本章 序話 二つの記憶を持つ少女
作者の認識としては、厳密には異世界転生ではないと思って書いてはいます。
この先認識は変わるかな?
この世界にいきなり放り込まれた異端の存在。それが今の私の立場だろうか。
私が生きていたのは全く別の世界だったのに、気付いたら死んでてふと考えたのが始まり。
ああ、またか、と。
そしたらいきなり変な声が割り込んできた。
「素晴らしい魂だね。待った甲斐がある」
魂を求めるのは悪魔だったっけ?
「貴女の前に生きていた世界ではそうだったみたいだけど。でもあんなゲスでチンケな存在と一緒にされるのは腹が立つね」
何処か人をバカにしたような言い種。まるで自分が最高の存在とでもいうのだろうか?
「当たらずと言えど遠からず、かな」
ふと目の前に影が出来る。誰かが目の前に立ったかのよう…と思ったら本当に誰かが居た。
背中まである髪は緩く編み肩に垂らしているが見事な白銀だ。プラチナブロンドを自慢する人間も裸足で逃げ出すだろうとふと思う。
こちらを見つめる瞳はアメジストを思わせる濃い紫色。だがその中に揺らめく光のせいか濃さが微妙に変化して色彩が掴めない。
それはそのまま感情が読めないに繋がる。ある意味一番危険な人物だということだ。
「過大評価だなぁ。私は『何も隠して』ないよ。隠す必要など無いし」
全てをバカにしたような、だが感情が感じられない言葉。何処か矛盾しているはずなのに、見事に整合性を感じるとはこれ如何に?だろう。
「貴女こそ先程も言ったけど本当に見事だね。二度も死ねば普通は『人間』など簡単に消滅するのに。どうなってるんだい?貴女の魂」
それこそ私が聞きたい。どうなってるんだ?と。
一度目は中世のヨーロッパにも似た何処かの異世界。そこで農民をしていたようだが、寿命か病気かとにかく五十代で死んだ…はずだった。
死んだはずとの『認識』を何故か持ったまま次に目を開けたら、現代の日本で女性に生まれ変わっていた。認識どころか記憶まで持っていたから余計に話はややこしくなった。何せ前が『男性』だったからと言えば分かって貰えるだろうか?
現代の日本が前の記憶と色々違いすぎて、性別の違いも相まって大変だったのだ。文化やら教育やら文明やら。特にオジサンが女子高生を演じて原宿に居るなど普通に考えれば鳥肌モノだ。
変わり者の家に生まれたせいで、私の存在があまり浮かなかったのは悪魔の差配に違いないと今でも信じている。
「あー、確かに大変だよね、それは」
いつの間にか横で銀の髪の青年が頷いていた。
ずいぶんとお寛ぎでいらっしゃる。そもそも一緒に並んで座っている長椅子は何処から持って来たんだろうか?良い値段なのは判るけど。
「あ、これは僕のお気に入り。ここは僕の緊急避難先みたいな場所で簡単に言えば異空間かな。だからこそ好きに操れるんだけど儘ならない事もあるんだよね」
長い時間他者と話した事が無いって新手の引き籠りでしょうかね?
「あはは、ある意味新しい考えだね。でも惜しくもないほど答えから離れてる。この空間は普通の者ならまず入れなく出来てるんだ」
……それって私が普通じゃないと?
「逆に聞きたい。二度も自分が『死んだ』事を自覚して、尚且つその記憶を全て持っている者が普通と思う根拠を。どうだい?」
確かに変わっては居るけど……私は一般市民!
「粘るねぇ。まあいいや。君が自分をどう思おうと僕には関係ないし。…でも僕の転生用の魂としては最上級だから関係有るかな?」
……色々ツッコミ処が満載な案件だ。
「大丈夫。君の希望は最大に考慮するし、僕の人格も同居はするけど基本人格は君だし。能力と寿命が人間じゃなくなるだけで生活するのには不便じゃ無いと思うよ」
……ツッコミ処が逆に倍増した。ついでに不安も。二重人格になって人間じゃなくなる事を『だけ』と表現する辺りが特に!
「事実だからしょうがない」
胸を張って威張る発言でしょうか?
「うん、もう『僕が』決めたから。あの世界は僕はあまり好きじゃないんだけど、僕が好きだった人間の少女の願いを叶えるには戻らなきゃならないんだ。でも中々良い魂が無くてさ…」
一度は絶望から自殺したそうだが、存在は消滅せずに残ったそうで気になって度々その世界を覗いていたそうだ。そしたらその少女が遺した願いが有ることを知ったが時すでに遅し、と。
結構早とちりなおバカさんなのかな?
「……そうかも知れないね。でも手段が出来たからには遠慮する気は無い。つまり君には選択肢は無いんだ、悪いけど」
でも代わりに主人格を私にするのが彼にとっての誠意なんだそうだ。
「能力や諸々はそのうち説明するよ。まずは彼女のかつての願いを叶えるためにもあの世界に生まれ直さなきゃいけないからね。一つだけ先に謝っておくと、色が目立ちすぎて騒がれるかも知れないけど気にしないでおいて」
……一番気になる事を寸前に言うんじゃない!!