第三節-01.皇子と公女の旅行になりました。先輩護衛。
◇◇◇
8月の始め、僕ら『豊穣の魚』、……パーティー名。は、聖都『イン=アンナ』に向かい護衛の旅を続行中だ。
護衛対象は、前の駅馬車と変わって、グランフルーリア帝国貴族、テター伯家のバルザミーヌ・ジャンヌ・ド・テター嬢の馬車。それと、生まれたばかりのパシフロール嬢である。
馬車は貸し馬車だ。
聖都の貸し馬車の本店に返せば良いらしい。
しっかし、可愛いな。赤ちゃん、………僕も結婚とかしたら、こんな子ども持てるのかなあ?
因みに、バルザ先輩は結婚せずに子どもを生みましたけれど………。
「かーぁいいーなぁーかーぁいいーなぁー。。。いいなあー」
ずっとこの調子なのは、マリー嬢、さん?かな。
マリーさん、仕事しようよ。
───ガタゴトガタゴト。。。
流石に街道は綺麗に整備されていて、帝都からシャテニエの公都マロンダムまでの『馬車に乗っているだけで気分悪い』になることなど無く、快適な旅路となっていた。
まあ、一泊二日の行程ではあるが……。
「ジェルぅ、この前の盗賊、36人だったっけの売り上げって結局、聖都で受け取れるんだよね?」
「ああ、そう言うことになってる」
「幾らくらいになるぅ?兄貴ぃ」
暫く、考えているジェル兄さん。
………分かんない。らしい。
「元気な男性の犯罪奴隷は、相場的には金貨1~10枚って言われています。その半分がわたし達の取り分で、聖都のそう言う売買に掛かる税金は一割五分が普通ですから、───下限が金貨18、上限180枚。間取って、金貨90枚ってところではないですか、あっ税金取られて77くらい、かしら?」
「マリーちゃん、計算早いねぇ」
マリーを誉めるイビス。そして、ドヤっているマリー。
「当然よお。わたくし、学園新三年生の首席なのですものっ!ふふん……」
「あらぁー、首席なの?こちらのヴォル君なんて、一年時から三年生までの三年間トップだったのよ!───因みに私は去年の次席卒業だけどねっ。ところでマリーちゃんって、ペルスネージュ公女様でしょう?だって、今年度の新二年生のトップって言うの公国の公女様だったでしょう?」
思わぬところで、マリーとヴォルの素性が判明したのでした。
◇◇◇
その日の宿の夕食は気不味かった。
「ぼ、僕から自己紹介。しましょうか?」
「そうですね。では殿下 」
仕切りは、一女の母バルザミーヌ先輩です。
「僕は、グランフルーリア帝国の第二皇子をやっております。ヴォルビス・ブルーエ・エデルヴァイスと言いまして 、……そのう、家出中です」
「では、自称マリー=ペルさん」
「シャテニエ公国第一公女、ペルスネージュ・マルグリット・ド・シャテニエ。14歳。同じく、家出中です」
宿の食堂の喧騒が、少し遠くに聞こえるような感じがした。
こう言う食堂特有な、「ねぇーちゃん、こっちにエール!」「あ、俺も」「腹減ったわ、なんかお薦め出してよー」。とかの声すら遠い。
あーあ。バレちゃったー。
ジェルブラとイビスキュスにもバレた。
僕はお仕舞いだあーっ!
「知ってた」
と、ジェルは言った。
「俺ら知ってていっしょのパーティ組んでたんだぜぇ」
イビスが言う。
どう言うこと、だ!?
エールを一口で一気に呑み干し、ジェルブラが言う。
「──だって、俺ら兄弟『第二騎士団、第七小隊』の所属だもん」
「第二の第七って、帝国、………じゃ無くて、皇帝直属の第七?って、陛下、……父上に筒抜け、なの?マジ、で……。僕終わったあーーーーーっ」
ああ、終わったんだ。僕の家出。
長いようで、短い希望だった。
僕さえ、僕さえ居なくなれば、ナルスィス兄上は、三ヶ月後立太子として、皇太子府を立ち上げ、本格的に皇太子として立てるのに。
そこに僕の居場所は無い。
だから、外国への逃亡だったんだ。
「へええぇー。結構、重いのね。皇子様ぁー。ああ、わたくしは、そんなに重くないわよ?」
「知ってる」
「何で殿下が知ってんの!?」
だって、有名だったんだよ?編入試験の校舎破壊。それと、王子に追っかけ回される公女って言うやつ。
あんなに派手に立ち回って、噂にすらならない訳、無いでしょ?
