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終わった後の世界で勇者になれない僕は  作者: 師走
第一章『終末後に綴られた蛇足的な駄文』
4/11

探索/結果報告

 ゴルガンドはこのイスカベランド王国で最も大きな街というだけあって、城壁の中はかなり賑わっていた。まるで前の街の地獄絵図が嘘だったかのように人々は笑顔に溢れていた。


 ただ、住民たちにも不安が全くないのかと言えばそんなことは全然なく、街でしばらく情報を集めていると、どうも魔王軍は現在、このゴルガンド周辺の街を占拠して、そこを拠点に攻め込もうとしているらしい。


 ゴルガンドが城塞都市と呼ばれる理由は、ただ守りが固いからというだけでなく、隣国から王都を守る壁としての役目も果たしているからだ。高い壁に囲まれた街は横に広く、その両脇は険しい山がそびえている。この地形と街自体が、王都を守っているのだ。


 逆に言えば、魔王軍はこのゴルガンドさえ落せば王都に一気に攻め込むことができることになる。

 ちなみに僕が住んでいた街も、王都と同じくゴルガンドの西側にあるため、ゴルガンドが落とされればまず間違いなく壊滅する。なのでそういう意味でもこの街に落とされてもらっては困る。


 割と追い詰められているような状況で、なおも街の人達が安心しているのかといえば、


「そりゃ、この街はライス団長率いる騎士団が守ってくれているからな」

「おまけに先代の神父様が作ってくれた結界もある。そう簡単に魔王軍の手には堕ちねぇよ」


 街を守る騎士団と結界の存在。これが街の人達が大丈夫だという理由だそうだ。


 ゴルガンドの騎士団については僕も知っている。王都から派遣された約五千人の精鋭騎士で構成されたこの国の砦。特に防御魔法が得意で、陣形を組んでの集団防御術式は鉄壁の守りを誇る。


 結界というのは、この街の亡くなった神父が信者達と作ったもので、敵意のあるものの侵入を阻む防御結界らしい。生前、神父は結界の整備も休まず行っていたようで、その時に魔物に襲われて亡くなったとか。


「ちなみに、今はシスターリリスが結界の整備を請け負ってるらしいぜ」

「そうなんですか」


 だから一人で森に行っていたのか。


 でも神父も魔物にやられてしまったのだから、騎士の一人くらい護衛に付けても良さそうなのに。ひょっとしてシスターって実はめちゃくちゃ強かったりするのかな。


 そんな事を考えた僕は、酒場を出た後に試しに教会に行ってみることにした。


「お邪魔しまーす」


 何となく小声でそんなことを言いながら中を覗いてみる。

 たまたま他の人がいなかったお陰でシスターを見つけるのは容易かった。彼女は教会の奥で一人祈りを捧げている。


「あの……」


 声をかけようかと思ったが、邪魔するのも悪い気がしてやめておいた。


 代わりに、僕は遠くからそっと観察眼を発動。彼女のステータスを確認してみる。


 別に本気でシスターが強者だとは思っていなかったが、ひょっとしたら彼女が転生者かもしれないという期待はあったのかもしれない。


 だが、その結果は予想の斜め上を行くものだった。


「なんだこれ……」


 ステータス表記がバグったように、モザイクにかかってみることができなかった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



 それから街を探索する次いでに色んな人間に観察眼を使いまくった。


 その結果、ステータスを見る事ができない人は複数人存在した。その人たちの共通点はいずれも騎士団所属、それも騎士団の中でも上の位というものだった。


 この事から、僕の観察眼は自分より強い相手の能力は測れない、と推測してみた。つまりこの法則に当てはめると、


「シスターリリスは無茶苦茶強い、ということになるんだけど」


 どう考えてもおかしいと思ったので街の人達に聞いてみたが、案の定、彼女の武勇のような話は全く出てこない。魔法の腕も神父には及ばず、そもそも攻撃に使えるような魔法はほとんど習得していないらしい。


