聖都への旅になりました。
◇◇◇
───ガタゴトガタゴト。。。
シャテニエ公国公都マロンダムより南方への旅。整備された街道を駅馬車が行く。
季節はもう本格的な夏。本日、7月の第四週の5日、月の下旬。
「はあぁ~、早まったかなぁー」
僕は一つ後悔している。残り一年の学園生活を投げ出したことだ。
グランフルーリア帝国の帝都フルール・ド・サントル。まあ長い都の名前なので皆、『サントル』とだけ呼んでいる。その高等学園を後一年で卒業と言う今、僕ヴォルビスは学園在籍のまま失踪した。と言うことになているのです。
「何早まったって?ヴォルの坊っちゃん。やはり、この護衛の仕事か?」
「あー、違うんだ。この仕事自体は願ったり叶ったりな依頼だと思う。だって、目的地に近付いているだろ?それと『坊っちゃん』言うなよジェル」
「おまえ、お貴族様の小倅だろう?多分」
この細マッチョなお兄さんは『ジェルブラ』と言う。
そして、今馬車に並走しているイビス、『イビスキュス』の実兄だ。
彼らとはかれこれ三年以上の付き合いだ。帝都セントルの狩猟組合で知り合った兄弟の狩猟者だ。
時々いっしょの依頼を受けることがあって、今回の旅の一ヶ月程前にパーティーを組んだ。
このパーティーにはもう一人、シャテニエ公国の公都マロンダムの繁華街の路地裏で拾った少女、『マリー』がいる。
このマリーはなかなかの曲者、……まあ、そんな話しも何れ語ることもあるだろう。
その彼女も今、馬車と並走している。
並走、とは言っても馬車の速度はちょっと早歩き程度なので、そんなに疲れることはない。護衛の仕事なので街道の先や周りに気を配る必要があるし、そもそもが乗客ではないので、基本的には馬車には乗らず歩いて護衛しているのだ。
とは言え、一日中歩きっぱなしと言うのも大変なので、交代で馬車に座って休憩を取っている。そうでないといざって時、役立たずの護衛になってしまう。
と言う訳で現在、僕ヴォルとジェルが現在休憩中。
「で、何が早まったって言うのだ?」
「あ?ぅんー、と。ジェルも知っている通り、僕、高等学園に通っているんだよね。いたんだよ?いるんだよ」
「ああ、だから安息日とか午後とかしか組合に来ねぇーのか」
「って僕、そのこと前言ったよね?」
ジェルブラは僕をこんな感じに揶揄うことがある。
揶揄わているのが分かるのだけれど、結構、かなりの線で僕の事情の核心に迫っていることがある。そう感じる。
「そうだったか?」
「うん、言った。で、『早まった』って思うのは秋からの四年生に進級だったってこと」
「あー、成績トップ争いしてて首席卒業を狙ってる。って話しか?」
「──なんだよぉ、覚えてんじゃん!そう、だからねー……」
───ガタタタンガガン。
「おい!揺れスゲェ。どうしたあ!?」
いきなり馬車の揺れが酷くなった。
この聖都へと続く街道は巡礼路でもあり、街道の甃は常に整備されている筈であるのだ。
「兄貴ぃ!こっから向こうの道、壊されてんぜぇー!」
おそらくそう言うことだろう。
「馭者のおっさん馬車停止っ!!盗賊の待ち伏せあるかも知れん。ヴォル出るぞお!!!」
僕は馬車の乗客に「絶対馬車から降りないように」と言い放ち、ジェルブラの後に続いて外へ出た。
「ヴォルは前を警戒!イビス、オメェは後方注意!」
二十歳になったジェルブラが僕らのパーティーの歳年長者で、一応リーダーだ。指示を出すのは何時も彼、結構的確な指示を出せるので、信頼されるリーダーである。
とは言っても彼ら兄弟と組合の依頼を熟すのは両手の指程しかないのだけれどもね。しかも今回四人になったパーティーは組んでまだ二日目だったりする。
「右前方、矢が!全ての活動の停止、大気よ固まれ!」
右前方からの矢の雨(って程の数ではないが)はマリーの放った魔法、『土』魔法で放たれた矢の大半を地面に落とした。
「前方、20人くらい」
「右も20人程です。ジェルさん!」
──ウオオオオオォォォッー!
