第二節-03.皇子、家出しました。毛染め。
訂正。✕「来年14です」→○「来年15です」
◇◇◇
シャテニエ公国公都マロンダムに到着した7月第四週3日の夕方、僕達は、路地裏で拾ったマリー=ペルと宿の食堂で夕食を頂いている。
「僕は帝国国外へ行ってみたいんですが、マリーはどうします?」
「そのぉ、知人に裏切られたこともそうなのですが、元々自称高貴な身分の方に狙われていたので、わたしもヴォルさん達と行きたいと考えています」
「明日、組合で、湾岸州方面行きの護衛依頼を受けよう。出来れば今夜はゆっくり休みたい」
「野郎三人ととか嫌んなっちまうぜぇー。マリーって年幾つだぁ?」
「来年15です」
「ガキかよぉー」
「子どもですが何か?」
「あぁー、深い意味は無ぇーんだ、深い意味は……」
「弟は、寂しいって言ってるだけだ。気にするなマリー」
彼女、あまりスレていなさそうだから、僕ツッコまないでいよう。
マリーに拘わる襲撃も心配だが、僕の方もややこしくなって来たっぽいし早めに公都を離れるべきだ。まさか、兄上がここに来ているとは………。
残りのパンを口に放り込み麦酒で流し込んだ。
意外!黒パンと麦酒合うな!硬いだけのパンだと思っていたが、甘く感じるとは、
「日々いろんな発見があるものだな。勉強になるなあ」
「何の話しだぁヴォルぅー」
「え?声に出てた?───いやぁ、麦酒と─────」
夜間襲撃も無く、安眠出来たかも知れなかったが、事態に備えていたこともあって、眠りが浅かった。
それは僕以外もそうであった様子なのだが、何故かイビスキュスだけは快眠であったようだ。解せぬ。。。
早めに朝食を取り今朝は狩猟者組合に急ぐ予定である。
「っにしても派手な金髪だな。俺ら兄弟も金髪ではあるが、そんなに目立って無いだろう?」
「あー、これ、染めたんです」
「実は、言おうか言うまいか迷っていたのですが、その染め粉、安物なのでしょうか?服の襟が汚れています。もし良かったら僕、買い物ついでにもうちょっと良い染め粉購入して来ますけど」
「兎に角、依頼板覗いてそれからだ買い物」
「マリーは部屋にいた方がいいぜぇー。日の光の下じゃあ派手派手で目立って仕様がねぇ。ヴォルが染め粉買って来んまで、頭でも洗って待ってなぁー」
「兎に角、朝食食べたら組合行くぞ」
マリーを宿に残し三人で組合に向かった。
南部湾岸州への駅馬車は週に一本、毎週末の6日の早朝出発の確認は出来た。
「毎日出るんじゃ無ぇーんだぁ」
「ならこれはどうだ」
毎日一本ある駅馬車、行き先は『聖都イン=アンナ』。行程5~6日。護衛人員四名。一日毎に大銅貨四枚と銅貨五枚。
「若干安いが、聖都経由で湾岸州目指すのもいいかもな」
「だなぁー!あの嬢ちゃんは元より、ヴォルも焦ってんしぃ」
見透かされている!?背中を冷たい汗が流れた。──ん?公国の兵では無い。帝国の近衛か。
やはり来ているのか兄上!
僕か兄上かどちらかとの婚約だもの。しかも、転入試験で学園破壊した魔術師。園遊会からチポールディア王国の王子に追い回された公女様。名は確か、……そう『ペルスネージュ・マルガリータ・ド・シャテニエ』と言ったな。
んん!?ペルス……・マルガリ…………。ペル、マリー!そうか『マリー・ペル』。自称高貴な、王子かっ!……マリーが公女であることは、間違いない。証拠は──髪か。訊くところによると「雪のようだが煌めく金髪のようでもある」と言うことだったな。
兎に角、だ。
「すまない。用事を思い出した。先に戻るけれどもいいかな?」
ジェルの耳元で小声で囁いた。
そのまま近衛をやり過ごそうとしたのだが、
「おい、そこのおまえ」
「僕?」
「おまえ何処かで俺と会ったことはないか?」
「ええ!騎士様の知り合いだなんて、あるわきゃねーでしょ?こっちが願い下げだぜぃ」
「───そうか、悪かったな。行っていいぞ、……んー何処かで…………」
そりゃ会っているでしょうポールよ。君の敬愛して止まない皇子ですよ僕。
はああああー、ヤバかったあああーー。バレるかと思ったよおおおー!兎に角市場に急ごう。
