第五節-03.公女、上陸しました。番。
いよいよ第一章のクライマックス─────って程の盛り上がりは、皆無ですが、第五節終了後の第二章の前に一本、大閑話と言う短いお話しを挟み、新章『シリアス展開な筈』に入ります。
皆様方に置かれましてはご健勝のこととお喜び申し上げます。さて、月曜日の早朝からお目汚しな、拙い文を見て消化不良でお仕事に行かれる方々に感謝と謝罪を………潤ナナでした。
◇◇◇
9月第二週の5日早朝。僕、ヴォルビスとネモフィラ、ジェルブラ、イビスキュスの四人とクロとヴェニュスの姉妹フェンリルは、聖都イン=アンナのテター伯爵家別邸の前に居た。
「クロ、マリーの反応は?」
クロ達、フェンリルの影渡りは、万能な移動魔法、……魔法なのか?別の何かだと思うけれど、………移動には欠点がある。
影が無いと、渡れないのだ。だから、真っ暗な、例えば新月の夜は使えない。
そして、影を視認出来ないと使えない。
陸地では影の落ちる場所何てそこいら中にあるのだが、海上では、どうであろう?大波などで影が出来るであろうが、先ず渡りきれないであろう。
「ふーむ。海上におるようじゃの」
主従契約をしている僕を知覚出来るのは当たり前だが、契約者では無いマリーを何故知ることが出来るのか?と言うと、彼女の髪を一房クロが所持しているから。それと、マリーにもブレスレットのようにクロの毛を腕に巻いてあるからなのだ。
「逢いたくなったかや?」
「ん。まあ」
「殿下もお年頃ですもんねぇー」
「イビスにそう言う女性は居ないの?」
「こいつはねえー」
イビスキュスは、「兄貴、余計なこたぁー言うなぁー!」と、言いつつ、兄に鉄拳を喰らわせていた。
真上から拳を落とすあれは、痛そうだ。
「まだ、バルザミーヌ先輩起きていないかな?」
「そうですね。かなり早い時間ですから」
丁度その時、午前6時が鳴り響いた。
────リンッ、ゴオォォォーーーン。。。
何方か侍従の者は、起きて居るだろう。と思い。門番に声を掛けた。
「申し訳ないのだが、何方かテター家の者にお会いしたいのだが」
「なんだぁ、貴様。狩猟者風情が、貴族様に面通しだとぉ?おい、調子乗んなよ?民草風情が────」
「おっ、おいジャンゴ!止めろっ!この方は」
「君達は、帝国領事館の衛兵だね?ジャンゴ。君は本日を持って首。おい、イビスキュス、ジャンゴ?とやらを捉えよ」
「はっ!承知致しました殿下」
真っ青になる衛士ジャンゴ。「で、殿下ぁ!?マジで?」。それが彼の最期の言葉に、………は、ならないのである。
何故ならば、これから彼を僕は使うのだから…………。
「我が仲間が大変不敬を働き、申し訳ありません。私の監督責任です。なので、私も処分は甘んじて受けようと───」
「ああ、そう言うのは、いいよ。だって───」
僕はこの時、まだ黒髪のままだったのだ。だから、僕が皇子であると気が付かないこともあるだろうし、簡単に皇子と分かるようでは、黒髪にしている意味が無くなって仕舞う。
只、僕が赦せ無いのは彼、ジャンゴの言葉、「民草風情が」と言う、選民志向、……あの貴族至上主義者の門閥貴族その物なところだ。
間も無く、テター家の執事、ジュールが門の前に来ていた。
「お久しゅうございますヴォルビス殿下、それにネモフィラ殿下。テター家執事のジュールで、ございます。どうぞ中へお進み下さい」
「このような早朝から、先触れも無く伺って、申し訳ない。ところで、話しは違いますが、湯浴みをしたいのですが」
「承知致しました」
そしてそのまま、聖都のテター邸へと入って行った。
◇◇◇
今わたし達は、アキツシマ皇国の移動?要塞島ザラタンに居る。
巷で、白い悪魔と呼ばれて、……呼ばせているアムリー・レイ船長の全長15mの漁船マドナグ号に乗り、大陸を目指し、た筈だったのだが、推力が殆ど無くなって、保護されたのです。
で、わたしの魔法に興味を持たれたアキツシマ皇国の公太女、ユキ姫の強い要望で、魔法を披露することになって仕舞った。と言う訳だわ!
