第三節-05.皇子と公女の旅行になりました。欲望。
◇◇◇
港町ブー・ルポールに着いたのは、8月第四週の3日のブランチの頃。
わたし達五人と一匹(クロ様はきっとヴォルさんの影に居るのでしょうけど、一匹って言う数え方で合っている?)は、二日間お世話になった馬達と別れ、船着き場へと足を進めた。
海特有の匂いの立ち込めた町は、食欲をそそる屋台が並んでいる。
「ヴォルさん!ヴォルさん!食べましょう!食べましょう!食べたいです!!!」
「元気だねぇマリーちゃんはぁーっ!」
「それ程でも!イビス程でも無いですよおー。──あっ!あれ!?あれホタテっ! ホ タ テ !」
「なんだかマリーが煩いんで、オレらちょっくら屋台巡りします。いいですか?ジェル」
と言う訳で、わたしホタテを食べた。
魚醤?とか言う調味料を屋台の店主さんに少おーし垂らして頂いたホタテの貝はお皿みたい。その調味料を溢さない。
「アチッアチッ」って、お口も貝を持つ手も熱いけれども、美味しいんですのっ!
「ねぇーえぇガルぅ、港って、楽しいでしょ!?美味しいでしょ!?」
「ああ、美味しい。とは思うよ。けど、なぁ。そのぉオレ匂いが堪んなく臭くって、耐えられん……」
「ガル何言ってんのよお!この匂いだから港町はいいのよお、海なのよおー!」
「昔、……まだオレが貧民窟に居た頃、ノールスゥド川の河川敷で過ごすことが多かったんだ。
夏の始め頃だったっけ?の昼過ぎになると、そう、この町の匂いだ。この匂いが川の河口から南風に乗って来てたんだなー。そうか、あれは海の香りだったんだな。何故か懐かしい気がしたんだ」
「そっかあー。ガルの懐古の匂いなんだあー……そかそか。じゃあ、次、なぁに食べるぅー?ガルぅー」
すっかりお腹が膨れた頃、ヴォルさん達が戻って来た。
「定期船が、ほぼ毎日出港しているのは確認出来た。只、この町に7日から10日間、滞在することになった。と言うのもクロを待つ必要が出来たからだ。───」
どう言うことかと言うと、公国とグランフルーリア帝国に書簡を送る予定だったのだが、相手に直接渡す必要になった、と言う。
何故なら、間者若しくは、敵対者が、書簡を取り上げたり観覧する可能性があるからなのだと。
手渡し出来る者が、ノワール(クロ)様だけなのだ。
今は、チボールディアの王子達はおそらくだが、聖都イン=アンナの帝国領事館に拘束されているだろう。
その恐怖、……脅威は無くなった。とは、言い難い。
自称香辛料の行商人は未だ、捕らえられて居ないからだ。
王子が、その行商人からわたし達の動向を知らされていたであろうことは、疑う余地は無い。が、王子若しくは、チボールディア王国の間者であると、断言出来ないのも事実だ。と、ヴォルさんは言う。
ヴォルさんは、もう一つの可能性を示唆している。
帝国の門閥貴族。
彼ら自身の言う、主流派なのだそうだ。
その派閥のトップはヴォルさんの母方のお祖父様。フロコン侯爵だと言う。
自分の肉親が敵だと、ヴォルビス殿下は言うのだ。
「悲しいね……」
「ああ、そう言う感情は僕には、もう。……だって、大好きなプリムお母様を毒殺しようとしていた女の父なんですからね」
ああ、彼は幼い頃から裏切られ続けて居たんだ。
「で、屋台は堪能出来た?マリー」
「ええ、おかげさまで。ヴォルさん達もお食事にしたら?それとも先に宿だけ抑えておく?」
「どうだろうヴォル。食事の後、散策しながら宿を取ろうぜ?」
「…だなあー」
「おう、俺ぇ、いい感じの店ぇ目ぇー付けといたぜぃ!ってか、以前ブー・ルポールの町で仕事したことがあってよぉー。以前、と言うか割りと頻繁に来るんだよぉ港町ってぇ。で、兄貴ぃ、あの定食屋がぁー。旨いんだけどさっ、嬢ちゃんらはお腹いっぱい?……だよねぇー」
「いえいえ、わたし達に遠慮なさらず、どおぞお好きなお店で」
そんな訳で、未々続く港町散策。
一応、待ち合わせ場所は決めてある。
港町、と言う場所はわたしが思っていた以上にいろいろな機能がある。らしい。
船は、人と荷物を運ぶものだと思っていた。
でも何だか、人はついでに運んでいるのかしら?と思う程、荷物がいっぱいだ。港近くは凄く広い場所になっていて、そこには倉庫やテントが所狭しと建っていた。
そんな港湾の建物ギリギリまでが、市場なのだ。
実際は、店舗の連なりに見えた市場だったが、その殆どが、出店や屋台であった。
「港の敷地と市場の間に広場がある。その広場で待ち合わせしよう。まあ、食事だけだ。小一時間も待たないだろうさ」
そう言ったジェルに文句を言ってもいいだろう。と、思う程に、港湾と市場の境界が分からない。
だって、あそこ、……市場と思われる港寄りのお店って、完全に港湾の敷地に入っているようなのだから……。
ってか、随分確りした出店だなあー。仮の建屋に見えないもの!