街の中心付近に噴水のある広場があって、その広場の東側に狩猟者組合の建物がある。市場は狩猟者組合の反対側、西に延びる大通りに沿って西門まであるようだ。
比較的に近いと思っていた僕の甘さが憎たらしい。
「申し訳ないのだけれど、髪の毛の染め粉が売っているお店知りませんか?」
こう言う品物は女性が良く知っているだろうと考え道行く方に訊いて回る腹積もりであったが、あっさりと店の場所が分かった。
歩くこと20分。目的の店『カツラ屋女の命』に着いた。
『グィック各種、髪色百色以上!』
『カツラ、レンタル出来ます』
『頭髪求む~黒、茶、赤、金髪、その他』
と、色とりどりの文字で書かれたチラシが店の外壁に貼り出されている。
「いらしゃ~い!あらぁ、いい男……でもまだ少年ねぇ」
僕は、何か変な嫌悪感に包まれた。。
彼……は、彼?なのであろう。彼はオールバックにした長い黒髪を後ろに一本にピンクのリボンで結わえ纏めてある。
瞳はヘーゼル色。口髭も品良く整えられ薄い唇は微笑むように口角が本の少し上がっていた。で、真っ赤な口紅。。。
「本日は当店にどのようなご用向きでしょうか?出来る限りのお仕事をさせて頂きます」
随分、丁寧な接客なんだろう。
あ、メモ!マリーにメモを渡されていたのだった。
えー、とぉ、
「毛染めの物で、お湯で洗い流せる物はありますか?」
「置いてございます。お色は如何されます?その亜麻の髪ですと───こちらのお色がよろしいかと…」
「いえ、僕では無く知人に頼まれて購入しに来たのですが」
何?一瞬悲し毛な表情が見えた気が………。
「…左様でございましたか、そのお連れ様のお髪の色は」
「銀……と言うか白金色です」
「まあお珍しい!まるで公女ペルスネージュ様の髪色ですのねぇ!」
す、鋭い!ってか、ある意味僕の想像する彼女の髪って、『白金色』だったのかもな。
にしても、こう髪の毛っぽい物が、壁一面に掛けられているこの情景って、何か怖いな。グラデーションになっているしぃー。
「完全な茶色にはならないとは思いますが、ブラウンブロンド、っと言った色合いになるかと、それで宜しければこちらの商品がお薦めです」
と彼、……だよな。の持ち出したビンには『レオノール・ロラ様ご愛用』の金文字。
「誰?」
「え?」
「あ、いやっ、そのぉ、ビンのラベルに書いてあるその方は何方なのかなあ?と、思いまして」
「これは、ペルスネージュ様のお母君です。もうお亡くなりあそばせて8年近いのです。お美しい公妃様でした………」
形の良い眉が下がった。そう、ペルスネージュ公女の母上は幼少の頃、お亡くなりになっているのか。
婚約するかもしれない人のことを僕は何一つ知らないのだな。
いや、尤も僕は帝国から消えるつもりで今ここにあるのだった。
「それと髪に使う髪油?と言う物はありますか?」
「ではこのジャスミンの香油をお薦め致します。彼のレオノール様ご愛用の品でございました物に近しい品物でございます」
「では、それも頂きます。それとは別に──────」
大通りを歩く僕は、朝より幾分姿勢良く堂々と歩いている自覚がある。そして、上機嫌であることも知っている。
「クロぉ、おまえとお揃いだぜ?嬉しくないか?僕、スッコク嬉しいし楽しいっ!」
嬉しいと一人言も音量が大きくなるものだな!自分のウキウキした気持ちを他者と共有したいと言う欲求なのかしら?
これ、僕的に客観的に見て、
「恥ずかしいよぉ?何一人言いってんのさぁ。っつか、ヴォル?だよねぇー?おまえ」
「お、おおっ!イビス、奇遇だね」
「奇遇も何もぉ、ここ宿の前だぜぇ?で、おまえその髪どぉーした?」
「に、似合うかな?黒髪」
「似合ってるがぁ、そうじゃなくて、何で髪色変えたのぉ?」
「き、気分転換?………っ的な?」
「なんで疑問軽なのさぁ」
ジェルにも驚かれた。
まあ、取り敢えず僕はマリーの部屋の戸をノックした。こう言う安宿にはノッカーなどは無い。
「ちょっと待って!……ええとね、わたしの髪色、……気持ちがいいものでは無いので、先に謝っておくわ。ヴォルさん入って大丈夫です」
驚いた。そこにいたのは、天使ではないだろうか?いいや、妖精だろうか。
(主様よ、そこな人は紛う事なき人種ぞ?)
