魔女さんのワークショップ
童話「うさぎさん」シリーズの一作です。このお話だけでもお読みいただけます。
※挿絵があります。不要の方は非表示でご覧ください。
ここは「森のとしょかん」。
本好きのうさぎさんが、森のどうぶつたちと仲良くなりたくて、自分のお家に作ったとしょかんです。
うさぎさんがゆうきを出してがんばったおかげで、今ではたくさんのどうぶつが本を借りにきてくれるようになりました。
✽ ✽ ✽
子どもが多くあつまった日のことでした。
クマにリスにキツネにタヌキ、ほかにも色々などうぶつの子どもたちがいます。
「しずかに、仲良く読んでね」
『はーい』
うさぎさんはいつもこうお願いするのですが、本だなの下のほうにある絵本コーナーは大にぎわい。なぞなぞや、まちがい探しの本も大にんきです。
ながめのお話の本を、ぶつぶつと言いながら夢中になって読む子もいました。
少しずつ、おやくそくが守れるようになってくれるようにと、うさぎさんはそのようすを笑顔で見ているのでした。
ところが、しばらくすると、こんなことをいう子どもが出てきました。
「もうあきた。ほかのことがしたいよ」
「つかれちゃったー」
たしかに、どんなにたのしい本でも、ずっと読んでいるのは大人でもたいへん。
じっとしているのが苦手な子どもなら、なおさらでしょう。
こんな時は、いつもなら読みきかせや折りがみをしたり、お庭にでてあそんだりします。
けれども、今日はいつもとはちがうところがありました。
「うさぎさん、いいアイデアがあるよ」
そう、森のおくにすむ魔女さんがきていたのです。
魔女さんは、お日さま色のかみに青いひとみ。黒いローブがトレードマークの女の子です。
絵をかくのが大好きで、ここにはそのヒントを探したり、かいた絵をかざってみんなに見てもらうために、よくきているのでした。
「魔女さん、『いいアイデア』ってなんですか?」
うさぎさんは、ながい耳をゆらして首をかしげます。すると、魔女さんはにっこり笑って、「いいアイデア」のざいりょうをおしえてくれました。
ざいりょうは画ようしと、はさみと、スタンプです。たったこれだけだったので、うさぎさんもすぐに用意できました。
子どもたちも、きょうみしんしんで集まってきました。
「まずは、すきな色の画ようしをえらんで、ほそながく切ってね」
『わーい!』
すきな色をえらんで良いといわれ、子どもたちは大よろこびです。くっきりとした青や赤をえらぶ子もいれば、ふかい緑やあわい黄色をえらぶ子もいました。
それを、てのひらくらいのながさに切ります。
まだ小さい子には、はさみはあぶないので、うさぎさんや魔女さんが切ってあげました。
「つぎは、好きなスタンプをおしてね」
うさぎさんは本と同じくらい、スタンプも好きでした。町でかわいいスタンプを見つけては、ついついかってしまうのです。
リボンやほし、どうぶつのスタンプなどがいっぱいあります。
子どもたちがこんどもニコニコがおでスタンプをえらびます。それを見ていたうさぎさんがいいました。
「スタンプ台もいりますね」
スタンプ台は、スタンプに色を付けるためのものです。これがないとスタンプはたのしめません。
魔女さんは、またにこりと笑って、あるものをくれました。
「それならだいじょうぶ。これをつかって」
それは白いスタンプ台でした。うさぎさんはお礼をいってうけとり、ふたをひらいておどろきました。
色がありません。とうめいのスタンプ台だったのです。
魔女さんは「だいじょうぶ」と自信たっぷりにくりかえします。
「えらんだらどんどん押してね」
子どもたちもいわれたとおりにスタンプを押しますが、やっぱりとうめいなままです。
どういうことでしょう? 魔女さんのいたずらでしょうか?
「これでいいの?」「なにも見えないよ?」「これじゃたのしくないよ」
みんなが押しおえて、かおを見あわせていると、魔女さんは人さしゆびをクルクルとふって、「ふしぎなじゅもん」をとなえました。
『わぁっ』
するとどうでしょう。スタンプを押したところがキラキラと虹色にかがやきはじめ、それぞれの絵柄がうかび上がってきました。
光がおさまっても、絵はぷくりとふくらんでいて、さわるとプニプニしています。
「わぁ、すごい!」「ふしぎ!」「すてき!」
目のまえでおきた魔法に、うさぎさんも子どもたちも大こうふんです。魔女さんもふふんと笑いました。
「さぁ、せかいに一つだけのしおりの完成だよ!」
そう、ほそながく切った画ようしは「しおり」だったのです。
子どもたちはキラキラ光るしおりをうっとりと眺めたり、見せあいっこをしたりしながら、幸せそうなかおでかえっていきました。
✽ ✽ ✽
「魔女さん、どうもありがとうございました。とっても素敵ですね」
うさぎさんもピンクのしおりをもっています。絵柄はもちろん、うさぎさん。
こんなに素敵なしおりがあれば、これからの読書がもっとたのしくなりそうです。
「うさぎさんのとしょかんも、とっても素敵。いつもありがとう」
魔女さんがパチンとゆびをならすと、ピンクのしおりにまっ赤なリボンがむすばれたのでした。
《おわり》
お読み下さってありがとうございました。