第五節-01.公女、上陸しました。要塞の島。
◇◇◇
わたしとガル、……ガルデニアは現在、真っ白な漁船に乗って居る。
何故漁船?と、お思いでしょう。
それには訳があるのです。
わたしとガルデニアは、異常に目立つ、……らしいのです。
女性にしては背が高く、真っ赤な髪のガルデニア。
それと、このわたし。『輝く黄土色』と揶揄される金髪っぽい髪で、兎のように真っ赤な瞳の美少女なわたし。……自分で言って於て気恥ずかしくなるのですが、兎に角目立つ。
それに、行く先々で面倒事に巻き込まれやすくて、「公女ペルスネージュはここですよー」って、言いながら移動しているようだ。…………ガルデニアが言うには、「全て姫様の頭の悪い行動が災いしています」なんて、言うのだけれど。。。
そんな訳で、兎に角一刻も早く大陸へと渡りたいわたし達であったのだけれど、旅客船、……大陸行きの定期運航船は、週に一便だと港湾の職員が言うのだ。
しかも船は今朝、出航したばかりだ。と、意地悪を言う。
百々の詰まり、一週間の足止めとなったわたし達であった。
「ボォー」っと、港の埠頭から青く拡がる海原を見ていたわたし達に、話し掛けて来た茶色い髪の女性。
肌も小麦色の健康的な女性である。
「ガルデニア、わたし早く木陰に入らないと、また肌が赤くなっちゃう」
白子故に肌は常人より弱いのである。
「なあー、お嬢さん方。船はご所望かい?」
「ああ、勿論。だが、おまえは誰だ?ことと次第によっては、命をいただくぜ?」
「おいおい、物騒だな。そのナイフ、仕舞っては貰えないか?───ああ、名を名乗っていなかったな。
私は、アムリー・レイと言う漁師だ」
彼女は、漁師と言った。
漁師って、お魚を捕って生活している人達よね。
「失礼であったら、申し訳無いのだけれど、……女性の漁師さんって、珍しいのでは?───わたくしとしたことが、名乗りを失念致しておりました。わたしは、マリー。で、こちらが」
「姫様の侍女、、、……マリーの友達のガルデニアだ。よろしくなアムリー殿」
もう、バカですかガルデニア!あれ程『姫様』呼びを禁止しておりましたのにっ!
「で、そっちの『黄土色』のお嬢さん。あんた、公女ペルスネージュ様だろ?」
ああ、早速バレた。
「あなた、アムリーと仰いましたか?あなたがわたくしを狙う間者であれば、(クロ。クロ様、わたしピンチですのっ)──────」
『───ん?了解した。今からそちらへ向かう、が、妾は、少しぬしらと遠いようじゃ。暫し待たれよ』
「───間者であれば、我が愛玩聖獣『クロ様』が、あなたを───」
「おい、アレ。アレさあーアムリー・レイじゃねえか?」「ホントだ、アムリーだ。……『白い悪魔』だっけ?」「そうそうソレ!」「アムリーって、アレだろ?同性愛。とか言うやつ」「そうソレなあー」「白い悪魔ちゃん。アムリー・レイ。な?『赤い流星』シャルー・アナズベルの下位互換のぉ」「自分で呼ばせてるんだっけ?『白い悪魔』って二つ名。憐れだよな」
「何だか酷い言われようですわね?アムリーさん」
「ああ、ガルデニアも少々同情致します」
埠頭に木陰が無いので、港湾事務所の軒下で、日除けをしていたわたし達に聞こえて来たアムリーさんの陰口。
小麦色の肌でも分かるくらいに、赤くなっているアムリーさん。
「オレ、飲みもん買って来る」
流石にいたたまれなくなったガルデニアは、その場を逃げた。
「待たせた!妾推参っ!何となく漁師であるらしいので、『水産』に引っ掻けたのだが、分かりづらいよのう?」
「そうね。クロ様をお呼びして於て非情に心苦しいのだけれど、この十分程で、アムリーさんが刺客でも間者でも無いことが分かったの。帰っていいわ。
それと、クロ様、つまらないわ。寧ろ、ウザい感じよ?」
漆黒の大狼、……フェンリルで顕現したクロは、影を渡りながらヴォル様の元へと帰って行った。
今、どの辺にヴォル様はいらっしゃるのかしら?
