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神隠しで異世界に  作者: もふっとな
第一章
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トレーニング開始

優しく吹く風が頬を撫でる。

まるで頭を撫でられた感触に、誰かの姿を思い出しハッと目を開けた。

パチパチと瞳を瞬かせ見たのは、クラヴィクスの執務室のソファー。

ここで寝ることに慣れてしまえば、不摂生間違いなしだし、何よりクラヴィクスに悪い。

体を起こし机がある方を見ると、クラヴィクスの他に数人、机の前に立っている姿が見えた。

声を掛けようとしたものの、その前にクラヴィクスが気が付いたようで、一斉に振り返ってきた。

振り向いた数人は、1人を除き皆ガタイがそれなりに良く、急に見られた緊張感で体を強ばらせる。

ただその一人がルッツだと気が付きパッと表情を明るくさせた。


「ルッツさん!」

「や、由良ちゃん」


ヒラヒラと手を振り近付いてきたルッツは、由良の頭をポンと叩き白い歯を見せるように笑顔を見せた。


「俺、クラヴィクスと一緒に由良ちゃんのトレーニングすることになったから宜しく」

「トレーニング……」

「元々歩けなかった訳じゃないだろ?」


ルッツの問いかけに頷くと、うんうんと嬉しそうに頷いている。


「ならすぐ歩けるようになるさ。トレーニングの場所はここ。まあ、簡単なストレッチとかだよ。クラヴィクスが体調見ながらやってくれるから」

「無理をさせない監視のようなものだ。あと、お前が幼いフォンツァに手を出さないか……だな」

「確かに由良ちゃん可愛いから……って、いやいや!出さないよ!?」


ノリの良さが仇となっているのか、机の前に立っている他の人達の、ルッツを見る表情が楽し気だ。


「へぇ、ルッツ君がねぇ」

「ち、違いますよ!カーリッツ様!」


手を顎に当て、楽しそうに笑うカーリッツと呼ばれた人は、ひとしきり笑った後、由良に近付いてきた。

この室内の中で、クラヴィクスと同等の痩せ型で、ロマンスグレーの髪と優しそうな表情が特徴的だ。

紳士的……とはこう言ったことだろうか。

仕立ての良いシャツとジャケットは、日本の装いに似ている。


「私の名はカーリッツ・ホフマン。この街の領主をしている」


スッと手をお腹に当て、軽くお辞儀をしたカーリッツはニコリと微笑んだ。

その姿に続いた3人の衛兵が同じように挨拶をする。


「ランクス・ザイフェルト。対魔法使いの部隊長です」

「ハーロルト・レオン。対魔物部隊長です」

「タフィー・ローレンツ。対人間部隊長です」


軽くお辞儀をされ、名前を言われ焦るものの、小説を読んで培ってきた記憶力は健在のようで、ペコリとお辞儀をする。


「カーリッツさん、ランクスさん、ハーロルトさん、タフィーさんですね。私は由良…片山由良です。宜しくお願いします」


頭を上げて四人を見ると、不思議そうな顔で由良を見ている。

まさか名前を間違えた!?……と考えていると、感動した!!と叫ばれ驚く。


「一回で名前を呼ばれたぞ!?最後まで俺の名前を覚えていない奴だっていたのに!!」


ガッ!と両手を握りキラキラと瞳を輝かせているのは、対魔物部隊長と言っていたハーロルトだ。

茶色の髪の毛を振り乱し喜ぶ姿に、無邪気に喜ぶノルの姿を思い出し微笑む。

やはり馴染みのない名前は覚えにくいようで、名前を覚えていない、中々出てこない、間違えて覚えられる……覚えられた頃にはさようならが、この世界での常識だったらしい。

だから喜んでいるんだとルッツから教えられた。


「他にも直ぐに名前を覚えてくれた人もいたけど、もう随分前だし……俺らの名前を覚えてくれる人なんて現れないかと思ったよ」


ニッコリと微笑むのはタフィー・ローレンツ。

海外の俳優にこんな人がいたような……と思えるくらい、眩しい金髪と爽やかな笑顔だ。

その二人を戒めて由良から遠ざけてくれたのは、対魔法使い部隊長のランクス・ザイフェルト。

黒の髪色と黒の瞳に日本人を思い出し親近感を覚える。


「由良様。2人がすみません……」

「いえ!ありがとうございます」


3人のバランスが上手く取れているようで、普段から仲が良いんだろうなと読み取れる。

そんな姿を不快に思う筈もないが、約1名、騒がしさにイライラとしているようで、不穏な空気を感じ執務室の奥を見る。

机で不機嫌そうにサインをしているのは、この部屋の主クラヴィクスだった。


「挨拶が済んだら出て行け」


衛兵はともかく、領主にも何て物言いだとも思うが、領主は気にしない性格なのか笑って謝っている。


「悪いなクラヴィクス。また寄らせてもらう」


では……と帰る領主達を目線で見送り、部屋に残ったルッツとクラヴィクスを見る。


「先にルッツのトレーニング。後に体調を見る。問題が無ければ午後からはこの国についてまた教えよう」

「さーて、じゃあ開始しますか」

「はい。宜しくお願いします!」


こうして由良のトレーニングが始まっていく。

トレーニングの最中に息を切らし、クラヴィクスがため息を吐きつつも体調を見てくれるのは、僅か数十分後の事だった。








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