大陸でもイシュト神信仰が主流と言うか一般的に信仰されていたんですが、新しい信仰としてイン=アンナが台頭してきていたんです。二つの信仰があちこちで争いの種になっていて当時の王様、今の帝国の前です。が、無理矢理二つの神を結び着けて今のイン=アンナになった。と、まあ皇帝陛下や皇族に対する不敬とも問われかねないお話しです。でも然もありなん。と僕は思うんです」
「面白いですねぇ。何故、然もありなん、なのです?」
「権力者って言う物は歴史の事実をちょっと曲げて自分のいいように解釈させます。同じ事柄をこっちの国とあっちの国とでは違っていることが往々にしてあるでしょう?そう言うことですよ。
それともう一つ。多分なのですが、亜大陸の元々の住人は、西部や北部の人々ではないかと。行商人さんもそうですが、赤銅色の髪色の民族の亜大陸に黒髪から金髪までの多様な民族が東から来た。と言う学者もいます。その中に聖女イン=アンナがいらっしゃったと」
「ねえ、そのはお話し面白い!お仕事じゃない時、もっと教えてヴィルさん」
「いやぁー、勉強になりました。
差し支えなければ、それらの書かれた本とか教えて下さいませんか?」
「───あー、僕の言ったことって、僕のおじいさm……んの言ってた話しで、実は著作物や学説ですら無いんです。だから───」
7月第二週の4日。聖都へ向かう駅馬車の中で、ヴォルさんの語るイ=ナンナの物語をわたしと赤銅色の髪色の香辛料の行商人さんは聞いていた。
「そのイ・ナンナ様って、どのような方だったのでしょう?」
「説によってもいろいろなんですが、凄い美人であったと、………あ、僕のお祖父様の説ですと、全体的に兎っぽい方と」
「それじゃあまるっきり、シャテニエ公国の真っ白な髪色の赤い瞳の噂に聞く白雪の姫君ですね」
「あはは、行商人さん。そう言う感じの方だと、僕も思います」
夏の暑さの所為では無い汗がわたしの背中を流れた。
それが、わたしペルスネージュ・マルグリット・ド・シャテニエの冒険の序章でした。
次回から、シリアス展開な第二章。
キャラ出しすぎで破綻した今までのように破綻は時間の問題ですが、また出しすぎに注意しつつ、久しぶりお姉さんとか、いろいろとアレをしてたりして悶々とした翌朝アップ。




