第四節-02.皇子、追跡者になりました。世襲市長。
◇◇◇
「何それ?『輝くニンジン』って」
8月第五週の3日。僕とイビスは、ノールスゥド川河口の町『スィマズイ・ド・ラメール』の港、埠頭に居る。
シャルー・アナズベル所有の大紅丸と言う漁船は、真っ赤な塗装以外に変わっている特徴がある。
船底にある水車を回して進むこの漁船。
基本的に帆走船ではあるが、石炭を燃やしてお湯を沸かし、それで発生する湯気、即ち蒸気で水車を回して走る『蒸気船』と言う船なのだ。とシャルーは言う。
ここスィマズイ・ド・ラメールの町は、南シャテニエ山地の南端にある炭鉱の町である。
スィマズイ・ド………長いって言うと、シャルーが、『スィール』って皆は呼称していると教えてくれた。
僕も『スィール』と呼ぼう。
閑話休題。
で、石炭の買い付けと、タンクに水の補給をするのだと言う。
なので、今日はこの町スィールに滞在する。
と言ってももう、夕方近いんだけどね。
で、冒頭の『輝くニンジン』についてです。では無く、変わった髪色、黄土色っぽい金髪の少女と、その少女に付き添う赤髪の麗人の情報を探すのが、僕らの目的だ。
しかし、港から続く市場や出店の従業員に「黄土色金髪の少女で、パッと見貴族令嬢みたいな……」と訊くと、二言目には、必ずと言っていい程、『輝くニンジン』の話しをされた。
そして、今も………。
「──へぇー。髪の毛の色が黄土色の?変わった髪色のお嬢ちゃんだねぇー?………そう言えば、一昨日だったかな?輝くニンジンの嬢ちゃんが、街じゃあ有名だったよ」
ちょっと、既視感を覚えた僕は、
「その娘、他に話しは無いの?瞳の色とか、御一緒している方がいた。とかいないとか?」
「俺ぁー噂で訊いただけなんだが、何でも『ニンジンと兎の子ども』かもってぐらいにニンジン色の髪の毛で、兎の目をした可愛らしい少女で……」
「あ、ありがとう」
確定じゃん!
さっきから僕はずっとマリーの噂を訊かされていたんだな。僕はっ!
っつか、あいつなんなんだ!?歩くだけで、なんかやらかさないとダメなのか?こんなに噂になる程………。
ヤバい。あいつ存在だけで、目立っている。
高々、二日も滞在していない町の筈なのに、だ。
大きめなこの町で、もう皆の知ってる。『輝くニンジン』って有名になっているし………。。。
直ぐ敵対者の耳にも入るんじゃないか?このまま彼女を野放しにしておいたら………。
マリー達の泊まった宿は直ぐに探し出せた。
宿の入口の看板に、『サメの歯三本亭』と金文字で書いてある。
「ここですねぇ?変な名前、何故に三本?ププッ」
「あんまり笑っちゃ失礼だと思うよ?イビスぅ」
「お客さんかい?あー、いやいや笑ってくれていいのさ。だって、ウチの宿これで覚えたろ?まあ、そう言うこった」
ああーなる程。これも経営戦略ってやつなんですね。勉強になりました。
「まっ、尤も、暫くはあの『輝くニンジン』の宿って言われんだろうがさ」
そんな訳で、本日はこの『サメの歯三本亭』に宿を取った。
イビスと男二人で部屋に居るのもなんだし、夕食までまだ間があるし、なので、人の殆どいない食堂兼居酒屋で暫く過ごすことにした。
居れば居るで気を使われたのか、女将さんがいろいろと話し掛けてくれた。
「へえー、あんたあの娘の婚約者なんだあー、へええー!んで、放浪癖のある好い人をあんたが追いかけている。ってえ、訳かい?でも、あの髪色はなんなんだろうね」
「あー、多分、彼女幼い頃、髪色で虐められていたみたいで、コンプレックスだったんですって!あのお付きの彼女、赤髪だったでしょう?その彼女を実の姉のように慕っていまして、同じ色に染めようとして失敗。ってのが今回の真相かと……」
「はあぁー、あんな明るくて元気な娘がねえー。まるで、まるでペルスネージュ様のお話し、み た い な ?……赤い大きな可愛いお目々………が、最近訊いた公女様が行方知れずって話し、公都と行き来してる商人が言ってて、あ、あぅ、あたしゃ!うぐぅ」
「女将、それ以上は言うなっ」
イビスが女将の口をその大きな左手でふさいだ。
イビスキュス、ありがとう。とは、思うが……。
「女将、すまない。この者の無礼の責は、僕にある。そして、重ねて無礼であろうが、そのまま僕の話しを訊いてくれ!」
多少の誇張はあるが、大まかに、先ず公女が複数から自身が、身柄を狙われていることを話した。
「イビスキュス、もう大丈夫だ。女将を放してやれ。
───女将、すまなかった。許せ。貴女の憶測通りだ。だが、その憶測のままの貴女は、思ったことを客や知人に喋るであろう?だが、そのことで、彼女の居場所が、敵の知るところとなる可能性がある。
そこで、僕から提案する。彼女はこのまま彼女のことを『輝くニンジン』の娘で通して欲しい。多分勘の良いやつが気付いて、彼女の身分を言い当てるかもしれないが、あくまでも、『ニンジン娘』とだけ言い続けて欲しい。お願いだ!そのカウンターの後ろの小さな絵、公家の方々の姿絵では?もし貴女が敬愛する彼女であるのなら、どうかこの僕の申し出を受けて欲しい」
暫く僕の言葉を訊き、反芻する女将。
「殿下、今よろしいかや?」
何故、殿下呼び?ああ、なる程ね。僕の身分を敢えて知らせる作戦か?
