第三節-02.皇子と公女の旅行になりました。聖都滞在。
◇◇◇
「その疑問には、私がお答えしましょう」
キトン姿が、結構様になっている男性だな、と思った。
「私はこの神殿を預かる神官をしておる。そして、お一人様、大銅貨六枚じゃ」
「───え?」
「入館料、一人、大銅貨六枚」
そう言って彼は、右手を出した。
「ねえ貴方、大銅貨六枚って、屋台の肉串30本も買えるお値段よ?学院、……公国の学院の学食の日替わりランチなら14人前よ!少々高過ぎるのではなくって!?」
前々から、なんとなくではあったのだが、このお姫様、お金にがめつい。……と言うか、お金が絡むと弁舌になるんだよなあ。
しかも例えの最初が、屋台の肉串って………。
「だから、この神殿の維持費は、観光客の落とす金なのじゃ。尤もそれだけ、と言う訳では無く、聖都の観光局からも予算が出ているんじゃが、……如何せん、足りん」
「それで、大銅貨6枚??だが、普通こう言う所は、銅貨五枚から大銅貨2枚であろう?6枚とは、兄とよく行く演劇の普通席くらいの値段ではないか」
よく言った!イビスキュス。
って、演劇とか観るの?てか、この兄弟仲良過ぎでない?ちょっと、気持ち悪いよ?
「帝都の演劇って、安いのね。公国の劇場はだいたい金貨一枚以上はするわ」
「それはボックス席ではないのか?それに私の行く劇場は、庶民向けの所だ」
変なところが、お姫様なのな!マリーさんは。
「兎に角、大銅貨六枚じゃ!」
そんな訳で、僕達は神殿見学を………。
「オイ!一人分足りん。そっちのおなごの分じゃ!」
って、クロ何故に顕現しているの?
普段、影の中から見ているだろうにいっ。
「妾も人のようにカンコウしたいこともあるでのっ」
「ああ、じゃあ僕、払うから」
◇◇◇
聖都に着いたあの日、僕達はいろいろな話しをした。
話しをしたと、言うよりも僕の動向を探っていたらしい兄弟に話しを訊いたのだ。
先ず、陛下の意向。そして、僕の今後について………。
「前にお話しした通り、我々兄弟は第二騎士団の第七小隊、……つまり陛下の為の諜報部隊です。そして、殿下が狩猟者組合で活動していると、組合長から話しを訊き、ヴォルビス殿下の行動を見守っておりました。幸いにも貴方は、安息日のみ活動されていましたので、比較的にお守りしやすく───」
「で、私が兄に、殿下といっしょに行動しては?と、提案いたしました。その方が殿下をお守りしながら、情報、……殿下のご意向を知る上で良いかと」
「殿下のお気持ちや考えは、そこなクロワッサン殿からお訊き致しました───」
「おいっ!妾をその名で呼ぶな!」
黒いから『クロ』だなんて、安直過ぎるのでわざわざ『クロワッサン』と名前を着けたんだけれど、後で本人、……本獣?が食べ物の名前だと知って、怒ったんだよね。
でも愛嬌のある名前だと僕は自負している。
「あら、クロワッサンだなんて、可愛いと思うわ!わたし」
「ぐぬぅー。。。まあ名のことは良い。そうじゃ、妾が其奴らに主の考えを語った。悪いようにはならぬと、妾は思ったのじゃ。なにせこの神格な妾であるのだ。人の善悪の見定めは、特に得意であるのじゃ」
「凄いのですね。ガルデニアは、感服致します」
「───それに、美人ですの………」
「なに、心配することなど無いぞよ?おなごよ」
何故か、真っ赤になるマリーさん。彼女、肌が、と言うか、全身真っ白だから、紅潮すると、凄く赤くなるんだよね。
「ジェルブラ、イビスキュス。陛下、……父上は僕にどうして欲しいか言って無い?」
「陛下は、ヴォルビス殿下の不在をお望みです」
「え?それは、それって、どう言う意味なの?」
「兄上、言葉足らずです!その言い方では殿下が誤解致します。
───皇帝陛下は、ナルスィス殿下の立太子の儀をお進めになっておられ、皇太子府を置く意向です。その間、ヴォルビス殿下の行方が知られずにあれば良い、とのお考えで、殿下の……ヴォルビス殿下のお気持ちと一致しております」
なる程。父上も同じ考えであらせられたのだな。
「只、私は───」
「おい!止めるのだイビス!おまえの気持ちも分かるが、これは陛下も殿下もお望みのことなのだぞ!」
「構わないよジェル。イビスキュス、言いたいことは言ってくれていい」
「わ、私も兄も本当はナルスィス殿下よりもヴォルビス殿下に次代の皇帝陛下に!!と、思っております。あの貴族どものように、利権を、と言う考えでは無く、純粋に殿下の人となりに惚れているのです。私どもは、コンパニュル家の嫡男と二男なのです。彼らの言う、新興貴族家の血筋です。それでも、それでも……」
「もういい。その考え、僕は嫌いだ。僕の気持ちが、僕の意向をクロに訊いているのなら、知っているのだろう?