盗賊達が雄叫びを挙げている。
「ヴォル、まとめてヤれっ!マリー行けっ!」
「任せてぇー。おし、《水》っ」
───ザバァァァーーン!うわあああぁぁぁーっ!!!
「我願う、大気よ停止せよ!」
「分子運動停止。水、完全停止!」
僕が中空から出した大量の水は盗賊全員に降り掛かり、マリーと僕の分子運動停止で盗賊団は固まった。
「おいおい、殺すなよぉ!全員殺した?ヴォル、マリーちゃん?」
多分だけど、凍っただけ。と言うかジェルとイビスキュスの兄弟は馬車の後ろに回り込んだ賊、10数名を滅多切りしていたような気がする。
「ひいふぅみぃ………死んでんじゃん。11人か」
僕とマリーの氷結魔法で亡くなった。……亡くなった7人と合わせ18人殺した模様。
因みに魔法の属性は、『風』と『水』、『土』そして『火』の四種である。と、考えられている。
だが実際には、物質の状態の変化をその四属性に例えられているだけで、『風』とは気体、『水』は液体、『土』は固体の状態を表す物でしかない。
『火』属性を使える者、……分子を活性化出来る魔法を使いこなせる。と言うこと、なのだ。
それを知る者は僕以外には、おそらく、いない。直接教えたマリーと僕以外。
「こう言うのって、マリー初めて?」
「──はい。わたくし、人の命を奪ったのですね。───ですが、思っていた程、罪悪感とかはありません。現実味がないのかしら?実感出来ないです。魔法だから、……なのでしょうか?これがもし実剣やナイフであったのなら、きっと『殺人』の実感が持てたのでしょうね」
亡くなった盗賊は街道脇に埋めた。
残った36人の盗賊も地面に埋めた。だって拘束する為の縄がないんだもの!首は地面から出しておきました。息が出来なかったら死んじゃうものね。
二頭立ての馬車の一頭の馬に鐙、鞍を着けジェルブラは馬を走らせ行ってしまった。
本日の宿泊地であった町まで馬車で半日の所で盗賊の襲撃があったのだ。盗賊だってそんなにバカじゃない。町から遠い所で襲うのは常套であろう。
そんな訳で、ジェルブラは町の衛士隊に応援を求めに行ったのだ。
こう言う場合、護送馬車と衛士若しくは警吏隊の派遣は要請するならば対応してくれるものなのだ。
馬車を一頭で動かす訳にもいかないので、その場で野営をすることとなった。
馬車の乗客九名の一部の方が、野営することに不満を漏らしていたが、仕様がない。
この街道の左側はそんなに大きくもないが川が流れている。右手側は襲う為、盗賊が潜んでいた森であった。
ヴォルと乗客の男性で薪集めや水汲みをした。
その後、彼らは森に入って食糧を探した。
イビスキュスは器用な質なようで、釣竿を作っている。
「わたくし、野営とかと言うの。そう言う経験がありませんの。何を行えば宜しいのでしょう?」
「じゃあ~……」
マリーにはイビスのお手伝いを頼んだ。
弓は僕の持っている物一つだけであったし、マリーを森に付き添って貰ってもやることはないし、寧ろ邪魔にしかならない。
日が西に傾き、そろそろ空の色が青から段々と赤みを帯びて来そうな頃、僕は二羽の兎と茶色羽の山鳥を二羽ぶら下げて野営地である河川敷へと戻って来た。
イビスは釣竿を三本作ったようだ。自分と乗客の男性二人に一本づつ。マリーはイビスの釣竿を見よう見真似でなんとか一本こさえ、釣りをしていた。
(ビギナーズラック。って、本当にあるんだな。)
マリーは川魚を12匹も釣っていた。マリー以外の男衆は計8匹とか……。乗客馭者と護衛の14人分の夕食には十分な食糧になっている。
(僕の兎と鳥って、いる?)
乗客の中に香辛料の行商人がいる。
「胡椒とセージ。それに持ち歩いている岩塩もあります。多分ですが、おそらく必要ですよね?ですが、私、商売人です。お一人様銅貨三枚での提供とさせて頂きます」
そんな訳で、魚は腸を取り川で洗って塩とセージを塗り込め木串を通して遠火でゆっくりと焼いた。
兎と山鳥の肉は金網か鉄板でもあれば良かったのだが、畜生無い。
僕らのパーティーの持っているフライパンで焼くことにした。勿論、塩胡椒で!