折角クロ様がいらしたのに、訊き忘れて仕舞いました。
まあ、何時でも訊けますもの、いいですわ。
それに、アムリーさん、危険な方では無いのでしょうから、運賃の交渉でも致しましょう。
◇◇◇
白い悪魔。アムリーさんの漁船『マドナグ』と言う船は、基本的には帆走船、なのだそうだ。
だが、同時に『蒸気船』なのだと言う。
蒸気船と言うのは、船底にある水車を石炭の熱で熱くしたお水、……お湯から出る湯気の力で回し、推力とする船なのだそうだ。
「つまり、蒸気の圧力でここのタービンを、……なる程。改良出来そうね」
「マリー、今それはいいから。取り敢えず、果実水な」
「ありがとうガルデニア」
「すまんね。私まで頂いて」
大陸までの運賃交渉だが、商業組合も漁師組合も通せない案件。
漁船であるのに、旅客事業を行う。
つまり、白タクと言う違法な営業である為、文書での契約もまして、関係する各業種の組合を通すことの出来ない取り引きになる。
だから、口頭にて「一日銀貨二枚」と言うことにした。
したのだが、そこはわたし。
やはり、明文化して契約することにした。
『一つ、運賃は、一日銀貨二枚。乗船した日にちからの発生とする。
1.但し、燃料に係る石炭の代金は運賃に含まれる。
2.修理保全に係る費用は、わたしマリーが持つ。
3.但し、明かに乗船以前の破損については、アムリーが払うこととする。
4.不測の事態の発生による遅滞により掛かった日数に於ても一日銀貨二枚は発生する。
5.但し、操船などのミス(アムリーによる遅延)について掛かった日数の運賃は発生しないものとする。』
「こんな感じで宜しい?で、大陸までは何日掛かるの?アマリー」
「そうだな。通常の帆走船ならば、10~12日ってところだな。
2についてだが、一考の余地は、無いのか?そうか。………後、一日銀三枚にしてはくれまいか?……そのう、石炭って意外と高いんだよー」
「その辺り、ちょっと考えていることがあるの。わたし、燃費いいわよ?」
◇◇◇
9月第一週の3日。快晴。
白子のわたしにはキツい出発となった。
日射しもそうだが、キラキラ光る海の波にも目を開けていられ無いのだ。
南部湾岸州、……または、南部湾岸都市国家群の西の入江の港からの出航が遅れたのは、燃料である石炭がその日の内に必要量集められなかったからであった。
最近、アムリーの上位互換、……と言ったら、アムリーは面白く無いであろうが、……の『赤い流星』シャルー・アナズベルが殆どの石炭を買い占めたからだと言う。
尤も、季節は夏を過ぎた、と言ってもまだまだ暑い日の残る9月上旬。
石炭などの燃料が必要になる冬には未だ遠く、何処の商会でも石炭など扱っていないのであった。
と言うか、ここ帝国南部は冬でも暖かいのだ。
ここ数年で増えて来た『蒸気船』への需要だけなのである。
アムリーは丸2日掛け、石炭を補充したのであった。
その2日間で、わたしはアムリーの船『マドナグ』にちょっと仕掛けをした。
9月第一週の4日。
本日も海は波も穏やか、日射しも強い。
「しっかし、凄いなあー。公女様は、まさか魔石をタービンの燃料?違うか……」
「魔力を動力に使おうと思って、タービンに直結しただけよ?」
「だけどよおー、凄いよ」
わたしは、『索引収納』から出したそれをアムリーに見せた。
「これは、『冷風器』。で、こっちが『扇風器』。どちらもわたしの作った魔具よ。ちょっと試してみてアムリー」
「……ふうおぅ!なんだこれ!涼しいぞ?冷たい風が気持ちいいっ!!!」
「まあついでで『冷風器』も出したのだけれど、……解りやすいのはこちらの『扇風器』よ。───ほら、この魔石の魔力で、風車を回しているの」
「なる程!これでタービンを。でも、魔力の補充は?」
「夜、わたしが寝ている時に補充する予定。尤も大陸までの10日間なら、補充は必要ない。日中の6~8時間、魔石で補えるし、夜は帆と石炭の燃料で進めるもの。
そうよね。ナヴェ、バジル」
「はい!姫様の仰る通りでさあー」
「勿論!俺も夜頑張るっす!姫様あー、くうぅぅぅ。かわええなあーペルスネージュ姫様ってさあー。バジルぅー」
「バッカ、ナヴェ不敬だろ?───美人なのに頭もいいって、そこまで言うんだぜぃ。ナヴェ」
ナヴェとバジルは、アムリーさんの弟君。
ナヴェが12歳で、バジルは10歳だと言う。
この蒸気機関の付いた帆走船に乗り込んで、もう四年なのだそうだ。
何故あのシャルー・アナズベルの下位互換扱いなのかは、あちらの船、『大紅丸』の方が、2~3年早く操業していたからなのだそうだ。
「しかしアレだよな、魔石も動力に使えるんなら、遠洋行けなくなくね?姉貴ぃー」
「無理さね。ですよね?公女様」
確かにバジルの言う通り、外海での操業は出来る。と、思う。だが─────
「今使っている魔石。亜竜の物なの。勿論、亜竜を倒したのって、わたしなのだけれど、その大きさの魔石って、金貨20枚は必要よ?それと、魔力の補充の問題もあるの。その魔石いっぱいに魔力を補充するのに、金貨1~5枚が必要。これは魔術師の力量によるわ。まあ、そう言う意味では未々現実的では無いのよ」
「だよなあー。公女様の仰る通りだよ。大体、魔術師ってお貴族様に多いだろ?私ら平民で魔術師って言うと、洗浄とかの生活魔法の魔術師だろうし。後は、狩猟者だよなあー。魔力売っちゃーくんねーだろうさ」
◇◇◇
9月第一週の6日。航海にマドナグ号が出て3日が経った。
丁度今の時期は、暦の上で二百十日を過ぎた時期である。嵐の季節だ。
案の定、嵐に襲われたペルスネージュ一行であった。
同じ頃、僕、ヴォルビスとイビスキュス、ネモフィラの乗った真っ赤な漁船『大紅丸』は、港町『ブー・ラポール』に入港した。
ここから、……倫理的にどうかと言う表現ではあるが、クロとヴェニュスに乗って、聖都『イン=アンナ』に向かうことにした。
フェンリル二人?二匹、……二頭の移動方法は、『影渡り』と言うのだそうで、視認出来る影から影を渡って行くのだと言う。
日中は兎も角、夜間でも、月明かりさえあれば、影さえ目視出来れば渡れるのだ。と言う話しだ。
つまり、新月の夜は渡れ無い。とのこと。
クロに僕とフィーリィが乗り、ヴェニュスの背には、ジェルブラとイビスキュス兄弟が乗って聖都へと向かった。
ごめんね、ヴェニュス。重いだろう?
