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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

胃袋ご利用ですか

作者: 鮭さん

 コンビニでガムを買う。私はアルバイトで塾講師をやっているが、先生の口が臭いという苦情が入っていたようだ。それからというもの、私はバイト前必ずガムを噛み口臭を整えるようにしている。学習能力が高いのだ。小腹が空いているし、ついでにおにぎりも買おうかな。


「お願いします。」


 機械的な言葉とともにガムを店員に渡す。大学生くらいだろうか、清潔感のあるどこにでもいそうな好青年といった感じの店員だ。


 ピッピッ


「300円になります。」


「はい。」


 チャリンチャリーン


 小銭を渡す。ぴったりの額だ。店員はそれをレジ打ちの機械に収め、なにやらボタンを押す。


「胃袋はご利用ですか?」


 レジ打ちの機械を操作しながら店員が言った。胃袋?レジ袋ご利用ですか?ならわかるんだが。胃袋とはどういうことだろう。まあ、おにぎりを消化するのに胃袋は利用する。当然、答えはイエスだ。


「はい。」


 答えると店員は床から何か取り出し私に渡してきた。粘り気のあるネズミの死体のようなもの、恐らく胃袋だろう。私は直接胃袋を見たことがなかったので、「胃袋ご利用ですか?」と問われていなかったらこれを胃袋だと認識できなかったろう。親切な店員だ。しかしなぜ胃袋を渡してきたのだろう。私の意図とは違った質問だったようだ。よくわからないが医療関係者でもないのに胃袋を入手できるなんて珍しい。ありがたいことだ。


「ありがとう。」


 私は感謝を述べ、コンビニを出た。さて、貰った胃袋、どうしよう。顕微鏡で観察しようかな。私はお手玉のように胃袋をポンポンしながら街を歩いていた。


 ポンポンポン、ポンポンポン


 うーむ、周りの人がこっちを見て何か言っている。確かに胃袋を持って歩いている人なんて滅多にいないだろう。というか胃袋を渡してくるコンビニ店員のほうがおかしくないか。なぜあいつは胃袋を持っていたんだ。これは、事件の匂いがする。私は警察へ向かった。


「すみません。先程コンビニで買い物をした際胃袋を渡されたのですが。」


「え、コンビニで胃袋を渡されたのですか。それは変ですね。これがその胃袋ですか。本当ですか?確かに胃袋のようだけれど。」


 警察は半信半疑でこっちをみている。定年間近の皺の入った顔。ブルドックような視線が私に向けられている。しかし、確かにこれは本当の胃袋であろうか。私も心配になってきた。すると、足を持った女性が警察に入ってきた。


「すみません。先程コンビニで買い物をした際、足はご利用ですか、と質問され足を渡されたのですが。」

   

「へえ、足をねえ。これは本当に足だ。どう見ても。」


 そうこうしているうちに、腕を持った少年が入ってきた。


「あの、さっきコンビニで買い物したら、腕はご利用ですか、といわれて腕を渡されたのですが。」


 うーむ、これは間違いない。そのコンビニ、調査する必要がありそうだ。警察も納得したようで、四人でコンビニへ向かった。


 コンビニに着く。中を覗くと丁度、頭はご利用ですか?、という言葉とともに、例の店員が生首を客に渡しているところだった。


「君、ちょっといいかね?」


「はい、なんでしょう?」


 店員は全くなんのことかわからないと言った様子で返事をする。


「ちょっとここじゃあれだから、警察署まで来てくれるかな?」


「仕方ないですね。よくわからないけど。銃を持ってる人間に言われちゃ逆らえない。ちょっとお店が心配だけど。まあ、うん。わかりました。」


 店員は納得いかない様子だが、警察署へきてくれるようだった。五人で警察署へ向かう。


「あのね、この人たちが君に胃をご利用ですか、とか、腕をご利用ですか、とか、足をご利用ですか、とか聞かれて、胃とか腕とか足とかを渡されたっていうんだけど。それにさっき客に生首を渡してなかったか?」


 店員はびくっ!とした。先程まで余裕のあった店員の顔から急に血の気が引いて行き、表情がこわばって行く。


「あ、あの、実は。」


 目には涙が浮かび、唇がプルプル震えている。


「なんだね、怒らないから正直に話してみろ。」


「(省略)」


 店員の言い分はこうだ。この店員には彼女がいた。しかし昨日の晩、ひょんなことで彼女の浮気が発覚してしまった。腹を立てた店員は衝動的に彼女の首を絞め殺害。遺体のやり場に困った店員は死体をバラバラにし、コンビニで客に配ることにより証拠隠滅を図った、ということだった。


「全く、最近の若者はすぐに人を殺すんだ。未来の日本はどうなることやら。でも、今回が初めてだし逮捕はしない。反省もしているようだしね。これからはこんなことしないように。未来を担うのは君たちなんだからね。」


 初老警官は目の前で泣きじゃくっている好青年店員に言った。好青年店員は声を絞りながら話をする。


「はいい、ありがとうございます。しかし、最近の若者は、と言いましたが、若者の殺人件数は本当に増加傾向にあるのですか?」


 大粒の涙を流しながら彼は言った。


「ふふ、細かいね。でもその姿勢はいいことだ。物事を批判的に捉え自分で考える姿勢、その姿勢を忘れないようにね。」


 初老警官は好青年店員の肩を叩きながら言ったのであった。バイトへ行こうと外に出ると、雲一つない青空が広がっていた。


 完






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