フォンツァの薬
クラヴィクスが開発した薬は、この世界にいるうちは必要でも、トレーニングのお陰で人に掴まれば歩けるようになったのは、成長した証のような物で由良の活力になった。
トレーニングを見てくれたルッツや、めげそうな時に休憩を入れてくれるディアナ。
体調を見てくれて、更に勉強も教えてくれたクラヴィクスに感謝しっぱなしだった。
今日も午後からは勉強の時間だと言われ、この国と他の国との貿易や、この国が栄えている理由等について学んでいく。
元々栄えていたけれど実力を現した理由はクラヴィクスにある。
それはもちろん、フォンツァに与える薬のお陰だ。
フォンツァを生かす薬は誰もが欲しがる。
フォンツァがいるだけで国は安泰だと未だ一部の国では信じられている。
それと、すぐに死んでしまうフォンツァを生かし、他の世界の知識を取り入れて、利益を得られると考えている国もあるらしいし、実際この国の料理の一部はフォンツァが教えた物もあるそうだ。
それが利益にもなっているのだから、益々薬の需要は高くなる。
薬はストック出来る上に、一般的にも使用できるため薬を買おうとする人は多い。
「……」
ただ、1つ疑問に思うことがある。
「クラヴィクスさん」
「なんだ?」
「クラヴィクスさんは、どうしてこの薬を開発したんですか?」
元々薬の開発には携わっていなさそうなのに……と思い聞く。
「…………私が飲むサプリメント開発の中の、偶然の産物だ」
「そう、ですか……」
何やら考え込んで答えたクラヴィクスに疑問はあれど、研究熱心な姿に感服する。
そんな研究熱心なクラヴィクスそのものを欲する人もいるらしい。
クラヴィクスはその誘いには乗らず、薬を売ったお金を王に納め、王はそのお金で様々な設備を整え市民に喜ばれている。
良い設備で作った農作物や、様々な文化を取り入れたこの国の料理や茶葉は、お礼として国に納められる。
料理や茶葉などの出来映えも、王と市民との関わり合い方も他の国からも評判らしく、良い循環をしているらしい。
「だからこの国の料理や紅茶とか、凄く美味しいんですね」
「ああ……もうそんな所までやったのか」
どうやら今日の部分はとっくに過ぎていたらしく、少々驚かれてしまった。
「クラヴィクスさんが作る資料面白いし、分かりやすくてどんどん進んじゃいます」
本物の教科書のようにデータを図で用意してくれて、専門用語には説明書きをしてくれている。
だからどんどん進むのは道理で……と、クラヴィクスを見ると、由良をジッと見つめていた。
その何事も見透かしそうなブルーの瞳に見つめられると落ち着かない。
ドクドクと高鳴る心臓を抑えながらクラヴィクスを見つめ返すと、ふいっと目を逸らされた。
「君が魔物を感知が出来た時、どんな感覚だった?」
「えっと……ゾッとするような、全身に鳥肌が立って、寒くて……」
「で、噴水の様子が頭に浮かんだ……と」
「はい。あの、それが何か?」
出来ればあの感覚はもう味わいたく無いし、対策があればさせて欲しい。
そんな願いを篭めてみたものの、願いは空しくも届かなかった。
「今までのフォンツァはそんなことが出来なかった」
「……え?」
「君は一体何なんだ」
警戒するような瞳を向けるクラヴィクスが、強い魔法使いだと思い出し体が震える。
「わ、分かりません……だって、急に出てきて……」
クラヴィクスの表情が怖くて目尻に涙が溜まっていく。
泣いたら迷惑だ……と涙を拭っていると、クラヴィクスのため息が聞こえてきた。
「責めている訳ではない。君と他のフォンツァの違いが、年齢だけでは無いとすると……」
それきり考え込んでしまったクラヴィクスは、由良の様子を気にする事もなく考えに没頭している。
こんな所で泣いて申し訳ない気持ちと、どうすれば良いか分からないもどかしさが合間り、互いに無言になってしまう。
「………」
そんな由良の様子に漸く気が付いたのか、眉間に皺を寄せたクラヴィクスが由良に話し掛けてきた。
「……ルッツが……」
急にルッツの名前を出され小首を傾げていると、難しそうな顔をしたまま窓の外を指差した。
そこには行きたいと願いながらも中々行けていない王宮の庭と、庭の先にある池があった。
「昔、ルッツが足を滑らせあの池に落ちた事がある。……君も気を付けるように」
突然の話にポカンとクラヴィクスを見る。
クラヴィクスも話題作りを間違えたと思ったのか、とにかく気を付けるように……と言ったきり無言だ。
不器用ながら考えに考えた話題だと思うと、胸の辺りが暖かくなっていく。
先程の沈んでいた気持ちは嘘みたいに散り、クラヴィクスを見て微笑む。
「はい。気を付けますね」
小さく頷いたクラヴィクスから目を離し、そう言えば……と思い出す。
「途中から全然なんですけど、昔は運が良かったんです」
「ほう……」
「くじ引き……うーんと、豪華な景品が当たる遊び……」
「ああ、勝てば景品が貰えるゲームか?」
「はい!ゲームで欲しい景品が当たったり、怪我をしそうな道で転んだ時に怪我しなかったり」
指折り数えていくと結構運が良かったらしい。
幼稚園を過ぎた頃にはそんなものは無くなり、両親は運を使い果たしたのでは?と笑っていたのを思い出す。
その両親の笑顔を思い出してしまうと涙腺が緩む。
グッと唇を噛み締める由良を見て、ため息を吐いたクラヴィクスは、由良に近寄り額に手を当てた。
「話は分かった。少し休むといい」
「はい。……ごめんなさい」
「……謝る必要は無いだろう」
こちらが勝手にフォンツァを生かして………と、呟きが聞こえるか聞こえないかの時に、由良はゆっくりと瞳を閉じた。