ああ、宿『サメの歯三本亭』で、ヴェニュスの撮った『映像』と言う物。
これが、中々に面白い物であった。
内容は、イン=アンナ教会の枢機卿にして、次期法王、……教皇へ、との声が高まっている中央司教区長のボドワン・カナール枢機卿の痴態である。
映像は、聖都の教会の礼拝堂のようで、そこに映るカナール枢機卿は、下半身丸出し。
手前に映っている乳房の双丘は、おそらくヴェニュスの物だろう。
と言うか、映すなよヴェニュス!
良いものをお持ちで………。
「ほぉーら、仔猫ちゃん達ぃー、私が神聖な洗礼を受けさせてあげるからぁー。こっちにおいでぇー」
「「キヤーッ!」」
ノリノリな(多分)娼婦が二人。
場所が教会内ではあるが、お遊びの相手が娼婦であることは褒めてもいいかな?
これが、修道女であったのなら、万死に値する。が、どうやら万死に値することも行っているようだ。とは、ヴェニュスの言葉。
「司祭様あ、私の聖水、お顔にお掛けしましょうか?」
「ああー、お願いするよおー、ローラちゃん」
このローラと言うのは、ヴェニュスのことらしい。
『聖水』が何かは、ご想像の通り。らしいが………
「その前に、このお薬、舐めてご覧、……凄く、すんごく気持ちが良くなるってさあー。私が貰った物だよぉー」
ああ、これが、『天使の卵』か。
なる程、ウミガメの卵のように丸くて白い丸薬のようだ。『天使の卵』と言う感じだな。
で、聖都の西から港町ブー・ラポールまでのドゥスト領を治めるドゥスト伯との繋がりも見える映像だった。
まあ、この映像が無くても、僕は僕の魔法で法王猊下をコントロール下に置ける術は確立済みであるのだけれどもね。
◇◇◇
嵐の去った海原をゆっくり進む蒸気帆走船『マドナグ』号。
全長15m弱で、漁船としては結構な大きさの船で、一応海賊対策に喫水線の下、船首に衝角が着いている。
殆ど攻撃に使ったことは無いようだが、一度暗礁に乗り上げそうになった時、この衝角が暗礁に当たり難を逃れた。と言う話しを訊いた。
まあ、嵐が去ってメインマストがポッキリ折れて、タービンが逝かれてお仕舞いになられ現在、このマドナグ号は、私の扇風器を改造したスクリューモドキで航海中なのだった。
スクリューモドキでの大陸への航海四日目、9月第二週の4日。
突然、お椀をひっくり返したように丸っぽい島が現れた。
その島には藁葺きの屋根のお家があって、島の頂上付近にお城のような建物が見えた。
『ここは我が国、『アキツシマ皇国』の移動要塞、ザラタンである。即刻立ち去るが良い!』
文法的に『古ノルド語』であろうか?
だが、単語は一般的な『大陸語』のようだ。
「アムリー、言葉解った?」
「単語は少々、だが、……難しいな。只、立ち去るよう警告していることは、分かった」
「多分だけれど、わたし、お話しが出来そうです。わたしが彼らと話してみます」
『こちらは、漁船マドナグ号。求む、救助。……ええーっと、メインマスト破損で、魔具、……喪失動力にて困難、航行。以上!』
「スッゲー!やっぱペルスネージュ姫って外国語も出来るんだぁー!」「ホントだーね。バジルぅー」
『こちらは、要塞ザラタン警備隊隊長、『ヨシナガ一佐』である。漁船マドナグ号の保護を認める!航行に支障なければ、白を、航行不能であれば、赤旗を上げるべし!こちらの船で、曳航する』
迷わず、船長アムリー・レイは赤旗を掲げた。




