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神隠しで異世界に  作者: もふっとな
第三章
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薬の誕生話

走り出した由良が廊下を走っていると、追い掛けてきたディアナに腕を掴まれた。

グッと唇を噛み締め俯くと、ぽんぽんっと肩を叩かれ微笑まれた。


「飲み物を淹れますね」


安心させるように優しい声色で語りかけられ頷く。

手を引かれるように庭に連れてこられ、クラヴィクスの執務室方向を見る。

カーテンが引かれた室内の様子は見えず、ホッと安堵の息を洩らす。


「今日はハーブティーです」


キッチンで手早く用意してくれたのか、ハーブティーの良い香りがする。

温かな温度が心を癒し、ディアナに向かってお礼を言った。

執務室をチラリと見たディアナは、クラヴィクス様は……と呟く。


「由良様を無闇に傷付けない方だと、私は信じています」

「……うん」


それは由良も同意している。

けれど、本人の口から告げられた言葉に心が耐えきれず、どうして?すら聞けずに逃げてしまった。

ハーブティーを飲みながら一息ついていると、おーいと手を振りながらルッツがやってきた。


「ディアナ、俺にも一杯ちょうだい」

「畏まりました」


ディアナが淹れたハーブティーを、立ちっぱなしで飲んだルッツは、案の定ディアナに叱られている。


「行儀が悪いですよ」

「悪い悪い。これから直ぐに研修があるからさ」


くいっと飲み干したルッツは、ディアナにごちそうさまと告げ、由良の頭をぽんぽんっと叩く。


「アイツさ不器用で、自分の要望を出すの下手くそなんだ。こっちが汲み取ってやんないと言わないし、本人は要望が叶わなくて良いって思ってるから余計に厄介なんだよな」


勿論それは、国に関する重要事項なら進言するものの、そこに自分の要望はいれないらしい。

ルッツとバルクが微妙な表情の変化を読み取り、クラヴィクスから要望を聞き取ろうとするものの、失敗することも多々あるそうだ。


「まあ、暮らしていけているから良いって思ってたんだけどな……」

「おー、なんか面白そうだな」


ルッツの言葉に反応したのは、気だるげな表情でやってきたバルクだ。

ディアナがペコリとお辞儀をするのに倣ってお辞儀をするものの、初対面で見たような普通の服を着ていて目を丸くさせる。


「おい、なんだよそれ。またお忍びか?」

「ああ、お忍び」

「どこで」

「噴水広場先のパン屋の隣」

「わかった。お忍びも程ほどにな」


お忍びには対して怒っていないようで、以前はクラヴィクスもそうだったな……と考える。

それにしても王宮騎士であるルッツすら怒らない上に、程ほどにとだけ言っているのは疑問だ。


「お忍び……」

「ん?ああ、私のお忍びは普通に妻とデートを楽しむのは勿論、変装して取引が行われている所に行くことなんだ」


何歳になっても妻とデートをする姿に心がホッコリとするものの、取引とは何か?と考えてしまう。

でも流石に内容は言えないようで、上手くはぐらかされてしまった。

でもそれは国を支える上で仕方のないことだろう。そう考えながらルッツ同様頭を撫でてくるバルクを見る。


「また、アイツが語らない昔話をしようか」


チラリと見上げた執務室のカーテンは相変わらず閉まったままだった。



***



***



バルク曰く、今から5年前一時期荒れていたらしい。

荒れる……と言っても、魔物を倒す時に容赦なかったり、不摂生に拍車を掛けたり、バルクやルッツの仕事を増やしたりとしていたようで、国に迷惑を掛けるような物ではなかったそうだ。


