≪後日談≫寝言
ソファーで眠っている由良に近づき、頬にかかっている髪の毛を払う。
「ん、クラヴィクスさ、ん……」
「……起きたのか?」
ふふっと笑う由良に問いかけてみても、寝言だったようで小さく寝息を立てている。
全く……と呟きながらブランケットを直し、頬を一度撫でた。
「君はどんな夢を見てるんだ?」
以前、クラヴィクスが寝言で恵梨の名前を呟いたと言われたのを思い出す。
恵梨に関して言えば思い入れがあるのは当然で、何せ自分が見つけフォンツァの後見人となった初めての経験を与えた者だったからだ。
王宮に自分について行こうとする者がいない中、自分の傍で知識を学んでいこうとする姿に好感を抱くのはそう時間は掛からなかった。
彼女はそう……研究仲間のような者だった。
寿命が短い中、生き続ける不思議なフォンツァを傍に置いて研究出来るのは、彼女に対する好奇心を駆り立てた。
それに乗る彼女も随分と楽しんでいたような気がするが、今になって思えばそれは自分を知ろうとしてくれていたのだと理解出来る。
当時、フォンツァに対し研究はしていたが、イマイチ成果が発揮出来なかった。
それでも大丈夫大丈夫と言って、研究に付き合ってくれた姿に助かっていた。
そんな彼女が倒れた時、フォンツァは寿命が短いのだと実感し思い知った。
懐かしい夢の内容を見ていた時に思わず呟いてしまった名前が、まさか聞かれているとも、自分が口に出していたとも知らなかった。
「……」
ただ、1つ言えることは、夢が変わった後は呟かなかったようだ……ということだ。
チラリとテーブルに視線を移すと、由良が用意したクッキーが置いてある。
初めてクッキーを貰った時の嬉しそうな表情を夢に見てたなんてものは、自分の心の中だけに閉まっておくべきだろう。
***
***
近頃、王宮内で働くメイド達が話しているのを耳にし、クラヴィクスは眉間に皺を寄せため息を吐く。
「クラヴィクスどうした?」
「ルッツか」
隣に立ったルッツが同じくメイドの話を耳にし、へぇと感心したように呟く。
「興味あるのか?」
ルッツの返答に首を横に振る。
メイド達の間で話していた内容は、好きな人の匂いを嗅ぐと精神的に安定しない?……という話だ。
更に、安心出来る匂いを嗅ぐと好きな人が夢に出やすいとまで話していた。
まあ夢に出やすいかは不明だが、匂いに関して言えば各々好みもあり、好きな者の匂いが好みで精神的安定すると言われれば、間違ってはいないのだろう。
何故そんな話が耳に止まったのかと言われれば由良のせいだと自信を持って言える。
恵梨の夢から由良の夢へと変わる前に、夢の中で好ましい匂いを感じた。
暖かでクッキーのような甘い……と思った瞬間、由良が夢へと出てきて、由良の嬉しそうな表情へと夢が移行していった。
(……馬鹿馬鹿しい)
あれは偶然に決まっている。
そう言い聞かせた所で、先日ソファーで寝ていた由良の寝言を思い出し、胸の奥がジリジリと焦げていく音を立ててきた。
その音から逃れるようにルッツを見ると、ルッツはメイドの中にディアナの姿を見つけたのか、柔らかな笑みを浮かべていた。
「……俺、ディアナの匂いを嗅ぎたいかも」
「犯罪者にはなるなよ」
これは変態一歩手前どころか変態発言だ。
こんなのが友人で良いのだろうか……と思ったその日、クッキーを用意した由良が執務室に待ち構えていた。
甘い香りと暖かな雰囲気。
それはクラヴィクスの安らぎの時間となる。




