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終わった後の世界で勇者になれない僕は  作者: 師走
第一章『終末後に綴られた蛇足的な駄文』
6/11

思惑/狐疑逡巡

 その日はそれ以上、魔物の襲撃もなく、無事今日の仕事を終える事ができた。


 食事は難民全員に教会から支給される。

 それを食べ終わると、僕は早々に寝床に着いた。


「はぁ……」


 布団に寝転がり、僕は今後の事を考えた。


 あの仮面の男の言う通り、魔王討伐をするべきなのか否か。多分放置すればこの世界は終わる。かといって、一度負けた僕に魔王を倒せるわけがない。今度こそ殺されるにきまってる。


「バカバカしい」


 僕はあの時、生きることを諦めた。それなのに今はこうして惨めに生き残るばかりを考えている。


 前の世界でも、下らない事故で死んで、こっちでも勇者になって浮かれていたらこのざまだ。なら僕は何のために二度目の人生を貰ったんだ。仮面の男は罰だと言っていたけど、僕が何をしたって言うんだ。


 ――― お前の所為だ―――


 かつての仲間の声が僕を責め立てる。


 それは、親友だったあいつの声、崩壊したパーティで生き残ってしまった僕らは、あの時離別した。


「今頃どうしてるかな……」


 考え事をしすぎたせいか、不意に眠気が襲ってきた。僕はそれに逆らわず、そのまま瞼を閉じて意識を停止した。




    ●




 アレクが眠りに着いた頃、ゴルガンドの北側にある森に二つの影があった。


 一人は黒い重装甲の鎧を着た男だ。

 身長は二メートル以上あり、兜からは蒼い炎が漏れ出ていることからその男が人間ではないことが分かる。


 もう一人は女性、暗闇に紛れるような黒い服、その上からでも分かるほど妖艶で女性的な部分が浮き出ている。


「首尾はどうだ?」


 鎧の男が彼女に尋ねる。


「順調ですよ。思ったより時間がかかってしまいそうですけど」

「ふんっ。まどろっこしい手を打つからそうなるのだ」


 鎧の男は見るからに不機嫌そうに鼻を鳴らす。それに対して、女性の方は余裕そうだ。


「あらあら、人間は貴重な労働力ですよ。攻め落として殺してしまっては資源の浪費です」

「労働力など、オークやゴブリンどもで十分だろう」

「まあまあ。退屈でしたら、あなたの元に騎士団をけしかけてあげてもいいですよ」

「……何を企んでいる」


 鎧の男は兜の下から睨みつける。並みの人間ならこれだけで失神してしまいそうなほど、その眼光には迫力と威圧感があった。だが、女性のそうはけらけらと笑うだけでまるで意に介さない。


「企んでいるだなんて、ほんの戯れですよ。そろそろ間引いておく時期かと思いまして。それに、面白い方が街に入ってきたんですよ。誰だと思います?」

「早く言え」


 勿体ぶる彼女に、鎧の男は催促する。


「なんとびっくり。勇者様です」


 彼女はそう言って、わざとらしく両手でパーを作って見せるが、鎧の男は詰まらなさそうに鼻を鳴らす。


「我が魔王様から逃げ出した腰抜け勇者か。つまらぬ」

「まあそうおっしゃらずに。少し遊んで見てはいかがですか」

「……まあいいだろう。ゴルガンドを征服する前の余興だ。少しは楽しめるといいがな」


 そう言って鎧の男は背を向ける。


「もう戻られるのですか?」

「我も忙しいのだ。戦に備えて準備をしなければいかん」

「そうでしたね。では私も戻るとしましょうか」


 すると、女性の姿は夜の闇に溶けるように、忽然と消えてしまった。


「女狐め」


 誰もいなくなった森の中で鎧の男は独り言を呟く。


「勇者アレクシス=ノマルコモンよ。少しくらいは成長していることを期待しているぞ。この騎士王グリムと渡り合うにふさわしいか程度には」


 誰に言うでもなく呟き、鎧の男、グリムは森の中に消えていった。

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