「5年前って、先生が……」

「ああ、由良の通っている学校の教師らしいな。そうだ。恵梨が帰った後の話だな」


先生がここにいた時の話は何となく聞いたものの、いなくなった時のことは、薬が完成した以外聞いていなかったけれど、ルッツの言葉を思い出した。


「そう言えば、愚痴を溢したって」


ルッツがそう言っていた……とルッツを見ると、合点が言ったのかなるほどと頷いている。


「薬の完成の話しか?」

「そうだ。お前たちは、あの薬は本来完成する筈がなかった……とは知らないだろう?」


ニヤリと笑みを浮かべるバルクに、3人とも声を出し驚く。


「由良、どうやって薬を開発したか聞いたか?」

「……サプリメント開発してたら偶然……ってクラヴィクスさんは言ってました。でも今になって思うと、何か考えながら伝えてくれたような……」


クラヴィクスと話した情景を思い出しながら伝えると、バルクが満足そうに頷きまた頭を撫でてきた。


「本当の事を言えなかったから、歯切れが悪かったんだろうな」


本当のこととは何だろう?とディアナと顔を見合せる。

ルッツは何やら思うところがあるのか、ハッと目を見開いた。


「禁忌の術か!」

「お、流石ルッツ。そう、フォンツァを生かす薬は……禁忌の術が書いてある書物に記されていた」


王族しか入れない書庫。

クラヴィクスは幼少期に父親と忍び込み禁忌の術が記された書物を閲覧した。

一度読んだ内容は覚えている特技により内容を今も忘れていない。

ルッツやディアナは、隣国の宿で何故禁忌の術が使えるのか事情を説明されたようで、なるほど……と納得している。


「だからもう少し早くって嘆いてたのか……」


先生と実験を重ねデータを取っていたものの、先生がいなくなってから改めて考え、そして禁忌の術に行き着いた。

覚えていた内容通りに薬を作ると、呆気なく薬が完成したそうだ。

完成は喜ばしい筈なのに、助けたかった人が助からなかった。その時の後悔は計り知れないだろう。

そしてその日から更に表情を固くさせ、仕事や研究などにのめり込むようになり、それが現在のクラヴィクスの姿となった。


「以上が薬誕生秘話だ。どうだ?」

「俺は禁忌の術を使ってたことに驚いた。バルクはそれを許したのか?」

「ん?人が助かるのなら禁忌だどうだと言うより人命を優先するだろ?」


ニヤリと笑ったバルクに皆で微笑む。

クラヴィクスが人を大事にしているのは、前国王やバルクの影響が強いようだ。


「まあ、アイツの自分より他人優先の精神はどうにかしたいがな」


家族ではないけれど、家族のように大事にしているバルクやルッツや、王宮に働く人達を優先しているのは周りから見ても良く分かる。

そうですね……と呟くと、3人が目を丸くさせ由良を見つめてきた。

そしてゲラゲラと笑い声を上げたルッツが、由良の頭をポンポンと叩く。


「あははっ!今1番優先されてる由良ちゃんがそれ言う!?」


1番優先なんて思えない。

優先してくれているのなら、さっきみたいな話にはならない筈だ。

クラヴィクスの言葉を思い出し、グッと唇を噛み締めていると、ルッツが困ったように眉をよせた。


「俺は、由良ちゃんにここにいて欲しい」

「俺もそう思うぞ?ディアナもだろ?」

「えぇ、勿論です!」

「クラヴィクスも本音はそうだ。でもアイツは……家族がいるのなら帰った方が良いって判断したんだ」


ルッツの言葉にハッと目を見開く。

家族がいなくなる辛さを知っているクラヴィクスは特にそう思うようで、両親の元に帰るべきだと考えたらしい。

帰らなくちゃいけないのかな?と思っていた矢先の言葉に思考が定まらない。


「アイツは全く……その気持ち全部伝えりゃ良いのにな」

「まあ、今回は結構参った表情見せてたから許してやって」

「へぇ、アイツが……その調子で無表情を無くしてってほしいもんだ」


ほう……と頷いたバルクは由良をじっと見つめ頭を乱暴に撫でてきた。


「ひゃ!」

「由良。クラヴィクスが何を言おうが、由良の答えは由良が決めろ。他人の考えに左右されるな」


バルクの言葉に、自分がクラヴィクスの考えに左右されていた事を自覚し胸を押さえる。


「そうそう。それに1度クラヴィクスに本音をぶつけても良いんじゃない?お供するぞ?」

「えぇ、もしするようでしたら私もお供いたします」


2人の言葉に力強く頷く。

クラヴィクスの言葉に囚われがちだったけれど、自分の気持ちをハッキリと伝えていなかった。


「私はここに……皆や、クラヴィクスさんの傍にいたい……」


勿論、迷いはまだある。

それでもここにいたい気持ちが強い。

心の中でごめんなさい……と呟き、執務室をもう一度見上げる。

一瞬揺れたカーテンの奥で、クラヴィクスは一体どんな気持ちでいるのだろう。

そう思いながら暫く執務室を見上げた。








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