第二節-04.皇子、家出しました。公都出立。
◇◇◇
「明日の朝一度狩猟者組合に行く」
「何でだよぉ兄貴ぃ」
「マリーのパーティー加入の届けを出す。俺一人で行くから、イビスはゆっくりでいい。書式は俺が預かっておくから、著名をお願いしたい」
「書くもの借りて来るぅ。待っててぇマリーちゃん」
言動が見た目と逆なんだよなあこの兄弟。得物も言動も何もかもが………。
間も無く、イビスはインク壺と羽ペンを持って来た。宿泊受付から拝借したようだ。
『マリー=ペル』
そう彼女は名前を書いた。
そう言えば、編入試験の結果って学生首席を上回ったと訊いたな。
属国、とは言え彼女にとって帝国の学問は、他国の座学だ。歴史も政治も国土のことも改めて学習したのだろうに……。
「努力家なのだな………」
「「「えっ?」」」
「ん?何!?」
「何、慈悲的なお顔で優しく囁くように『努力家なのだな』って?」
「声に出てた?あー、いや、そのぉー兄、兄の字に、そう兄の書く字に似てたなーって!僕の兄も努力家で、凄い勉強家だし……」
「何かぁ、ツッコむのも疲れたぁー」
「だな。休むか」
◇◇◇
「あ、本当に綺麗な白金色の髪ですね。いやあー、思っていた以上にお美しい。染める何て勿体無いことだと、僕は思って仕舞います。ですが、確かに目立ちますね。公女様と同じ髪色の美少女なぞ」
彼、ヴォルはわたしに探りを入れているのだろうか?
そして、わたしは感極まった……………。。。
彼の探りに対して答えが『号泣』とか……、無いわぁー。
貴女は公女ですね?~そうです。って言ったも同然な感じがするんです。
それにしても何故、彼は髪を黒く染めたのでしょうか?
気まぐれ?興味本位?それとも、わたしと同じ理由?
もし、同じ理由だったとしたら、その理由とは?
場所か、季節か、……最近変わったことと言えば、西の王子の纏わり付き。帝国の皇子の来訪。くらい。あと、ダムの集落が大きくなって町の様相に……はっ!……違うか。
グランフルーリア帝国の皇子。来たのは第一皇子お一人だと訊いている。
もう一人の皇子が、例えばお忍びで城下に来ている。とか?………意味が無いわね。そんな隠れる必要があるかしら?
無いわね。
隠れなければならない理由、事情が仮にあったとして、それは何だろう?
例えば仮に彼、ヴォルさんが二人目の皇子だったとして、この旅は彼の希望だったらしいことを兄弟と彼自身が言っているのだ。
湾岸州へ行きたいと言っていたが、物見遊山?
お忍びで?こっそり旅?にしては、あの兄弟、特に兄のジェルさんは「坊っちゃん」とか言って揶揄っていた。
彼が皇子と知って揶揄うのか、それとも貴族的なところを揶揄しているのか?
そもそも皇子一人が護衛二人だけで危険極まりないハンターとして旅を続けるだろうか?
見せて貰った組合証には、職業『魔術師』とあった。
だが彼の得物、短剣と槍それと弓矢、でも『魔術師』。
器用貧乏、そうも言っていた。
「元々、狩りが趣味」と言っていたが、ふふふふっ、そんな趣味をお持ちになられるのは、王候貴族ではなくって!?
語るに落ちる。とは、ヴォル!貴方のことよ?
って、語るに落ち込んだわたしの言うことでは無い。と、思いますわぁ。。。
夕食、食堂でのわたし、どうかしてた。。。お母様と同じ色の毛染め剤を受け取って、嬉しくて………。
帝国兄弟に王子兄弟。挙げ句ハンター兄弟。何でしょう?兄弟だらけじゃん!
兄弟。兄弟、兄弟兄弟!もう!!!わたしの計画どうなっちゃうのぉー!
技術教育大国を目指して頑張って来たのに、初っぱな頓挫!?ああー兄弟嫌いっ!
我が愛しの弟。ミオソチスは大好きよ?
ごめんね。お姉様、暫く貴方に会えないの。
何にしてもあの夕食での発言は失敗でしたわぁ!
