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逃げた皇子と逃げ出す公女は、勉強になりました。  作者: 潤ナナ
第一章.皇子と公女は逃げました。
18/29

第四節-01.皇子、追跡者になりました。船上の。

◇◇◇


 欲望と言う名の暗黒面に堕ちた僕は、気が付いた。

 と言うか思い出した。

 何故、クロワッサンは、ナルスィスに近付くことがなかったか、……いや、今でも近付かない。


 彼女は、人の善悪に敏感だ。だから兄上を避けている?、……本当に善悪に敏感。そうなのだろうか?


 善悪、って定義は非常に曖昧だと思う。

 でも彼女は、「善悪を見分けるのが得意じゃ」と、宣う。

 『悪意』とは?単純に『害意』だと思うけど、違うかな?


 「あっ!念話!念話で本人に訊けばいいじゃん!───(クロ、あのさあー────。)あれ?届かない、……距離、………は関係無いって、クロ(あいつ)言ってたよ、な?………… ま さ か 僕の『悪意』、……欲望が、悪意、なの、か?」



「もう、夕飯時になるぜ?」


───リッ、ゴオオオーンン。。。


「ほーら、午後6時(終りの鐘一つ時)の音だ。ごはん好き過ぎマリー嬢が、まだ戻って無えーんだ。おかしいだろ?」

「───確かに……」

「あいつら、何処まで行った?」

「兄貴ぃ、マリーちゃんならぁー、多分アソコじゃね?」

「「商業組合(ギルド)!」」

「僕、見て来るっ」

「あ、いやヴォルは残って。俺らのが町に詳しい。なんせ、諜報で何度もこの町来てっから。じゃ!」




 今日、最後の鐘が鳴った。

 もう、午後9時(終りの二つ時)も過ぎた。


「おう、今戻った!」

「ただいまだぁ、ヴォルぅ、で、行き先分かったよ」

「何処?」

「夕方、船に乗ったらしい」


 ジェルとイビスの話しはこうだ。


 積み荷の荷崩れの影響で正午到着予定だった船が遅れて入港した。

 だが、本日、波は穏やか、嵐の気配も皆無。4~5時間の遅れくらいなら、次の港へ夜到着しても問題は無い。

 で、出港した。

 乗船予定だった数人は、本日の船を早々に諦めて乗船券の払い戻しを済ませていて、客室に空きがあった。

 そこに男装の麗人と、可愛らしい貴族令嬢風の娘が乗り込んだと……


「只、そのご令嬢、ちょっと変な行動をしていた。と言っておりました」

「変?じゃあやはり、マリーだ!どうせマストにのぼろうとしたり、フィギアヘッドの顔を甲板から覗き込もうとしたんだろ?」

「いいえ、実際にマストに登ったし、フィギアヘッドの顔を覗いて船上から海へ落ち掛けたそうです」

「………。」

「それに、黄土色金髪で、兎みたいな赤い目だと言っていましたし、間違い無いです」

「───頭のいいバカっているよね。ジェル」





◇◇◇


 わたしは今、船室に軟禁されている。

 犯罪に巻き込まれた。とかでは、無いです。


「姫、……マリー、反省して下さいね。

 ───ガルデニアは、一つ気が付いたことがあります。よく貴女は、面倒事(トラブル)ホイホイだ!なんて、おっしゃいますが、寧ろ、面倒事起こしているのは貴女自身だと。マリーが面倒事の本体です」

「ガーーーン!」


 そうです。船員さんにこっぴどく叱られました。


「入港するまで、船室から出ることを禁止します」


 って。。。





◇◇◇


 8月(フードル)第四週の4日。


 昨日マリー達が、船に乗って湾岸州方面へ旅立ったのだ。


 僕は、欲深い人間だ。

 マリー、……ペルスネージュも国も権力もおそらく、心の底から欲しい。と僕は、思っている。

 そんな僕だから、クロの声も訊けなくなっt────


『久しいのう。泣いておったようじゃが?』

(ど、どうしたの?昨日は僕あんなに必死で話し掛けたのにぃー!ねえ、遠かったの?遠いから──)