「このコンクリートの小屋。これを破壊しても構わぬ。が、魔術を掛ける場合、地面には決して向けぬよう、頼む。ではのっ」
「はい。それでは、行いますが、わたしよりも前に行かないようお願いします」
先ずはイメージ。
小屋の壁一面の全ての可能性の選択枝に存在する壁、壁、壁。一面の壁のある空間に全て同じ時の可能性を置く。
瞬間の可能性が一瞬の時に存在し、そしてコンクリートの小屋は瞬間に一点に向かって落下。そして一面に小屋の質量は落ち着くしてひしゃげた。
見物していた数名が、壁に向かって落ちかけた様子で、前のめりに転倒している。
少々、転倒の際、強く身体を打ち付けた方がいたので、わたしはその女性の元へと走って行く。
「今、治します」
そう言ってわたしは、彼女が転ばなかった可能性の時間軸へと変えた。
「ペリィ、そなたは回復魔法も使えるのか!驚いたわ」
まあ、回復魔法と言えなくも無いかな?
「先程の術だが、どのような仕組みなの?余は驚き過ぎて解んなかった。ホントにあの壁に向かって落っこちて行きそうになったし、それにみーんなペッチャンコじゃん?どおなってんのさっ!?」
「ユキ姫、お言葉遣いが素になっております」
ヨシナガ・サヨリ三等尉官が注意する。が、素の喋り方をもう隠す気は更々無いようだ。
「んー?引力、……と言うことぁーそおか!あの壁のみ重量を増やした!そうでしょ!?」
「現象については、当たりです」
「現象、……。方法は、思い付かないわー。その辺、例の殿下様なら、解るのかしらね?ペリィちゃーん」
ああー、お顔が赤くなっちゃったっぽいぃぃ!もう、白子の宿命かしらね。
「当ったりっかなあーっ!
ねえ、その殿下って、どんな人?ガルデニア、教えなさい!」
うわぁ、ユキ姫ってば、口の即効割れそうなガルデニアに殿下の話題振っちゃったあー!不味いです!
「─────とまあ、そう言う方です。ああ、ガルデニアの姫様が出奔した原因の一つが、殿下の存在もありました」
おい!ガルデニア、貴女は何のお話しを─────
「あたしってさー、神子姫って呼ばれててね。『預言者』の家系でね、……ああ、予言じゃあ無く預言よ?───あたしの世代、……ってか、今の皇子皇女の中で発現したのって、あたしだけ。でさ、一人で不安だったんだけどね。嵐が来るのが分かって、その海域にザラタン進めた訳。そおしたら、公女が居たって報告受けて、……あたし、皇族でしょ?そのお、お友達いなくってさ、貴女が居たんですもの!同い年だし、こんなに真っ白で、こんなに美しいお姫様だって!嬉しくてびっくりして。なのにこんなに魔術のスンゴイ魔術師様で、狩猟者で、冒険してて、………羨ましくなっちゃった」
そう言うと、ユキ姫様は、肩を下げてお顔も俯いて、静かに泣き出したのでした。
んん?ユキ姫様の仰った言葉の中に、気になる言葉が二つ………。
『海域に向かった』、……つまり、本当にここは移動要塞、なのだ。名は、『ザラタン』。
ザラタン?ザラタン、ザラタンって、アスピドケロンとかアスピドケローネとかの伝説の聖獣。よね?確か。
巨大な蟹だったり、海亀だったと言う記述を読んだ記憶があるわ。
と、言うことは、ヴォルビス殿下のクロのように、主従の契約を結んだ契約者がユキ姫なのだわ。
………そうか、……彼女はひょっとしたらこの島、……ザラタンから離れることが、何らかの理由で出来ないのではないのだろうか。
それならば、わたしが自由奔放にしている姿を見たら、泣きたくなりもするだろう…………。
もう一つは、『預言者』。
それは、まるでユキ姫はヴォルビス殿下からお訊きしたイン=アンナのことのようだ。と思う。いいえ、おそらく同じく彼女は『聖女』なのかも。国を導く聖女なのだろう。
彼女は益々、狩猟者のわたしのように身動きが取れないのだわ。
そう考えながら、ザラタンの茅葺き屋根の店先で、緑茶とお団子なる甘味を食べていると、
「ユキ姫様が、公女様とお話しがしたい。と、そう申されております」
何時の間に居たのっ!?って感じにサヨリ様がわたしの横に控えていた。びっくりしたのよ?