「僕の推測がおかしいのか。でも、シスター以外は僕より強そうな人ばっかりだ……」


 ブツブツ独り言を言いながら歩いていたら、不意に走ってきた誰かとぶつかった。


「あ、ごめんなさい」

「いえ」


 ぶつかったのは女の子だった。


 年代はおそらく僕と同じくらいだろう。上は薄汚れた白いシャツ、下はくたびれたショートパンツと他の町民に比べて少し、いやかなりみすぼらしい恰好をしている。


 彼女は一瞬僕を睨みつけると、さっさと起き上がって去っていった。


「あの子……」


 見間違いでなければ、彼女は金属製の首輪をつけていた。趣味でつけているという訳でなければ、そういう境遇なんだろう。しかし、僕の記憶する限り、この国に奴隷制はなかったはずだが。


「どうかなされたのですか?」

「!」


 不意に背後から声を掛けられて、僕は咄嗟に身構える。しかし、振り返ってみると、そこにいたのはシスターリリスだった。


「すいません。驚かせてしまいましたか?」

「いえ、大丈夫です……」


 全く気配を感じなかった。やっぱりシスターって武術の達人かなにかなんじゃないだろうか。あるいは本当に転生者か。いや、そんなことより……


「あの、さっき首輪をつけた女の子見かけたんですけど、あの子は一体……」

「ああ。ユウナさんのことですね。少し前にこの街に流れて来た難民の方ですよ」

「難民ですか」

「ええ。一か月ほど前のことです。勇者の方々が北方の魔王の領土で魔王に敗れたという出来事はご存知ですよね?」

「そりゃ、まあ……」


 知ってるもなにも、僕が勇者だし。


 というか今、一ヵ月前といったか?


 僕が魔王と戦ったのほんの数日前、ということは仮面の男と会ってから三週間以上も経っているということか。あいつの話によれば、創造主とやらは時間も思いのままらしいし、僕を少し先の未来に連れて来たということだろうか。


「その時期から魔物が活性化し、魔王軍の侵攻も激しくなりました。周辺の街を魔王軍が占拠し始め、そこから逃げてくる人たちが後を絶たなくなったのです」


 耳が痛い話だ。つまりこの街の物資が不足気味なのは僕の所為ということになるじゃないか。


「僕は悪くない……」

「何か言いましたか?」

「いえ、何でも。でも何でそのユウナさんは首輪を? この国に奴隷制はありませんよね?」

「確かに奴隷制は半世紀以上前に廃止されましたが、今でも一部の街で剣闘や、その……慰み者目的の人身売買は行われているのです。北端の村や町では魔王軍との戦争の混乱に乗じた人攫いが出ていると聞きますし」


 つまり彼女はその非合法な人身売買を行う人たちから、魔王軍侵攻の混乱に乗じて逃げて来たと。奇しくも人攫いと同じ状況、魔王のお陰で逆に逃げる事ができるとは皮肉な話だ。


「でも、何でまだ首輪をつけているんですか?」

「外せないんですよ。首輪そのものはかつて使われていたものと同じなのですが、術式にかなり改変が加えられているようで……」


 彼女は申し訳なさそうに俯く。多分シスターもかなり手を尽くしたんだろう。結界の整備も一人で行っているというし、彼女の気苦労は計り知れない。


 とはいえ、そのユウナという子も主人不在なら酷いこともされないだろう。それに同じ難民とはいえ、僕が他人の心配をしてやる義理はない。


「そうだアレクさん。本日の宿はどうされますか?」

「え、まだ決めてませんけど……」


 一応魔物の毛皮と牙を売ったおかげで、今日の宿代くらいは稼げたから、適当な安い宿に泊まるつもりだったが。


「でしたら、うちに泊まっていきませんか?」

「へ?」


 それはつまり、シスターの自宅に泊めてくれるということか?

 そんなやましい妄想が頭を過ぎるが、その考えはすぐに否定された。


「あ、私の家ではありませんよ。教会が運営する難民を受け入れるための仮設住居があるのですが、そこに泊っていかれてはどうですか?」

「いいんですか?」

「もちろんタダではありませんよ。対価として教会が管理する農園で働いてもらいます」


 それは勿論望むところだが、確か騎士の話では難民の受け入れは厳しいって話じゃなかったっけ? さっきのシスターの話からも教会は既に難民でいっぱいのはず。労働力過多じゃないだろうか。


 かといって僕も断れば今日明日はともかく、それ以降の生活は全く保障できない。ここは素直に乗っかっておくとしよう。


「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」

「ではこちらへ」

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