釣りをしていた乗客の奥様は野草に詳しいらしく、結構な量の野草やキノコを採って来ていた。
奥様は、処理した兎の臓物と野草を煮込んでスープを作ってくれた。
スープが出来上がる頃、本日宿泊する予定の町まで行っていたジェルブラが戻って来た。
ジェルを先頭に10騎ばかりの町の衛士が来たのだ。
護送用の馬車の準備と人員の調整で、捕らえた盗賊を護送するのは早くても明日の朝になると言うことだ。
「取り敢えず、夕食にしましょう」
と、マリーが言ったところで大問題が発覚した。スープ皿が無いのだ。
僕らハンターは、鋼のスープ皿とコップを一つづつ持ち歩いている。それでも器は八つ。
馭者さんは自分用のコップを持っていた。他の乗客はマイコップ持参している……訳もなく、折角来てくれた衛士さん達の皿も無く。仕方がないのでスープは交代で食そう。と言うことになった。
元々衛士の皆さんも野営するつもりでいらっしゃっていたので、取り敢えずの食糧は持って来ていた。干し肉と日保ちする焼き固めた黒パンのみ。
そこで、焼肉を衛士さんに提供する変わりにパンを少々分けて貰う。パンとスープに焼肉、焼き魚の少し豪華な夕餉となりました。
僕らも乗客もパンなど持参してなどいなかったので、実は助かったのでした。
その後、四本ある釣竿を見て、衛士さんの何人かが釣竿を作り、川釣りを始めました。衛士達は並んで釣りを始めたのでした。
盗賊36名は土から出し、荒縄で拘束し直しています。
「釣れた魚の味付けが問題だ!」と言う衛士隊の隊長に乗客の行商人さんは、「岩塩、香辛料の使用料。銅貨三枚です」とちゃっかり商売しておりました。
「お身体、大丈夫ですか?」
この聖都へ向かう駅馬車には時々身重な方が乗ることがあるのです。美の女神であり、繁栄と豊穣の神であるイン=アンナは同時に子孫繁栄と安産の神でもあるのです。
だから、定期運行の駅馬車に妊婦さんが乗客としていても何ら不思議なことは無い。無いのですが、「貴女、臨月なの?」と言う会話を聞くことがあって、僕は少し気にはなっていました。
で、僕に話し掛けて来た若い妊婦さん。
(概視感がハンパない!誰だろう?知っている人?)
「……貴方、生徒会にいたでしょ?」
「──あーっ!やっぱりバルザ、……テター伯家のバルザ先輩!?」
「去年卒業したばっかりだから覚えていたわよねヴォルビス君。……あー、学園じゃないから殿下ってお呼びs──」
僕は口に人差し指を当てて、言う。
「しぃーー、しぃぃぃーっ、それ、しぃー!です。ないしょなんですよ先輩」
彼女は昨年度の生徒会副会長のバルザミーヌ嬢。テター伯爵家がの二女で、昨年度次席卒業の才女だった方です。
ですが、婚姻された。──などと言う話しは訊いたこともありません。
「ええ勿論、結婚していないわ。さる公爵の嫡男様と道成らぬ恋の結果ですのよ!このお腹──」
「(って、帝国に公爵って四人しかいないんですけど!嫡男って言うのであれば三人。内二人は幼児です。該当する方はお一人なんですけどおっ!確か……)───彼、愛妻家。ですよね?」
「そう言うことになっているわ」
なんと言うことでしょう。将来の宰相閣下は、女好きなのですか?
「ええ、そうでした。泣いた女の子は片手の指では納まらない。と言うお噂よ?驚いた?ヴォルビ……殿k…何とお呼びしたら宜しいのかしら?」
「あ、ヴォルで。───で、産むんですよね」
「そうよ。って、言うか、もう臨月なの。十日も経たずに生まれるわ。
あ、そうだ!ヴォル君、司祭の資格持っていたわよね?名前……この子に名前を付けて欲しいの」
「聖都に着くまでに生まれたら名付けも吝かではありませんよ。まあ、後三日で到着しますが」
何故臨月の今になって聖都へ行くのか?