僕は、臣民、……民が苦しむのを見たく無いんだ。もし仮にも僕が皇太子になったら、母上やその後ろ楯の者が助長する。僕が望む望まないに拘わらずだ。あいつらは利権を貪り喰うだろう。僕は、そいつらの不正を取り締まったりすることだけに政務を忙殺されることになる。結果、結局民が一番、犠牲になることになるのだ。
だから僕は皇太子になんて、なりたくないんだよ。分かるだろう?」
兄弟は黙ったまま、僕の顔を見続けている。
まあ、僕のことはこのくらいでいいだろうさ。
マリー、……ペルスネージュ公女のことだ。彼女の家出には、僕の存在も関係しているようだし、
「───ちょっと、喉が乾いた。誰か呼んで──」
「申し訳ありません。ガルデニアの気が利きませんでした。只今、ガルデニアがお茶を……」
「ガルデニア嬢、君とも話しがしたいんだ。イビス、使用人を呼んでくれないか」
イビスキュスはベルを鳴らした。
間も無く、テター家の使用人がワゴンを運んで来た。
「僕は先ず、マリー、……いや、ペルスネージュ嬢に伺いたいのだけれど、貴女の家出の原因が僕、で間違い無いんだよね?それは、婚約絡みのことだろうか」
「──そ、そおですが、そうでも無いのです。なんと言いますか、こ、言葉が分からなくて……」
「姫様、ガルデニアに発言の許可を頂きたく──」
「ゆ、許すわ。」
「では、ガルデニアが姫様に代わり、姫様のお気持ちを代弁致します。
姫様は幼少の頃、湾岸州有力者の子息達に酷い扱いを受け、お心を閉ざされた時期があります。それ以来、支配階級の殿方を苦手とされております。ですが、今日の、今の姫様を見ておりますと、どうやらガルデニアの姫様は、恋心を抱いておいでの様子です」
「なっ、な、何を───」
「ほおー、ガルデニアとゆうたか?中々、ぬしよ、見処のあるおなごよのう」
「ありがとうございますクロ様」
そうガルデニア嬢は深々と頭を下げた。
「今回、姫様の出奔には、チボールディア王国の王子の執拗に婚約を迫る。と、言うことが、発端でありましたが、追い討ちを掛けるようにグランフルーリア帝国の第一皇子の訪問があって、姫様は逃げ出した。と、姫様の協力者から訊き及んでおります」
そうか、兄上が来たことで、公国を出る切欠になったのか。
「申し訳ない。僕と僕の兄上が追い討ちを君に掛けてしまったのだね。そして、折角逃れたのに今、君の前に僕が居る。これは苦痛以外の何物でも無いですよね。
なれば、僕は陛下と兄上に婚約や求婚を迫るようなことの無いよう、手紙を出します。僕はこのまま旅を続けますので、ペルスネージュ嬢、貴女は状況が落ち着き次第、お国元にお戻りになって───」
「でっ、殿下のお話しをお止めする無礼をお許し下さい!殿下、……ヴォルビス殿下!我が姫様はヴォルビス殿下に、ヴォルビス殿下がお好きなのです!このガルデニアが見たことの無い姫様の表情が、……姫様の真っ赤なお顔が、何よりもの証拠です!どうか、殿下、我が姫様に答えて頂けないでしょうか!?」
◇◇◇
なんと言うか、あんなことがあって僕は彼女、……マリーとあまり話しが出来なくなっていたのだが、この神殿に来てやっと話しらしい話しが出来るみたいだ。
あまり、こう言うことは考えたくは無いが、彼女の侍女、ガルデニアを少女売春から助けたのが、幼い頃のペルスネージュ嬢であった。と、ガルデニア嬢は言っていた。
そして、名前を貰った。とも………。。。
いい子なのだろうな彼女、マリーは………。
兎に角、今は神殿の観光だ。とは思うのだが………。
何処かの国だったか?帝国の町であったのか、うろ覚えなのだが、何処かの港町にある人魚のお姫様像とかあるらしい。あと、尿のように水を出す噴水とか、嘔吐物の如く、口から水を吐き出す獣像とかが。
兎に角有名なので、観に行くと、非常にガッカリした気分になる観光場所があるのだそうだ。
僕は、いや、僕らは今現在、皆そんな気持ちになっている。
「なんじゃっ詰まらぬ!おい人の老いた者!ここはなんじゃ?これだけなのか?まさかそのようなことは、無いであろうな?」
ああー、怖いよ?クロ。
ほら、神官殿が震えているよ。
クロ、思いっきり覇気を出して、……そんなに惜し気も無く覇気を神官殿に向けたら、マジで死んじゃうよおー!
