第四節-03.皇子、追跡者になりました。清掃者。
◇◇◇
あれから四日。もう新年度だ。9月第一週の2日。
この日の僕は壇上で、新一年生に対し、生徒会会長として祝辞を宣べている筈だった。
多分、副会長職のナルスィスが入学式の祝辞を代弁するのだろうな。そして明日は、始業式だ。
………僕、何でこんなことをしているんだろうね?
男爵邸の瓦礫撤去はの指示は兎も角、町の運営管理にシャテニエ公国の兵が一個中隊50名が8月最終日に駆け付けてくれている。
実は湾岸州の都市の新参の町ノタは、湾岸州の西の外れも外れ、最西端。しかも湾岸の諸都市から離れ過ぎていて、小規模な兵が派遣されるにしても、五日以上は掛かると思われる場所だった。
公国ならば、直ぐ北に国境があって、即応可能であるのだ。と思ったのだが、そうそう小競り合いが起こるでも無い程、平和な世である。
国境に兵など居なかった。
それで、シャテニエの閣下に応援要請を出す為、ブー・ルポールに居るクロに伝言を頼んだ。
中隊が来たのは頼んだ翌日。
早過ぎと思い訊くと、「姫様からの要請で、……まあ、姫様の尻拭いですけどね」と、苦笑いの中隊長様でした。
要請は、あのカラス、『シュカ』の功績だな。
状況が状況なので、身分を明かし、町の警吏と行政官を集めて、一時的に男爵家に責任の所在を求め収監させた。
後は、公国兵が来るまで臨時で指揮を取った。
それからの昨日と今朝は、男爵の事情聴取。
中隊副官のユーグさんと取り調べをした。
「何故、彼女達を拘束したのか?」
以下理由。
以前、恋漕がれた女性がいて、その方は亡くなったのだが、その生き写しのような少女を偶々視察中(笑)だった港湾で見掛けた、
何とか連行したのだが、何故かその少女が激怒し館を破壊された。と言う。
そこまでは、彼の息子からの自供で、何故激昂する程だったかは割愛する。
「でも、父上は監禁した時僕に言いましたよね。『あれは、公国の公女だ。なに、数日監禁すれば心が折れて奴隷に出来よう。私が楽しんだら、おまえにも……』って仰るから、僕も協力したんです!」
とは、男爵の嫡男の言った下衆な話し。
うん、殺そう。そう思ったよ?僕。。。
まあ、最初見た時に今は亡き、『レオノール・ロラ・マルゴー・ド・ラ・フォーレ=シャテニエ公妃』だと思ったのは、ペルスネージュも同じ毛染め剤を使っていたから。なのだと考えた。ってことは、『輝くニンジン』は終了。前の『黄土色金髪』に戻したのだな。
見たかったなあー、『輝くニンジン』………。
そして、僕はマリーのやらかした物の後片づけを粗方終えた。後は公国さんにお任せで、僕は再び追跡者に戻ろう。
それにしても僕はペルスネージュ嬢の専属掃除人じゃないんだよ?
◇◇◇
さて、数日前にクロ、……ノワールが、対岸の町の宿、『サメの歯三本亭』に来た時のこと。
彼女の報告は二つ。
一つは港町ブー・ルプールを治めている領主、ドゥスト伯爵の麻薬のこと。
「主の仰る通り、『天使の卵』は、ボルドワール・アメデー・ド・ドゥスト伯爵の手の者が、仕入れ先については、大陸からの物と、……但し種、……ぅうー。ダメじゃな。文で報せる、が、良いのう、……子細失念じゃ」
まあ兎に角、ドゥスト伯と麻薬『天使の卵』について、関係がある。と言うこと、なのだろう。
二つ目は、『聖都イン=アンナ』のイン=アンナ教会絡みのこと。
『教皇、……法王であったか?ベアトリス十四世?五?……』
「アドリヌス十四世だ。なんだよ『ベアトリス』、って。法王は男性だよ」
『そ、……そう、その十四世が死んだそうじゃ』
「……教皇猊下が、アドリヌス十四世猊下が亡くなった!?」
驚いた。
……と、同時にこれは、好機!なのでは?そう思った。
と、同時に『このタイミングで亡くなる?……クロ達の仕業なのでは……』。とも思って仕舞う。
だが、好機であることには変わりない。
イン=アンナ教会のトップであるところの教皇猊下であるが、帝国国内に於て、『皇帝はグランフルーリア帝国の皇帝が唯一無二の皇帝である。教会トップが「皇」を名乗るのは、不敬である』と、言う考えにより、『教皇猊下』若しくは、『教皇聖下』ではなく、『法王猊下』と呼称されている。
「『二週間後に教皇猊下の葬儀、一ヶ月後教皇選出の、『選出の儀の開催!?』だって?一ヶ月後って、僕と兄上の誕生パーティーがあるじゃないか!その後直ぐに『立太子の儀』じゃないっ!
