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神隠しで異世界に  作者: もふっとな
第三章
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クラヴィクスの独白

由良を1日休ませたのは、クラヴィクス自身の心を整える為でもあった。

額を押さえため息を吐く。

由良が良く使っているソファーには座る気にもなれず、仕事をこなしながら思考に耽る。


『君は、願わないの?』


神とは思いたくないが、強大な力を持つ神の言葉がクラヴィクスの脳裏に過った。

今まで願った事柄が叶ったのは、自分自身の努力により引き寄せた物で、叶わないことは叶わないと知っているから、無謀な願いなど願いたくなかった。

それでも今、自身の中で無謀な願いを叶えたい……となってしまっている事実があり、眉間に皺を寄せる。


(彼女は……)


緊張して震えながら握る袖。上気した頬。訴えるような瞳。

態度1つで言わんとしていることが分かり、咄嗟に拒否をしてしまった。


(……フォンツァがいればこの国は安泰だろう)


由良自身にそれほど知識が無いとしても、知らない世界の情報をくれるフォンツァ。

国同士の繋がりの為にも引き留めて置きたい存在で、神に加護を受けている由良はうってつけの存在だ。

いるだけで今後も国の為になる。

ユリウスも心を入れ替え王の傍で知識を吸収している。

いずれフォンツァを任せられる人材になる。

友人のように仲の良い2人はお似合いと言われるだろう。

それに薬を飲まなくてもやっていけるフォンツァは、自身にとってもいい研究対象だ。

なら上手く利用し、気持ち良くこの国にいさせてやればいい。


(違う)


その思考全てが由良を残したい自分自身への言い訳だ。

彼女の気持ちを受け入れてしまえば、元の世界にはもう2度と帰れない。

それはまだ20歳にも満たない彼女に選択させて良いものじゃない。

しかも、神の加護があったとしても万全ではないだろう。

その証拠に何回か倒れている。

聞けば恵梨も病気になり死に向かっていた。

そのことに全く気が付かないほど、この世界と元の世界の空気は違う。

治せる病気も治せなくなるだろう。


(それを考えられないほど、あれはまだ幼い……。そうだ、恵梨も言っていたな)


恋をしたことがないと、そう言っていた。

近くにいる頼れる人間に傾倒してしまうのは、どの世界でも通じる物だ。


(一時の気の迷いだろう)


その答えで良い……と決めると、自身の心の奥深くにヂリっと焦げる音が聞こえた。

その音をため息で隠し、迷いが生じてしまう前に……とタイミング良くノックをして入ってきた人物を見る。


「クラヴィクス。由良ちゃんのことだけど……」

「クラヴィクス様これをどうぞ……」


真面目な表情で見つめてくるのはルッツとディアナと、扉付近に由良がいる。

由良の手にはクッキーの袋があり、眉間の皺を深くさせる。

ディアナが由良から受け取りテーブルに置く。

そのクッキーには触れずに、3人を見て自身の考えを告げた。


「フォンツァはこの世界では生き辛い」

「っ!」


由良の息を呑む音が聞こえたが、構わず続けた。


「君は、元の世界に帰れ」

「クラヴィクス……お前がそう言うってことは、何か考えがあるんだよな?」

「そうだな」


ルッツとディアナや他の者には、自身の考えは後で伝えれば良いだろう。

問題は……と、由良を見つめようとしたが、唇を噛み締め涙を浮かべながらこちらを見る由良に、言葉が詰まる。


「ク、ラヴィクス、さん……それが、答えですか……?」

「……ああ」


結局わだかまりを残したまま別れそうだ。

以前言っていた言葉は訂正だ。

不安にならないように伝えられることは伝える。

そんなことが出来る筈もない。

ここにいて欲しいのは本心だ。そして本人もそれに悩んでいると見てとれる。

誰もが説得すれば彼女はここにいると頷くだろう。

だが、彼女が病気になったとして、元の世界で治せる病気でもこの世界の誰もが気付かず死なせてしまったら?

2度と家族に会えない悲しみを実感すれば、きっと家族に会いたくなる。それで家族を思い泣いていたら?

それこそ、ここにいて欲しいと願ってしまった自分を恨むだろう。

家族に会えなくなる悲しみは、もう誰にも味あわせたくない。

家族が待っているのなら尚更帰すべきだ。

泣いて執務室から飛び出す姿と、追い掛けるディアナの姿を見ながら、ソファーに座ったルッツを見る。


「ルッツ。お前は追い掛けないのか?」

「そりゃ、まあ……お前が傷ついてるからな」

「は?」

「泣かせたのには怒るけど、言い訳聞くぜ?」


どうやら自分は傷ついた顔をしているらしい。

否定したいが、今も鳴り響く胸の奥の焦げる音に、何も言えずテーブルに置いてあるクッキーを見る。

いつぞやルッツが作った魔物型クッキーより、不恰好な魔物型クッキーだ。


「……バカだな」


お前もなと笑うルッツは、話すまで帰らなそうだ。



***


***



夕刻。

執務室には自身が1人。


「君ってバカだよね」


今日ルッツに言われた言葉を再び言われ、ため息を吐きながらソファーを見る。

風が集まりパッと現れた神は、ソファーにふんぞり返りながら、テーブルに置いてあるクッキーを眺めた。


「貰っていい?」

「それは私のだ」

「食べないくせに?」

「………」

「君って女の子の扱いなれてないよねぇ」

「お前に言われたくはない」


またくだらない話しでもしにきたのか?

そう目線で問い掛けると、神は肩を震わせ笑っている。


「由良は、強い子なんだよ」

「お前の加護のお陰だろう。だが心身が丈夫な訳ではない」


自分のせいとはいえ心が弱いのは、一連の流れで分かっているだろう。


「分かってるなら由良を泣かせないで」

「帰すためだ」

「……本当、君って頑固。でもまあ、大丈夫だから」


何が大丈夫なのか分からない……と思って神に尋ねようとしたが、もうそこに神の姿はなかった。










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