◇◇◇
公都マロンダムから聖都イン=アンナに至る街道は、帝都から公国への道と違い確り整備されている。と、駅馬車の馭者が言う。
実際その通り馬車の揺れは少ない。時々旅人や馬車がすれ違うことからも往来が多いことが伺えた。
女神イン=アンナ。
「元々は、イシュト神信仰から派生した聖女イン=アンナ信仰とも、またイン=アンナから派生した物の一柱がイシュトルだとも言われている。
豊穣と美の女神と言われる一方で、水害と干ばつ、嫉妬の神とも言われるイン=アンナだが、東の大陸東部の砂漠に程近い大河下流の土着信仰であった可能性を指摘する学者が多い。
根拠は水害と豊穣。どちらも河川に纏わる事象であること。嫉妬、美。これは領土に関係すると………。河川の流れは大水などにより川の流れが良く変わる。川が領境、国境であった場合、それが争いの元になるのだから……」
「ヴォルさん偶に考えごとをしたまま、考えていることを駄々漏らしすることありますね。今日のは、些か長編過ぎではありませんか?
まあ、勉強になりましたが」
ううぅ、恥ずかしい……。
「何が言いたいか?と、言うと、聖都イン=アンナはでっち上げの聖地だと言うこと!」
7月第四週の4日。馬車は聖都イン=アンナに向け進んでいる。
現在僕とマリーは駅馬車に乗っている。
馬車の後ろにイビスが着いて歩き、前方はジェルが並走している。前後の警戒の為である。
で僕らは?と言うと、休憩中。
交代で警戒で並走する者と休憩を取る者に別れているのだ。
「ヴィルさんヴォルさん」
「んー?」
「聖都へ行く馬車の乗客の殆どの方の目的を知っていますか?」
「そんなの聖地巡礼に決まっていますよ?当たり前でしょうマリーさん」
「だったらこの空気、どうしてくれちゃいますのっ!」
あっ!僕の、所為?
ですよね。
「あー、さっきの一人言は、学術的検知からの極論的な学説の一つで、決して信仰を否定するものではありません。その証拠に僕は敬虔な女神の信徒です。証拠の根拠は、僕が帝都市民であることです。ほら、皇帝の戴冠の儀は必ず教皇猊下が行うでしょう?
ええと、あれぇ?証拠の根拠を証明出来ていない………。皆様、ごめんなさい!」
気不味くなって僕は馬車から飛び降りた。
馬車の中から失笑と言うより、普通に爆笑している声がたくさん聞こえた。
そのままイビスと休憩を代わった。
夏の森が青々と木葉が生い茂り、向こう側が伺い知れぬ程だ。
街道と並走する川は湾岸州へと流れを変える筈だが、今は僕達といっしょに流れている。
ん?────船っ!?
ああー!なんてこったぁー!
僕は視野狭窄だ!ハンター稼業に拘るあまり、護衛することにばかりに頭を持って行かれ、交通の手段が陸路以外があることを失念していたあー!
何故、湾岸州への駅馬車の本数が少ないのか?そこを考えていなかった。
聖地巡礼よりも経済でしょう!聖都への人、物の流れより、湾岸州との人と物の流れは数倍、十数倍多い筈なのに駅馬車は少ない。
当然だ!河川の水上交通が主流だからだっ!!!
失敗しましたっ!
後悔後にタッタカ、ター♪です。
長閑ですね。気持ちがいいですね深緑の季節って暑いです。日射しが………。
聖都まで5日の行程です。
予定より若干早くに昼休憩地点に着きました。
街道といっしょだった川はとうの昔に湾岸州のある南東へと向きを変えていました。我々の行く街道は、南西方向に向かっています。
「お坊っちゃん、さっきの一人言は中々興味深かったよ。あのイン=アンナ信仰の話し。あ、失礼。私は香辛料を主に扱ってる行商人さ。
で、イン=アンナ信仰がイシュト神の派生って話しの根拠って、大陸の南東部にあったイシュタルって大昔にあったと言われる都なんだろう?」
「それ、わたし詳しい!」
いきなり話しに割り込むだなんて、淑女としてはどうなの?マリーさんや!