『何を言っておるう。念話に距離は関係無い。と、………寝てたら話しなぞ、出来ぬであろう?それとも(あるじ)様は、寝ておっても話しが出来る技の持ち主かや?……泣くで無いぞ?』



 尋ねた。

 クロの言う、クロの判断する『悪意』とは?『善意』とは?────


『そんなもの、妾の気分に決まっておる。現に妾の気分を損ねた賊とやらと騎士どもをつい先立て、何十人も妾は殺しておるしのう。だいたい、良かれと思うても迷惑を被ったり、害にしかならぬ物事もあるじゃろうて、まあ、純粋な悪意害意もあるにはあるがのう』

「それじゃあ訊くけど、僕は何でも欲しくなったんだ。マリーも国も力も、……これって、悪いこと?」

『そんな物、当たり前であろう?欲して何が悪い!』


 僕は、クロのその言葉を聞いて、凄くほっとした。クロの次の言葉を聞くまでは………、




『したい、のじゃろう?あのマリー(おなご)と交尾したいのじゃろう?主よう』


 マリー達が出港した翌日、僕はマリーを追いかけるべく、港の町ブー・ルポールを立つつもりだったのだ。が、


「『禁制物』が発見された?で、何故、出港出来ない?」

「そりゃ、ご禁制の物を積み荷に紛れ込ませていたからですよ?」


 然も、当たり前だ。と言う態度の港湾職員の弁。


 そう、僕らが乗る予定であった船が、出港を差し止められたのだ。この船が、唯一、湾岸州方面行きの客船なのにだ。

 他の船、……貨物船に乗船は出来ない。の一点張りで、どうにもならない。

 権力を、……とは思ったが、流石に「皇子の命令だ!」、なんて、そんなことをしたら僕の評判どころか、皇族の尊厳にも拘わるだろう。

 何より、敵対者に僕の居場所が知られかねない。誰と誰が敵なのか分からない今、下手に目立つのは悪手以外の何者でもない。


「殿下、『禁制』の物は、麻薬だと駐留の領兵達が噂しておりました」


 麻薬、これは使える。……か?


『主よ。それは、悪意じゃ!止めておけ。どうせ教会の威張っておる人間どもに使わせて、……そのようなことを考えたのじゃろうて。それこそ、悪手よ』


 ああ、そうだよ。クロの言う通り、僕は教会幹部に取り入る時間より、手っ取り早い方法を思い付いたさ。

 意のままに操る方法を………。

 だけどね。僕は欲しいんだ。全部が…………。。。


「殿下、他の船舶を抑えましょうか?多少の金銭で、都合付く者者を知っています───」

「いや、明日まで待とう。どうせマリー達には追い付けん。ならば今出来ることが、したい。ジェルブラ、イビスキュス」

「「はっ!」」

「頼みが、ある─────」





◇◇◇


「お客さん、随分待たせた。『大エビのテルミドール』だよ!大銅貨二枚だよ!」

「ああ、ありがとう」


 港に近い食堂なだけあって、昼前にも拘わらず込んでいる。今僕は一人、ブランチだ。


 給仕の女性の手に硬貨を二枚握らす。


「!?……お客さん、これ銀貨──」

「残りは君のお小遣いに取っといてよ。なに、心付けってヤツさ。で、僕のお願い、頼まれてくんない?」

「な、何さっ!あたしゃこう見えて、身持ちは硬いんだよ。……けどさ、あんたならいいよ?いい男だしねえ」

「そうじゃ無いから──」


 給仕に訊いたのは、『天使の卵』と呼ばれるご禁制の物。詰まり、麻薬の噂だ。

 が、あっさり。


「領主様が糸引いてるって、皆言ってるよ。だって、(やかた)で働いてる()、何人も戻って来ないって、きっと、薬漬けにされて、………あたしの友達、そこで働いてんだけどさあ、『私も領主様に食われちゃう』、って、さっ!あははっ!あいつ自分の顔、見たこと無えーんじゃねえ?不細工なのにさあー。チャンチャラ可笑しいっ、つの!」

「その友達に会わせてくれる?」

「え?あんた、ブサ専!?」




 エーヴ、……食堂の給仕女の連れて来た赤銅色の髪のそばかすの女の子、と言うにはもう少し年は行ってそうな女性 、名をリリアーヌと言った。


「──へえ…、いい男じゃん!良いよ?私……」

「そう言うの、いいから」


 どうも、宿の部屋に呼んで会ったのが悪かったのだろうか。部屋に呼ぶって言うのは、そう言う意味だ。と後でイビスに教えて貰った。

 あー、勘違いをさせたなあ。

 兎に角、そう言うつもりが僕に無いことを、ここに明言しておくよ!