「知っているよ。クロ」
あ!一人言っぽくなっちゃった。
「気分悪いの?ぼそぼそ何か言ってらしたようだけれど、……と言いますか、何ですのその黒髪!…ですが、とても綺麗に思います」
「何を言う。綺麗なのは君のその髪だろう。とても美しい。冬の朝の雪のようだよ」
(何、口説いておる。発情期か主様よ)
「!チゲーよ」
まあ、強ち違わなくもない、……か。。。
「美しいだなんて……お城、お城、ウチの者にしか言われたこと無いですのに。はっ、(言葉遣いが、元に戻っていた。マズい……)」
「あ、いやぁ本当に綺麗な白金色の髪ですね。いやあ思っていた以上にお美しい。染める何て勿体無いことだと、僕は思って仕舞います。ですが、確かに目立ちますね。公女様と同じ髪色の美少女なぞ」
「そ、そっ、そんな畏れ多いことを……。ですが、目立つのは本当なので」
「ああ、そうそう。貴女に言付かった品物、購入出来ましたよ。どうも皇家、……失礼、公家御用達のお店であったのです。どうぞ品物とお釣です」
「ありがとうございま……!これって!?お、おお、ウゥ」
「どうした!何か僕、した?ねえ、大丈夫?ねえってぇ!」
突然マリーはボロボロと大粒の涙を流し初め、床に座り込んで仕舞った。
顔を伏せるマリーの嗚咽は暫く続いた。
「すいません。大丈夫です。何でもありません。ご心配をお掛けしました。それと、ありがとう。お買い物をしてくださって。大丈夫ですので、その、一人で大丈夫です。ええー、と」
「これは失礼しました。レディ……女性の部屋に僕のような男性が居たら外聞悪いでしたね。では失礼」
はああああー、驚いた!何て綺麗な髪色だ。噂なんてあてにならないよ!しかしながらやり過ぎた。公女本人か確かめるのに、流石に泣かして仕舞うのは、皇族の男としても人としてもダメは部類に入るだろうな。
しかし、本当に驚いた。何だか、皇子のまま公女を娶ってもいいのでは?いやいや、ダメでしょ僕!僕はナルスィスを皇帝にする為に今ここに来たのだ!流されるな!情に、一時の情に流されるな絆されるなヴォルビス皇子!
だが、彼女こそペルスネージュ公女と言うのは確実だな。そうなると、ナルスィスと近衛の動向が気になって来る。
公女本人の不在が知れるとどう言う行動に走るか………。
属国、とは言え自治のある独立国。そうそう派手には動け無いであろうが、密偵の類いは放っている。そう考えて行動しよう。
宿一階の食堂にマリーが下りて来たのは、ジェルがワインで気持ち良くなった頃だった。
まだ少し目の周りが腫れぼったい。
多分一生懸命に腫れを治していたのだろうと想像に容易い。
「遅かったじゃん。おっ!キレイじゃんその髪色ぉ濃いぃ金髪みてぇー」
「だな。俺らとキョーダイだ!」
「僕、マリーの食事頼んで来るよ。待ってって」
夕食を残さず食べたマリー。
悲しみに浸っているのでは?などと失礼に思っていた自分を殴りたくなった。
ジェルに「坊っちゃんのお買い物は何だった?」と訊かれ、
「手持ちの物が歪んで、標準が合わせづらくなったので弓と矢を買ったんだ。元々、狩りが趣味で……」
と答えると、マリーが勢い食い付いた。
「狩り。亡くなったおかあ……母も狩りが大好きだったと、つい最近訊きまして、シーズン前に必ず行っていたのだそうです。帝国の家で母の絵を見て、わたしの知ってる母の髪色がわたしの地毛と良く似ていて、今日染めた色がわたしの知っている母の髪色だったのでちょっと感動しましたが、やはり地毛の髪色で虐められていた母は、やはりわたしの母だったんだ。とも思い、思わず泣いちゃいましたが───」
「長いぃマリーちゃん」
「ふむ、要領を得ぬ。それに突っ込み所満載だ。先ず、『帝国の家』マリーは公国の出身であろう」
「ああ、それはウチの別宅と言う意味ですよ」
「その『母の絵』とは姿絵であろう?」
「勿論よそんなの」
「『シーズン』とは、狩猟に季節は無いが?」
「あ、ええ、あ、秋、秋のことよ!秋の!」
ホロ酔いのジェルは、素面のジェルが探りを入れるような喋り方では無く、核心を抉るような。そんな口調であった。怖いっジェル!
「まるでぇ、王候貴族じゃーん?マリーちゃんって公女?」
ストレート過ぎっ!イビスキュス怖いよぉ、超怖過ぎ。何なの、この兄弟!
「そう言えば坊っちゃん」
「坊っちゃん止めて!」
「ヴォル、何で黒に染めたの?前の方が坊っちゃんっぽかって、俺好きだったなー」
え?ええっ!衝撃の告白!!!
「あ、そう言うの結構です。僕、男性より女性が好きなので」
次話をお昼頃にアップ予定。