「姫様、ペルスネージュ様をお連れ致しました」
そうサヨリ様は仰ると、襖、……と言う名前のドアを開けた。
お部屋の中では楽しそうに米酒でぶっ倒れたバジルとお話しをされて居た。
「おおっ、姫様、……って、二人共姫様だったけぇー。ペルスネージュ様。ってなぁーなげぇーから、俺もペリィ、……ペリィ姫さんって言っていい?」
「うん、バジルならペリィでいいわよ」
「やったぁー!んじゃ、ペリィよろしくなぁ」
「ペリィがいいって言っても、敬称は付けろっ!」
と、ユキ姫に殴られるバジル。
「いってぇーよぉ。ユキ姫さんーーー」
「敬称は付けなさい!あたしもペリィも一国の姫なのだぞっ。
で、ペリィ、今いろいろバジル坊やから訊いたんだぁー。貴女、魔具も発明したり、あの漁船、マグナム号?」
「マドナグだ!」
「そのマドナグ号、たった1日で魔改造したって訊いて、その辺の話しも訊きたいの」
それから、どのくらい話しをしたのだろう。
マドナグ号のタービンの話し。わたしが公国を逃げ出したことから、聖都イン=アンナまでの旅の話し、わたしを公都マロンダムの街の路地裏で助けて下さった殿下のこと、殿下の先輩のバルザミール様、バルザとの友情。その可愛いパシフロールちゃんと名付けが、司祭の資格がある殿下のお話し。そして、この要塞に拾われる前の話し。勿論、破壊した男爵の邸宅や好事家の集まりで潰した五階建ての集会場の話しも。
グランフルーリア帝国帝都のサントル高等学園の校舎破壊のお話しにユキ姫は特に関心をお持ちになられたようであった。
「ふぅーん、ペリィちゃんって、怖いわね」
「うん、おっかねーなぁ」
「その、ネルガル先生って、どお仕様も無いわぁー。で、出奔した直接の原因の王子ってのが、また随分しつこいのね?なんで、殺さなかったの?」
急に物騒な人になるわね。ユキ姫…………。
「そこまで、執着されるとは思わなかったのですもの。でも───」
「貴女の皇子様が、何とかして下さった。……でしょ!」
「ええ」
今殿下は何処にいらっしゃるかしら。。。
「でも、フェンリルかあー。あたしもザラタンの契約者だけどさ、そんなにお話し出来ないの。いいなぁー。こうしてね、ザラタンの上に、……傍に居るから契約者としていられる。けどさ、離れると契約解除と見なされるらしくて、前の契約者だった伯母上の亡くなった直ぐ後!あたし、まだ四つだったのよ?それからズゥっと、この生活。嫌になっちゃう、っつの!!!」
「何とか出来るかクロ様、……そのフェンリル様にお訊きしてみましょうか?」
「え?ペリィちゃん、契約者じゃ無いでしょ?その契約者じゃ無いペリィが念話出来るだなんて、………なんてアクティブ、………なんて自由なフェンリルなのさぁー!!」
「ユキ姫様、今訊いてみます」
「ってか、あたしをユキって呼べぇぇぇー!」
「はい、ユキ────(クロ様?───あれ?クロワッサン様?)」
『おい、マリー、妾をその名で呼ぶでない!───で、何用か?』
(はい、実は、大海亀ザラタンの契約者の方が、契約として、ザラタン様から、一時も離れることが出来ないようなのです。それを何とかして差し上げたい。そう思いクロ様のお知恵を拝借したく────)
『ならば妾が、そちらに────。ふむ、出向いて良いと我が主がゆうてくれたのは良いが、海上、………出来れば、こちらの陸地から見える場所へは来てもらえぬかや?』
◇◇◇
「うおぉぉぉーーーっ!結構早いな。ホントに移動要塞だねえ」
「おー姉貴ぃ、俺もビックリだぜぃ!」
「スッゲエなぁー!こいつなら、遠洋漁業待った無しってぇーやつぅ?」
などと、感想を述べる白い悪魔の姉弟。
一応、大まかに接触予定地として、亜大陸東の北端の海岸線に近づいた大海亀ザラタンであった。
ザラタンとユキは、本当に簡単な意志疎通のみ出来るだけのようだ。
動く方向、速さ、そう言った指示だけのようだ。
亜大陸北東部は、帝国との国交を結んでいない『ノールプラージュ王国』。
グランフルーリア帝国のノールプラージュ地方の北から、亜大陸の東側までが王国の版図となる。
亜大陸の北と東の沿岸部がノールプラージュ王国の領土で、大陸の東側、シャテニエ山脈から沿岸部まである大きな砂漠地帯は、何処の国にも属してはいない。
