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至高の存在の欠片を持つ者  作者: 篠宮秀佳
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本章2話 人の強さの定義は人それぞれ


少女は『平凡』だが『平穏』とは呼べない人生を歩んで来た。あくまでも主観でだと、だが。


産まれたのは日本の中流家庭。

父親は会社員で母親は専業主婦、時代は昭和から平成に跨がる高度経済成長期からバブルな成金異様社会が崩壊する寸前の、一番平和で怠惰に満ちた頃。

そして死んだのもちょうどこの時。


平和とは、長らく享受すれば怠惰が満ちる。

ある意味それを象徴した時代だっただろう。

直後に訪れた狂乱は、その後また長く続く苦悩な時代への幕開けともなった。近しい歴史では第一次世界大戦直後のアメリカに似ていたかもしれない。


歴史は必ず繰り返す。

そして、だが人はいつかそれを忘れ学習せずに、愚かにも同じ過ちを侵して歴史は積み重なる。

まぁだが今はそれは関係無いので別の機会に。


世界の何処かでは絶えず大なり小なりの争いが有り、巻き添えとなる一般人が後を絶たなかったが、それすらもテレビの小さな画面越しの出来事。


平和な時代の怠惰な狂乱は社会にそれなりの波紋を巻き起こしてはいた。その一つが虐めだろう。

大きな社会に出る前の小さな社会、学校。

特に同じ年代が集うが故にか、ほんの僅かな自分達との違和感に敏感で、そして攻撃的。


子供だからなのか、人の特性なのか。

違和感という名の傷を見つければまずは言葉でその傷口を抉る。度が増せば物理も使う事も屡々。


彼女の傷は母親に有った。

だがそれはただ元の国籍と容姿が異なるだけ。

そして生まれた彼女が母親に似た、だけ。

けれども黒髪黒瞳の色合いの中では目立つ。

整っていたから余計に拍車を掛けたのかも。


男ならば彼処までには至らなかったのか?

その魂に思考を残したままの彼女の唯一の疑問。

羨望よりも嫉妬が優位に立ったが故の虐め。

少女を虐めたのは同性だったから浮いた疑問。


けれども彼女は揺らぐ事は無かった。

前世を持っていたから客観的に見ていたせいも否めないかも知れない。虐めを受けても淡々としていた彼女に苛立ち周囲はエスカレートして行った。


何時からか手段が目的となった。

『コイツを慌てさせ泣かせ赦しを乞わせたい』。

死んだ後に知った事実。

彼女を『死なせた』者達の動機がそれだった。


虐めは何時しか度を越した暴力へと変化していた。

すれ違いさまの悪口に足を引っ掛けて倒す。

教室に置かれた物は全てゴミとされた。

人目に付かないトイレで拘束され殴られる。

日常茶飯事となるのに大して時はかからずに。


それでも彼女は何も言わない、返さない。

無言で起き上がり黙って片付け頬を冷やす。

時に保健室の世話となっても礼だけ言って帰る。

ただ、それだけだった。


もちろん彼女に感情が無かった訳では無い。

起伏が激しく無いだけで喜怒哀楽は揃っている。

それに感情を表に『出せない』訳でも無い。

究極の面倒臭がりで『出さない』だけだった。

ついでに虐めに反応しないのも同じ理由からだ。


けれども自分本意にしか動かず考えない虐める側は、それが解らず解ろうとせずにただ腹立たしい。

そしてとうとうそれは決行された。

帰り道の駅のホームで彼女は突き落とされた。


電車が入って来る直前に背後から強く押されれば、どんな人間でも抵抗する間も無くその場から落ちて電車に跳ねられそして呆気なく死ぬ。

直ぐに救助が行われたが彼女は助からず死んだ。


これについては後日談が幾つか有る。

彼女を死なせた虐めを行って居た一人はその悪質さから未成年とはいえその場で逮捕された。

容疑は『殺人』。

しかしその当人は愚かにもそれを否定した。


あくまでもこれは虐めに気が付かなかった彼女に対する『ちょっとした嫌がらせ』だったのだと。

ただ『少し怖がらせる』のが目的だったのだと。


それが一層社会からの反発を招き、虐めという愚かな行為に気付かなかった周囲をも含めて関係者は彼女の親も含めて社会から非難が集中した。

騒がれるだけ騒がれ、虐めた本人達は勿論非難された周囲も親も何年も苦しめられる結果となった。


けれどそれすらも、また彼女は気にしなかった。

別世界へと至高の存在に招かれ、自分の死後について聞かされた際にも「あっそう」の一言で済ませてその後はまた気にする素振りすら見せない。

むしろ『これからどう快適に暮らすか』の方に重きをおいて楽しそうに過ごしている。


『平凡』だが『平穏』では無かった彼女の人生。

あの世界では彼女は馴染めなかっただけなのかも知れない。そして今のこの世界の方が彼女には向いているだけで問題は何処にもなさそうだ。


ならば自分も気にする事では無いだろう、と。

至高の存在はそこで彼女への評価を改めた上でそれに対する考えをまた絶ち斬った。彼女は既に新しい生を得て楽しそうに過ごしているのだ。


退屈だった自分の世界を面白くしてくれるのならば止めるべきでは無いだろう、と。

そう思いながらも、予想以上に馴染んでイキイキとやらかしてくれる彼女に、頭(無いが)を抱える羽目になるのは案外直ぐの事だったが。


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