そんな話しを僕がソーセージをつつきながら喋ると、マリー、……ペルスネージュ嬢は、orzな感じで、床の上の人になった。
「ところで、パッシィちゃん何処ぉ?さっきから見て無いけどぉ」
「イビス君、突然だな?我が愛しのパシフロール、ほれ、ここに!いない!?」
おいっ!新お母様、なにやってんのっ。何処へ子ども置いて来たの?
ああ、おっぱい貰ってるぅっ!!!
◇◇◇
「───ったくぅ」
ため息混じりに苦言を呈する宿屋『亀と一緒の鶴屋』の女将さん。
女将さん、お乳出るの?
(だって、赤ちゃん居るようには見えない年……)
「それ以上、思ってはいけません。殿下」
急に殿下呼びとか、怖いよイビスさん。
「けじめですから」とか言うなよっ!何時もみたいに緩い感じにお喋りしてくんなきゃ、僕泣くよ?
「で、ご婦人。このような場所へご足労願ったのは、他でもない」
「ちょっとぉ兄さん、『このような場所』って、ウチの宿屋のお部屋だよ?失礼にも程があるってなもんだよー」
「言葉の綾だ。で、女将、赤子を暫く預かって欲しい」
なんだか、ジェルブラも偉そうだ。
なんだよおー、皆身分明かした途端、言葉遣い変えやがってっ!僕だって、………僕、どうしよう?
「貴卿ら、陛下配下の者に問う。我に従うなら、良し。それとも、帝国の……」
「なにカッコつけてんの?ヴェルっち」
おいっ、イビス。そのリアクションは卑怯であるぞ。
──この茄の漬物、美味しいな。
「──意外と、ごはんが進む……」
「だ、しょう。。。塩だけで漬けた物なんですよ。パスタにもパンにも、よく合って、意外と人気!
で、嬢ちゃんにお客さんよー」
赤髪の二十歳前後の女性が、部屋に入って来ていた。
「このガルデニア─────」
何故涙を浮かべているのだ?茄の漬物のお話しで、涙ぐむ女性って?
「ガルデニアは、姫様を案じ、探して、今こうして、貴女様のガルデニアとしてここに居るのです!姫様!ガルデニアの見えぬ所へは行かないで下さいませっ!ガルデニアは、ガルデニアは!姫様の居ない世界など、求めてはいませんっっっ」
これは言ってはいけなかった言葉の一つであったと、後々反省した。
だが、言ってしまった僕。
「マリーさん、意外と重いじゃん」
◇◇◇
世界は意外と平穏だ。
聖都イン=アンナのテター伯爵家のお邸に着いた我々パーティー『豊穣の魚』は、テター家別宅の迎賓を受けた。
テター伯爵夫妻がここ、聖都に向かって来ているのだそうだが………。
バルザミーヌ先輩のご両親は、バルザミーヌ先輩を愛している筈。
だって、この聖都の別宅の至るところにバルザ先輩の姿絵の絵画が飾ってあるし、彼女の幼少、……多分、聖都で暮らしていた頃の衣服が、クローゼットに残っているんだもの。
そんな彼女は、未婚の母になった。
けれども、とっても可愛いパッシィ。
パシフロール嬢は、バルザミーヌ先輩の瞳と同じ紫色だ。
僕の知る彼の令息は、非常に優しい愛妻家の方だ。と、言われている。
お仕事は、まるっきり出来ない。と言う評判ではあるのだが………。
そして、本来の彼は、結構な遊び人。
彼の瞳はヘーゼル。似なくて良かったよ。
閑話休題。
愛する娘の子ども見たさに、馬車を飛ばして聖都に来る。らしい。
問題は僕、帝国の皇子とシャテニエの公女。
僕は家出中だが、陛下、……父上は家出をわざと放置しているらしい。
と、言うことをジェルとイビスの兄弟が言った。そして、
「陛下は、殿下が国外に何れ出立することを予見されていらっしゃいました。その為、僕とお兄様が狩猟者組合に出入りするようになった殿下の動向を探りつつ、お守りすることになりました。まあ尤も、守る必要の無いお方だと思いますが、」
イビスキュスが言うには、僕自身の思いや考えていることを父上はご存じであったと言うこと。皇妃ミラベルの動向とプリムお母様を守ろうとしていた僕のことをも知っていたのだと。
「陛下はこうも仰られておいででした。『我が息子が恋敵になるのだな』と……」
そう、僕は多分、プリムお母様が好きだったのだ。と、思う。子どもの頃の淡い初恋だったのだ。と………。。。
それでもそれを陛下に知られていただなんて!恥ずかしい限りだ。
まあ、僕はいい。
問題は、ペルスネージュ。シャテニエ公国の公女のことだ。
「それより、貴女は、……ペルスネージュ嬢は如何されますか?お国元ではおそらく、失踪したと……」
「それについては問題ありません。このガルデニアが文を大公閣下に送っております」
「え?ええー!?ガルデニアぁー、なんて余計なことを!」
「ガルデニアは、閣下の命により、そうさせて頂きました。それに、姫様がおられなくなったその晩、ピエール・ピーウェルと言う石工組合の方から姫様は王子や皇子から逃れる為『家出』をしたと───」
え?僕の所為なの?僕が悪いの?