自由国境地帯と皆が呼称する砂漠なのだ。
人は数少ないオアシスと言う砂漠の中にあって、水の涌き出る所に住んで居る。と、書物に書いてあったのをわたしは思い出していた。
「久しぶりだね。マリー………」
ああ、声がする。何故か分からないけれど、涙が頬を伝い流れていた。
「ヴォル様!」
もう何年もお逢いして居なかったかのような、そんな気持ちになっていたのだわ、わたし。
わたしは公国に於て、マロンダム城で、完璧にパーフェクトに淑女教育を仕込まれて、仕込まれた完璧な淑女になる筈の公女である。そう自負している。いた。
だのに、はしたなくも夫婦ですら無いのに、人前で、飛び付くように、殿方に抱き付いて仕舞った。
その瞬間だった。
わたしとヴォルビス殿下の身体から溢れ出た光の洪水。
わたしは、あまりの光に瞳を開けてはいられなかった。
やがて、輝きは終わった。
「我は初めて見た。これって、番の輝きって言うやつだな?クロワッサン」
「おい、姉よ。その名で呼ぶなとゆうておるであろう!まあ、ヴェニュスの言う通り、本物の番の輝きであろうさ、ふんっ!」
「妹よ、気持ちは分かる、が、目出度いの」
「と言いますか、そちらの女性は?このガルデニア、姫様の姉上のように見えるのですが……」
「ああ、紹介が遅れたね。これは、クロ、……ノワールの姉上のヴェニュス。勿論聖獣フェンリルだ」
「おう、つい先頃な。このヴォルビス様と契約した。嫁2号の美を司る女神なヴェニュスと言う。妹共々宜しく!」
それから、わたし達は各々に自己紹介をした。殿下達の近況を訊いたユキが言う。
「その、『天使の卵』と言う麻薬だが、ひょっとして、1cm程の白い玉状の物か?」
「そう、ですが何故それを存じていらっしゃいます。ユキ殿下」
「ああ、敬称略でお願いヴォルビス殿、で、余、……もう取り繕うのメンドい!あたしが知ってんのは、そいつのおかげで、我がアキツシマ皇国の町が幾つか潰された。っつうことだ!その、『天使の卵』シリーズ、……と、あたしらが呼称している麻薬なぁー。そいつは、依存性の強さもそうだが、即効廃人になれる優れもんさ!そいつが蔓延した町の一つは、半年経たず住民が殆ど全て廃人若しくは、亡くなったってぇー話しさ。
そいつをセッセとこさえているのが、大陸中央を流れるウス川の河口の三角州と言われているんだ」
「そんな、……まさかイシュタル文明の 、……帝国の根源、祖先の末裔が、そんなことを、……なんの為に。
まさか、とは思うが、支配の為、と言うところかな?」
「おお、ペリィちゃんの彼氏は、中々に鋭い。我が皇国の学者も、……あたしもそうだと考えている。まあ、大方その考えに行き着くのではあるって感じよ!で、不定期でいい、あたしにその、ナンチャラ伯爵との経過?的なことを教えて欲しんだ。ダメ?」
そして、ヴォルビス殿下は戻って行った。
わたしの髪を一房手に取り言うのだった。
「女性の髪の毛を欲しい、と言って君の大切な髪を切る僕って、なんて酷い男だろうか」
一房、わたしの髪を切って、ヴェニュス様に渡す。
するとヴェニュス様が、
「我は、そっちの娘の黒い髪が欲しい。くれぬか?」
と言う訳で、ヴェニュス様との念話が出来るようになった。
そうして、わたしと同じようにユキの手首にヴェニュス様の毛を編み込んだブレスレットを嬉しそうに眺めるユキは、「ペリィちゃんとお揃い!ペリィちゃんとお揃い!」っと、小躍りしていらっしゃったりするのだった。
◇◇◇
晩餐の後、ユキのお部屋で暫くお話しをした。
「だったら、いっしょにガッコ行こうよ。ペリィちゃん!」
「そうね。行きたい。だってその為に大陸に来たのですもの。でも途中からの復学かあ、……それでも幸いだわ、だってこちらの学園、……学校も四年制なのって凄い偶然!」
「いいや、偶然では無いのさー。こう言う教育課程をそちらに伝えたのは、あたしの国、アキツシマ皇国です!」
驚いた。そうだったのですの!?
どのような経過で、伝えた、……伝わったのか?そう言う歴史も学べたら、嬉しい!
それと、当面の懸案は、ウス川デルタ地帯ね!
あっ!あと、あのお団子って甘味。作り方を教わろう。
大海亀の背中に揺られ(少しも揺れてはいない)、夜は更けて行くのであった。