「この辺散策してれば、あいつらオレら見つけんでしょ」
どうでもいいけどさガルデニア、言葉遣い。凄く変わっちゃって、別キャラになっているわ。
「ねえ、君達どっから来たの?食事まだだったら、俺らとどお?奢るぜ」
「内陸の子だろぉー?町ぃ案内すンぜぇ。……あんた、貴族の子かぁ?」
「その申し出は、ありがたいのですが、ウチの従業員とこの辺りで、待ち合わせをしておりますの。
今回は、初めての町を散策したくて、この護衛と歩いてましたの」
「護衛?武器何て持って無えじゃねえか」
「──おまえ、武器が見たいのか?」
ガルデニアは懐に両手を入れ、左右の指股に計8本の投擲ナイフを出して見せた。
「「・・・*****────・・!だ」」
彼らは言葉にならない言葉を発して、人混みの中へ消えた。
まあ、何時ものようにスカートの中を弄ってナイフを出すより良いでしょう。
昼になって、一段と道行く人が多くなりました。たくさんなのです。
それに、警吏も多いとは、思いますが、
「領軍の衛士も見掛けますね」
またしても、面倒事ホイホイなのでしょうか?わたし達。。。
ヴォルさん達、早く来て下さい。探せるかしら、わたし達を?不安になって来ました。
こんなに人が混々塵々していたら、人探しなんて…………
「すんなり合流して、即行宿が決まりましたね」
「ドキドキわくわくでヒヤヒヤなすれ違いとか勘違いがこう言うお話しの醍醐味、でしょうに。……で、宿帳に記入しましたわ。お宿代は、お幾ら万円ですの?」
「万円が何かは知ら無ぇーが、夕飯と朝飯込みでお一人、銀貨一枚と───」
「では、銀貨五枚でっ!ありがとう。数日ご厄介になりますねー!!!」
「いやいや、お客さんお客さん。お代は、銀貨一枚と──」
「五名で銀貨五枚ねっ、ありがとー」
「いやいや、お客さんお客さん!最後まで訊いてぇー」
「それじゃ、最後を訊くわ!」
「───と大銅貨二枚です!」
「なら 、銀貨一枚ね?四枚返しなさい従業員っ!」
「いやいや、最初から最後まで訊いて!」
「訊くわ」
「一人、銀貨一枚と──」
「五人で銀五ね!世話になるわ!」
「だーかーらーぁ!最後まで訊いて下さい」
「訊いたわよ?」
「もうマリー、埒が明かないよ?従業員、幾らだい?」
「お一人様銀貨一枚と──」
「はい、銀五」
少々、お高い宿のようだと思ったのだが、従業員もとい、店主が言うには、
「今まで、取り引き税は、一割八分だったのですが、先月から七分も上がって二割五分ですよ!二割五分。来年度に行われる『立太子の儀』の開催で、いろいろと入り用になるのだ。と言われまして、……あんまり、宿代も上げられ無いんです。勘弁してくれよお嬢ちゃん」
とおっしゃられて、……「そうか、ここの領主は──」と、ヴォルさんが呟いた。
「ドゥスト伯領です。このブー・ルポールを含め、聖都の西側まで」
「よく知ってるねえマリー。本当によく勉強したんだね」
「──ぅうっ!悔しいっっっ。。。」
本当なら、本当なら、本当なら、
「本当ならっ!学年首席のまま三年時、四年時って、わたし一人が独走の挙げ句、首席卒業して、帝国でも、公国でも、『才女、才女才女才女!才女様』って、持ち上げられて、帝国のセントル学園何て目くそ鼻くそって、蹴散らして、わたしの公国は近い将来超教育大国になって、公国の技術は世界一ぃぃぃーーーっ!!!って、叫びながら余生を心穏やかに過ごす予定でしたのにっ!それを婚約だ婚姻だって、煩く、煩く。煩いっ!もう、もう、もおー嫌っっっ!うんこたれえぇぇぇーーーーっ」