「ウス川って今は呼ばれている大河の川底から古代文字の書いてある石板が150年も前に見つかって、そこに書かれていたのが───」
「イシュタイト王国もしくはイシュタイト民族、だね」
「今言おうとしてたのにぃ!ヴォルさんは紳士ではないですわっ!」
「マリーさんが横から話しに割り込んだんだろう!?」
「で、イン=アンナですけれど──」
「イ・ナンナと言う女性だと言われていますね。こちらの亜大陸の預言者、聖女と言われていた方ですね」
「知っていますぅー。で、その学説についての見解は?」
「イン=アンナまたは、イ・ナンナと言う女性は亜大陸で預言者、聖女として彼女の死後も慕う民が多かった。その頃大陸もこっちの亜大陸でもイシュト神信仰が主流と言うか一般的に信仰されていたんですが、新しい信仰としてイン=アンナが台頭してきていたんです。二つの信仰があちこちで争いの種になっていて当時の王様、……今の帝国の前です。が、無理矢理二つの神を結び着けて今のイン=アンナになった。
と、まあ皇帝陛下や皇族に対する不敬とも問われかねないお話しです。でも然もありなん。と僕は思うんです」
「面白いですねぇ。何故、然もありなん、なのです?」
「権力者って言う物は事実をちょっと曲げて自分のいいように歴史を解釈させます。同じ事柄をこっちの国とあっちの国とでは違っていることが往々にしてあるでしょう?そう言うことですよ。
それともう一つ。多分なのですが、亜大陸の元々の住人は、西部や北部の人々ではないかと……。行商人さんもそうですが、赤銅色の髪色の民族が多い亜大陸に、黒髪から金髪までの多様な民族が東から来た。と言う学者もいます。現在、亜大陸の西側にはそう言う人々が多いでしょう?で、その移民の異民族の中に聖女イン=アンナがいらっしゃったと」
「ねえ、そのはお話し面白い!お仕事じゃない時にでも教えてヴィルさん」
「いやぁー、勉強になりました。差し支えなければ、それらの書かれた本とか教えて下さいませんか?」
「───あー、僕の言ったことって、僕のおじいさm……んの言ってた話しで、実は著作物や学説ですら無いらしいんです。だから───」
徐々に西の空に日が傾く頃、一日目の町に到着した。
乗客は各々で宿を取り、僕らも同じように宿を取るつもりであったのだが。
「二人部屋が四部屋残っているのに一人部屋が空いて無い!?」
「じゃあ、二人部屋3つで………」
「ダメですダメです。銀貨四枚のところが銀貨六枚になるなんて理不尽ですし、大体四人で一日の収入いくらだと……銀貨三枚と大銅貨三枚ですよね。普通に泊まって赤字、わたしに配慮して大赤字!どちらをお望みですか?ジェルさんはっ!」
「じゃあ二人部屋二部屋でお願いします」
「宿帳にお名前を…」
───サラサラサラ……『ペルスネーj』
「マリーちゃん、マリーちゃんよぉー、名前違くね?」
「───あっ!訂正印訂正印」
「お客さん、二重線で取り消し線です。」
「こおですか?」
「そおですよ」
取り敢えず二部屋借りて、一つの部屋に四人で集まった。
誰がマリーと同じ部屋を使うか会議ですよ。
「じゃー、俺がマリーちゃんと寝るよぉー」
「わたし、イビスさんとだけは嫌です。」
「だったら、リーダーなのだから、ジェルが同室になればいいと思います」
「いや、俺はイビスキュスより野獣らしいぞ」
「ちょっ、待って待ってぇ!兄貴がマリーの部屋行ったらぁ俺は誰と寝るのぉ?」
「僕でしょ」「ヴォルでしょ」「ヴォルさんです」
「───やだ、兄貴といっしょじゃなきゃ、やだぁー!絶対!」
なんなのでしょうねぇ。
夕食後、暫く話し合いをした。
明日以降の宿も同等のお値段であった場合どうするか、と言う現実問題。
「実入りが無い、どころか目減りですよ?リーダーのお考えを!」
「幸い今は、夏!」
「つまり野宿ですの?」
会議は閉会した。
一応僕、皇子なんだけどなあー。。。
(一応わたし公女なんだけどなあー)
とか思ってそうマリー。
値段通り、とは言いたくは無いが、大浴場のある宿屋であるのだ。
と言う訳で、僕らも三人揃って浴室に入った。
『刺青さんお断り』
脱衣場にそんな看板が掛けてある。
「あれ?ジェル、入らないの?」
「ああ、俺は刺青さんなんだ。残念だが、」
「大丈夫ですよ。僕のお尻見て下さい」
「みっ!右のお尻さんに狼のシルエット………の刺青さん!」
「いいえ、痣です」
「そうなのか?」
「そうですが、何か問題でも?」
僕はこうやって、大衆浴場に入ったことがある。実績があるのです。
そう!堂々としていればいいのです。絶対コソコソせずに!
「じゃ、じゃあ俺も脱ごう」
何でしょうか?
『B-007321-01ΣλΔΩ』
なんなのでしょうか?
「ジェル、背中の文字と数字は何?」
「痣だ」
「あ、いやー数字?」
「痣だ」
「……。」
「痣だ」
「はい、痣です」
僕は肯定しました。それは痣です。
湯船に入っていると、
「金髪にーさん、その背中の刺ず…」
「痣だ」
身体を洗っていると、
「お兄さん、その背中の…」
「痣が何か?」
入浴後、脱衣場にて、
「おい!オメーの背中の…」
「痣だ」
痣で通しましたね。