「!待ってて、ちょと()かが来た。直ぐ戻るね……」


 そう言って、僕は部屋の外へ出た。

 ()か、とは、クロのことだ。


「随分戻るの早かったね。一週間ちょっと掛かるって、言ってただろう?」

「主の泣き声が聞こえたでな。急いだのだ」

「今、人と会ってたんだ。おまえの存在がバレると、後々面倒だから、部屋にはドアから入ってくれ。下手に僕の影から出たら……」



「悪い。待たせた。──一応、紹介しておくね。こいつは、ノワール。昔からの僕の相棒だ」

「ノワールと言う……言います。ヴォルとは、狩猟者(ハンター)仲間です」


 二人とも、固まっている。

 まあ、無理も無いかあー。

 クロって、妖艶な美女って、感じだもんな。始めて見ると、大抵の人は驚いて、この子達みたいな顔になるんだよなあー。

 疑問だけど、変身って、自分のなりたい姿形になれるのかな?

 擬態?


『主よ、失礼であろう?妾は擬態なぞせん。本来の人形(ひとがた)時の地の姿じゃ!』


「──君達、大丈夫だよ?別に喰わないよ、こいつ」


「──はっ!」

「うわああー、綺麗なお姉さん!」


 感嘆の声は、エーヴ。

 後、彼女は僕、……ノワールに付き纏うようになるのだが、それは違う機会に語ることになろう。。。


「ま、彼女のことは、気にしないでくれ。ところで、話しいいかな?」





◇◇◇


 マジ、気持ち悪い。多分死ぬ。きっと死ぬ。何故におまえは平気なのだ?

 体格か?デカイといいのか?イビス。何故貴様は涼しい顔でそこに立っていられるの?

 助けて!


「助けてくれよお。イブスぅ、……うぷぅ。吐く!」

「ヴォル。いくら俺がぁブサメンだって、傷付くんすよぉ。なんですぅ?イブス、ってぇ」


 僕は今戦いの真っ最中だ。この船上で……。


「まぁー、アレです。慣れっすよぉ」


 何、然も「そのウチ慣れます。」的な気休め以外の何物でもない台詞を吐きやがって!

 船、揺れ過ぎなんだよう。。。


「大丈夫ッスか?坊っちゃん。ああ、吐くならもっと船縁に行ってくれ!俺っちの大紅丸 汚しやがったら叩き出すッス!」


 ──大紅丸。この船主、シャルー・アナズベルは、「他の船の三倍の速さッス!俺っちの大紅丸」と嘯く。

 船体、真っ赤に塗ったって、早くなんかならないよ!

 そんなことより僕をタスケテ!