◇◇◇
───ドタドタ……、、、トテトテトテ、……バンッ、バタンッ!ッタッタッタァー…………。。。
「走って外出て行っちゃったねぇ。心穏やか、じゃあ無いねぇー」
昨日、皆が買い物に行って、宿の部屋で手紙を書いて、寝て、起きたら署名『ペルスネージュ・マルグリット・ド・シャテニエ』……とお花の印章が点いてあった。
僕はてっきり、……そう、てっきり僕は、僕を、……僕のことを好きになってくれたのだと、……勘違い、してたんだ。
あの日僕は言ったんだ、
「一つマリーに、……いや、ペルスネージュ嬢に提案があるんだ。……嫌だったら、断ってくれてもいいのだけれど、そのう、僕ヴォルビスと婚約をして欲しい………あー、いや、偽装で、婚約者になっておいて欲しい」
って、「偽物の婚約者になってくれ」って、言ったの僕だ!なのに、何をどうして、勘違いしたのだろうか?
希望的観測?
何を持って、観測出来たと言うのだっ!事象すら掴めていないものを観測など、……憶測の域すら出ていないじゃないかっ!
ああーっ、熟思うよ。良かった。僕が為政者になんて、なれなくってえ。。。
ああ、─────────あっぁー。。。
「で、、殿下?」「ヴォルビス殿下っ!?」
気が付くと、僕の目から、はらはらと涙が零れ出していたんだ。
そう、僕は、泣いている。
好きな子が、拒絶しているかもしれないと言う現実を知ったから?
いいや 、それとも僕は、欲しいのだろうか?何を。
全て、を?
僕が掴める、目の前の物を。僕の手が掴み取れる、全てを!僕の望む物全てを、……僕は欲しがっているのだろうか?
僕は欲しがりさんっ!かもしれない。。。
先ず、目の前の物だ。
そう、僕は欲する。妻も権力も、国土も全てだ!そして、心の安寧を…………。
◇◇◇
「姫様、……ここでしたか。。。」
「どおして分かったのよお。」
「だって、ガルデニアの知っているペルスネージュは、お金が、大好きなお姫様ですから」
みっともない姿を殿方、……ヴォルビス殿下に晒したのです。わたしが落ち着く、お金を取り扱う場所、商業組合で佇むのは、朝、お日様が東の空から昇るように、雨が天から降るように、至極自然な振る舞いです。
人は安寧を求めるものなのです。
「長閑で、静かで、平穏さを安寧。そう、ガルデニアは普通に思いますが、この場所はそれとは真逆の、ざわざわガヤガヤと喧騒を絵に描いたような場所では?
……長閑は何処だ!この情景はそれとは違う!おまえの感性は何処にあるのかっ!と、そう考えます」
「安寧は、心のことよ?」
「なにが心の安寧だっ!首を傾げながら『安寧は、心のことよ?』、っだ!可愛い仕草に絆されるのは殿方だけです!
安寧さんが訊いて呆れるレベルです!
アン姉さんはきっと激怒しておりますよ!インドラの矢を一発咬ますでしょう。アン姉さんがっ!」
「去年、寿退職した侍女のアンのことなら大丈夫です。優しいから」
「姫様、ご存知無いっ!?アン姉さんは優しいのでは、ありません。特に何も考えていないので、のほほんとしているだけで、長閑で、静かに見えているだけなのです!───」
「おい、アンの悪口を言うのは止めろ!そして、良くわたしの言葉を訊けい!
