騎士の誓い
クラヴィクスと数名の騎士と魔法使いが隣国に旅立ったその日の午後。
執務室にはルッツと、対人間部隊長であるタフィー・ローレンツが来ていた。
ルッツは午前中から執務室で仕事をしていて、クラヴィクスの座っている椅子は座り心地が良いな!と上機嫌そうに仕事をしていた。
初日から様子を心配して来てくれる姿に幸せだな……と思える午前だった。
では、何故タフィーが来たのか?クラヴィクスが暫くいなくなるのは知っているはずなのに。そうルッツと首を傾げていると、タフィーは由良の前で跪き笑顔で見つめてくる。
跪いたタフィーの横には、タフィーが使用している剣が置いてある。
(……絵になる……)
爽やかな笑顔と金髪が妙に絵になるし、衛兵の中でも1番モテそうな立ち振舞いだ。
そんな風に考えながら感心していると、右手をソッと握られ、へ?と間抜けな声が出てしまった。
「おいおいおいおい!お前何してんの!?」
「ルッツさん……俺は決めたんです」
何やら驚いた様子でタフィーを止めようとするルッツと、キリッと真剣な瞳をするタフィー。
そもそも何をしているのかも分からない由良は、首を傾げながらルッツを見た。
ルッツは由良の腕を引っ張り、ルッツの後ろに隠す。
「ルッツさん……」
「タフィーがやろうとしてるのは、騎士の誓いだよ」
「騎士の誓い……?」
「そう……えーっとな……」
まず誓いを立てたい人の前で跪き右手を握る。
騎士は左手で剣を持ち、剣の鍔と握った指先に口付け剣を相手に渡す。
相手は貰った剣の鍔に口付けをする。
するとその相手は騎士の永遠の主となる。
騎士や衛兵は、王や市民にも誓いを捧げる儀式はあるものの、今している動作とは違い、剣を掲げ、誓いの言葉を告げる動作をするらしい。
では今タフィーは何をしているのかというと、これはこの世界で、衛兵や騎士が意中の相手にする行為であり、貴女を守らせてくださいというプロポーズになる。
「……えぇ!?」
タフィーは一体どうしてしまったのだろうか?
まさか何か変な魔法に掛かってしまった……と、タフィーを見るが、タフィーの瞳は真剣そのもの。
「仕事が忙しく、由良様の元に来ることが遅くなりましたが、これは私の中で決定していることなのです」
「……クラヴィクスがいなくなった初日からヤバイ奴来たな……」
ボソリと呟いたルッツも困惑しているようで、由良を背に庇いながらタフィー?と問い掛けた。
「どうしてそう思ったんだ?」
「それは……先日、助けて頂いたからです」
タフィーの言葉に、タフィーが魔物の攻撃に倒れていた光景を思い出す。
そう言えば、傷が治ったらしいという報告はクラヴィクスにされたものの、タフィーと直接会っていなかった。
「その時に由良様に全てを捧げる決意を致しました。ランクスとハーロルトは由良様と偶然出会ったらしいですが……誓いは立てていないようで安心致しました」
誓いを立てた相手がライバルとなるのなら、確かに部隊長同士がライバルになるのは避けたい。
1人だけなら受け入れても良いかな……と軽い気持ちでルッツに聞くと、渋い顔を見せた。
「誓いを受けたらどうなるんですか?」
「プロポーズを受け入れることになる」
「そ、それはちょっと……」
タフィーが市民を守ろうとする素晴らしい衛兵であるとは知っている。
けれどそれ以上のことは知らないし、何より由良自身の気持ちもある。
断ろう……と思いタフィーを見ると、プロポーズじゃありません!!と叫ばれビクッと震える。
「由良様と結婚とか、そんな……おこがましい!!」
「お、おう……?」
「ルッツさんも分かりますよね!?王に捧げるその気持ちが、結婚したい気持ちですか!?」
「あー、うん……何となく分かった。でもそれ、フォンツァに捧げる誓いじゃダメなのか?」
「フォンツァに捧げるのではなく、由良様に私を捧げたいのです!!」
熱弁する熱気に圧されルッツが苦笑いを見せ、由良を見た。
「実直な男は役に立つかもな……。あー、誓いを捧げる儀式の中で国王の名を呼ぶ部分があると思うんだけど……」
「えぇ、ありますね」
「そこを由良ちゃんの名前に変えれば?」
「………!」
思いがけない言葉だったのか、タフィーの瞳が輝く。
「あ、でも言葉を覚えていませんね……」
「まあ、俺達しかいないし簡易的で良いんじゃない?」
ルッツの言葉に、それで良いです!!と喜んだタフィーは、いそいそと剣を由良に掲げる。
「由良様を守る盾となり、害なす者を裁く剣となりましょう」
タフィーの言葉に戸惑うものの、何か一言言ってやってというルッツの言葉に頷く。
「ありがとうございます。タフィーさん」
「……ありがたきお言葉……」
心底嬉しそうに笑うタフィーは、やっぱり爽やかな海外の俳優のようで、動作1つ1つが美しく感じる。
簡易的な儀式は終了しタフィーが去ったことで、平穏な時間が戻ってきたものの、クラヴィクスがいなくなった初日からこれだ。
もう危うい日常になるのが確定したような気がして、ルッツは深いため息を吐いた。