 まあ、嘔気、落ち着いた。

 これまでの経緯を………。


 食堂の給仕女エーヴは兎に角、領主館の下女、リリアーヌには、館の内偵をお願いした。


 探って欲しいのは、麻薬『天使の卵』のこと。同じ館の使用人の噂、行方知れずの子のこととか。

 エーヴには、町全体の様子を定期的に報告して貰うことを頼んだ。無論、早急に伝えたいことのある時や、情報が入った都度、報告をして貰う。

 その為に、ジェルブラには、ブー・ルポールの町に残って貰った。

 イビスキュスより顔はいいし、……寧ろいい男だからエーヴとかに受けは良さげだしね。

 それに、そのこと以外にも探って欲しいことがあったし……。


 で、僕とイビスは、マリー達を追って船に乗っている。

 もしマリー、……ペルスネージュに会えたとして、彼女逃げるんじゃ………。

 あまり目立ちたく無いのに、真っ赤な漁船に乗っている。僕が乗ってるって分かったとたんにいなくなっちゃうかもしれないけれど。

 目立つのって、良くないよな。


 ああそれと、クロに頼んだ僕と彼女の婚姻……『婚約届け』。

 大公閣下、マリーの父上の署名貰えたって、クロは言った。


「閣下の様子は、どんな感じだった?」

「様子の前に妾が信用されんかったわ」

「なんで?僕の印章の指輪見せたんだろう?」

「見せたが、入町料払えって門兵が言うて入れて貰えんのじゃ───」


 いや、そこは払えよクロ。


「使用がなくてな、顕現して城へ入ったわ」

「──それは幾らなんでも……… で、大公閣下は?」

「驚いておった」

「そりゃそうだ!じゃあ無くって、婚約について不満とか苦言とか、そう言う───」

「皆無じゃ。いっしょに持って行ったおなごの手紙を渡したとたん、名を書きおっての。主に宜しくと言い妾の身体に抱き付いたのじゃ。フェンリルの妾に」


 怖くなかったのかな?巨大な狼だぜ?普通───


「小さい身体になった時に、おなごの男親と(まみ)えた」


 あーーーー。


「そうじゃ、主の男親じゃが………。いや、受け取ったよ」






 何か、含みのあるクロの言い方が気になる。が、まあいいかな?本当におかしいことがあれば、クロのことだ。気が付くだろうさ。


「もう少しで、コワンの町ッス」


 シャルーが言うその先に、海に突き出たような岬が見えた。

 大紅丸の船主、船長シャルーを雇ったのが、今日の正午を大きく過ぎた時間だった。


 今はもう、日が沈んでいる。

 懐中電灯を見ると

 時計の針は7時を差していた。


「ヴォルぅ。この岬の東は、岩礁が多いと訊いてるよぉ?」

「坊っちゃん達、今日はコワンに泊まりッス。流石の俺っちでも、東を無事に抜けられるか、不安ッスわー。大紅丸に傷付けたく無え」

「──あのさ、その坊っちゃん呼び、止めて?」



 取り敢えず、コワンの港で一泊する。

 そこで、黄土色金髪の女の子と男装の麗人の情報を、……しっかし、マリー達が特徴的で探すのに苦労しなさそうです。良かったよおー!


 だが、目立つと言うことは、向こう()にも知られやすいってことだ。





◇◇◇


 真っ赤な漁船に乗って追いかけて来たヴォルさんが、|船上の戦いを繰り広げていた(船酔いとの戦い)頃。


 わたし達は、ノールスゥド川河口の町『スィマズイ・ド・ラメール』に居た。

 って、言うか町名長いって!

 宿の女将さんは、「スィール」って言っている。わたしもスィールって呼ぼう。

 因みに、ここスィールの東を流れる大河『ノールスゥド川』の上流が、公都マロンダム。わたしの生まれ育った町だ。

 この町まで何日掛かったっけ?聖都滞在を除いても、9日も掛かったわよね。

 水上交通、川船だと2~3日くらい?

 どんだけ遠回りしたんだって、話しですよね!


 で、わたしはガルデニアに手伝って貰い、毛染めを。。。

 えらいことになってしまった。



 発端は、船の食堂でのある船員さんの一言、


「カッコいい姉さん、真っ赤な髪色たぁー最高に良いね!真っ赤だと、通常の三倍の速さで進むんだ。ここらの港に真っ赤な漁船があってな。それが、速いこと速いこと。この界隈では有名な漁船さあー!姉さんも、足早えーかい?」


 で、購入した赤髪になれる筈の毛染め剤。

 赤髪に、……ならず、何故かショッキングピンクの金髪になっちゃった!

 で、慌てたガルデニアは、わたしのリュックに入っている茶髪用毛染め剤を使用。

 現在のわたしは、『輝くニンジン』と、皆に呼称されている。

 因みに皆とは、宿の従業員とお客様達のことです。


 おかげで夕食の今、わたしは食堂の最注目株。

 ここの宿の食堂の夜は、泊まり客以外の方も利用出来るようで、殆ど居酒屋みたいな感じ。なので、もう、わたしここの売り上げに貢献中らしいです。



 光るオレンジ髪のわたしは、憂鬱ですわ!


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