───アン姉さんは我々の心に居るのだ!」
閑話休題。。。
「まあ、お巫山戯は程々で、……ところで、何故ここに?」
「うん、勢い?」
そう、只の勢いだったかもしれない。
どうして取り乱す程、怒って仕舞ったのか?
だってわたし、帝国の教育制度を学んで、……勿論、学園の授業も学ぶわ。
そうして、公国の教育ももっと良くして、皆が学び考える機会を与えて、その中から人材、そして技術を産み出せる土壌を作るのっ!この優秀なわたしがっ!
その為の帝都の学園への留学なのっ。
だのに、初っぱな頓挫。
あのチボォとか言う国、……ええ、知っている。チボールディア王国。でしょ!その国のバカの所為で、その後の余計なヤツの所為で、逃げ出すことになったのだもの。
ええ、知っているわ。「逃げずに立ち向かえ」。そう言うことを言う方がおそらく、大半なのでしょうね。
でもねこの貴族社会、上意下達なの。
何処でもそうだと、言われたなら、「そうでしょうね」と言うわ。
『帝国皇帝のご意向である』皇子との婚約。
帝国属国である公国の国主閣下が、断れるとお思い?
婚約の次は、婚姻。
ひょっとしてもしなくとも、『お妃教育』が、始まるのよ?
わたしは、学生の領分を越えて学びたいのっ!
その越える学習が、嫁の勉強?……まさか。
専門教育が、『嫁』な訳無いわ。
そう言う訳だから、大陸の国で学び直すのもいいわね。
「だから、わたしは、財産持って早急に大陸へ行くのだわっ!」
◇◇◇
まさかマリー、……ペルスネージュ公女が、そのようなことを考え、実行し初めている。
などとは考えも及ばなかった僕は、一人宿の部屋で、暗黒面に堕ちていた。
即ち、欲望のそれだ!
それが、どれかは分からない。でもね僕はペルスネージュと、帝国の領土を奪う算段を考える。
「彼女との婚約は成立間近だ。『偽装』とは口頭で伝えているし、何よりそんな言葉が公文書たる『婚約届け』に記載される訳も無い。だから、婚約の成立は時間の問題。本当に問題なのは何故、ナルスィスが公国に来て僕のペルスネージュに会おうとしたのか、……だ。──んんー」
考えられることは、幾つか、あるが………。
打算的に物事を考えて物を得よう。とは、考え無い普通は、……では、公国と姻戚関係を築いて得られる利益、普通に治水技術だな。
帝国にとって、皇帝に取っての利益とは?
支持基盤だ。普通に。
その治水の恩恵を受けるのは?帝国西部の山岳地域だ。西側の山脈の影響で雨量が少ない地域が広くあるのだ。
チボールディアなんかは欲しがるだろう。
あの自慰王子 、性処理の道具は、欲しいだろうが、動かしていたのは、チボールディアの意志か。
皇帝は、東のシャテニエと西のチボールディアの支持を取り付ける。
元々、中央は皇帝の基盤
ってことは、内務卿を僕が動かしていたつもりで、皇帝の掌の上で、僕は 、……いいや、違う。
僕を踊らせていたのは、ナルスィス。
その方がいろいろしっくりする。
本当に皇妃ミラベルが、プリムヴェーラお母様を殺そうとしていたのか?まあ、これは疑う余地も無い事実だろうな。
だけれども侍女に毒薬が渡るように若しくは、そう言う環境を調える者が居たのも事実だろうな。
彼、ナルスィスがとっても適任だ。
皇帝の愛する女性はプリム妃殿下只一人。ミラベルはまあ、権力の均衡を保つには打ってつけだったであろう。
そう言う事実を皇帝は知っている。どんどん立場が悪くなるのだよ母上。
それに、法衣貴族は、確かに力が付き始めているしな。
分析はこんなところでいい。
僕が次にやることは、ナルスィスの力を削ぐことでは無い。
「僕が力を付けることだ。近所に丁度良い物がある。『教会』だ!そして僕は司祭でもあるのだ。────ふふふ……」
ストックが無いので、一日一本の掲載とさせて頂きたく思います。が、あまり需要が無いと思いつつ「捨て置け」と、言う感じでもありますが、




