序章1『至高の存在』の禁忌を身に宿す者
次話から少し形態が変わると思います。
『白銀色の髪と紫色の瞳を持つ“少女”が現れました!!』
この報告を受けたのは、それぞれの神族と魔族の頂点に立つ『王』と呼ばれる存在。
彼らが『王』となる前から、この色を持つ存在が現れた際には報告するように定められてはいた。
だが、まさか自分達の代にその報告が成されるとは両者とも予想外であったし、本当の意味を知るのは報告した側ではなくされた側だ。
した側にしてみれば意味が分からないだろう。
王達はお互いに知らないが、この情報がほぼ同時に全く異なる場所にいる両者に届いたのは一体何の皮肉だろうか。知る者が居れば作為すら感じるかもしれない。むしろ知らない方が幸せか。
「「いや、あり得ない。その色を持って尚生きているなんてあり得ない!!」」
これまたほぼ同時に絶叫した両者。
意味が分からずに首を傾げている周囲は放って両者はそれぞれの思考に入る。
神族の国と魔族の国はお互いの属性の関係で常に争いの状態にある。相容れない同士なのだから当然だろう。しかも魔力の量も拮抗している。
他にも亜族と呼ばれる種族や人間の国もあるが、そちらでも争いの類いは存在していた。融和を結ぶ国同士の争いというやつだ。
ただしこちらは神族や魔族には影響はない。何故かといえば力が違いすぎるからだ。
神や魔はこの世界では最強の存在とされる。例外は『至高の存在』と呼ばれる者のみ。
そしてその存在が居なくなってからは自分達こそが最高の存在であったのだ。
だが、報告が本当ならば総ての前提が覆る。
「「その者の種族は?」」
これが一番の重大事項だ。お互いの種族に生まれていれば、敵ならば驚異だし味方ならば励みにもなる。そう考えて問うたのだが、答えもまた予想を覆すものであった。
「人間です」
「「…………!!!」」
亜族ならばまだしも、よりにもよってこの世界では最弱と認識されている種族に?
一瞬、あの神話が王達の頭を過る。
『人間の少女に愛を乞いました』との一文。
衝撃を受け流せば、次は対策に入るだけだ。
「「すぐにその“少女”について調査を!全てを優先させて情報をかき集めろ!!何としてもヤツらより先に手に入れるのだ!!」」
「はっ!」
神族と魔族が慌ただしく動き出した。それぞれの臣下達は理由も分からないまま、だが王の言う事は絶対なので逆らわずに実行に入る。
その情報が神族と魔族に入ったのは偶然に過ぎない。いつの頃からか必ず下っ端にまで通達されたこの『命令』は、理由は分からずとも常に最上位の命令として生きていたからだ。
そしてある日、それは急に現れた。
そして忠実に命令は実行されて今に到る。
「「さてさて、どうなることやら…」」
頭を抱えながら、そして焦りに心を支配されながら、王達はそれぞれに独りごちる。
一つだけはっきりしているのは、今まで全てが拮抗して膠着状態だった状況が一気に動き始めたという事だろう。ただし結果は誰にも判らない…。