「親に勘当されたのよ!」
と、言うことでした。
何でも勘当されたけど籍は抜かれず、今も伯爵令嬢のままだそうで、聖都にある別邸で暮らすと言う。
神の御許でご自分の不道徳を悔い、清らかに過ごすように。と言う親の方針だと言う。
翌朝遅く護送馬車二台が野営地に到着した。
護送馬車は四頭立ての馬車ではあったが、鉄の檻の馬車である。重いのだ。
歩く速度程のゆっくりした移動で、結局町に着いたのは夕方前。駅馬車は丸々一日遅れとなった。
その日の夜半過ぎ、バルザ先輩に陣痛が来て仕舞いました。
翌日も護衛のお仕事があるのですが、バルザ先輩は知り合い、と言うより生徒会の役員同士で、知人よりもう少し親しい間柄とも言えると言う関係性もあり、やはり心配。
ですが、翌朝日の出前に子どもは生まれました。
「え?これでも安産だったのですか」
助産婦のおばあさんの言うには、そう言うことらしい。
兎に角、護衛の仕事中に生まれたのだから、名前を………、
「バルザ先輩。僕、名前考えてみました。『ペルスネージュ』ってどぉーです?可愛いでしょう!きっと才女になりますよ」
何故かマリーが、「なっ!?」と、言いつつ瞠目し驚いている。
何ビックリしてんの?変な子。
「今、夏だけれど、何となく『雪』って感じがしたんだこの子見てたら。とは思いましたが、もう少し考えてみます。あー、ミドルネームは先輩が付けて上げて!」
僕がバルザ先輩に構っている午前中、ジェルブラ、イビスキュスの兄弟は衛士隊の屯所と狩猟者組合で盗賊の引渡しと犯罪奴隷で売られた時の金銭の受領に関する手続きをして頂いた。
裁判と奴隷の売買に係る日数は6~15日程度なのだと言う。なので、聖都イン=アンナの組合へ手形を送付して頂くことにしたようだ。
そんな僕ら狩猟者パーティー『豊穣の魚』の冒険譚の序章です。
と、言うよか………。。。
◇◇◇
ところで、あの坊っちゃんヴォルビスさん。それとバルザ様、……さんと仰る方にわたくし、マリーの正体バレたかもしれません。
セントル高等学園の園遊会にもちょこっと参加したしね。
彼ヴォルは結構博識ですし、帝都の学園に在籍していらっしゃったようですから、少なくとも貴族、若しくは有名な商会の御曹子の可能性も否めません。
且つ、二人の皇子と同学年でいらっしゃったのでしょうから、わたくしの特徴だけで正体を知られてしまう可能性があります。ありました。
マズいです。
そう言えばあの妊婦様をヴォルさんは、『バルザ先輩』と呼んでいました。生徒会がナントカ言っていましたね。
バルザさんもヴォルさんも生徒会役員であったようです。
ええと、王族や皇族の子弟って漏れ無く生徒会に在籍する風潮が何となくありますよね?
と、言うことは、ヴォルさんって皇子達とかなり近しい間柄、であったのではないでしょうか!?
これは、調べる必要がありますね。
何にしても最悪の展開だけは避けなければっ!
このわたし、ペルスネージュ・マルグリット・ド・シァテニエの人生が掛かっているのですからっ!!!
「で、ヴォルさん。聖都への駅馬車、どうなりました?」
「ああー、その護衛依頼なんだけど。取り敢えず、完遂ってことでサイン頂いちゃいました。
何故かって?」
この町と聖都イン=アンナ間の街道は、聖都巡礼者の往来が多くて毎日定時の見回りを聖都の聖騎士が巡回しているそうだ。
ですので、
「俺らの護衛より新米かーちゃんとその御子の護衛してくんない?」
と言う駅馬車の馭者さんの温情があって、
「短い道中だけれど、私とこの子、パシフロールちゃんの護衛をヴォル君達に依頼致します。よろしくね」
未婚の母、バルザさん、……帝国伯爵テター家二女バルザミーヌ嬢とその生まれたばかりのパシフロール嬢の護衛依頼をヴォルさんは受けました。
そう言う旅になりました。