「別件で、早急にお耳に入れたきこと故、お人払いを……」
「待て!ノワール。暫し待て」
「御意」
そう言うと、クロは僕の影に吸い込まれるように消えた。
「い、今の、な、な?」
「ああ、今のは僕の使い魔、ついでに言うと、僕の名は、ヴォルビス。帝国第二皇子をやっている。
そう言う訳で、僕の提案を受けて欲しいんだ。ああ、一応この町、帝国の領域だから命令をしてもいいのだけれど、僕はそう言うの嫌だから、『提案』とするが、良いか?」
徐に傅く女将。
「ははあー!仰せの通りにいぃぃぃ」
それから僕は、部屋でクロの報告を訊いた。
予め女将に僕の部屋に来て貰うよう頼んでいた。
僕の身分で改めて畏まったり、特別な料理を用意したり、兎に角、他の客と同様の扱いをしてくれるようお願いした。
それと、多少なりとこちらの事情に巻き込んだことにたいしての謝罪をしたのだが、謝ることに苦言を呈するイビスキュス。
「皇族が、臣民にその高貴な頭を下げるなどと言うことは、その品格を落とす行為です|」
「その品格を支えるのが臣民だ。その臣民たる卿が皇族たる私に苦言を呈する。そのことこそ、品位を惹いては、皇家の威光を下げる。とは、思わぬか?」
◇◇◇
ノールスゥド川の幅は広く、公都マロンダム付近のノールスゥド川に架かっているような橋は無い。
向こうに渡る為には、船に乗る必要がある。
一般に名称、『南部湾岸州』又は、『南部都市国家群』と呼称されている地域は、ノールスゥド川東側から、東方の海岸沿いにある都市とその周辺を指す。
その川向こうの町『ノタ』は元々スィマズイ・ド・ラメールの町の一部であったのが、人口が増えるのに従い独立し、南部湾岸州に組み入った。
公都マロンダムからの定期船の発着は、ノタ、スィール共に同じ本数にも拘わらず、湾岸州方面への航路の独占、橋梁事業の拒否なと スィマズイ・ド・ラメール 、……スィールの町に取ってあまり良い隣人とは言いがたい。
とは言え、こちら側から湾岸各都市へ行くのには 、どうしても川を渡る必要があるのも事実で、わたしとガルデニアは、渡し船に乗りノタの町へ渡った。
渡る船賃大銅貨一枚。
なのに入町税が一人頭大銅貨四枚とか、高過ぎ!
その日の内にノタの港から他の湾岸州の都市へ行くつもりでいたのに、
「貴女方の書類に不備がありました」
と、いきなりの足止め。
書類も何も住所、氏名、年齢、種族、性別の記入の何処に不備があるのでしょう?
まあ、聖都のテター家別宅の住所を記入しましたけれど、それについては、伯爵の許可は得ているし、問題無い筈!
なのに連行され、一晩何処かの邸の客室に入れ措かれた。
「屈辱だわっ。誰がこんな目に合わせてくれたのか、……そうね。返答次第では目に物を見せて差し上げますわぶっ殺しますわよそいつを!ガルデニア準備だけはしておきなさい」
「御意っ!」
この邸の衛士二人に連れられ、入ったお部屋がまあ、何と言いましょうか?