間に合うかな、僕?」
『それについては問題無い。と、思うが』
「何でさ?クロ」
『妾らに乗れば、夜中に帝都へ向かうことも出来よう。まあ、主は、妾に乗って移動したことなど無いからの。……見るのが一番良いであろう』
僕の影から出たクロ。
それに、もう一人?一匹現れた真っ白なフェンリル。
その白いフェンリルの背には、一人の人間が乗って居たのだった。
◇◇◇
「なんで。なんで居るんだ?『フィーリィ』!!!」
そう、僕、……とナルスィスの妹、フィーリィがフェンリルの背に乗って居たのだったった。
僕と腹違いの妹。
プルムヴェールお母様の娘、……つまり、ナルスィスと同腹の兄妹で、13歳の帝国第一皇女のフィーリィ、…ネモフィラ・マルゴー・ド・エデルヴァイスがそこには居るのだった。
いや、シャーリーはいい。それより、この白いフェンリルは、誰?……誰、はないか。何処のフェンリル様!?
「ああ、すまぬ。紹介がまだであったな。これは妾の二番目の姉じゃ」
ああ、クロの姉上。。。
「……姉上であらせられましたか。
僕はこのクロワッサン、……クロの一応、主、ヴォルビスと言います。ヴォル、とお呼び下さい。
で、姉上様のお名前は、何と仰るのでしょうか?」
「我に名は無い。そう言うものだ。……なんならぬしが我に名を付けよ」
「え?僕の名付けでいいの!?……ならどうしよう。……うう~~~ん……」
「あっ、主、主よっ!ダメじゃ!ダメじゃ!」
───真っ白な大狼、白い。大きな白い、……輝くような、白。
「『ヴェニュス』、は、どうかな?ほら、春とか夏頃?夜明けの東の空に、輝いている星。『明星』。君の光るような毛を見てそう、思った──」
瞬間、僕の目の前が真っ白になった。宿の部屋が真っ白な光に覆われた。
この光景、クロの名付けの時とおんなじだ!
青白い光の洪水は、やがて暖かなピンク色の付いた白い光となり、…………仕舞った!確か名付けは番が現れてとか、番が付ける物だとかクロは言っていたんだった。
と言うことは─────
「ヴォルよ。我と婚姻だな?……にしても、我が妹は食べ物とは、……クロワッサン。……ぷぷっ!
───しかし我は、美の女神、か。……ふむ、イン=アンナ、イシュタル…イシュト神信仰にも繋がる名よ。まあ、我は神獣であるから、適当ではあるがな。
で、ヴォル、で良いか?ヴォル、おまえの妹ご、どうするのか?」
あっ、忘れてた!フィーリィ。
でも、まああれだ。
久しぶりに本物の金髪を見た気がする。
だって今まで似非金髪の女の子が傍に居たんだもの!
あの『輝く黄土色』。……僕が、多分、僕は、恋をしているんだ。
彼女、……マリーは今頃、何処まで行っているんだろう?
それにしても、なんで、
「フィーリィ、何故君がここに居るのっ!?」
純白の毛皮からその金髪の頭を持ち上げたフィーリィの淡い青紫の瞳からは涙が溢れていた。
「どうしたの?何故泣いている?フィー」
「───今、今は言いたくない。今は言いたくない。でも私、兄様、……ヴォルビス兄様にお会いしたかった。逢いたかった。それは、本当。助けて頂きたかったの!ヴォル兄様!」
それから僕は、フェンリルの姉妹、クロとヴェニュス、妹のフィーリィを宿、『サメの歯三本亭』に残し、市場へと急いだ。
ネモフィル、……妹フィーリィの服と靴を求めて。
だって、フィーリィってば、ネグリジェのままだったのだ。
勿論、靴だって履いていない。
どうやら、昨夜に帝城、……皇宮からこの町、スィマジイ ド ラメール、……スィールに来たようなのだ。
スィールの宿屋、『サメの歯三本亭』に。
ところで、
『妾らに乗れば、夜中に帝都へ向かうことも出来よう。まあ、主は、妾に乗って移動したことなど無いからの。……見るのが一番良いであろう』
と言っていたクロ。
なる程、クロの背に乗って移動すれば、夜のうちに帝城まで行くことが出来る。と、そう言うことか。
(クロ。ヴェニュスとフィーリィ三人で僕の所に来て!)