「ち、違うのよ!ヴェルさん、……殿下。そのおー元々わたし、権力者、……特に王族とか皇族って言うものが嫌いで───」
「──やっぱり、僕とかの所為なんだぁー。結構、心折れるなあ」
「い、いいえ、違っ、違わないけど、違うのっ!」
今、違わない。って?………。。。
「ところで殿下、彼女はいらっしゃるのでしょう?」
「………ああ、うん、何時でも居るよ。出ておいでよ、『クロ』」
僕の後ろ、正確には、僕の影から出た妙齢の黒髪の美女がクロだ。
って言うか、
「なんで『ノワール』形態で出るのさ!」
「主よ。この方がインパクトあるであろう?」
驚いている女の子と女性。勿論、ペルスネージュ嬢とガルデニア嬢。
普通に驚くよなあー、突然現れる美女だなんてさ。
で、何でノワールなんだよ?
「喋る獣よりも、物言う雌の方が良いであろう?」
「そそ、その女性は、い、いったい何方?殿下の好い人ですの?」
何を言っているんだマリー、……ペルスネージュ嬢は?
「ぬしよ。妾が情婦に見えるかや?妾は誇り高きものよ。あまり見くびるでないぞ?」
「誇り高きもの?」
「まあ、言葉などより、実際に目にするが良い」
ノワールは、本来の姿になった。
体長3メートルを越える彼女本来の姿は、漆黒のフェンリル。所謂、聖獣である。神獣とも呼ばれる聖なる獣であるのだ。
「大きなワンちゃん!姫様ぁガルデニア、モフモフしたいです!」
「無礼な、そこのメス!」
「いやいや、クロ。ここ部屋。部屋狭くなってる。縮まれ!小さくなってよおー!キツイキツイッ」
「フンッ!」
大型犬くらいになった。
「……………。。。」
「どうしたの?ペルスネージュ嬢。さっきから全く動かないんだけれど」
「しかし、主よ。好いたおなごに初恋のことをバラされ、嘸や肝を冷したであろう?なに、心配は要らぬよ。そのおなごも──「───キ、キャアアアァァァーーーーッキャアアァァァァァーーー!!!ダメェェェーーー!なんでも無いのおおぉぉぉーーーっ!!!」」
「フンッ。まあ良い」
と、クロは言ってまた人形に戻った。
◇◇◇
聖都イン=アンナは、『イン=アンナ教会』の総本山であり、教会の信者の聖地である。
国教、とまでは言わないが、それに近い影響力を持っている。
元々、ここ聖都は『イシュト神』の神殿があった場所で、……今も神殿はあるのだが、信仰している者が少なくなって、神殿を訪れる者の殆どは、観光客であった。
聖都にいる間、僕達はバルザミーヌ先輩の聖都の別宅に滞在している。
先輩に感謝だ。
まあ、先輩のご両親が別宅に来られた時は、大いに驚かれたのだが。
だって、帝国皇子とシャテニエの公女が別宅に居るんだもの。
因みに、マリーは、……本名より偽名で呼んで欲しいと、希望。───普段は髪の毛を染めずに過ごしている。
で、本日、皆でイシュト神殿に観光しているのだ。
「大理石、でしょうか?これ全て……」
と、輝く黄土色になっているマリーが言う。
確かに、総大理石造りの神殿だ。
維持費とか、どうしているんだろうか?
「殿下、維持費については、問題無いのでは?」
「その『殿下』呼び止めて、ジェルブラ。で、どうやって維持費捻出してるの?」
「信者からの寄付金ではないでしょうか?」
うん、ジェル兄さん、戦闘以外は意外とバカだとは、思っていたよ。信者なんて、殆どいないのに……。
「その疑問には、私がお答えしましょう」
そう言ったのは、真っ白な法衣、……キトンをゆったり着た初老の男性であった。