まるでお城の謁見の間。
正面の壇上にもまるで玉座がのような椅子があり、その右に幼い頃見たような気のする少年が立っている。
誰だっけ?
で、座って居るのは豚?みたいに太った中年の男性前髪が無い登頂部も無い。
何の演劇だろう?
平伏するでも無く、傅くことも無く、膝を付いて頭も下げず、カーテシーもせずにわたしは、口を開いて差し上げた。
「おまえは誰か?」
と………。
「なっ!ぶっ無礼なっ!」
中年が物を言った。
「わたしは貴様の名を問うたのだ。それ以外の発言を許した覚えは無い。今一度問う。おまえは誰か?」
「────わ、わたしはこの地を預かるぺ、ペラン・フィリップ・ド・ノタである。き、貴様は……」
ああ、この町の市長か。確か、男爵位、だったかな?お勉強はしておくものだな。
「男爵、わたしは名前を問うたが、それ以上の発言を許したか?どうだ、ガルデニア」
「はっ!ガルデニアの記憶か確かならば、我が姫様は許しておりません。しかも彼の者は姫様再度の許しを無下にいたしました。万死に値するものとガルデニアは愚考致します」
「では、公女ペルスネージュが我が従撲ガルデニアに命ずる。彼の無礼者を拘束せよ!」
「御意っ」
尚、わたしは、貴金属以外の壁と、まるでお城の謁見の間に立ち並ぶ衛士に向け魔法を打っ放つ。
「爆ぜろ焔。焼き尽くせ!───」
そして、わたしはイメージするのだ。この瞬間瞬間、分岐する時間軸。幾千幾万幾億のその一瞬に存在する可能性の時間軸を。そして同じ物。
例えばお豆、お豆と同じ軸線に億の豆があったのなら、その重さは想像を絶する物だろう。
例えば壁、想像出来るだろうか?その幾億の壁が同一軸線上に存在した時の質量を、────それは一瞬でも超重量、詰まり空間その物が歪む程の超重力を作り出す。一瞬でも十分そちらに物体は落ちるのだ。
衛士の殆どが壁に落ちた。
ついでに柱も落ちた。そして支えを失った天井も梁も床に向け落ちた。屋根も漏れ無く落ちました。
邸は、その似非謁見の間を中心に潰れ、危うくわたしは、死ぬかと思ったわ。
ノタ邸は半壊しました。
「いいえ、姫様ほぼ全壊です。死傷者不明です。どう致します?」
「万策尽きたので、逃げましょうガルデニア!」
「おひとつの策すら行じておりませんが?」
意外と細かいわね。
取り敢えず、お父様に連絡をして、どうににかして貰いましょう。
「今、文を認めるわ。そうしたらシュカにお願い!ガルデニア」
◇◇◇
僕がノタに渡し船で渡った第五週の5日、ノタの町は何処の町とも差して変わらぬ町に思えた。
二点を除いて……。
一つは入町税が高過ぎな点。
渡し船の料金が大銅貨一枚はまあ、普通、かな?高いけど。町に入るのに大銅貨四ってどうよ!?
ジェル兄弟の観る舞台よりお高いとか………。
まあ、よしとしよう。
もう一つは、領主、……市長かな?その館が半壊と言うか、実質潰れていた。
どうなっているのだ!?
「どうなって、あんなことになったの?」
「旅の人ですか?実は──」
赤髪の麗人と変な金髪の少女がよく分からない理由で、男爵家の兵に拘束され、男爵邸に連行されたのだと、町の警吏が言う。
それが、一昨日の今くらいの時間。
そして昨日の昼過ぎ、町の中心に建つ邸が、突如崩壊したのだと。
何度が爆発音は聞こえたようだが、その直後、本当にいきなりこうなっていた。と言う。
その後、何事も無かったように赤と金の頭の二人が、港へ歩き去った。
もう、誰かは分かっちゃったよー。
何故、目立つことばっかししでかすんだっ!マリー。。。
「はっ!そう言えばマリー、帝都で何をやったかな?」
「俺の記憶だと、来都早々セントル高等学園を半壊させていますねぇ」
それではまるで、竜も跨いで通る。と言われた。伝説の大魔導師、○ナ・イン○ースではないかあぁぁぁーーーっ!!!
僕は歴史の一頁を見ているのだろうか。
それは、後世の歴史家が語ることなのかもしれない。