「ねえクロ、少し抑えてくれないか?そんなに当てたら、神官殿が───ああっ、神官倒れたぁー。って、ちょっ!マリー!どうしたの?ああ、クロに当てられたんだね?」
マリーもクロの覇気に当てられたみたいで、歩けないようだ。
仕方がないので、彼女の膝裏と脇の下に僕は腕を入れて、抱き上げた。
そうしないと、マリーは何処にも行けないようなのだ。
「フフ、妾の狙い通りであろう。のお、ガルデニアよ」
「流石ですクロ様!烏滸がましいとは重々思うのですが、その威嚇のお力。このガルデニアめにご享受願えないでしょうか?」
「ふむ。良いぞや。なればガルデニアよ、明日より特訓しようではないか!」
「殿k……ヴォル様、確か神殿の外に長椅子があったと思います。そちらで、マリー…様をお休ませるのが良いかと、愚考致します」
「ありがとうジェル。だが、『様』も禁止!僕らはあくまでも、『豊穣の魚』。パーティーのメンバーなんだから!」
取り敢えず、その椅子の所まで行こう。
全く、クロのやつ、録なことしないんだからー………。
「大丈夫?マリー。ごめんね。クロって、時々怒ると見境無くしちゃうんだよー」
「───あー、、、ありが、と。ござ、いましゅ」
真っ赤な顔で、舌っ足らずな彼女。
な、何っ、この可愛い生物は!?なんかヤバいよ?僕。
「なんじゃ?主よ。発情しおってからにい」
「ち、違っ、違うよクロ!お願いだから、止めて!揶揄うのおー」
「これは異なことを言う。妾は揶揄ってなどいないぞよ?事実しか言わぬよ?知っておろう主よ」
ああーもうっ!
ふと、何かに見られているような気がして、空を見上げると、
「カラスか?」
「ああ、あの子、ガルデニアのシュカですわ」
と、未だ真っ赤な顔のマリーが言う。
「何時もは直ぐにガルデニアの肩に留まるのに、……変ね?」
「おいクロ、一旦僕の影に入ってくれ!多分、クロを怖がっているみたいだよ?」
「仕方がないのう」
と言いつつも、クロは察しが良いのだ。結構、優しいフェンリルなのである。
「名前、シュカって、……まんま鳥じゃないか。名付けたの誰だよ?全く、何の捻りも無いし、センス悪いんじゃないの?」
「ええーっと、わたしですの、……名前、付けたのは」
真っ赤な顔が、益々真っ赤になるマリーさんでした。
「で、でもさっガルデニアって名前もマリーが考えたんでしょう?中々いい名前だと、……良い名だと思うけど、ガルデニアって、男性の名前じゃあ………」
「あの、ガルデニアは、幼い頃わたしが大好きだった絵本の主人公の名前で、………その、勇者様のお名前を頂きましたの………」
ああーっ、なんかまた変なの踏み抜いちゃったあー!もう、ダメだわあぁぁぁーーー僕ぅー!!!
などと、反省も出来ない僕のそんな思いに苛まれていた間に、そのカラス。シュカの左足に着いていたカプセルを手に取るマリーの侍女、ガルデニア。
「お心を静めて、お訊き下さい姫様。4日前、今日が8月の第三週4日ですので、今週の1日にチボールディアのカクチュスとダフネ王子が消えた。とのことです。詳しいことは追々お手紙が─────」
「!──うぅ、はあはあっ、はぁっ、はぁっ、はあはあ……」
マリーの様子がおかしい。呼吸が凄く乱れているようだった。
◇◇◇
「稀にあるのです。こう言うことが、……幼い砌の、……酷く虐められたことが原因と、侍医様は仰っております。予期出来ない事態があると、こうやって、まともに息がお出来になられなくなるのです」
あの後、クロが掛けた魔法、……眠りの魔法でマリーを眠らせ、馬車でテター家別宅に運んだ。
今は落ち着いて、休んでいる。
(クロ、本当にありがとう)
『なに、大したことでは無い』
クロには助けられたよ。よく出来たフェンリル様だ。
だが、気にはなるな。細かい経緯は、先週僕に届いた手紙で知ったのだが、……そのう、あまりにあまりな内容だったので、……そのまさか、マリーの姿絵を模写した物で、じじ、じ、自慰行為をしていたとか、そう言う内容であったが………。
これだけでも、心に傷を作るレベルであろうに、年頃の女の子に取っては。
本当に許せないな。
「権力者の子弟が嫌い」か。僕もその子弟の一人なのだったな。
僕がマリーを助けたい。なんて、迷惑になるだけだろうか?
『主よ。力になれるであろうさ。そのおなごの、な』
クロはそうは言うが、僕が……
『主よ。主の助けが、今のそのおなごの心を癒すのだ。そして、小さき頃のおなごをも助けることになるだろうよ。妾も主に助けられて、妾の今があるのじゃ。人のおなごも妾も同じよのう』
それじゃあまるで、クロは僕に懸想しているみたいじゃないのさ!笑わすなよクロ様よお。
『まあ、妾の告白でもあるがのっ!』