『何故じゃ?』
(今日は『サメの歯三本亭』に四人でお泊まりする。だから人形に顕現して、外から宿に入りたいんだ)
『了解じゃ』
路地裏の僕の所にワンピースに着替えたフィーリィと黒髪の美女、……なんだ!?スッゲーゴージャス系の美女が現れた。
赤い瞳の銀髪の美女。……何故か縦ロールにしているヴェニュスだった。
「───四人部屋、……で、いいのか?……まあいいか」
そんな訳で、その晩も『サメの歯三本亭』に泊まった訳だが、夕食事が大変だった。
兎に角クロもだが、ヴェニュスの美女っぷりが凄まじく、挙げ句、妹フィーリィの可愛さ(兄の欲目かな?)もあって、声を掛けて来る酔っぱらいの多いこと。
挙げ句、美女美少女三人に囲まれている僕に対するやっかみ?が酷くて、ゆっくり食事をしている場合ではなかった。
まあ結局、宿の女将に助けては貰えたが、、、。
昨夜一晩、ヴェニュスの背にしがみついていたであろうフィーリィは、食後部屋に入ると倒れるように眠って仕舞った。
それから僕らは明日以降の行動について話し合った。
フィーリィが眠ってからの話し合いの予定だったから、眠ってくれて好都合ではあった。
「僕としては、マリーの動向が知りたい。けど、法王亡き今、どうやって教会を懐柔するか?それを───」
「我が良い物を提供しようぞ」
ヴェニュスはそう言った。
ところで、マリーは白子で白い髪に真っ赤な瞳。ヴェニュスもマリーと同じで、赤い瞳で白い髪だ。
「失礼かもだけれど、ヴェニュスも白子?──ああ、話しの腰、折っちゃって、あれだけど」
「どうであろうな?クロワッサン。ぷぷっ」
「おい!姉、……ヴェニュス、か?いくら姉でも、妾に対して失礼じゃ!
まあ良い。───妾らフェンリルは本来、真っ白な毛皮の獣ぞ。妾は異端、……と言うか、妾は兄弟の中で孤立しておった。……何せ、妾だけが、真っ黒であったのだからのっ」
「我は仲良くしておったではないか」
「よお言うわっ」
そう、か。クロは差別されていたのか。……だから、あの時。もう七年も前になるのか。
あの北の峡谷の底から、
「ねえ、もしも僕が君を助けて仕舞ったら、君はもう、お母様や兄弟といっしょに居られなくなっちゃうの?」
そう僕が聞いた時、彼女、クロは何も言わずに僕に助けられたのだろう。
家族の元に帰れなくなってもいい。そう思ったのかもしれない。
で、ヴェニュスの『良い物』、とは?
「秘策、……と、言うかの。教会を懐柔、……いいや、ヴォルの言いなりに出来る方法がある。我のこの用意周到さを見よっ!」
目の前の空に映像が流れ出した。
◇◇◇
9月第二週の1日。
わたしとガルデニアは南部都市国家群、湾岸州の西の外れの都市、『西の入江』の町に来ている。
町、……都市は大変に大きく、狩猟者組合の受付嬢との雑談で知ったのだが、人口15万を越えていると言う。
「姫さ、……いえ、マリー。昨日の町、『スィバーハ』は良かったっすねえ!あの湖」
「そうねえ、……綺麗な湖だったわ。お魚、最高!……でも、」
「あの貴族、……伯爵?でしたか。あれ潰すの、結構手間でしたね」
「まさか、あんな趣味、……好事家が居るなどとは、思わなんだわ」
「ですが姫様、……いえ、マリー。だからってブチギレてまた、破壊しやがってっ!どおーなってんだ、おまえの頭はっっっ!」
お昼頃、閑話『皇子、子犬?拾いました』の続きをアレします。




